トーク * トップインタビュー
梅野 重俊 氏 /株式会社 梅の花 代表取締役社長

「感謝の気持ち」を大切に
お客様、従業員ともに喜びを感じられる店づくりを目指す


 ライフスタイルの多様化に伴い「食」のあり方も様変わりが進むなか、今日の外食産業も大きな変革期を迎えている。そのなかで、地方都市を出発点としながら独自の魅力を打ち出して大都市圏へ出店、ひいては全国区で成功を収める外食企業も少なくない。
 とりわけ「梅の花」は、九州・福岡を拠点に<湯葉と豆腐の専門店>としてスタートして以来、10数年で50余の店舗を展開。昨今は首都圏にも進出を果たすなど、その急成長が各方面から注目を集めている。
 「梅の花」発展の背景にある事業哲学から、「今、人を集める店づくりはどうあるべきか」を考える (聞き手: 株式会社 丹青社 代表取締役社長 渡辺 亮)。

−−「人に感謝、物に感謝」の精神を忘れずに事業に臨む−−

渡辺  貴社は福岡を拠点として「湯葉と豆腐の懐石料理店 梅の花」を開発され、九州はもとより、関西、中京、さらに首都圏へと積極的に多店舗展開を進めて業績を伸ばされる一方、99年4月には株式も店頭公開されるなど、今、飲食業のみならず多方面から大きな注目を集めていらっしゃいます。
 今日は人を引きつける店づくりという視点から、梅野社長の事業に対するお考えなどをお伺いしたいと思います。そもそもこの梅の花を立ち上げる以前は、どのようなお仕事をされていたのでしょう。

梅野 (写真)  板前修行を経て、25歳のときに地元・久留米市に15坪足らずのカニ料理の専門店をオープンしました。当初、これを年に1軒のペースで店舗展開を図る方針を掲げたのですが、本来、じっとしていられない性格なので(笑)、それ以外にもどんどん新しい業態開発を進めていきたくなりました。ですが、当時は資本もなく、銀行からの資金調達も容易でないことからずいぶん苦労しました。それでも何とか、いくつかの飲食業態を立ち上げたのですが、まもなく資金問題とは別の問題にぶつかりました。それは人材の問題です。職人さんがこちらの思うように働いてくれないことから、出店した店もことごとく売上げが伸びず、店を出すたびに借金がかさむような状況でした。

渡辺  そうしたなかで、「人に感謝、物に感謝」という言葉に出会われて、今日の「梅の花」が生まれてくるわけですが。

梅野  当時を振り返ると、私自身の事業に対する取り組み方が以前とは一変していますね。それまでは、何か失敗するとつねに原因は自分以外の他人やモノにある、とみなしてきたのですが、あるお寺で「人に感謝、物に感謝」という言葉に偶然出会い、これがそれまでの自分自身の姿を見直すきっかけとなったのです。
 いわば「奉仕の精神」をはじめて知ったわけで、これ以降、失敗を他人のせいにするのをやめることができました(笑)。
 そして試行錯誤を経るなかで、カニよりもはるかに原価が安く、同時に健康によい食材として豆腐を主体にすることになり、86年に「湯葉と豆腐の懐石料理店」を謳う梅の花の第1号店を西鉄久留米駅前に出店したのです。
 梅の花を立ち上げるにあたっては、お客様はもとより、当社で働く従業員もともに喜びを感じられるような店をどうしたらつくれるか、ということを第一に考えました。それができれば、結果として世の中に奉仕することにつながるのでは、と思うようになったからです。

渡辺  それが今日の梅の花の基本をなすコンセプトになっていると。

梅野  そうです。梅の花では「お客様から学んだことを形にする」ということを仕事の基本にしています。これは「お客様のための店」をつくることに他ならず、お客様の喜びが自分の喜びにもつながるという気持ちが大切だと思うのです。

渡辺 (写真)  なるほど。たしかに人に感謝する気持ちや、人に感動を与えるというのは、当社の空間づくりのビジネスにおいても同じく本質的な根幹をなすものだと思います。

梅野 丹青社さんとは梅の花神戸元町店以来の長いお付き合いとなりますが、その仕事をみていると非常に「夢」を感じますね。

渡辺  感動をつくる仕事を行なううえで、「夢」や「遊び心」というのはとても大切な部分だと思います。  そうしたなかで最近も、ある複合商業施設で子どもが遊びながら学んでいけるような遊び心に富んだ託児施設を手がけたのですが、梅野社長もこれと似たような発想をお持ちのようですね。

