トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言
 
若い女性から支持される
スペシャリティ・ストアを目指す

「商販一体」「明確な対象顧客」「情報発信の充実」で
単店舗ならではの強みを発揮
“冬の時代”の百貨店業界で数少ない増収増益企業

 
株式会社 プランタン銀座 代表取締役社長 杉山 潤氏
聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
 流通革命のシンボルであったビッグストアが相次いで破綻、再編の嵐が一段と加速しているが、そうしたなかで誕生し、今春、再スタートを切ったのが(株)プランタン銀座である。今回、ご登場いただいた杉山 潤社長は、三越広島店を黒字化させた辣腕家でファッションにも精通している。社長就任3か月後の10月、2005年度を最終年度とする3か年計画を早々と発表しており、今後の行方が再注目されている。  
 
 
明確なターゲット設定、
女性の感性を活かした
商販一致と広報一体が力に

 
−消費が冷え込むなか、プランタン銀座は前期(2002年2月期決算)も売上対前年比4.2%と増収増益を果たし、大健闘しました。今年も成功しているビジネスモデルとして注目されていますが。
 
杉山氏 杉山 今年、当社は、経営再建中の(株)ダイエーからの株式譲渡により(株)読売新聞社、(株)三越の傘下に入り、運営は(株)三越が担当することになりました。このように大きな変化がありましたので、今期は経営データ的にあまり参考にならないですが、売上げはおっしゃる通り順調に伸びています。
 
 
−バブル崩壊後も御社は、業績を上げてきました。その理由を私なりに分析しますと、まず営業的に単店舗でキメ細かな展開を行なっていること。もうひとつは、組織論的に「売る人が仕入れる」という小売の原点をきちっと実践しているからです。杉山社長は三越から入られ、率直にいってどこに強さを感じますか。
 
杉山 ひとつには、お客さまのターゲットが絞られていることです。どこの百貨店も、イメージターゲットとリアルターゲットをいかに一致させるかに腐心している。そのなかで、当店はターゲットが明確に定まっていて、20代と30代の女性が約80%を占めています。
 
 2つめは、銀座の地域特性を挙げることができます。地域間競争が激化するなかで、池袋は、巨艦が駅に張り付いて東武さんが増床してもエリアは広がりません。渋谷も、専門店は青山のほうへ広がっていますが、百貨店とはリンクしていない。街のターゲットが高校生で、百貨店のターゲットが大人なので、両者が乖離している。新宿も、高島屋さんが進出し南口が新しく誕生しましたが、西口全体は拡大しなかったという状況です。
 
 銀座もかつて、1丁目から3丁目にかけては商業地ではなく、プランタンが出店した当初はここまで人を呼ぶのが大変でした。それがいまでは、1丁目、2丁目の一帯に特色あるセレクトショップがたくさん集まってきています。北は有楽町から丸の内仲通りへとつながり、丸ビルもできました。銀座は、こうした全方位に面的な広がりをもつ商業地区といえます。
 
 そして3つめは、単体であるがゆえに、お客さまの顔の見える仕入れができるということです。当社では入社3年目の社員が海外へ買付けに行っています。こういう時代ですから、お客さまが見えていて、何を望んでいるかを敏感に察知して仕入れをしていかなければ勝てません。その点、営業面で非常に有利であるということです。
 
  
−小売に不可欠な“現場主義”を実現できる条件が企業の内外に揃っており、そのことが好調要因だと…。
 
杉山 はい。私は、「問題と解答は常に現場にあり」と思っています。何か困難なことにぶつかったとき、現場を愛し、足を運ぶことをいとわずに廻ると問題点が見えてきます。また、解答も見えてくるということです。
 
−「女性の、女性による、女性のための百貨店」として、女性の活躍の場が随所にあることも好印象を与えています。今度就任された、副店長の坂井文枝さんも女性ですね。
 
杉山 そうです。もはやモノが不足している時代ではありませんから、どこにでもある商材ではお客さまは買ってくれません。したがって、感性と科学で買付けをする必要があります。女性の意見を取り入れて仕入れをする。当社では商品の7割から8割は女性が買付けをしています。
 
