トーク * THE SC
"ここにしかない"雰囲気と商品で新たなSCにチャレンジ
「横浜赤レンガ倉庫2号館」
 
横浜赤レンガ(株)代表取締役社長 村澤 彰氏
 
聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏

新たな価値観を覚醒させ
オンリーワンを目指す


 
  近代港湾発祥の地、横浜・新港ふ頭にある第一級の歴史的建築物を保存するとともに、市民が憩い、楽しむ賑わいの場として再生された「横浜赤レンガ倉庫2号館」が、4月12日にオープンした。
 その空間プロデュースやテナントリーシングなどは、従来の商業施設開発とは異なる手法で取り組まれている。創建された当時の高揚感、未来への希望に満ちた躍動感のある時代スピリットを、赤レンガ倉庫の歴史的な価値とともに継承し、施設の中に詰め込まれた新しいソフトを重ね合わせて、「ここでしか得られない気分」を創出する。他の施設では味わうことのできない雰囲気、店舗や商品を差別化、集客のポイントと位置づけた。
 けっして商業施設の適正立地とはいえない場所に、クラシックとモダンが渾然一体となった魅力的な商業施設として生まれ変わった横浜赤レンガ倉庫2号館。その開発と運営のこだわりを、(株)横浜赤レンガ代表取締役社長・村澤彰氏にインタビューさせていただいた。

 
ライトアップされ、昼間とは違ってムードのある雰囲気を漂わす「横浜赤レンガ倉庫2号館」
ライトアップされ、昼間とは違ってムードのある雰囲気を漂わす「横浜赤レンガ倉庫2号館」

 
コンセプトを共有した
テナントはパートナーである

 
−オープン後の横浜赤レンガ倉庫2号館では、平日にも開店を待つお客さまが行列をつくっているような状況です。たいへんな評判ですね。
 
村澤 4月12日にオープンしてから1か月間で来館者数は100万人を超えました。年間の来館者数は300万人を目標にしていますが、予想をはるかに上回るペースで推移しています。
 たくさんのお客さまに足を運んでいただいて、たいへんうれしい半面、非常に大きな責任を感じています。大量集客の裏側にはさまざまな課題が隠れているはずだからです。100万人という数字に浮かれず、まだ表面には出てきていない課題を探し出すことが、いまの私に課せられた仕事だと思っています。
 
 
−多くの人を迎えられている要因のひとつには、「ヨコハマTRIVE」というコンセプトにお客さまが共鳴されているのではないかと推測されるのですが。
 
村澤 そうおっしゃっていただけるとたいへんうれしいですね。「ヨコハマTRIVE」は、開発コンセプトを一言に集約したものです。何を目的に商業施設を開発するのかを集約できないと、目指すものが具現化できないと考えました。
 
 私どもが行なったのは、地域の資産である赤レンガ倉庫を、新しい価値観をもった賑わいと憩いのある空間に仕立て直すことです。そのときに赤レンガ倉庫の原点とは何なのかを追求しようと、赤レンガ倉庫の歴史や創建当時の人々の暮らしぶりなどを図書館などで徹底的に調べ上げました。
 
 赤レンガ2号倉庫が創建したのは明治38年です。明治 年に日露戦争が終結し、日本中が沸き立ちましたが、6年が経過しても戦勝気分は継続しています。当時の人たちは新しい生活を夢見て、日本の建国の志に燃えているわけです。そうしたなかで赤レンガ倉庫は、外貨を獲得するための先兵であり、港湾整備の一環としてできあがります。赤レンガ倉庫の生い立ちをたどっていくと、当時のいきいきとした躍動感や未来に向かっていくチャレンジ精神といった時代の雰囲気が感じ取れたのです。
 
 その時代スピリットを一言に集約し、誰もが共有できる共通言語としたのが「ヨコハマTRIVE(TRY&LIVE)」というコンセプトです。ライブ感をもって、将来に向かってチャレンジするという意味を込めています。
 
−コンセプトをしっかりと確立していると、テナントに対しても目指すべき方向性を明確に提示することができます。コンセプトと施設内容に乖離が生じ、ちぐはぐなものに陥ることもない。
 
