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■トーク * THE SC "ここにしかない"雰囲気と商品で新たなSCにチャレンジ 「横浜赤レンガ倉庫2号館」 横浜赤レンガ(株)代表取締役社長 村澤 彰氏 聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏
新たな価値観を覚醒させ
コンセプトを共有した テナントはパートナーである
村澤 4月12日にオープンしてから1か月間で来館者数は100万人を超えました。年間の来館者数は300万人を目標にしていますが、予想をはるかに上回るペースで推移しています。 たくさんのお客さまに足を運んでいただいて、たいへんうれしい半面、非常に大きな責任を感じています。大量集客の裏側にはさまざまな課題が隠れているはずだからです。100万人という数字に浮かれず、まだ表面には出てきていない課題を探し出すことが、いまの私に課せられた仕事だと思っています。
村澤 そうおっしゃっていただけるとたいへんうれしいですね。「ヨコハマTRIVE」は、開発コンセプトを一言に集約したものです。何を目的に商業施設を開発するのかを集約できないと、目指すものが具現化できないと考えました。 私どもが行なったのは、地域の資産である赤レンガ倉庫を、新しい価値観をもった賑わいと憩いのある空間に仕立て直すことです。そのときに赤レンガ倉庫の原点とは何なのかを追求しようと、赤レンガ倉庫の歴史や創建当時の人々の暮らしぶりなどを図書館などで徹底的に調べ上げました。 赤レンガ2号倉庫が創建したのは明治38年です。明治 年に日露戦争が終結し、日本中が沸き立ちましたが、6年が経過しても戦勝気分は継続しています。当時の人たちは新しい生活を夢見て、日本の建国の志に燃えているわけです。そうしたなかで赤レンガ倉庫は、外貨を獲得するための先兵であり、港湾整備の一環としてできあがります。赤レンガ倉庫の生い立ちをたどっていくと、当時のいきいきとした躍動感や未来に向かっていくチャレンジ精神といった時代の雰囲気が感じ取れたのです。 その時代スピリットを一言に集約し、誰もが共有できる共通言語としたのが「ヨコハマTRIVE(TRY&LIVE)」というコンセプトです。ライブ感をもって、将来に向かってチャレンジするという意味を込めています。
村澤 テナント企業さんに対し、われわれの考え=コンセプトを説明させていただき、一緒にここでチャレンジしませんかと強い呼びかけができました。 人が集まるところに商業施設をつくるのではなく、自らの力で人を集め、リピートしていただける商業施設をつくらなくてはいけない場所です。われわれの考えに共鳴していただいて、本当に出店したいという強い意志をもっていただかなければ、このハードルをクリアすることは不可能です。 デベロッパーとテナントが、共通のテーマや夢に向かって展開している。テナントさんとは大家と店子の関係ではなく、パートナーシップを結んでいると認識しています。 事業展開のすべてが 赤レンガ倉庫のために
村澤 海外での視察で受けた感銘を持ち込むのはわるくはありません。私どもも海外の商業施設をたくさん視察しました。問題はそれをそのままトレースするのではなく、自分のフィルターを通すことが必要です。 私は商業開発のプロとしてではなく、ひとりの客として何が楽しいのかを突き詰めていきました。気をつけたのは、既成概念や成功体験を捨て去ることです。これらがオリのように堆積されてしまうと、こういうものだからと決めつけてかかってしまい、どこかにあるんじゃないかなと思われるものになってしまう。
村澤 かつて私はベルギーのブルージュという町に研修旅行に行きました。そこは毛織物で繁栄したところで、赤レンガ造りの建物がたくさん残っている。驚いたことに、これらは観光資源になっているだけでなく、いまも住宅やSCとして使用されているのです。古い建物ですから、幾度となく修復の手がかけられていますが、その折に修復した年をプレートに記して掲示しています。 彼らは毛織物で富が集まったという時代の記憶を残しているんだな、言い換えれば、彼らのアイデンティティをここに埋め込んでいるんだな、と感じたことを、今回のプロジェクトに携わるときに思い出しました。 けっしてつくりものではない、いまの時代に歴史の重みを伝える赤レンガ倉庫それ自体が“オンリーワン”です。ここにしかない赤レンガ倉庫を最大限に活かす方策は何か、そのためのコンセプトは、施設構成は……。すべてのことが赤レンガ倉庫を出発点としているのです。
村澤 本当の意味での吸引力、固有の差別化要因として「ここだけにしかない気分」を提供しようと考えました。その気分をつくりだすために用いたのが「ゾーンスクリプト」という手法です。 お客さまにどのような気分を提供するのかを、フロアごとにシナリオにまとめて提示するのです。たとえば1階入口は「ハマの、赤レンガの思い出を大切な人に。」であり、2階は「あなたのテイストをパサージュで見つけてみませんか“字列」です。テナントさんには、このシナリオにはどのような店づくりや商品構成がふさわしいのか、ゾーンスクリプトの範囲内で自由に考えを巡らしていただきました。言葉で綴られていることがかえって想像力をかきたてるのです。 ゾーンスクリプトという手法を使うことでテナントさんの店づくりを誘導し、個性的ではあるけれども、赤レンガ倉庫にふさわしい店舗で構成することができました。 本物の価値をもった 固有のテナントを揃える