梅野  はい。そもそも梅の花の場合、お客様にゆったりとした時間を楽しんでいただきたいと思っております。とはいえ、なかには小さなお子さん連れもいらっしゃる。そうすると、ときには店内の廊下などを走り回るお子さんも出てくる。他のお客様に迷惑がかかるから注意しようとすると親御さんに怒られる、どうしたらいいか、という声が従業員からあがってきました。
 では単純に子ども連れはお断りすればいいかというと、たとえば還暦のお祝いパーティを開きたいお客様の場合などお孫さんだけをお断りするわけにはいきません。こうしたケースについては子ども連れでもなんとか利用の手立てを用意したい、そうした思いから「キッズルーム」という構想を検討しているところです。

−−成功する飲食店のポイントは「感動」を与える店づくり−−

渡辺  それは興味深い試みですね。ところで店舗の建築的な部分では、数寄屋造りへのこだわりが伺えますが、こうしたコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか。

梅野  私個人として、この事業を通じて日本ならではの文化の掘り起こしを図りたい、との意思が強くありました。そこで建物についてはわが国固有の文化の象徴である数寄屋造りにしようと。しかし、どの施設も同じつくりではなく、つねに前よりも優れたものをつくっていきたいとの思いもあります。

渡辺  そのため、チェーン展開をなさりながらも、すべての店舗を同一形態で展開するのではなく、個性を付与されているわけですね。

梅野  そうです。店にとって建物というのはいわば着物と同じですから、どれも同じというのはおかしいでしょう。それぞれの格好はそれぞれに変えてあげるべきだと思うのです。
 その点、丹青社さんからは、店舗ごとにたんなる表面的な意匠ではなく、基本となる明確なテーマに基づいた提案をしていただけるので大変感謝しています。

渡辺  ありがとうございます。現在当社でお手伝いさせていただいている吉祥寺店(東京)の場合は、「江戸の粋」というテーマに基づき、千代紙などをモチーフにしてインテリアに取り込むことを提案して進めさせていただいております。
 ところで、1店舗当たりの平均的な規模はどのくらいになりますか。

梅野  かつては70〜80坪程度の店舗が中心だったのですが、やはり昨今はゆとり重視の傾向に伴い、200坪程度にまで拡大してきています。
 ただこうした規模のものをつくりたくても、都心のビルでは50〜60坪の物件が中心で希望に見合ったものはなかなか出てこないのが悩みです。出店に際しては、こうした規模面とともに、やはり美しいイメージのビルを選びます。当社の場合、8割が女性客のため、そうしたイメージは大きな要件になります。
 一方、郊外のフリースタンディングの場合では最低1000坪は欲しいですね。

渡辺  飲食店の場合、こうしたハード面と同様に、ソフト面の充実が非常に重要になりますね。

梅野  そのとおりです。飲食店が成功するには、まずお客様に「感動」を与えられなければと思っています。建物に代表されるハードも、あくまでも感動を与えるためのひとつの道具なのです。
 このハードづくりにおいて重要なのは、まず地域に住む人たちが誇りに思えるような建物をつくる、という視点ですね。これがあってはじめて地域の方々に親しんでいただける。ふたつめは機能です。これは利用客の立場からのお客様の動線と、従業員の動線という双方があります。成功する店舗には、この双方を満たすような内容が当然のことながら要求されます。
 しかし、どのように建物や機能面の充実を図ったところで、やはり最終的にはソフトが肝要です。飲食店とは第一にサービス業であり、われわれは何より「心のケア」を大切にしていますから、そうしたソフト面の充実は不可欠ですね。

渡辺  快適な空間のなかで、お客様にゆったりと時間を過ごしていただくこともそのひとつですね。

梅野  ええ。1コース平均約15品程度をお出しするので、食事だけで約1時間半。その後、ゆっくり歓談されたりして、お店でお過ごしいただくのは平均して約2時間です。

渡辺  食事を運ぶタイミングなどにもむずかしいものがおありでしょうね。

梅野  女性のお客様の場合は食事が主目的なので比較的タイミングは読みやすいのですが、男性の場合はお酒を飲まれたり商談などが利用目的の中心となるため、そのタイミングを的確に見計らうのがサービスのポイントになります。

