トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言
 
常に“半歩先行した店舗構築と運営”が底力
顧客から支持される売場創造で一歩リード
顧客マインドをキャッチし即応することが“同質化時代”を勝ち抜くカギ

 
株式会社 博多大丸 取締役社長 北野 洋氏
聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
 “博多大丸”といえば業界では、地方百貨店を代表する高収益店舗であり、ビジネスモデルとして目標にすべき企業の一つである。20余年前、天神エリアの将来性に期待し移転増築したものの鳴かず飛ばずであったが、同店は全員野球によって奇跡的に甦り復活を果たした歴史をもっている。その底力は、6年前に繰り広げられた第二次天神戦争でも証明済みで、今日、勝ち組百貨店として福岡業界をリードしている。折から、同社は、創業50周年の節目を迎え、次なる飛躍の準備に入っている。その内容は何なのか、を中心に訊ねてみた。
 
 
消費者のマインドを
キャッチする店舗づくりで
「激戦区」の勝ち組に

 
−激戦区・福岡業界のその後、またデフレ不況によって九州の消費者の意識や購買行動に変化がみられますか。
 
北野氏 北野 所得が増えず、将来への不安が増大していますから、消費への意識も自ずと変わっています。
 天神百貨店戦争などと騒がれ、百貨店各社は需要喚起を目指し、増床や改装などを行なってきましたが、結局は同質化競争に陥っているというのが現状でした。  とはいっても、お客さまがモノを買わなくなったということではありません。新しい商品や、いままでにない魅力をもった商品を揃え、それがマインドを満足させるモノであれば購入されます。
 
つまり、“買う”という行動の裏側には、収入やニーズ以外の要素が多分に含まれていて、それが消費のトレンドとして現われてきているといえます。
 ですから、海外スーパーブランドと呼ばれる分野は、依然として伸びていますし、紳士のスーツでも10万〜15万円くらいの輸入ブランドは売れているわけです。  私ども大丸グループも、1999年に東京店を全館改装しましたが、そのときに最も大きく変えたのはリビングでした。
 食器を買いたいと思ったお客さまに足を運んでいただくためには、そのお客さまのテイストに合う食器、インテリアとしても通用する食器が品揃えされていないといけないということで大変留意しました。
 
 つまりライフスタイル提案型ショップの発想が必要だと考えたからです。従来のようなカテゴリーによる括りではなく、ひとつのテイストによって商品をセレクトするほうが良いというようにお客さまのマインドが変化しているのです。
 爾来、当店でも、1人のバイヤーのフィルター(テイスト)による品揃えをし、そのテイストに共感されるお客さまがリピート客として店を支えるという形に変わってきました。
 
−博多大丸は、先の百貨店戦争において掉尾を飾って東館を開発オープンさせ、勝ち組として生き残ることができた。それは、なぜだったのかと思われますか。
 
北野 増築前の一館体制であった頃は、やはり厳しい商戦が続きました。それが、エルガーラ(東館)ができた1997年以降は、売上げが大幅に増えました。これは、東館が単なる増築ではなかったことが大きくモノをいっていると思っています。つまり、西館と東館それぞれが完全に役割を異にしているからです。
 客層をみても、西館は従来からの顧客で、比較的年齢の高いお客さまにご愛顧いただいている。それに対しエルガーラ東館は、若い客層を対象としています。“大丸”というより“エルガーラ”として受け入れられた感があります。
 
 
(左)●エルガーラ東館(写真右手の建物)と西館が並び立つ。 それぞれ違った客層を、ほぼ同じ規模の館で顧客にしているところに強みがある
(中)●エルガーラ(東館)地下2階の食品フロア。生鮮、惣菜、グロッサリー、ベーカリーなどデイリーの商品を扱う
(右)●エルガーラ(東館)の婦人服フロアには、キャラクター、クリエイターズ、インポートブティックなどの売場が集積する

 
 
時代感覚の少し先を行く
発想と施策を徹底することで
同質化競争に生き残る

 
  
