トーク * Design対談
アメリカンデザインビジネスの潮流

建築家/千葉大学教授  栗生 明氏
IST(INTERSPACE TIME)代表 牛建 務氏
 
古いものと新しいものとの調和が
より豊かな空間を生みだす


 
内部と外部を一体的に
ランドスケープとして捉えた
平等院ミュージアム鳳翔館

 
牛建 お久しぶりです。前にお会いしたのは何年前でしたっけ。確か山形での時だったと…。
 
栗生 山形県米沢市のシンポジウムだったと思います(tansei.net5号Design対談参照)。寒かったですねぇ。
 
牛建 ところで、平等院ミュージアム鳳翔館では、BCS賞を受賞されたとのことで、おめでとうございます。これまでも栗生さんの作品はミュージアムが多かったですが、今回の平等院ミュージアムは特異なものではなかったかと思います。ランドスケープへの意識と、平等院の国宝等を展示する建築への新しい素材感の活かし方、空間の捉え方に、栗生さんの洗練された部分が表現されていると感じました。
 
栗生 ランドスケープと建築との関わりをテーマに設計をするようになったのは、植村直己冒険館の頃からです。その頃から土地のもつ地形風土を建築の中に織り込みながら、その土地でしかできない建築をつくろうと考えるようになりました。
 
 そう考える契機となったのは、植村さんの生き方に触れたことが大きかったと思います。植村さんの冒険は、自然を征服するのではなく、自然に自分を順化させるというものでした。北極圏に挑んだときも、1年以上前からイヌイットの集落に住み込んで、その生活に同化することによって環境に順化していったのです。 
 ですから、建築でも植村さんの冒険の手法と同じ方法がとれないだろうかと考えました。植村さんの生誕の地に順化するような建築をつくることによって、その環境が生きてくる、そのような建築は自らランドスケープへとつながると思います。
 
 館内の遺品展示だけでなく、子ども時代の植村さんが見たであろう周辺の但馬の山々も一つの展示ではないか。であるならその山や木や段々畑を一番良い形で見せられるような建築にすべきだろうと考えたのです。
 
 平等院の場合も、創建から950年という歴史的・時間的な問題を多く含んだ環境のなかに、新しい建築を織り込んでいくということですので、地形や自然風土だけにとどまらない非常に興味深いテーマでした。
 
牛建 どのような経緯で、設計を引き受けることになったのですか。
 
栗生 何人か候補者がおられたようですが、お寺の方々が、これまでの私の作品などを審査した結果、一番この建物に相応しいという判断をしてくださったのだと思います。この計画でも植村直己冒険館と同様に初期の計画段階からランドスケープアーキテクトの宮城俊作さんと一緒にやりました。
 
牛建 いわゆるコラボレーションですね。ランドスケープということでいえば、栗生さんなりのランドスケープ観があると思うのですが、お互いの考えをどう調整されたのですか。
 
栗生 建築は敷地に置かれるとそれ自体がランドスケープデザインとなります。建築物の窓から風景がどう見えるか、建築が開かれることによって外部にどのようなスペースができるかということもランドスケープですから、設計作業は外部と内部が一体のものとして行なわれます。それを基本に、私からの提案と宮城さんからの提案とを調整しながらデザインをしました。
 
 たとえば植物を建築的に扱い、生け垣を塀のように立てることで内部を柔らかく遮断する。あるいは大きな刈り込みを建築の足元に据えることにより、建築の足元を消して浮かんだように見せる。このように建築のボキャブラリーのなかに植物を取り込むという手法も、2人で話し合って決めました。
 
牛建 建物のハードな部分を自然にうまく調和させることによって、建物が完成されるということですね。
 
栗生 そうです。小さな模型を何十パターンも敷地模型に置いてみて、その地形に一番しっくりくるか、建物のどちら側を透明にして外を見せるのがよいかなどを重ねて検討しました。鳳凰堂は東を向いていますので、阿弥陀様は太陽が上るのを見ている。背後には極楽浄土があり、夕方には夕焼けを背景にしています。そこで、この建物にも阿弥陀様が見ているのと同じ風景を見せようと、鳳凰堂と同じ向きにしてあります。
 
牛建 ランドスケープをうまく取り入れようと思うと、ある程度内部の空間を諦めざるを得ない部分も出てくると思いますが、そのへんの難しさはありませんでしたか。特に建物のボリュームをどう処理するかということで、天井の高さなどにも気を遣われたと思いますが。
 
栗生 問題は950年前の鳳凰堂という名建築の左手背後に、かなりなボリュームの新しい建築をつくらなければいけないということです。既存の歴史的環境を保存しながら新しい21世紀のミュージアムをつくらなければなりません。
 
 文化庁からは和風建築で、ともいわれていました。それには、現代の技術と素材を使って新旧の緊張感の中で新しいものをつくり、それが既存の環境に調和していく、という方向が最適ではないかと考えました。
 たまたま鳳凰堂の左手背後が丘になっていて7メー卜ルの高低差がありましたので、鳳凰堂に向かったときに、建物が完全に見えないものにしようと思い、その7メー卜ルの丘に建物の大半を埋めることにしたのです。歴史的景観を大切にする一つの範を示したいという思いもありました。
 
 また、たくさんの方が拝観に訪れるわけですから、全体として回遊性のあるものにしたいと考えました。鳳凰堂の美術・工芸・建築や庭園を観て、それからミュージアムに入るという、ひとつのシークエンスのなかでミュージアムを体験するというワンウェイのミュージアムにしました。
 