村澤 テナント企業さんに対し、われわれの考え=コンセプトを説明させていただき、一緒にここでチャレンジしませんかと強い呼びかけができました。
 
 人が集まるところに商業施設をつくるのではなく、自らの力で人を集め、リピートしていただける商業施設をつくらなくてはいけない場所です。われわれの考えに共鳴していただいて、本当に出店したいという強い意志をもっていただかなければ、このハードルをクリアすることは不可能です。  デベロッパーとテナントが、共通のテーマや夢に向かって展開している。テナントさんとは大家と店子の関係ではなく、パートナーシップを結んでいると認識しています。
 
 
事業展開のすべてが
赤レンガ倉庫のために

 
−コンセプトに独創性があり、しかもきわめて明快で関係者に十分消化されている。実はこうしたケースは意外に少ない。商業施設を開発する場合、よく先進国のアメリカの事例を視察します。すると、どことなく視察したもののモノマネになってしまい、横並び現象が生じることも少なくありません。その点、横浜赤レンガ倉庫2号館の独創性は水際立っていると思います。
 
村澤 海外での視察で受けた感銘を持ち込むのはわるくはありません。私どもも海外の商業施設をたくさん視察しました。問題はそれをそのままトレースするのではなく、自分のフィルターを通すことが必要です。
 
 私は商業開発のプロとしてではなく、ひとりの客として何が楽しいのかを突き詰めていきました。気をつけたのは、既成概念や成功体験を捨て去ることです。これらがオリのように堆積されてしまうと、こういうものだからと決めつけてかかってしまい、どこかにあるんじゃないかなと思われるものになってしまう。
 
−その点、横浜赤レンガ倉庫2号館は、ここにしかない“オンリーワン”の魅力にあふれています。
 
村澤 かつて私はベルギーのブルージュという町に研修旅行に行きました。そこは毛織物で繁栄したところで、赤レンガ造りの建物がたくさん残っている。驚いたことに、これらは観光資源になっているだけでなく、いまも住宅やSCとして使用されているのです。古い建物ですから、幾度となく修復の手がかけられていますが、その折に修復した年をプレートに記して掲示しています。
 
 彼らは毛織物で富が集まったという時代の記憶を残しているんだな、言い換えれば、彼らのアイデンティティをここに埋め込んでいるんだな、と感じたことを、今回のプロジェクトに携わるときに思い出しました。
 
 けっしてつくりものではない、いまの時代に歴史の重みを伝える赤レンガ倉庫それ自体が“オンリーワン”です。ここにしかない赤レンガ倉庫を最大限に活かす方策は何か、そのためのコンセプトは、施設構成は……。すべてのことが赤レンガ倉庫を出発点としているのです。
 
−先ほど、吸引力がないと商業施設として成立しない立地にあるといわれましたが、確かに赤レンガ倉庫のたたずまいは強力なマグネットになります。
 
村澤 本当の意味での吸引力、固有の差別化要因として「ここだけにしかない気分」を提供しようと考えました。その気分をつくりだすために用いたのが「ゾーンスクリプト」という手法です。
 
 お客さまにどのような気分を提供するのかを、フロアごとにシナリオにまとめて提示するのです。たとえば1階入口は「ハマの、赤レンガの思い出を大切な人に。」であり、2階は「あなたのテイストをパサージュで見つけてみませんか“字列」です。テナントさんには、このシナリオにはどのような店づくりや商品構成がふさわしいのか、ゾーンスクリプトの範囲内で自由に考えを巡らしていただきました。言葉で綴られていることがかえって想像力をかきたてるのです。
 
 ゾーンスクリプトという手法を使うことでテナントさんの店づくりを誘導し、個性的ではあるけれども、赤レンガ倉庫にふさわしい店舗で構成することができました。
 
本物の価値をもった
固有のテナントを揃える

 
−商業施設はさまざまな仕掛けをつくっても、最終的にはそこに出ている店舗に魅力があるか否かが重要です。リーシングにあたってのポイントをどういう点におかれましたか。
 
村澤 テナントリーシングにあたっては、全国ブランドだからという判断基準はもちあわせていません。本物の価値を提供してくださるテナントさんを誘致したいという気持ちでした。揺るぎないコンセプトに基づくわれわれの価値観と照らし合わせながら、出店を希望されたお店を一軒一軒、丹念に視察して回りました。こだわりがありますから、テナントリーシングには多くの時間を要しました。
 