−単に規模を拡大するということではなく、市場を捉えての対応であったことが成功の要因であったと…。現在は、営業面でどのような取組みをなされていますか。
 
北野 2年前に大がかりな商圏リサーチを行ない、その結果をもとに商品施策とストアイメージを変えました。東館ができて規模が大きくなった半面、ストアイメージは、不鮮明になっていました。
 そこで、そのイメージをどう確立するかということと、顧客の変化に合わせて店舗内容も変えていかなくてはなりません。それでキャッチフレーズも、現在の「時をこえて、美しく。」と変更したのです。
 大丸グループ全体では「高質・新鮮・ホスピタリティの大丸」と表現しています。要するにクオリティはもちろん、常にその時代の感度に合わせた品揃えとおもてなしを提供していこうという考え方です。
 そのためには、それに応えられるバイヤーの育成も必要ですし、上手にお客さまにプレゼンテーションできる人材の育成も必要です。ですから確かな商品知識をもち、お客さまへのアフターケアまでトータルにまかせられる販売員の教育にかなり力を入れています。
 
 また、常に変化しているという印象を与えることも大切です。そこで、多方面にアンテナを張りめぐらし、珍しいモノ、他店にはないモノ、そして店のイメージにふさわしいものを積極的に取り込んでいます。
 
 重要なのは、時代感覚のほんの少し先を行くことです。たとえば、昨年のクリスマスの時期には、青色発光LEDを使った「ブルーツリー」を展示しました。いままでクリスマスといえば赤でしたが、それではお客さまには響かない。そこで、専門家と徹底的に議論して、少しだけ先へ行くことを意識したのがブルーに輝くツリーだったのです。実際にツリーを展示したところ、わざわざ見に来られるお客さまもいらっしゃるし、新聞やテレビなどで取り上げられたこともあって、クリスマスが終わるまで、店の前はすごい混雑でした。それでいてコストは従来の10分の1、消費電力も10分の1でした。
 
 この微妙な感覚を表現し続けるのは大変なのですが、いまはそういうことに汗をかく時代なのです。大変だからと手抜きをすれば、お客さまは、離れていってしまいます。同質化競争を勝ち抜いていくには、そのくらい感覚を研ぎ澄まさなければならない。と同時に、他店がやらない品揃えを徹底して進めていくという勢いがなければだめだと思います。
 
これらを支えるのは、人ですから、それに見合う人事制度の改革も必要です。当社では給与制度も、4割が年功、後の6割は職務実績がそのまま反映される、というシステムに変えました。実力のある人は、どんどん上がっていく仕組みになっています。
 私は、経営と営業は紙の裏表のように密着した関係であると認識しています。営業が変化するということは、お客さまのニーズが変化しているということですから、それに対応して経営もどう変化させていくか。この距離が近いか遠いかが重要です。
 ですからコストについても、「構造改革委員会」という組織をつくり、現状のコストでよりクオリティの高いモノを提供する、あるいはより安い価格で提供するためには、いまの構造をどう変えていけばよいか、ということを常に考えています。そうすることで、日々、いろいろな考え方や工夫、新しいものを編み出していく体質をつくらなければならない。
 
 
お客さまの視点に立った 売場の環境づくりを目指し
顧客に合わせたサービスを提供

 
−今年は創業50周年という節目を迎え、何か次なる計画をお持ちですか。
 
北野 企業としては価値のある50年ですし、本来なら、50周年を派手に祝いたいところです。が、お客さまにとってはどうなのでしょうか。むしろ私どもは50年という年月を経たいま、どこまでお客さまの視点に立つことができるのかに再度挑戦してみる必要があるときではないかと思っています。
 そこで、お客さまがいま何を欲しているのかを知るためにリサーチを進めています。たとえば、昨年は「男のマーケティングリサーチ」を行ないました。男性のお客さまはなかなか百貨店へいらっしゃいません。
 
20代男性では「百貨店なんて行かない」。博多の大丸がどこにあるのかさえ知らない。「福岡天神・大丸へ行ったことがある」と回答されていても「買いたいと思うものがない」という。
 その一方で、30代の方では、鉄道模型や釣り道具、ゴルフ用品などカテゴリーによって需要が生まれてきます。50代以降になりますと、完全に奥さまの影響がみられます。奥さまとご一緒、もしくはお孫さんと来店されるケースが多いからです。
 
