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■トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言 東急百貨店「フードショー」成功の秘密 “一人称”による挑戦が奏功 出席者名/ (株)東急百貨店 第一商品部 リモデル推進担当部長 新関 隆氏 (株)東急百貨店 東横店 営業部 食料品第一 統括マネージャー 樋口 武久氏 聞き手/ (株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹
「食のテーマパーク」目指し、 バブル崩壊後、厳しい経営環境のもと百貨店業界にあって唯一元気がよく、他の業態を凌駕しているのが"デパ地下"といわれる「食料品売場」だ。ここ数年、消費の二極化や中食の高まりに対応し、こだわり商品の展開や惣菜の品揃えが一段と充実強化されているからである。 「新世代百貨店 21世紀の提言」では、この・デパ地下・優位に先鞭をつけ、オープン後1年を経過して今なおエキサイトしている東急百貨店の「フードショー」に焦点を当て、その秘密を探ってみた。 今回ご登場いただいたお二人のゲストは、「フードショー」立ち上げの最初から関わり、見事に成し遂げたコンビである。このプロジェクトの推進役として苦労された本部リモデル推進担当部長の新関隆氏と、コンセプトを考え抜いて遂に実現し、現在も売場の責任者を任されている東横店食料品第一統括マネージャーの樋口武久氏である。 エキサイティングな 食品売場 「フードショー」
樋口 2000年の4月7日です。その後、今年に入って9月27日には2度めのリニューアルを行なっています。 新関 その間、東横店を皮切りに吉祥寺店、町田店、札幌店、長野東急百貨店の各食品売場を、同じく「フードショー」というコンセプトで改装を終えています。「フードショー」が目指したものは、お客さまに「出来たて、揚げたて、焼きたて」というライブ感、エンターテインメント性が伝わる食品売場にしたいという考えがベースにあり、生まれたネーミングです。
樋口 1999年2月に本社内に「リモデル準備室」が正式発足しました。ですから、1年2か月の期間で準備してオープンに至ったということになります。東横店の地下売場は50年の歴史をもつ「東横のれん街」というブランドが確立した老舗の専門店街ですが、同じフロアで営業していた食品売場は、お客さまにとってきわめて印象の薄いものでした。しかし、食品売場の真上は渋谷のハチ公前で、わが国でも有数の商業立地です。その優位性を活かして、「東横のれん街」と棲み分けをしながら、新しい食品売場ができないかということで取組みがスタートしました。 新関 「フードショー」にリニューアルする前の東横店の食品売場は、年間120億円という売上げでした。駅のターミナル性という利便性からお客さまに来ていただき、ある程度売れていたわけですが、都内百貨店の食品売場の効率からいうと低いものでした。食品売場の改装は投資額もかかるし、取引先との長い間のお付き合いによるいろいろな関係もあります。そこでなかなか改善できない面があり、アンタッチャブルな部分も少しあったのかもしれません。ストレートに言えば、地の利、利便性だけで長い間やってきたというのが実態でした。
新関 樋口が新しい食品売場を考えるのと並行して、「フードショー」全体のフレームを固めるため、お客さまが百貨店にどういうものを求めているのか、また今までの売場で何が足りないのかということを調査しました。お客さまへの聞き取り調査も1000件ほど実施しましたし、外部コンサルタントにニュートラルな立場で売場を評価してもらいました。その結果、東横店の食品売場は「商品は豊富だが高級感がない」「テーマ性がない」「感動的な商品がない」など、いくつかの問題点を指摘されました。なかでも、生鮮三品、菓子、デイリーの3つの分野がきわめて問題でした。都内百貨店の売上平均では、生鮮三品は25%程度のシェアですが、東横店は20%に達していなかった。和洋菓子は平均27%に対して20%弱、デイリーは平均10%に対して7%だったのです。苦情やさまざまな指摘もここに集中していることも、データから読み取りました。さらに精肉、鮮魚、野菜の各売場が分散して、商品の関係性もない。また面積のバランスも適正とはいえませんでした。通路も狭く、長い間に統一感のないパッチワーク的な店になっていました。そのうえ、売場面積も930坪とかなり狭いものでした。そこで、同じフロアの一部にあった衣料品売場を廃して、ワンフロアをすべて食品にして計1255坪に広げたわけです。 リモデルの テーマは 「同質化からの脱却」
