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■トーク * 座談会 環境演出型エンターテインメント施設の最新動向
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「台場小香港」「横濱カレーミュージアム」にみる 松本 本日は、「台場小香港」「横濱カレーミュージアム」のそれぞれの施設を手がけられたプロデューサーお二人にお話を伺いながら、環境演出型集客施設のあり方について、トータルな視点から議論していきたいと思います。最初に、両施設のデザイン面を担当した出原部長から、「環境演出」とは何か、ということをあらためて説明いただけますか。
個人的にはかつて、ある飲食店の空間デザインを提案する際に、たんに絵だけでは表現しきれない要素があると気づいたことがきっかけでした。それは何かと考えると、見た目だけではなく、その場が醸し出す雰囲気全体だと。それを表現するには、文章、つまりあるストーリーを書くことによってその雰囲気を伝えられるのではと思い至りました。そこからストーリーに基づくシーンメイク、環境演出という概念が自分のなかで育まれてきたわけです。 要するに、見た目のデザインではなく、ある情景をつくる、ということが環境演出であり、形やモノ以上の高い商品価値がそこには生まれます。そのためには、まず優れたテーマやコンセプトがあって、それをベースとしたストーリーがあり、そこではじめて造形としてのデザインという ものが出てくるわけで、デザインそのものが単独で商品価値をもつような時代ではなくなってきているとも思うのです。 池澤 1996年に当社がオープンさせた「ナムコ・ナンジャタウン」は、「ナムコ・ワンダーエッグ」という期間限定のパーク事業に続く都市型テーマパークの第2弾として、恒久的な空間づくりに挑戦したものです。つまりここではつねに新鮮さを失わず陳腐化しないような施設づくりを目指しました。それは「ディズニーランド」にもみられるように、そこにあるアトラクションやイベントは変わっていくが、パークの環境演出そのものは年月を経ても変わらない、という手法です。1955年にオープンした米国・アナハイムのディズニーランドは、ノスタルジーとイマジネーションに貫かれた環境演出がアメリカ国民の心に非常に深く根ざす部分と共鳴することで、ひとつの普遍性を獲得しえたともいえます。 これを日本に移し替えて考えたときに、そうした普遍的な世界として「昭和30年代の街並み」というアイデアが出てきた。そこに虚実を入り交えながらひとつの空間を構築したわけですが、その意味でテーマパークとしては、きわめてオーソドックスなつくり方といえます。 まずパークとしてのコンテンツの魅力、つまりアトラクションや遊びというものをどうつくるのか、ということからスタートし、それらの魅力を最大限に引き出すデザインとして、虚構のドラマ、ストーリーを描き、それに基づいて必然性のある空間の創出を行なっていくと。その結果、見るだけの空間演出から環境と遊ぶ、つまり来場者が能動的に参加する「パフォーマンススケープ」という独自の空間づくりにもなってきたわけですが、こうした一連の展開がナムコの捉える環境演出という考え方です。
食をテーマとする2つの環境演出型施設 松本 今回、プロデュースされた横濱カレーミュージアムについては、いかがだったのでしょうか。 池澤 カレーミュージアムについては、事業主体である(株)マタハリーさんとナムコ両者で一体のプロジェクトチームを構成しながら、企画・開発に臨みました。 その基本にあったのは、装置型のアトラクションによる構成ではなく、「食べる」という行為そのものをアミューズメント化できないか、という アイデアです。そのうえで「カレー」というテーマにたどり着きました。その魅力を最大限に引き立てるために、カレーが横浜の開港と時を同じくして日本に上陸したこと、大正時代に庶民の味として普及したことにちなんで、大正ロマンの香り漂う頃の横浜の港町をイメージした空間を演出していったわけです。 松本 台場小香港も香港をテーマとして空間を演出し、そこに中華料理の店を中心とした構成がなされていますね。
当初の企画としては、香港以外にも、「食い倒れの街・大阪」をテーマに道頓堀のイメージなどいくつかのアイデアがありましたが、最終的に香 港に決定しました。環境演出という点では、出原さんが言われたように「雰囲気」が感じられ、かつ体験できるということが大きなポイントなの で、視覚的なものだけでなく、音や光などによる演出にも力を入れてもらいました。
ですから今回、香港の街並みを環境演出するにあたっても、博物館をつくるように事実だけに基づいてリアルなレプリカ空間をつくることは目 的ではありません。香港の街の雰囲気や「らしさ」を強調することを眼目としたわけで、いわばお客さんに対する気分の提供に最大限の注力を 図ったわけです。