 
“デパ地下”ブームの仕掛け人として
「商品開発力」は今なお業界人が注目

 
−同業他社の百貨店の人に銀座プランタンの長所を訊きますと、「百貨店では置けないすき間商品を展開していることで、これは、百貨店が真似できない点だ」といいます。こうした見解を、どう思われますか。
 
杉山 すき間商品で勝負しているのではなく、すき間商品をどれだけ主役に押し上げられるか、どれだけ他の商品とコーディネイトできるかの仕掛けをしていくこと。ファッションをどれだけ特化していけるかというのが私どものテーマで、真の“ファッション・スペシャリティストア”を目指しているということです。
 
−「プランタン銀座」の強さを語る際、もうひとつ忘れてならないことは、”デパ地下仕掛け人“としてのプランタンの“商品開発力”で、業界人は注目し、定点観測しています。地下食品フロアの魅力と話題性を常に提供していますね。
 
杉山 専任で担当している食品課長とパブリシティにもっていく広報とのコンビネーションがうまくいっている。これはという商品を見つけ(あるいは開発し)、話題性を生み出すストーリーをつくり上げる。ここまでは売場の人間の仕事です。それをどう発信し、メディアに取り上げてもらうかは、広報の腕のみせどころです。
 
 当初はなかなか取り上げてもらえず、苦労したようですが、現在ではTV・新聞・雑誌等でプランタン銀座の露出度は百貨店NO1で、非常に高くなりました。
 
−売場と一体化した広報体制は、どこの百貨店でもやろうとしていますが、「プランタン銀座」ほどの成果は、まだ上がっていない…。
 
杉山 毎月1回の会議で、売場の人間が出したいと思う商品を持ち寄り、広報と一緒に作戦を詰めていきます。4人の広報担当も全員女性です。
 
−この秋、大当たりしたのは、“ランチ弁当”でしたね。
 
杉山 ブ社長就任1か月後でしたか、食品担当課長に「OLランチ戦争を仕掛けてみたら」という宿題を出しました。有楽町周辺は、マリオンの両百貨店に代表されるように食品売場が撤退し、お弁当を買えるところが極端に少なくなっています。ですから、需要は絶対にあるはずだと考えたわけです。
 
 そこで、「ヘルシー志向」「ワンコイン(500円)で食べられる弁当」「劇場へ行くときに持っていける弁当」といったテーマを5つくらい設け、1か月半で開発するように指示しました。結果的には、展開1週間で前年比172%の伸びを達成しました。食もファッションの一部ですから、当店では大事なアイテムとなっています。
 
 
(左)●デザートの流行発信地ともいわれるプランタンの地下売場。常に顧客を意識した新しい動きがここから発信される
(右)●フランス・パリの百貨店「オ・プランタン」と提携し、1984年4月にオープン。フランス、イタリアなどからの直輸入品を含め、魅力的でリーズナブルな品揃えで若い女性の圧倒的な支持を受ける

 
 
“女性の館”構築を目指し、
クロス・マーチャンダイジングの売場開発にも挑む

 
−プランタン銀座は売場面積が5000坪強の中型百貨店ですが、ポストバブル時代には合っている…。
 
杉山 昔と違って、百貨店は広ければよいという時代ではありません。逆に、私どもくらいの規模が最も効率がよいのではないか。最近のお客さまは自分のテイストがわかっていて、1万坪以上の店をぐるぐる買い回りする人はあまりいません。そういう意味では、中規模店舗でも戦える時代になったという気がします。必ずしも売上げ第一でなくてもいいし、面積を誇らなくてもいい。顧客満足を一番大切にしたいですね。
 
−仕事を終えたOL・キャリアが、安心してショッピングができ、コミュニケーションを楽しんでもらうためには、一方で、館内での滞留時間を考慮しなければならない。コンビニみたいに目的買いをしてすぐに帰ってしまうのではせっかくの“女性の館”の役割を果たしたとはいえません。
 
杉山 当社の調査によると、ウイークデーのお客さまの滞留時間は50分以上、土・日では約120分です。他の百貨店に比べ、かなり長いほうではあるんです。
 
 ただ、課題はあります。これまではアパレルに特化する方向できましたが、今後さらに滞留時間をのばし、お客さま一人当たりの買い上げ額を上げるためには、クロス・マーチャンダイジングの観点から新しいMD構築に取り組んでいかなければなりません。洋服だけでは買い回り性が低いので、雑貨ゾーンをクロスさせたり、場合によってはケーキの店を組み入れるとか、いろいろな工夫は考えられます。
 