 そうしたリサーチを踏まえますと、男性の消費のキーワードとなるものは「こだわり」「奥さま」などとなります。つまり、年齢が上がるほど、男性のお客さまが買い物をされるようになるのは、品揃えによってだけではない、一人ひとりのお客さまに対して販売員が優しくエスコートしながら対応できるような売り場の環境づくりが求められるということになります。
 
 この試みは今年から実験的に行なう予定でして、「貴方がいるから行く」と言ってもらえるスタッフの育成に努めていきます。男性は自分だけのこだわりやお気に入りに対する思い入れが強い傾向がありますから、その心理を百貨店の来店動機としても取り入れていければ、という考え方です。
 ご婦人を対象にした同様の試みはすでに行なっていまして、一定の成果を収めています。フロアのデスクにアドバイスのできる担当者を常駐させ、そこでアドバイスを受けたお客さま方がそれぞれの売場へ行かれる、というものです。
 
 現在、当店ではポーターの需要が1日50件あります。利用者の大半が年齢の高いお客さまですが、スタッフがお客さまのお荷物をお持ちしたり、カートを押しながら買い物に付き添うというサービスで、その応用といえます。
 
−売場開発というよりも、“サービス開発”強化そのものといえますね
 
北野 大きく捉えるとそうなります。ただ、効果のないものを実施しても意味がないですし、効果があるかどうかはお客さまの声を聞いてみなければわかりません。
 ですから、スタッフが毎日、「ホスピタリティ・メモ」を書いて、現場に届いたお客さまの声を上に上げており、トップ以下のスタッフが見てすぐに対応できるようにしています。
 
 
最終的には人の力が顧客をつくる
これからは人材育成のために
投資する経営感覚が必要

 
−2年後に地下鉄3号線が開通します。それに合わせた次なる飛躍を目指した計画を進めておられるのでは…と想像しているのですが。
 
北野 はい。地下鉄の開通によって1日11万人が乗降する、という試算も出ています。控えめに見積もっても7万〜8万人ですので大きな追い風になります。  ただ、店舗はロケーションだけで勝てる時代ではありません。
 ですから、今後の2年間は、あえて不便な立地にあることを想定して徹底したMDの見直しを行なっていきます。
 逆にいえば、いままでが立地に恵まれすぎていたといえます。不便でもわざわざ行きたいと思われるにはどうすればよいのか。それはサービス強化しかないと思うのです。
 この2年間にできる限りの人材育成を進め、現場の販売スタッフからマネジメントの部長まで、お客さまの目を見ただけでニーズをつかめるくらいのレベルに高めないといけません。
 お客さまから言われてはじめて知ったというのでは遅いと思うのです。その程度では、2年後に地下鉄が開通しても、お客さまは素通りされてしまうでしょう。
 
 
−現在の課題としては、人材育成と構造改革が大きな柱になるといえますが、新規投資なども含めた長期的な計画に関しては、どのようなお考えをおもちですか。
 
北野 現在、10年計画を進めているところですが、3年をタームとして、今年は2年目になります。
 ただ、それも常に修正の繰り返しです。商圏内で、新しく出店する店舗があり、逆に退店する店舗があります。そうした状況を把握しながら消費の変動を常に分析し、それを見据えたうえで人材育成と戦略の強化・拡大を図っていきたいと思っています。
 いまは、このまま大規模な店舗を構えていくことが正しいのかさえ、はっきりとしない時代です。これからは店舗だけでなく、新しい形の通信販売(たとえばEコマース)や、百貨店が得意とする分野でありながらいままで踏み込めていなかった部分なども視野に入れて、営業戦略を立てていく必要があると思います。
 新規投資に関しては、人材育成やイメージ戦略なども含めて考えるべきだと思っています。メーカーは設備投資だけでなく研究員という人材にも投資をすることで、新しい研究開発に力を注いでいます。
 いままで百貨店は、売場改装などに投資をしてきましたが、結果的には同質化してしまい、販売する人は変化していないのです。
ともすると、増床して質が下がるということすらあるのです。そのような投資感覚から脱皮する必要があると思います。
 
