トーク * インタビュー
偏見や差別を取り除き
誰もが自立した生活を送れる
「ノーマライゼーション」の実現を目指す

 
財団法人ヤマト福祉財団 理事長 小倉 昌男 
[聞き手]株式会社丹青社 代表取締役社長 渡辺 亮
 

 
 財団法人ヤマト福祉財団は、心身に障害のある人々の「自立」と「社会参加」を支援することを目的に1993年9月10日設立された。
 同財団は、行政を突き動かしてトラック運送業に改革をもたらしたヤマト運輸(株)元社長で同財団理事長の小倉昌男氏が、私財を寄付して基金をつくり、設立したものだ。その活動も一般助成事業に加え、障害者の自立支援を目的とした自主事業を積極的に展開している。
 わが国の社会福祉は、「与えられる福祉」から「自ら選ぶ福祉」に転換しようとしている。そのなかで障害者の人権と自立重視に立脚した新しい社会福祉をリードする同財団。その生い立ちから、揺るぎない理念に基づく事業展開、そして社会福祉のあり方について小倉理事長にうかがった。
 
「デメリットのあるところにビジネスあり」
 
渡辺 小倉理事長は、ヤマト運輸の社長時代に規制緩和の問題に積極的に取り組まれ、担当官僚と相当にハードな折衝をなされたとうかがいます。そのとき、ご自身を規制緩和の実現へと突き動かした原動力はなんだったのでしょうか。
 
小倉氏 小倉 トラック運送業は規制産業で免許がないと何もできません。免許権限は運輸大臣にあり、事業免許の交付は恣意的に行なわれていました。要するに需給を調整し、需要に見合う数しか免許を交付しないと定められていたのです。ところが需給調整のためのデータは誰も持っていません。免許交付の判断は、もっぱら同業者の意見に委ねられ、同業者が反対すれば供給過剰であるからとして免許の交付はされなかったのです。
 
私はこのような筋の通らない話には我慢できない質なんです。せっかく事業を興そうとしても、誰の目から見ても公正なデータに基づく判断ではなく、既得権をもつ同業者の反対に阻まれてしまう。そんなことがまかり通っていることが許せず、従来の慣例に対してとことん抵抗し、最終的には行政の不作為であるとして行政裁判を起こしました。
 
 この問題を通じて、さまざまな規制が日本の国を悪くしているなと、しみじみ思いました。規制に守られた業界は発展しません。お互いに傷ついたり、損をするかもしれないけれども、競争は勝つための努力を促し、努力の積み重ねが事業や業界の発展につながります。競争のない社会は本当によくないと思います。
 
渡辺 事業や業界が発展すれば消費者にもメリットをもたらす。その点は、ヤマト運輸で実践されたことをみればよく理解できます。それでも、大口配送から宅急便への転換はたいへんな決断だったのではないですか。
 
小倉 あくまで、消費者が望んでいるか、いないかの判断基準でみたまでです。消費者が望んでいれば需要は必然と高まるはずです。
 
 世間一般ではメリットがあるからやろう、デメリットがあるのでやめようと、二者択一で判断されようとします。しかし、ものごとにはメリットとデメリットが表裏一体にあり、いずれか一方だけなんて絶対にありえません。メリットとデメリットの二者択一の判断でビジネスを行なえば、みなメリットのあるほうに傾きます。右へ倣えで真似しますから競争が激しくなります。デメリットのあるほうは誰もやろうとしない。そこにビジネスチャンスがあるわけです。デメリットを克服するアイデア、工夫をもちえたらビジネスの芽は大きく成長していきます。
 
 「デメリットのあるところにビジネスあり」。そう思うと楽しくて仕方がありません。いまでも、どこかにデメリットがないかと探してしまいます。
 
 
「つくること」より「売ること」
経営者の意識改革を促す

 
渡辺 ヤマト福祉財団の設立に際しては、小倉理事長ご自身が保有するヤマト運輸の株を手放して基金にあてたと聞いております。それほどまで熱意をもって、障害者の方のための事業に取り組まれるようになったきっかけはあるのですか。
 
小倉 いいえ。そのような質問をよく受けるのですが、とくにきっかけはありません。ただ、障害者の方は実に不自由な生活を強いられています。社会福祉の整備は十分とはいえず、厳しい環境のなかで生きていかざるをえない状況です。そのような方々を応援し、自立して生活できるようにさせてあげたい……それがヤマト福祉財団を設立した思いです。
 
渡辺 財団の組織形態はどのようになっていますか。
 
小倉 私どもは民法第38条で定められている公益法人のなかの財団法人として、1993年9月に当時の厚生省の許可を得て正式に発足しました。ご存知のように、財団法人は最初に拠出した基金を運用して事業を行ないます。当財団では、先ほどおっしゃられたように、私が持っていたヤマト運輸の株300万株のうち200万株を福祉財団の基金としました。いまは私自身の生活の心配が除かれましたので、残りの株も基金として寄付しました。
 
