トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言
 
着実な歩みで"黒字転換"果たし、グループの一翼担う21世紀へ
不況下にあって着実な成長を遂げた"強さ"とは
 
logo2.gif 株式会社 京急百貨店 取締役社長 神田 捷夫氏
聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
  電鉄系デパートとしては、後発の百貨店参入となった京急百貨店―。同店は、1996(平成8)年に開店して以来、売上げが今年4月で54か月連続前年をクリアするなど画期的な記録を更新中である。また、2002年3月期決算では、見事、営業利益・経常利益の黒字化を果たすなど、着実に成長を続けている。創業にあたり、百貨店をはじめとしたさまざまな流通業出身者の混成部隊で運営されてきたが、ここにきて京急百貨店らしさも力強さをましてきた。  21世紀の厳しい経営環境を舵取りする神田社長に、開店以来今日までの業績好調要因、次なる一手などについて尋ねてみた。
 
 
“生活者本位制百貨店”
―売上げ54か月連続増収
顧客ニーズをかなえる
地域密着の展開に根強い支持

 
−上大岡に京急百貨店がオープンして今年で6年目に入りました。この間、バブル崩壊以降長引く消費不況のなか、百貨店業界は、苦戦を強いられてきましたが、御社は、今年4月まで売上げを54か月間連続して前年をクリアするなど素晴らしい業績を上げています。開店以来、好調に推移してこられた要因は、どういったところにあったとみているのでしょうか。
 
神田氏 神田 おっしゃるとおり、客単価が伸びないデフレ経済の下で売上げを確保し伸ばしていくのは難しいことです。が、絶えず客数を増すことが肝要なので、そうした努力を意識的に重ねてきました。
 
 当店は、郊外の駅ビルとして立地しており、地域密着型の百貨店として、子どもからご年配の方まで三世代の方々に喜んでいただける品揃えを目指してきたことがよかったと思っています。
 また、多面的なニーズが年ごとに発生しますので、京急グループを挙げてそれに応えていくという全体的な視野と発想で、拠点づくりを行なってきたことが商圏のお客さまから支持されてきたといえます。
 
 もうひとつは、当社の幹部社員は発足以来、数多くの流通企業から来られた方々で構成され、リーダーシップを執ってきたという特徴があります。
 開店5年と、当社は若い企業ですが、上層部には百貨店各社からのベテラン層がおり、現場には新しく入ったフレッシュ層、そしてその中間の3層に分かれています。それぞれ専門をもっていますので力を発揮してもらい、なおかつ、それをまとめ上げることによって「勝つ」という経験がとても重要です。これらが相まって順調に成長してこられた要因だと思っています。
 
−ヒト・モノ・立地・グループの対応など、成功要因を挙げていただきましたが、人的なユニークさでは“ハイブリッド化による魅力”も散見され、京急百貨店の強さにもつながっている。そう説明がつきそうですが…。
 
神田 そういう側面は、確かにあります。創業時に、百貨店各社から選りすぐった人材の混成部隊でスタートし、いい意味で刺激し合い、自己研鑚する習慣がついています。そうした個性を活かしながら、一方でチームワークのある集団として強化するためにも営業本部を設け、束ねて強い組織にしてきました。  さらに、勝ち続けることによって、働く人たちだけでなく地元のお客さまも含めた大きな一体感が生まれていると感じています。売上げの か月連続増収は、当社ならではのハイブリッドなチームワークづくりの賜物といってもよいかもしれません。
 
  
−昨年の年商から分析すると、お店は1m2当たり93.9万円、月坪約25万円という売上げ効率です。主要都市に立地する百貨店の平均効率ですが。
 
神田 当社の売場面積は4万2000m2ですが、平成11年に出店したヨドバシカメラの売場面積が4000m2ですので、実質は3万8000m2ということになります。昨年売上げが約394億円(105・3%)ですから、1m2当たり100万円を超えています(1m2当たり103・8万円の計算)。
 
−そうですね。話が前後しますが、平成11 年に百貨店のテナントとしては意表をつくヨドバシカメラを8階に入れました。その理由は…。
 
神田 当社が掲げているコンセプトは、第一に「生活者本位制百貨店」です。第二に「ニューデパートメントストア」です。そして第三に心のこもったサービスを提供する「ハートフルデパート」です。第二の「ニューデパートメントストア」の考えとは、生活者のニーズを常に探求し既成概念にこだわらず新しい百貨店を目指すことです。例えば都心にあるブティックラインや呉服などはダウンサイジングして、一方で横浜の郊外という市場に合う商品を提供していくことなのです。
 
 とりわけ生活者本位ということを考えますと、お客さまがどのような志向とニーズをもっているかが重要になります。ヨドバシカメラさんに入居いただいた背景には、健康志向、美容志向の高まりや、一方でパソコンや家電へのニーズが強くありました。そこで、生活者本位の百貨店として、このラインを強化することによって、お客さまのニーズを満たせるのではないか、と考えたのです。
 