−顧客戦略で先行してきた博多大丸としては、“ポイントカードの役割”は大きいと思いますが。
 
北野 顧客戦略には間接・直接の両方が必要だと思うのです。ポイントカードは直接の来店動機であるといえますが、お客さまが「今日はどこへ行こうか」と思われた時に、ふっと博多大丸を思い出していただきたい。それには、新聞広告や折込み、テレビCM、DMといったさまざまなパブリシティ効果も作用しています。
 
 また、いまホームページへのアクセスが1日に約1万2,000件ありますが、その中で、ある商品分野についてはとくにアクセスが多いのです。これは一つの強みであるといえますが、現実問題として、現場ではその情報をそこまで掘り下げていないという実態があります。これは人の能力の問題、気働きの問題でもあるわけですが、そこに今後の改善の余地があります。
 
 具体的にどこをどのように変えていくのかは、やはり長期的な視点でみていく必要があります。ですから、計画は3年タームで立てていますが、戦略的には10年を単位として考えています。
 しかし原点は、やはり人と人との接点です。買物に行くにも顔見知りの店員がいるほうへ自然と足が向くでしょうし、自分のために何かをしてくれるという思いを提供できることが大切です。そうしてお客さまのなかで自然と(大丸の)「D」の字が絞られていく、というのが戦略のベースにあります。
 
 イトーヨーカ堂の鈴木敏文社長がおっしゃっていた「商売は経済学ではない。心理学だ」という言葉は、よく理解できますね。情報戦略だコンピュータ分析だといっても、最終的にはお客さまのマインドがどう動いているのかをスタッフがどれだけ的確に捉えて、すぐに対応できるかどうかが決め手になるからです。  そこに注げるエネルギーが強いところは勝ち残るでしょう。弱いところは撤退することになるでしょう。
 
−本日は、長時間どうもありがとうございました。
 
(左)●西館3階、婦人服フロアに設けられているファッションアドバイスコーナー。お客さまがお悩みのコーディネートなどをお手伝いする。同店では、ポーターサービス、体の不自由な方のアテンドサービス、傘の貸し出しサービスなど、来店者へのサポートサービスが充実している
(中)●西館とエルガーラ(東館)をつなぐ「パサージュ広場」では、クリスマスやバレンタインなどに合わせたディスプレーやイベントが行なわれる
(右)●競争の厳しい天神地区にあって、勝ち組として業界をリードする福岡天神・大丸。

 
 
齋藤秀樹の提言
 
 デパートメントストア(department store)とは!今回は、デパート経営の基本型を“語源”から探査し、新たな処方箋を見つけ出すことにある。
 デパートとは、「part(単品売場)から脱却する(de)こと」がポイントであり、「単品をco-partmentコ・パートメントすること」と解釈する。つまりデパート商売のあり様として、「それぞれのpartがco、横に繋がっていくこと」を意味するからである。
 
 かつて、百貨店業態の特徴を一言で表わす言葉として“ワンストップショッピング(業態の優位性)”があり、“ワンストップ・ライフスタイリング”という挑戦目標があった。これらの表現を可能にしてきた背景には、こうした語源に裏付けられた業態論の芽が存在していたからともいえる。
 
 バブル崩壊後、業界に突きつけられてきた課題は、ここでいう単品の中身であった。「本当に百貨店に相応しい魅力的な商品(単品売場)が揃っているのか」という問いかけであり、今日でも検証が続けられている筈である。出口の見えないデフレ不況が百貨店を覆う昨今、地方中核百貨店で「0.1%商法で生き残りを図ろう」という動きが浮上してきている点に注目したい。そこには、「商圏の10%の人を捉えるのは大変だが、個性化した0.1%の人の心を掴む単品売場を構築することは可能である」、「地方大都市商圏であれば、こうした単品売場の集積による差別化は有効策になる」、という考え方だ。
 
 激戦区・福岡業界で次なる闘いに臨む博多大丸の“ポスト50周年戦略”は、市場のわずかなスキ間を狙って勝ち残ろうとする博多ッ子らしい挑戦と繊細さが読み取れる。

 
関連サイト : デジマル・ドット・コム(http://www.digimaru.com/)
 

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