渡辺 財団では、どのような事業に取り組まれていますか。
 
小倉 一般助成事業としては、心身に障害のある大学生への奨学金制度、障害者施設などにおける備品購入や施設改善資金の助成などを行なっています。自主事業では、小規模共同作業所などの幹部職員の教育研修事業「パワーアップセミナー」の開催と、障害者の雇用の場としてパンの製造・販売を目的とする株式会社スワンを設立し、全国に「スワンベーカリー」のチェーン展開を行なっています。
 
 法律で日本の企業は常用労働者の1.8%にあたる障害者を雇用しなければならないとされていますが、罰則がありませんから形骸化してしまっている。障害者の働く場がありませんから、親御さんたちが集まって小規模な共同作業所をつくって下請け仕事をやらせています。これが全国に約6,000か所あります。そのほかに労働省による授産施設がありますが、いずれにしても障害者が自立して生活するには程遠い状況です。きわめておおざっぱに言えば、1人当たりの月給は1万円にすぎないのです。
 
 障害者の施設の職員の方は経営を知らないんです。ですから、お金にならないことをやってしまっている。障害者の収入をふやすためには、受け入れる施設側の経営力を強化しなければなりません。そこで財団では、幹部職員を対象に経営の仕方を学習する「パワーアップセミナー」を自主事業として開催しています。
 
渡辺 障害者の自立と社会参加を実現するためには、施設サイドの意識改革が必要なんですね。
 
小倉 長い間、障害者のために一生懸命に活動してきた人がいます。この方たちは、障害者は保護しなければならないと思い込んでいらっしゃる。セミナーの冒頭で、それは間違いですよ、と言ってもはじめは聞く耳をもちません。まして福祉は次元が高く、金儲けは次元が低いという固定観念があって、福祉に金儲けはそぐわないとみている。また、「つくること」と「売ること」のどちらが大切かを尋ねると、決まって「つくること」を選びます。つくらなければ売れないと言いますが、それが違うのです。私は躊躇せず「売ること」と答えます。いくら素晴らしい商品を一生懸命つくっても、売れなければそれはただの不良在庫にすぎないのですから。  まずそうした考えを打ち破らなければいけない。月1万円の賃金でどうして自立した生活ができるというのでしょうか。なかには、「払えるものなら払ってます」と開き直る人がいますが、自分は払うための努力をしていないと申告しているようなものです。
 
 何をつくり、どのように売ったらいいかの基本をご存じないから、財団はセミナーを通じて幹部職員に対し経営を指導しているわけです。経営の基本的なことは、消費者の立場に立って考えれば何もむずかしくはありません。
 
 たとえば、「焼いも」を売るにはどうしますか。焼き立ての「焼いも」を箱に詰めますか、ビニールの袋に入れますか。違いますね、昔から古新聞に包んで渡します。するとどうでしょう、ほかほかの「焼いも」で懐があったまるでしょう、そのあったかさが付加価値なんです。「焼いも」を売るのは目的で、古新聞でくるむのは手段。目的達成のために最適な手段を選択しているのです。目的は何か、どのような手段を使うか、私はいつもそのことばかり考えています。
 
 
販売する商品自体の評価が
収入に結びつく経営を目指す

 
渡辺 「スワンベーカリー」は、障害者の雇用の場であるとともに、施設経営のサンプルとなるものですね。
 
小倉 はい。98年に東京・銀座に第1号店を開店し、現在は全国に7店舗を展開しています。時給750円、月150時間労働ですから1か月の収入は10万円以上になります。
 また、ここではベーカリー「アンデルセン」を展開されているタカキベーカリーさんに、パンの製造から販売まで無償で全面的に協力していただいています。
 
(左)●スワンベーカリー銀座店に隣接して、昨年オープンしたスワンカフェ
(右)●銀座に第1号店としてオープンしたスワンベーカリー
 
渡辺 2001年11月にオープンした「スワンベーカリー&カフェ赤坂店」では初めてカフェを併設しました。
 
小倉 昨年10月には第1号店である銀座店の隣にもカフェを開業しました。ここでは単に飲み物だけでなく、フードメニューも提供しています。さらに、これから試行錯誤を重ねてメニューを充実させていく予定です。
 
渡辺 先ほどエスプレッソをいただきましたが、たいへんおいしいですね。
 
小倉 シアトル系コーヒーのノウハウを教えていただきました。品質の高いコーヒー豆をオリジナル・レシピでブレンドしていますから、鮮度もよくおいしいはずです。
 
渡辺 なかには、ハンデをもった方がつくった商品であると打ち出しているところもありますが。
 
小倉 それは絶対にしてはいけません。いいものをつくって売っていれば、なんとなくクチコミで伝わっていきます。それでいいのです。障害者がつくったという物珍しさに商品の価値を見出すのではなく、でき上がった商品そのものについて評価いただきたい。おいしいパンをつくり、コーヒーを提供して、次にまた買っていただけるようにする。そうして収入を上げて働く人たちの給料に循環していけばいいのです。
 