 私が視察するときに注意を払ったのは、どのようなお客さまが来ていて、店内ではどのような顔をされて、どんな会話を交わしながら買い物や食事を楽しんでいらっしゃるのかという点。また、店づくりのあり方から透けて見えてくる経営者の考え方、MD開発力を見逃さないようにしました。
 
−商業施設開発の慣例に従い、類型的な考えで進められるものがあまりにも多すぎるなかにあって、本当に情熱をもって取り組まれていると感じます。その思いはテナントにも、お客さまにも必ず伝わるはずです。
 
村澤 ありがとうございます。 
 一例ですが、1階のピクニックコート(フードコート)に「横濱たちばな亭」さんという人気の洋食屋さんがあります。ここのオーナーは横浜市でとんかつ屋さんを出されているのですが、岩手県の雫石でやられている洋食店をぜひ赤レンガ倉庫に出店したいと応募されました。首都圏ではあまり名の知られていないお店ですが、雫石まで実際にお店を見に行き、オムライスを食してみると、これは絶対に本物であると感じた。さっそく出店の要請をさせていただきました。
心地よいもてなしを気軽な雰囲気で楽しめる1階フロア
心地よいもてなしを気軽な雰囲気で楽しめる1階フロア
 ご覧になっていただくとわかりますが、横濱たちばな亭さんはオープンキッチンになっています。シェフがライスをあおっている姿が外から見えます。ライスがふわっとした柔らかそうな卵に覆われると、お客さまから自然と拍手が送られる。その光景はまさにライブ感があります。
 
−物販テナントはアパレル関連を並べるのではなく、おしゃれで温かみがあって生活感を感じさせるショップ―インテリア雑貨やアンティーク家具など―を導入されています。
 
村澤 特に2階のフロアは、先ほどのスクリプトにもあるように、お客さまに生活シーンを提案したいと考えて誘致を図りました。賃料を考えれば、ファッション衣料を導入すべきかもしれませんが、デパートや駅ビルと同じ商品を提供しても仕方ありませんし、そもそも赤レンガ倉庫の気分にはそぐわないと感じました。
 
−直営の飲食店を出されているのはデベロッパーにとって大きなプラスとなると思います。お客さまと直接ふれあいがもてニーズや動向を把握できますので、環境の変化に対応していくことができる。
 
村澤 ダイニング&バー「モーション・ブルー・ヨコハマ」は、TRIVEというコンセプトを象徴するところです。ブルーノート東京さんにプランニングサポートしていただき、新しい音楽文化を発信していきます。
 
 ダイニングレストラン「ビアネクスト」には、お客さまを3階にポンプアップする役目を期待しています。「赤レンガ倉庫の記憶」を感じていただけるような場とすることが狙いです。
 
コンセプトを踏みはずさず
時代の流れとともに変化

 
−横浜市の山下公園、新港ふ頭、みなとみらい21地区一帯は観光地としてみることができます。しかし、商業施設として生き残るためには、市民に利用され、地域に支持されるかが課題だと思いますが。
 
村澤 まさしくそのとおりです。観光客と東京を含めた地域のお客さまの利用を棲み分けし、両立を図ることは非常に重要だと考えています。
 
 そのなかで歴史資産を切り売りするようなことだけは、絶対に回避しなければならないと肝に命じています。横浜赤レンガ倉庫の名を冠した土産品を販売するのはもってのほかです。これをやってしまうと、一時的には売れるかもしれませんが、「ここだけにしかない気分」という価値を持続できなくなり、アイデンティティを失うはめになります。目先の利益ばかりを考えて、資産が目減りするようなことは絶対にしてはいけない。
 