 天高については、人が佇むところはできるだけ抑えて床に座らせる工夫をしました。みんなが座る縁側部分は1850ミリしかありません。逆に天高がないと必ず床に座るので、その目線で周辺の景色が見える仕掛けにしてあります。
 
(左)●平等院ミュージアム鳳翔館
(右)●桐蔭メモリアルアカデミウム(2点とも写真提供:栗生総合計画事務所)

 
 
現代的な素材を使いながら
温かみを感じさせる
和のテイストを表現

 
牛建 以前、ライトの設計した家に行ったことがありますが、その家は多様なプロポーションが駆使されていて、興味を引かれました。エントランス部分は既存の岩があるために天井が非常に低いのですが、横の広がりや奥行きのせいでまったく違和感を抱きませんでしたし、隣の部屋は天井の高い広々とした空間になっていて、与えられたスペースをうまく表現するために天井の高さが綿密に計算されていることを感じました。
 今回の栗生さんの建築で、非常に印象に残ったのはグレードの高さです。使っている素材はステンレスやアルミやコンクリートですが、非常に手の込んだ手法を駆使されている。そこまでこだわったのは、そこに国宝があることと関係がありますか。
 
栗生 はい、納める物がほとんど国宝と重要文化財ですから、それに相応しいグレードの空間をつくろうと思いました。いまライトのお話が出ましたが、ライトの建物が非常に日本的に感じるのは、視線が水平に流れているからだと思います。そのために天井高を微妙に調整しているわけです。外に向かって視線を大きく広げたいときには、思い切って天井を低くする。そして低いところから急に高いところに出ることで、空間の縦への広がりを強調するという演出をしています。
 
 この建物でもエントランスから入った通路部分が最も天井が高く11メー卜ルくらいあります。地の底から天空を見上げるような、最高部から積層された壁面を光が落ちてくるという仕掛けにしてあります。つまり、横に視線を流したいところと縦に視線をもってきたいところとメリハリをつけたのです。
 
 素材については、近代建築の素材である鉄とガラス、コンクリートを使いましたが、そこに日本的な手業の感触みたいなものを出したいと思いました。コンクリートは杉型枠で0.8ミリの凹凸をつくり地層が積層したイメージを追求しました。これによってコンクリートでありながら、土や木肌のもつ温かみが表現できます。またスチールの梁は木造の垂木のような印象に、縁側の天井はアルミパネルに周辺の景色が映り込むようにしたり、ガラスの間に和紙を挟み込んで障子をイメージさせるなど、近代的な素材を用いながら「和風」という要望にも応えたつもりです。
 
牛建 従来から使っている素材を用いながら、その中でグレード感を出すためには、照明も重要な要素ですね。自然の光と人工的な光が融合して空間を演出していく様子は、見ていて面白いなと思いました。また内部空間と外部空間という区別もあまり感じませんでした。
 
栗生 伝統的な日本の住宅は、縁側があって障子があり座敷があります。障子を閉めれば座敷は室内になりますが、開け放つと家全体が外部になってしまうという性質があります。地上階はそういう空間にしたいと思い、屋根下の外部空間を極力多くし、大建具を引き戸にしてすべて開放できるようにしました。
 
 平等院ミュージアムもそうですが、戦後BC級戦犯を裁いた横浜地方裁判所特号法廷の移築・復元・保存を契機に建設されることになった桐蔭メモリアルアカデミウム、そしていま取り組んでいる長崎の原爆死没者慰霊平和祈念館と、歴史的事象に関わる仕事が多いこともあって、いまは人間の記憶をどう建築に刻み込んでいくかということに非常に興味があります。
 
牛建 それを建築のボキャブラリーに取り入れていくのは冒険でもあるし、新しい発見でもありますね。
 
栗生 新しいものと古いものを組み合わせることで、新しいものはより新しく見えるし、逆に古いものは存在感が際立ってくるということがあります。われわれ建築家は新しいほうにばかり目を向けがちですが、両方をうまく調和させることによって、より豊かな空間を創造できるのではと思うようになりました。
 
牛建 商業施設はあまりおやりになりませんね。
 
栗生 そんなことはありません。商業施設は大好きです。建築には予算と敷地と機能という3つの与件がありますが、それが変えられるものだということを意識したのは商業施設をやったからです。今度、一緒に商業施設をやりましょう。
 
牛建  いいですねえ。ぜひコラボレーションをお願いします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
 

 
栗生氏 栗生 明氏
くりう あきら●1973年、早稲田大学大学院建築計画修士課程修了、東京大学建築学科助手を経て、現在千葉大学工学部建築学科教授、(株)栗生総合計画事務所主宰。
 89年新日本建築家協会新人賞、96年日本建築学会賞を受賞。主な作品は、カー二バルショーケース(兵庫県)、植村直己冒険館(兵庫県)、パトリ+清里フォトアートミュージアム(山梨県)、砺波市チューリップ四季彩館(富山県)、岡崎市美術博物館(愛知県)、桐蔭学園メモリアルアカデミウムなど多数。
 最新作・平等院ミュージアム鳳翔館でも、BCS賞など多くの賞を獲得している。今回の対談では、アメリカンデザインビジネスを離れて、ランドスケープアーキテクトとのコラボレーションとは何かを語っていただいた。

牛建 務氏
うしだて つとむ●1976年Chaix & Johnson社に入社、一貫して商業施設のインテリアデザインを手がける。現在、活動の本拠を東京に移して、商業以外のデザインにも意欲的に取り組んでいる。このシリーズ対談では「アメリカンデザインビジネスの魅力」に迫っていただいた。
牛建氏

 

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