渡辺 カフェでは接客サービスもしっかりしていました。どのような指導をされているのですか。
 
小倉 接客については、基本的なことはマニュアル化しています。しかし、マニュアルに依存しすぎると、サービスに心がかよわなくなってしまうので、基礎的なことができるようになったら、マニュアルを無視しなさいと教えています。基本を守りながら、いかに応用動作をするか―ヤマト運輸でも口すっぱく言い続けてきました。それがサービス業の原点ですから。
 
渡辺 まさに「ヤマト魂」というものですね。では、これから取り組まれる事業はありますか。
 
小倉 「スワンベーカリー」は7店舗を開設しましたが、まだ足りません。また、地域によってはベーカリーではない雇用の場を提供しなければならないのではないかと。そういう思いから、昨年3月に株式会社スワンネットを設立しました。この会社で障害者がナラやクヌギを焼いてつくる炭を買い上げ、ヤマト運輸の流通ネットワークを活用して全国のバーベキューハウスや焼肉店、一般家庭などに向けて販売します。この事業のために福岡県・頴田町にある障害者施設に炭焼窯を7つ寄付しました。現在、そこで炭焼きのトレーニングが進められています。
 
 単に雇用の場の創出ばかりでなく、炭焼きの作業が障害者にプラスの効果を与える面もあるのではと思っています。炭焼き窯のある福岡県・頴田町の施設には30人の自閉症の人たちが生活していますが、炭焼きの作業によって情緒が穏やかになったと報告を受け、たいへん喜んでいるところです。
 
 また、私どもの活動に共鳴された方が父親から相続した土地を無償で提供してくださいました。そこが自然環境に恵まれた長野県・嬬恋村の5,000坪という広大な土地でしたから非常に驚きました。そこで何をしていくのか構想を練っているところです。基本的には炭焼きづくりを中心に、高原野菜の栽培などを行なっていこうと考えています。
 
渡辺 夢の広がる、すばらしいお話ですね。
 
(左)●炭焼きの作業が障害者にとって良い効果をもたらしている(カリタスの家)
(中)●7つの炭焼き窯が設けられた福岡県頴田町のカリタスの家
(右)●班をつくり、助け合いながら作業が行なわれる
 
 
人としての心のふれあいが
自立支援の支柱となる

 
渡辺 福祉事業をやられていてご苦労なされる点がたくさんあるかと思いますが。
 
小倉 財団が対象としているのは、病気から回復して社会復帰を目指そうとしている人たちです。とくに統合失調症といわれる病気が治った人は精神が不安定でむずかしい面がありますので、医師と連絡を取り合って、少しでも体調を崩したら休ませます。しかし、そうした点に気をつけてさえあげれば、仕事をすること自体はいい刺激になりますし、前向きに人生を見られるようになるとも思います。
 
 また、一緒に働く健常者が彼ら彼女らを障害者だと考えたり、能力が劣るなどとみてはだめです。確かに計算は苦手であるなどの問題はありますが、個性のある仲間として受け入れ、補助してあげれば解決することです。逆に、能力の高い面もあるのですから、それを活かしてあげるようにする。スワンベーカリーやカフェでは、業務ごとに役割分担をするのではなく、健常者とチームを組ませ、チームのなかで励ましあい、健常者がサポートしながら仕事を進めさせています。時間はかかりますけれども、成果が上がってくるとやりがいも湧いてきて、自然と覚えもよくなります。
 
 またお客さまも、一生懸命に仕事をしている姿を見ると「がんばれよ」と声をかけ、かわいがってくださる。そうなると、さらにいい循環が生まれます。健常者との心のふれあいが、障害者の問題を一つひとつ解決していくのです。
 
渡辺 「福祉の理想」をどのように思い描いていますか。
 
小倉 一般的に障害者や社会福祉に対して間違った観念をもっています。障害者は弱く、保護しなければならない存在であると。そうではなくて、同じ人間だという意識をもつべきです。手を貸してあげることは必要ですが、あくまで本人のモチベーションを削ぎ取らずに自立させなければだめです。自立させるということには、労働の喜びを教えてあげる、労働の場を与えることが重要です。そういうことを「パワーアップセミナー」で常に申し上げています。
 
 保護するという精神では絶対にだめです。ときには厳しいことを言わなければならないこともあります。障害者と一緒に考えながら仕事をし、足りないところは手伝ってあげる。やり遂げたらほめてあげる。そうすることで喜びを与えることができます。
 
 究極の目的は「ノーマライゼーション」の実現です。障害があってもなくても、通常の生活をできるようにしたい。「ノーマライゼーション」とは、物理的なものではなく心のバリアフリーです。心の中で差別感をもつのが最もいけないことです。
 
渡辺 最後に、理事長の座右の銘は何でしょうか。
 
小倉 基本的には「真心と思いやり」。相手のことを考えるということです。また、日常的な仕事の取り組みの仕方では「やればできる。やってみなければわからない」を信条としています。考えていたってだめです、行動を起こさなければ何事もはじまりません。
 
渡辺 本日は、お忙しい中、貴重なお話をいただきました。ありがとうございました。
 
ノーマライゼーションは心のバリアフリー、と語る小倉氏。障害者も同じ人間だという意識で接することが大切だという

 
関連サイト/財団法人ヤマト福祉財団 

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