 古い本物の倉庫を活かす、そのたたずまいを大切にすることは必要です。しかし、それだけで終わらせてしまえば単なる懐古趣味にすぎません。創建当時の赤レンガ倉庫の先進性を受け継いで、そこに新しい情報を発信するという付加価値を付けないと一過性で終わってしまう危険性があります。
 
−観光客と地元客の棲み分けはなされていますか。
 
村澤 オープンしたばかりで棲み分けの判断はむずかしいですが、午後5時を境に客層が一変します。5時まではファミリー客や観光客でにぎわいますが、5時以降は年代を問わずカップルがたいへん多くなる。夜間はナトリウム灯のオレンジの光にライトアップされて、とてもムードのある雰囲気になります。私どもは夜のシーンをとても大切にしたいと考えています。夜の時間を大切な人と過ごしたい、そういう人たちが集まるような場所であればいいと。
 
−年齢や性別でターゲットを設定されていませんね。
 
村澤 ターゲットは「こだわりを持った好奇心旺盛な横浜のオトナたち」です。何か流行っているから行ってみようというのではなく、ここに来ると気分がいいからとか、ここにはこだわりがあるからといったふうに思っていただく人に、特に来ていただきたい。
 
−私は集客力の維持が資産価値を高めると信じていますが、リピーターの獲得はどのように考えていますか。
 
村澤 何度も足を運んでいただくには、そこが気持ちいい場所でなければならないと思います。耳をそばだてて歩いていると、館内から外へ出た瞬間の開放感に小さな歓声を上げている方がいる。あるいはライトアップされた建物などを見ながら「いい雰囲気ね」といった声が聞こえてくる。こうした感動を大切にしていきたい。
 
−イベントだけに頼って集客しようという発想がありますが、それは違うと思いますね。
 
村澤 行ってみたら、赤レンガにふさわしいイベントをやっていて楽しかった、という程度でいいと思っています。イベントは来場の動機ではなく、あくまでも建物やここの雰囲気を引き立てるもの。お客さまの背中をちょっと押す程度の仕掛けで十分です。
 
−商業施設の開発を初めて手がけられたから、逆に新鮮味のあるものができたのではないでしょうか。それが横浜赤レンガ倉庫2号館の大きな強みとして映るのですが。
 
村澤 私どもは商業デベロッパーとしては素人であると認識しています。ですが、そのことを“負”としてしまわず、逆にお客さまの視点でものごとを考え、商業施設をつくりました。今後もプロの方に追いつこうとは思いません。
 
 しかし、自分たちだけで考えることには限界があります。ですから足りないところは外部から注入しました。また、次の展開を動かす原動力となる“旬”の情報は外部からもたらされるものです。社員はなるべく少なくし、スリム化させているのも“旬”の情報を得るためです。
 
 外部からの空気にふれることによって時代の流れ、変化に対応できると思っています。自己過信に陥って内部がよどまないように、外部からの時代の空気をどんどん吸い込み、一方で創業の思いを揺るがせることなく、これからも事業展開をしていくつもりです。
 
−ぜひ、その思いを貫き通していただきたいですね。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
 
(左)●2階にはこだわりの生活シーンを提案するショップが並ぶ。写真はTシャツセレクトショップの「グッディ! ランドリー」
(中)●3階に出店した「ビアネクスト」は横浜赤レンガの直営店。“赤レンガ倉庫の記憶”をテーマにデザインされている
(右)●1号館との間に設けられた広場や赤レンガパークと一体化して整備された

 
 
村澤氏 村澤 彰氏
むらさわ あきら●“港の賑わいと文化を創造する空間”をコンセプトに、横浜・新港ふ頭の赤レンガ倉庫を商業施設としてリニューアルオープンした(株)横浜赤レンガの代表取締役社長。消費者の視点に立ち、テナントとともに新しい時代に向けた躍動感のある商業施設の実現に取り組む。

大西 直良氏
おおにし なおよし●SCおよび不動産実務に関するコンサルタント会社、(株)ウエルウエスト代表取締役。日本ショッピングセンター(SC)協会の理事・広報委員長。亀戸の「サンストリート」の開発・運営会社(株)タイムクリエイトの前・代表取締役。
大西氏

 
 

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