−京急百貨店は、その後お話にありましたように地域密着型の百貨店としての考えを強め、求められるMD部分を埋めていった。今日、百貨店で大事な点は、スーパーブランドを置くことではなく、お客さまの要望をどれだけかなえることができるかです。つまり“ソリューション提供の時代”ですから、そういう意味では、コンセプトに立ち戻った対応といえますね。
 
神田 生活者本位を大事にする考えで百貨店づくりをしていますから、そのとおりです。  私どもの店は、駅上郊外型百貨店ですからデイリー性のある生鮮食品について、毎日来ていただいても喜んでいただけるものを提供しなければならないという考えでいます。
 
−“百貨店はローカル産業”です。御社が、オープン前からネットワークをつくり、地域の生活者の声を店づくりに生かしてきたこと。また、顧客本位のポイントカード対応等も今日の成功に導いた要因と思われますが。
 
神田 はい。開店前からの「ハートネットワーク」は、約3000人に達しました。その後、この一部の方々が「友の会」にご入会いただき、今では1万6000人の会員が集まりました。「友の会」ではサークル活動的に趣味講座なども開講し、絵や花の展覧会を開くなど、地元と一体となった活動をしています。
 
 ポイントカードは、ポイントが通常の2倍、10%になる「ポイントアップ」が年に数回実施されるなど好評をいただいており、いまのところ40万強の口座を維持しています。こうした顧客との関係づくりを通じ、地域の百貨店としては、良好に推移していると思っています。
 
 
96年にオープンした京急百貨店。京急線・上大岡駅の駅ビル百貨店であり、横浜郊外に位置する地域百貨店でもある 5階こども服フロア・赤のエスカレータ脇には、遊具を置き自由に遊べるフリースペースをもった「キッズパーク」が設けられている。

 
 
平成14年の方針は
「人のブランド化」
お客さまが購買ストーリーを
描ける百貨店に

 
−バブル崩壊後、百貨店の収益性が問題になりました。その意味で構造改革は、避けて通れないのですが、利益構造のあり方について社長は、どうお考えですか。
 
神田 時価会計の導入に伴い、企業にとっては人件費をいかに効率的に抑えるか、またキャッシュフローをどう高めるかが経営課題となっています。その点からいうと、構成比の高い当店の食品は、利益率は低い。しかし人件費率は低くてキャッシュフローがきわめて高い性質があり、新しい収益グループとして考えています。
 
 売り場面積のうちの前述した4000m2について、テナントから家賃収入があり、これは営業収益としてフィックスされます。厳しい経済状況のなかでも確実な利益を上げることができるわけです。
 要は、粗利益の捉え方だと思います。私どもの場合、家賃のように確実な数値もすべて利益と捉えていますので、ビジネスとして悪くありません。また他店に比べて社員の年齢層が若いということなどもあって人件費率も低い。つまり当社は、顔は百貨店ですが、身体機能は従来の百貨店とまるで違う進化した新しい形態のものです。
 
 
−神田社長は平成14年の政策として、「人のブランド化」を掲げていますが、サービス強化により消費不況を乗り切っていく方針ですね。
 
神田 ブランドという見えない資産をヒトでどう構築していくかが、これからのテーマだと思っています。そのツールがサービスです。
 サービスというのは、大きく分類すると4つあります。セルフサービス、サポートサービス、コンサルティングサービス、そして得意先サービスです。このなかで、「セルフ」と「サポート」という2つのサービスを、今後どのようにお客さまに提供していくかがポイントになります。
 
 セルフというのはPOPにせよ、ディスプレイにせよ、お店の中にストーリー性があったり、ご来店されたときに嬉さを感じたり楽しくなったりするようなものがあれば、そのなかでお客さまは満足されます。では、サポートについてはどうしたらいいのかというと、まずお客さまに対してきちんと目が行き届いているという必要があります。そこで前述の組織改正(営業本部の新設等)で、商品ごとのタテ割りを止め、フロアマネージャー制を導入しました。これは、お客さまの目線に則して、ヨコから見てサービスを強化することを目指し、何をサポートすべきかを判断できるようにしました。
 
 もうひとつの手法として、小マネジメント集団を数多くつくって対応しています。入社後早ければ4〜5年でマネージャーになり、フロアマネージャー6名の下に65名のセールスマネージャー・バイヤーがいるという組織です。マネジメントのできる人たちがそれだけ多くいれば、サポートサービスにも厚みが増してくるはずです。
 
−「サポートサービス」というのは、お客さまから商品等について尋ねられたら答えるというスタンスのサービスを指すのですか。
 
神田 尋ねられる前に、お客さまの目の動きや、販売員を探している様子などが見えます。それに応えるのがサポートサービスです。
 
 当社には、ハートフルサービスの維持向上を目指して、「CSパートナー」という業務に就いている社員もいます。ご来店いただいたお客さまが楽しんでいただける「おもてなし」と快適さを提供できるような「接客サービス」を心がけており、お年寄りや障害のあるお客さまのお買物相談、お手伝いおよび介添えや迷子・急患の対応なども行なっております。「ヒトに対する」よりきめ細かなサポートサービスとして努めております。
 