 
−時期的には、いつ頃から着手される計画ですか。
 
杉山 フロア単位のリニューアル計画は、来年を予定しています。
 
−その際、さらにグレードを上げるMD計画は、お考えですか。
 
杉山 それはないですね。松屋さんや有楽町西武さん、阪急さんとはキャリアのターゲットを変えて来ていただいている店なのです。
せっかくプランタン銀座ファンのOLにご支持をいただいているわけですから、それに沿った環境計画、MD計画を立てなければ意味がないと考えています。プランタンはプランタンとして、他の百貨店と同じものを目指そうとは思いません。
 
 当店のお客さまは、自由に使えるお小遣いの金額が非常に多いということです。顧客の30%近くが親と同居していて、自由になるお金が多いというデータがあります。具体的には、ひと月のお小遣いが約9万円。そのうちファッションに使うお金が約4万円ということです。つまり、自分の感性に合う商材が展開されていれば、購入する原資は十分に持っている。それをどれだけ取り込めるかということになります。
 
 さらにいえば、当店はMD的には20代・30代を中心にしていますので、単純にみればそれ以上の世代の人は顧客にならないことになります。ところが40代とか50代前半の方々は、そのジャスト世代向けの商品を受け入れようとはしません。少なくとも30代のマインドと感性がある商品で、サイズさえ欠落していなければ求めていきます。そういう意味から、当店の品揃えもその年代までは買い続けていただけるのではないかと考えています。
 
−“ウイズ・ママの買い物”が団塊世代の親子を中心に傾向として出ています。今後、ターゲットとして狙いますか。
 
杉山 実は、当店の今後の課題なのです。いわゆる「母娘(ははこ)消費」「母娘商品」というのは、たとえばお母さんが団塊世代、お嬢さんが20代で、2人で着回し、使い回しをするという傾向が強い。プランタンの顧客層と銀座三越の顧客層を比べると、30代では重なっているものの、20代ではあまり重なっていません。
 
 ですから、銀座に親子で買い物に来られた方が、三越と当店を買い回りしてくれる。あるいは、お嬢さんが買うものでも、お母さんも着るとなると、もう少し高級なものを買おうということになります。そういう場面を想定して、違う売り方や提案の仕方は、新しくできると思います。
 
−若者の絶対人口は、今後、減少しますが、やり方如何によっては売上げ増はまだまだ可能姓があるということになりますね。
 
杉山 はい。東京には1200万人もの人口があるうえに、地方から来る人もたくさんいます。ですから、商圏としては他のどの地域より人口が多いはずです。あと15年くらい経てば、東京でも少子高齢化の影響は出てくるでしょうが、いまからその心配をしても仕方がありません。
 
−今後、杉山社長の下で店頭は、“生活提案”を軸に「女性の館」が実現されていくでしょうし、経営面では、スピード時代に応じた現場重視の即決型と権限委譲による高収益を実現していくことになる…。
 
杉山 その通りです。どれだけ速くトップが情報を収集できるか、どれだけ速く重要な情報を社員で共有できるか、その情報に基づいて、漫然と商品を並べるのではなく、動きのある仕掛けをする必要があります。その仕掛けも、単発でやるのではなく、まわりと連携してやることが大切です。1つのブランドだけでなく3つのブランドが共同して行なうとか、1つの売場ではなくワンフロア全体で取り組むなど、リレーション発想が重要になります。
 
−“人材教育については、どのような体制をとられますか。
 
杉山 私どものような事業は、ダイレクトに消費者の声を聞き、判断していかなければなりません。したがって、人材はとても重要ですから、人材育成の基盤整備として3つのポイントをおいています。(1)有資格者を増やすこと、(2)MDのプロを育成すること、(3)売り場運営と販売技能をもった人材の育成、です。
 
 具体的には、三越の人材開発プログラムを受けさせることも検討しています。たとえばワインアドバイザーやシューフィッターなど、社員がさまざまな資格を取得できるよう積極的な支援を行なって人づくりをやっていきます。
 