環境演出のベースとなるテーマとストーリーの重要性 柳田 こうした環境演出型の施設づくりの企画に際しては、体系化を試みる以前に、まずはテーマをしっかりと押さえたうえで、それに見合った必然性のあるストーリーを構築していく作業が重要になります。 松本 空間全体を体系化するには、カレーにしても中華にしても空間全体と各店舗が完全に融和する必要がありますね。デザインだけでなく、メニューやオペレーションもその体系の中にすっぽり収まっていなければならず、そうでないといかがわしさや貧弱さを露呈してしまいます。柳田さん、池澤さんお二人ともにその意味で、たんなるMDプランナーや環境プランナーではなく、コンテンツプロデューサーとでもいうべき役割を果たされていらっしゃる・・・。 柳田 もちろん物件の前提条件があらゆる面で優れていれば、MDだけで勝負できるし、商業施設として余計な投資、コストも必要ないのでしょう。しかし、そうでない条件のもとでは付加価値の創出によって魅力づくりを積極的に行なうことが不可欠です。 池澤 そうですね、まずMDありき、でしょう。MDあっての演出です。ナンジャタウンにしても、「アトラクション」の魅力抜きには語れないわけですから。
たとえばリーズナブルな価格で良質の商品を大量に販売する店に豪華絢爛でデコラティブな環境演出を施しても必然性がなく、利用者には訴求しない。テーマに合った環境演出こそ有効という点では、たとえば、今の若者が集う「クラブ」などはお金をかけずとも音や光、さらに来店して いるお客さん自身で雰囲気、気分というものをうまく演出している例でしょう。 柳田 台場小香港ではテーマが「香港」に集約されていますが、企画の発端からこれがあったわけではありません。まず、飲食店の集積を行なううえでは、何より「味」へのこだわりという部分を基本に位置づけながら、味として奥行きと広がりがあり、食べ方にもさまざまなバリエーションのある「中華料理」というジャンルに着目したわけです。 つまり1番のテーマは「美味い食事を提供する」こと、2番めが「雰囲気が楽しくて、わざわざ行ってみたいと思わせる」ことという順序を経て、「香港」をテーマとした環境演出につながってきたわけです。
それぞれの事業構造にふさわしい演出のあり方を提案 柳田 またここで、もうひとつ課題となったのは、食事の時間の「前と後」をどう過ごさせるかということです。そのために飲食店だけでなく、物販、マッサージなどのサービス、そしてアミューズメントなどの機能を盛り込みました。それによって滞留時間の延長と街としての賑わい感の創出を図ったわけですが、その際にもそこで時間を過ごすあいだ中、雰囲気が継続できるよう留意し、お客さんの気分をしらけさせないことを重要視しました。 池澤 横濱カレーミュージアムでもそうした部分には留意しましたね。実は施設の展開する2層のフロアをつなぐエスカレータがもともとからあって、これは回遊動線としては非常に魅力的な存在なわけです。しかし大正ロマンで演出された世界に入ってきて、その真ん中にエスカレータがあるのではあまりに現実的過ぎてお客さんは興ざめしてしまいます。そこで事業主さんが決断してそれを撤去してしまったのですが、これも環境演出の生む「気分」にこだわったうえでの判断といえます。 松本 ところでカレーというテーマ自体はどこから出てきたのでしょう。 池澤 食のテーマパークということで食のジャンルを探るなかで、一般的には家庭の味というイメージが強いカレーについて、「専門店カレー」という従来注目を浴びてこなかった部分にスポットを当てようというのがひとつのポイントでした。カレー研究家の小野員裕さんと出会い、国際色やバリエーションを用意しつつ「究極のカレー体験の提供」というテーマに収束していきました。全国1000軒以上の専門店を食べ歩いたという小野さんの舌に適った、こだわりのある店を集めて構成していこうと。 松本 各店舗はテナントとして入居したのですか。 池澤 事業主のマタハリーさんとの業務委託契約です。そのため店内も什器備品など全部事業者サイドが負担しています。それによって条件面のハードルを下げ、出店のしやすさを最優先したわけです。 柳田 台場の場合はあくまでもデベロッパーとテナントという事業構造なので、リーシングについてもこだわりと同時に実現性ともバランスをとりながらやらなければならない、ということがあるため両者ではとるべき戦略がやや異なりますね。 松本 それぞれの事業構造にもっともふさわしい形態を提案されていると・・・。 柳田 そうですね。いずれにせよ長期的な視点から事業として見た場合、こうした街並み再現型の環境演出を施した空間の場合、時間経過に対する可変性や対応力が高いというのは非常に大きな魅力です。街は生き物だからどんどん変わっていくことが自然であり、テナントの変更や追加などによって陳腐化を排すことができ、さらにリピート客を継続して集客することにもつながる。 松本 逆にいうと、「街」を演出してつくっても、成長して息づいているような部分がなければ、利用者に根づき、継続していくのは困難でしょうね。 池澤 ただし生きた街として演出するためには、そのベースとなるストーリーがないと一貫性のない変更にしか映らない危惧もあります。ナンジャタウンなどでも、こうした変化を意図的にストーリーに取り込むことで、戦略的に施設全体の進化に利用するなどしています。 柳田 台場の場合、一般の人々が共通してイメージする香港、とりわけ返還前のパワーのある香港の環境を、大通りや裏通り、寺院などの象徴的な要素や断片を凝縮しながら組み合わせていくことで大きな意味で虚構の体系化を成しえましたが、細かなストーリーを逐一描けるとこ ろまではいっていない。その点、ナンジャタウンやカレーミュージアムでは膨大なストーリーを用意されているようですね。 