村澤 テナントリーシングにあたっては、全国ブランドだからという判断基準はもちあわせていません。本物の価値を提供してくださるテナントさんを誘致したいという気持ちでした。揺るぎないコンセプトに基づくわれわれの価値観と照らし合わせながら、出店を希望されたお店を一軒一軒、丹念に視察して回りました。こだわりがありますから、テナントリーシングには多くの時間を要しました。 私が視察するときに注意を払ったのは、どのようなお客さまが来ていて、店内ではどのような顔をされて、どんな会話を交わしながら買い物や食事を楽しんでいらっしゃるのかという点。また、店づくりのあり方から透けて見えてくる経営者の考え方、MD開発力を見逃さないようにしました。
村澤 特に2階のフロアは、先ほどのスクリプトにもあるように、お客さまに生活シーンを提案したいと考えて誘致を図りました。賃料を考えれば、ファッション衣料を導入すべきかもしれませんが、デパートや駅ビルと同じ商品を提供しても仕方ありませんし、そもそも赤レンガ倉庫の気分にはそぐわないと感じました。
村澤 ダイニング&バー「モーション・ブルー・ヨコハマ」は、TRIVEというコンセプトを象徴するところです。ブルーノート東京さんにプランニングサポートしていただき、新しい音楽文化を発信していきます。 ダイニングレストラン「ビアネクスト」には、お客さまを3階にポンプアップする役目を期待しています。「赤レンガ倉庫の記憶」を感じていただけるような場とすることが狙いです。 コンセプトを踏みはずさず 時代の流れとともに変化
村澤 まさしくそのとおりです。観光客と東京を含めた地域のお客さまの利用を棲み分けし、両立を図ることは非常に重要だと考えています。 そのなかで歴史資産を切り売りするようなことだけは、絶対に回避しなければならないと肝に命じています。横浜赤レンガ倉庫の名を冠した土産品を販売するのはもってのほかです。これをやってしまうと、一時的には売れるかもしれませんが、「ここだけにしかない気分」という価値を持続できなくなり、アイデンティティを失うはめになります。目先の利益ばかりを考えて、資産が目減りするようなことは絶対にしてはいけない。 古い本物の倉庫を活かす、そのたたずまいを大切にすることは必要です。しかし、それだけで終わらせてしまえば単なる懐古趣味にすぎません。創建当時の赤レンガ倉庫の先進性を受け継いで、そこに新しい情報を発信するという付加価値を付けないと一過性で終わってしまう危険性があります。
村澤 オープンしたばかりで棲み分けの判断はむずかしいですが、午後5時を境に客層が一変します。5時まではファミリー客や観光客でにぎわいますが、5時以降は年代を問わずカップルがたいへん多くなる。夜間はナトリウム灯のオレンジの光にライトアップされて、とてもムードのある雰囲気になります。私どもは夜のシーンをとても大切にしたいと考えています。夜の時間を大切な人と過ごしたい、そういう人たちが集まるような場所であればいいと。
村澤 ターゲットは「こだわりを持った好奇心旺盛な横浜のオトナたち」です。何か流行っているから行ってみようというのではなく、ここに来ると気分がいいからとか、ここにはこだわりがあるからといったふうに思っていただく人に、特に来ていただきたい。
村澤 何度も足を運んでいただくには、そこが気持ちいい場所でなければならないと思います。耳をそばだてて歩いていると、館内から外へ出た瞬間の開放感に小さな歓声を上げている方がいる。あるいはライトアップされた建物などを見ながら「いい雰囲気ね」といった声が聞こえてくる。こうした感動を大切にしていきたい。
村澤 行ってみたら、赤レンガにふさわしいイベントをやっていて楽しかった、という程度でいいと思っています。イベントは来場の動機ではなく、あくまでも建物やここの雰囲気を引き立てるもの。お客さまの背中をちょっと押す程度の仕掛けで十分です。
村澤 私どもは商業デベロッパーとしては素人であると認識しています。ですが、そのことを“負”としてしまわず、逆にお客さまの視点でものごとを考え、商業施設をつくりました。今後もプロの方に追いつこうとは思いません。 しかし、自分たちだけで考えることには限界があります。ですから足りないところは外部から注入しました。また、次の展開を動かす原動力となる“旬”の情報は外部からもたらされるものです。社員はなるべく少なくし、スリム化させているのも“旬”の情報を得るためです。 外部からの空気にふれることによって時代の流れ、変化に対応できると思っています。自己過信に陥って内部がよどまないように、外部からの時代の空気をどんどん吸い込み、一方で創業の思いを揺るがせることなく、これからも事業展開をしていくつもりです。
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