 
(左)●女性の感性で絞り込まれた商品構成が、主要顧客である20〜30代の女性の心を捉える
(右)●インポート商品やオリジナル商品などプランタン銀座だけのファッションアイテムが並ぶ

 
 
「3カ年計画」で磐石な
経営基盤をつくり株式上場はその後の将来的課題に

 
−“今後の展開で重要な、三越とのアライアンス戦略等々をお聞かせください。
 
杉山 MD面では三越とバッティングしない営業戦略をとり、後方体制の基盤の共通化、社員福祉の共有化を中心に進めていきたいと考えています。
 
−近い将来、株式上場しキャピタルゲインを市場から得ることについては、どう考えていますか。
 
杉山 過去はいろいろあったようですが、現時点では、まず基礎固めの時期だと考えています。
 組織として、優秀な社員の能力をどこまで発揮させられるか。また単体であるがゆえの閉鎖性をどう打破していけるか。社員ができるだけ外の世界を見たり経験したりできる機会をつくることも必要です。
 
 この辺をまず、きちんと基盤整備して、会社としての体力が十分に養われ、対外的に打って出られるようになって、はじめて上場のことを考えるべきでしょう。 
 先ごろ発表した「3カ年経営計画」(2006年2月期、売上げで300億円強、営業利益率で3%目標)も、こうした基盤があってはじめて実現できるのです。
 
−2007年には、丸井さんも出店してきます。これも次の大きな節目になりそうですね。
 
杉山 丸井さんの進出は大歓迎です。どの業態で進出されるかはわかりませんが、私どもの顧客層よりさらに下の世代、いわゆるキャリア予備軍を大いに集客していただけるとうれしいですね(笑)。たしかに売上げだけをみれば、半年間くらいは影響を受けるかもしれません。しかし、長期的に考えれば地域の集客効果が高まり、当店にとって必ずプラスになると思っています。
 
−汐留に新しい街ができ、丸井さんが進出・開店すると、有楽町界隈の競合状況は激変します。その暁には、当ビルを高層化する建て替え計画が浮上してくることも考えられますか。
 
杉山 日本橋・銀座地域は、比較的再開発計画が多いので、周辺ブロックの開発の進み方次第ですね。当面は、「3カ年経営計画」を達成し、それから次のステップに進みたいと考えています。
 
−将来が楽しみな銀座プランタンですね。長時間のインタビュー、どうもありがとうございました。
 
 
 
齋藤秀樹の提言
 
 この時期、「プランタン銀座」の健闘ぶりを拝聴し改めて思ったことは、“個店主義の強さ”である。
 これを“プランタン・モデル(成功事例)”として検証していく時、十分条件を若干満たすことで“百貨店の再生シナリオ”が浮き彫りになってくることに気付かされる。
 
 十分条件とは、百貨店各社が自社の位置づけとして「流通業に委ねるのか」、あるいは「小売業を選択するのか」を自問自答し、決断する処から始まる。たかが言葉の違いと思われるかも知れないが、この両者の相違点は、大きくモノを言ってくるのである。まず、“事業の立脚点”で比較すると、「流通業」は、店舗・店頭を“流通システムの販路(または“商材の捌(は)け口”)”と捉え、プロダクトアウトの拡大を図る思想である。
 
 それに比べ、「小売業」とは、顧客接点である店頭を重視し、消費者利益を実践する思想である。
 さらに、“経営スタンスの相違点”で比較すると、「流通業」は、効率性・合理性をテコに“大企業(企業満足)”を志向する。対する「小売業」は、“顧客満足”志向であり、必ずしもビッグビジネスを目標に置いていない。
 
 経済が生活者中心の 世紀を迎え、真に“勝ち残る”には、結局、(1)企業で働く人々の自発性・創造性が発揮できる組織体制を構築すること(「個店主義」が最短距離)。(2)あくまで「顧客満足」を競うことを小売の原点とする。それ故、店頭重視政策を施す(「現場主義」本来の意味)――という条件が不可欠になろうか。今回、取り上げた「プランタン銀座」には、そうした小売哲学への接近と息遣いが読み取れる。

 

このページに掲載の内容、写真などの転用をお断りします。
Copyright 2002 TANSEISHA.co.,ltd.
All right reserved.