−高齢化社会ですから、そうしたサービスはますます大事になりますね。
 
神田 特に私どもの百貨店は、親子三代にわたるお客さまにおいでいただいており、交通も便利なことから、さまざまなお客さまがいらっしゃいます。ですから、サポートサービスの充実は非常に重要と思っています。
 
 また私は、購買ストーリーが描ける店づくりを考えています。例えば平日に仕事を終えてご来店された男性が、ヨドバシカメラに行こうと思ってフロアを上がっていくと、5階の子ども服売場にあるキッズパークが目に入り、「そうだ、土曜日にみんなで来たら、子どもをここで遊ばせておけばいい」と思う。次に紳士服売場ではワイシャツとネクタイに目が止まり、「かみさんと一緒にこれを買いに来よう」と考える。そしてパソコン関連用品などを買って帰るわけです。 
 こういうストーリーというものを、お客さまは必ず自分のなかに描いています。それで、休みの日にご家族でお出かけになりお買い物をされて、「今日は楽しかったね」と言えるのが、百貨店の本来のあり方だと思うのです。
 
 ところがあまりに限定した専門店に突出すると、己だけの買い物をすることになり、こうしたストーリーが出てきません。家に帰っても話題性がまったく広がりません。「京急」の名前すら出てこないでしょう。それでは、百貨店ではないのです。
 
 
(左)●3階「婦人服・婦人雑貨」売場。上大岡駅の改札口正面に入口があり、通路を広くとった大きなエントランス空間となっている
(中)●4階の駐車場入出庫ロビー。出庫を待つ間のウエイティングスペースで、地域の人たちの作品を展示する「ハートフルギャラリー」もあり、地域の人たちとのつながりを大切にする姿勢がうかがえる
(右)●地階の食品売場には、地域密着型百貨店にふさわしく「三浦半島直送鮮魚」や「契約農家直送三浦野菜」のコーナーもある

 
 
来秋「上大岡B地区開発」が竣工
“生活者本位制”新百貨店
としてさらなる飛躍を目指す

 
−神田社長が次に取り組まれたいこととしては、何がありますか。
 
神田 百貨店としては西武、高島屋に次いで3番目にISO14001の認証を取得しましたので、今後は環境会計も出していき、それを地域にもアピールしていく考えです。私どもは若い百貨店ですが、グローバルな標準に沿って、きちんと環境マネジメントができる人材がいます。そのマネジメント・フォーメーションを、百貨店経営のなかに生かしたいと思います。
 
−「環境方針」を拝見しますと、横浜・上大岡に立地する店として、地域の環境に対する負担をできる限り少なくするように努め、地球環境に配慮した事業活動を行なうと表明されています。地域に根ざした店づくりを目指す京急百貨店らしく大変ユニークですね。
 2003年秋には、「上大岡B地区再開発」でさらに地域が活性化されます。住宅を背負っての大きな開発です。京急百貨店とも地下で繋がる計画で、プラス材料がまた増えますね。
 
神田 地下1階、地上30階の再開発ビルができます。そのうち4階までが商業ゾーンで、京急グループや地元の方々などの店が入り、5階から30階までは、分譲住宅という構成と聞いております。ですから、おっしゃるとおり、百貨店のお客さまとしての対象は増えてまいります。
 
−オープンして6年目というのは、車でいえばまだ新車ですが、お店のリニューアルについてはどうお考えですか。
 
神田 当社は、「多面体百貨店」も標榜していますので、常にアンテナを高くしてお客さまの要望に応えてまいります。売場が固定してしまわないよう絶えず変化を心がけ、お客さまの要望に合わせながら、的確な投資やリニューアルを行ない進化しつづけてまいります。
 
−本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
 
 
 
齋藤秀樹の提言
 
「新世代百貨店― 21世紀の提言」で毎回こだわっている点は、“顧客接点の変化とその対応”である。以前、百貨店のお客様は、買うことに喜びを感じる「買い手」だった。しかし、バブル消費の洗礼を経た今日のお客様は、商品を使いこなすことに喜びを感じる「使い手」に進化している。そうした変化の中で百貨店各社は、どのような手立てで顧客満足を叶えてやろうとしているのだろうか、という点だ。
 
京急百貨店は、その対応として今期から「“人のブランド化”構築による顧客創造」(神田社長)に挑む。同社がそこに至ったのは、二つの背景が考えられる。ひとつは“お客さんは店に付き、次に人(の魅力)に付く”からで、「京急百貨店に行ったら“あの店長”に逢って行こう。あの店長がいるから京急百貨店が好き、とお客さんにいわれるようになって欲しい」と水際作戦強化に託す。
 
もうひとつは、パイが拡大しない百貨店市場の事情も作用している。つまり、商勢圏を奪い合う従来型の市場シェア競争には限界が出始めており、それより自店を贔屓にしてくれる顧客を大事にし、絆を太くしさらに掘り下げていくこと(=お客様の生涯顧客化”)の方に歩があると見ているからだ。その為、今回目指す“顔の見える商売”とは、その意味で“小売の原点志向”であると同時に、低成長成熟社会には不可欠な“ワントゥワン・マーケティングの実践”に相通じるものがある。

 

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