渡辺  メニュー面でも実に手の込んだ料理を多品種用意される一方で、低価格で提供されているところにたいへん感心するのですが…。

梅野  現在のメニューのアイテム数は約100点ほどですが、原材料を仕入れてそれを加工するなどの工夫をしています。たとえば豆腐自体を仕入れるのではなく、大豆を仕入れて自社で豆腐をつくりますので、食材の原価率は低くなっています。その反面、人件費にコストを厚くしていますのでF/L(飲食原価率+人件費率)では平均約58%というところでしょうか。
 すべてにわたって原価を抑え儲けようというのはそもそも無理だと思いますね。たとえば、当社ではランチョンマット、箸置き、ひざかけなどの備品類も四季折々すべて変えています。こうした部分のコストも全体でみると非常に大きく、一見ムダなように見えますが、実はこれがお客様の満足を生むことにつながるのです。ムダはただ省けばいいというのではなく、逆に私はムダと思えることを行なうことがお客様を引きつける大きなポイントになると思います。
 また各店に“お客様係”という従業員を置いています。担当の卓を定めずに各お部屋を回り、お客様のご要望や不満などを伺う係です。

渡辺  なるほど。そのなかでメニュー開発については、どのようにして行なわれるのでしょうか。

梅野  メニューの開発から実際の味付けに至るまで、社内外いろいろな方々のご意見を伺いながら、すべて私が納得するまで徹底してやります。しかも、お客様に飽きが来ないように、季節ごとの季節懐石が年に5回変わります。
 ただ、4500人に及ぶ全従業員に周知徹底させるのは容易ではありません。やはり、各店舗の現場の調理人をはじめスタッフ一人ひとりが理解し、お客様のご要望により近づく必要がありますから、新メニューを確実に伝えるためにレシピはもとよりビデオ映像や音声、写真などをフル活用しています。これが当社のひとつのノウハウといえます。

渡辺  調理人や接客係など現場のスタッフを含めて、人材の育成に関してはどのようになさっているのでしょう。

梅野  調理人の育成については九州、関西、関東に各1か所ずつ「道場」(調理研修センター)を設置しています。そこで従来のいわゆる職人制度とはまったく異なる発想で、いわば素人を梅の花独自の調理のプロにまで育成しています。
 一般のパートさんについては、新店の開業時の募集などに際しては約1か月かけて研修を行なっています。
 ちなみに当社では正社員、パートさんを含めて全員を年1回、有名ホテルのディナーパーティに招待するのが近年までの恒例でした。最近は人数が増え、全員に対応できる場所や時間が確保できなくなったため1日バス旅行などに変更していますが、こうした機会などを積極的に設けて従業員との間のコミュニケーションの向上を図るなど、人とのつながりを大切にしています。

−−料理やもてなしを通して「癒し」の提供を図りたい−−

渡辺  さて、貴社では全国100店舗展開を目標に掲げていらっしゃいますが、今後の出店ペースはいかがでしょうか。

梅野  年間5店舗程度がベストでしょう。しかし先に申したとおり、条件に見合う物件が少ないことから計画通りにはいきませんし、逆にいい物件があれば出店していますから、年間5店舗目標といいながら、リニューアルを入れると7〜8店舗になっているのが現状です。
 ただいたずらに数を増やすのではなく、一つひとつの店を大切につくり育てていきたいと思っています。今後は出店の“おどり場”的な年度も設けたいですね。

渡辺  海外への出店についてはいかがですか。

梅野  ひとくちに海外といってもアメリカやヨーロッパ、それぞれに文化や風土が違います。こうした部分をうまく採り入れた形にしなければ、成功しないでしょう。いくら現在、和食が欧米でブームといっても、それはあくまで一部の動きであり、ビジネスとして広く根づかせ成功を収めるには形だけの出店では無理です。取り組むとすれば、現在の国内店舗の内容・形態とは異なる形で、それぞれの現地の文化・風土にフィットする開発を行ない多店舗展開していけるような体制を整えて臨みたいですね。

渡辺  それは楽しみです。もちろん国内では今後も湯葉と豆腐にこだわっていかれるわけですね。

梅野  もちろんそうです。ただ、伝統と革新の融合はつねに目標として掲げて進めていくつもりです。そのためにはお客様の声や市場のトレンドを見極めていくことがとても重要だと思います。
 そのなかで、一時的な流行に流されることなく“本物”をどう見つけるか。梅の花にしかない「本物」を打ち出し、飲食業におけるオンリーワン企業としてのポジションをさらに明確にしていきたいですね。