松本 それはワンダーエッグ以降、ナンジャタウンなどを通じてナムコさんが蓄積されてきたひとつの「エンターテインメント・テクノロジー」と呼べる部分ではないでしょうか。 柳田 ファッションなどもそうですが、送り手と受け手の間のコミュニケーションがとても重要です。両者に価値観の共有がなければ、商品として成立しないことになる。これと同様のことは集客施設にもいえると思います。いくらつくりこんだ面白い空間や環境を用意しても、受け手側にそれを面白いと感じ取れるだけの感受性や興味がなければ商品とならない。今日の状況をみると、新横浜ラーメン博物館やナンジャタウンなどの先達を通じて、こうした空間や演出、ストーリーの面白さが広く啓蒙・普及されて定着してきているのだと思います。つまり、お客さんの方がこれらを「面白がれる」ように進化しているといってもいいでしょう。だからこそ台場小香港にしてもカレーミュージアムにしてもお客さんがこれほど来場する、そうした価値観の共有の素地ができてきているのでしょう。
求められるハードを育てるオペレーション 池澤 今回のカレーミュージアムでもマタハリーの山中秀晃社長は「感動」を提供したいということに非常にこだわられた。カレーというわかりやすさ、イメージのしやすいテーマを掲げて、誰もが容易に期待感をもてるようにする一方で、実際に施設を訪れたときに、その期待感や予想をはるかに上回る形で裏切るような出会いがあってはじめてそこに「感動」が生まれるということです。 もちろんハード面だけでなく、そこで運営を行なう従業員などスタッフがその濃密なストーリーを十分に理解し、それに沿って演じる役者となってお客さんにその世界を徹底して楽しんでもらう姿勢が欠かせませんね。 松本 こうした空間の場合は、来場客をいかに楽しませるかがスタッフ一人ひとりにより一層求められてくるわけですから。 池澤 人、装置、環境それぞれが相俟ってひとつの空間をつくります。ハードをたんなる器として考えるのではなく、ハードを含めた有機的なオペレーションという視点が重要で、空間を育てていくこともオペレーションの大切な任務のひとつです。 柳田 台場の場合はわかりやすいのですが、コックさんが本物の中国人だったりオーダーのやりとりも中国語が飛び交うなど、それが空間全体とフィットして虚構性を高め、エンターテインメント性の強化につながっている。 また、テナントさんのほうもテーマ性を理解されて、ファサードや店内の作り込みも空間全体に融合するようにデザインにこだわっていただい ている。結果的に全体として高い相乗効果の創出につながったと思います。
そこで提供するものとは商品や空間だけではなく、「雰囲気」も大きいでしょう。それには先に述べたようにひとつのストーリーに基づくことが 必要なわけです。オペレーションも、MDも、空間デザインも同様でしょう。 松本 最後に、環境演出型集客施設の今後の方向性と可能性についてお伺いします。 柳田 あるテーマでお客さんに感動を与えるというところまでは現状で実現できていると思います。その次に提供できるものは何か、と考えると、「ためになること」というのがひとつのキーワードとしてあるのでは。抽象的ですが、自分の生活に活かしていけるような「ためになること」が次に考えられるかもしれない。 それと、「参加型」という手法がありますが、まだある意味で「参加させている」というのが現状だと思う。利用者が思わず自分から参加した くなるような能動的な体験をどう提案し、採り入れていくのかもひとつの課題でしょう。 池澤 カレーミュージアムではグルメもひとつのアミューズメントであるということを証明したと同時に、こうした環境演出型のエンターテインメント空間自体がジャンルとして認知されてきたとの手応えも感じます。今後もグルメを非日常化したより高度なエンターテインメント空間の創造を含めて多彩な提案をしていきたい。 またここではカレーの文化、歴史などの展示について、街並みを活かした新たな試みを盛り込んでいます。街巡り型アトラクションなど遊びな がら学べるという仕掛けも含めて、これらは展示手法として文化施設にも応用できるため、今後はミュージアムなどにもこうした技術が活かさ れていくのではないでしょうか。 出原 わたしも「ためになる」というキーワードは重要だと思います。やはり楽しいだけでは人は満足しない。楽しみながらためになるようなものを提供していくことが求められるのでは。 柳田 もう一点挙げると、環境演出型というのは非常にリアルに環境をつくりこむわけですが、こうしたリアルにつくりこんだものをネットなどを使ってバーチャルに展開していくのもひとつの活用方法だと思います。それによってリアルとバーチャルが相乗効果をあげられるような仕組みがつくれるのではないか、そういう可能性も考えられますね。 松本 今日のお話を通じて、ITだけでなく、ET 、つまりエンターテインメントテクノロジーがこれからの集客施設の開発においてひとつのキーワードとなってくると痛感しました。そのひとつとして環境演出には無限の可能性がある一方で、テーマやストーリーの重要性もあらためて認識いたしました。中身から外側をクリエイティブしていくという姿勢がますます重要になるなかで、プロデューサーお二人の今後のますますのご活躍に期待いたします。本日はありがとうございました。
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