渡辺  現状を維持するだけではなく、市場を見極めつつ新規事業についても意欲的に取り組んでいかれる。

梅野  はい。すでに和風中華の「チャイナ梅の花」という第二の業態を開発、展開しつつあります。これは、いわば梅の花流の中華料理の提案で、店内は個室中心で、小皿によるコース料理を主とし、その中身は油を少なくヘルシーをテーマにしたものです。またお客様のお席の目の前で豆腐をつくったり、点心を蒸したりするなど、この業態ならではの特徴も採り入れており、おかげさまで大変好評を得ていることから今後、各地域で展開を図っていく方針です。

渡辺  最後に今後の事業について、梅野社長の夢をお聞かせ下さい。

梅野  そうですね、具体的な事業内容面では、今、世の中全体で食生活が大きく変化しています。女性の社会進出などが進み、家庭で料理をしない、いわば「包丁のない家庭」もあるとか。そうした時代にこそ安心して利用できる店が求められると思います。たとえば添加物を一切使用しない自然素材のメニューをテイクアウトできるような業態もひとつでしょう。そうしたニーズにも積極的に応えていきたいですね。
 いずれにしても、ただ店の数を増やすことよりも、いかにして質の高いよいものを提供していけるかが大切です。店づくりにおいてもそうした視点を大切に一つひとつをしっかりつくっていきたい。
 さらに言えば、表面的な流行に左右されることなく、「心」の部分を大切にして「癒し」を提供できるような店をつくりたいですね。
 近頃、私はこの国を見渡した時に、さまざまな点で非常に傷ついた状態にあるのではないかと痛感します。それだけに、ただ食欲を満たすためだけの店ではなく、つくり手側の優しい心や誠実な気持ちがお客様に伝わるような店づくりを目指していくつもりです。

渡辺  梅野社長のお話を伺ってきて、梅の花さんは非常に強い企業だなと思いました。というのも、湯葉と豆腐の専門店として明確に特化されている。今は何でもある時代であるだけに、逆にこうした専門化、特化した店というのは強い。他社が真似したり、異業種参入してもできないだけの、高いオリジナリティを確立されていると思います。
 しかも、豆腐というのは日本人なら誰もが親しみやすい食材で、老若男女すべてに訴求できる。そうした食材に着眼されたのも非常に素晴らしいですね。またそれにふさわしい空間と料金設定、さらにサービス、これらが相まった梅の花さんは今後も発展されていくものと確信いたします。
 また「感動」と「もてなしの心」を伝える空間づくりを通じて、当社もいろいろとご提案しながら、勉強させていただきたいと思っております。

(2000年12月)


企業データ 2000年10月現在

[社名] 株式会社 梅の花
[本社] 830-0033 福岡県久留米市天神146
[連絡先] 0942-38-3440
[代表者] 梅野 重俊 氏
[売上高] 150億46百万円(1999年9月末決算実績)
[店舗数] 57店舗

[献立例](関東Aタイプ抜粋、2000年10月現在)

■湯豆腐膳 2300円
(胡麻豆腐、湯豆腐、お浸し、茶碗蒸、湯葉揚げ、生麩田楽、揚げ出し豆腐、湯葉汁、飯物、香の物)
■花かご弁当 3000円
(食前酒、嶺岡豆腐、豆腐しゅうまい、茶碗蒸、湯豆腐、花かご弁当、湯葉汁、飯物、香の物、デザート)
■梅の花膳 3800円
(嶺岡豆腐、湯葉煮、豆腐しゅうまい、お造り、茶碗蒸、お浸し、湯豆腐、生麩田楽、湯葉揚げ、グラタン、湯葉汁、飯物、香の物、デザート)
■しあわせ膳 4200円
(食前酒、嶺岡豆腐、つまみ湯葉、ふく福冨二色あんかけ−野菜あんと生醤油あん−、てまり寿司、ねぎとろ湯葉巻き、生麩田楽、湯葉揚げ、豆腐しゅうまい、湯葉汁、飯物、香の物、デザート)
■花菜香の膳 4500円
(巨粒大豆の含煮、お浸し、つまみ湯葉、豆腐しゅうまい、鮪と豆腐のタンバル仕立て、野菜つみれ鍋、海老けんちん、湯葉揚げ、茶碗蒸、飯物、香の物、嶺岡杏仁フルーツ)
■小梅ランチ 1500円
■京の梅ランチ 1800円
■季節の特別献立(ランチ) 2000円


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