樋口 まず、関西まで含めた同業他社の店舗を調査しました。最初はいろいろ感動するところもあったのですが、ある程度見ていくうちに「どこも同じだ」と感じるようになってきました。デパートが陳腐化している原因の一つに、"同質化"という面があると実感したわけです。どこかの店でひとつ流行するとみんな同じようなものをつくろうとする。しかし、流行しているものを真似すれば、その時がピークで後は下降するだけということになります。ですから当社としては、「同質化からの脱却」をテーマにしてリモデルを進めることにしたのです。そうすると考えることが楽になるし、これまで百貨店に出ていないブランドを発掘して積極的に導入することもできます。そういう発想のもとに、図面も白紙から組み立てることができました。担当スタッフも最初は私一人でスタートし、直属の上司である新関と相談して進めました。きわめて少人数で取り組んだことで、かなり思い切ったことが可能になったといえます。人数が多くなると、結局・多数決の法則・で平均的なものになってしまうのではないでしょうか。 たとえば「フードショー」に出店していただき話題になったベトナム料理の「サイゴン」さんも、日比谷で最も人気がある店という実績はあるものの百貨店での展開ノウハウはなかった。またジェラートの「パリヤ」さんも、普通の路面店ですから百貨店に出店するのはきわめて大きな冒険だったと思います。多数決の法則では、そういう店を探して入居してもらうことはむずかしかったかもしれません。 リモデルの企画がスタートして半年ほど後にマネージャーたちに原形の案を説明する機会がありましたが、最初は「何を夢みたいなことを考えているんだ」とブーイングの嵐でした。しかし、そのように非難されたプランを、現在は同業他社さんが真似をしているわけです。この「食」の世界は、それだけ時代の変化が速く、真似られるということです。 新関 社内説得に苦労したことは確かです。また、これまでお付き合いがあった取引先に、縮小なり退去してもらうという辛い面もありました。
新関 原石である新しいブランドやお店を探してきて、ここで輝いてもらう。また、「クイーン・アリス」さんなど、これまで百貨店に出るなんて考えられなかった有名シェフで、その店に来てもらうという発想も新しいものでした。 樋口 図面も何十通りも描きましたし、これまで入っていたお取引先の3倍以上のお店で話をうかがって売場のリモデルの案を組み立てました。途中ではいろいろ悩んで考えましたから、最後に案が固まったときは「これでいくしかない」という自信がありました。あれだけの立地で相当のお金をかけてやる以上、最高の売場をつくりたい。そこで、"食のテーマパーク"となる新しいエンターテインメント性をもった、楽しくて話題性ある売場をつくるということが基本になったのです。MDプランには4つの柱があり、「東横店ならではの情報発信拠点」「顧客ニーズに応えられる提案と商品」「お客さまに楽しんでもらえる売場」「明確なゾーンMDで売上げの大幅アップができる仕組みづくり」を目指しました。
百貨店食品売場に 求められるのは 絶え間ない「進化」
新関 全部で23店舗です。そのなかでも「クイーン・アリス」さんは、HMR(ホーム・ミール・リプレイスメント)という業態で、オープンキッチンを使ったエンターテインメント性が特徴です。しかも、プロの味をそのまま家庭に持ち帰って食べられるし、またイートインということでその場でも食べられます。「クイーン・アリス」というお店はお客さまがよくご存知で、それを百貨店の食品売場のイートインで提供するということから、やはりインパクトがありましたね。
樋口 そうですね。働く女性がこれだけ増加していますから、買って帰り、そのまま食べられる出来たての惣菜の強化は大きなテーマでした。従来、東横店には厨房設備がなかったので、南館の地下2階の会議室や社員休憩室をつぶして惣菜専門の共同厨房をつくりました。しかし、見えないところでつくっても出来たてかどうか伝わらない。そこで、下ごしらえしたものをお客さまの目の前で最終仕上げをしようということで、店内厨房を随所に配置しました。調理する場をお見せしながら、出来たてを販売するというスタイルです。 新関 また、洋菓子の売場が充実したことでも人気を呼んでいます。恵比寿や代官山、青山、広尾など、周辺地区に素晴らしい洋菓子店が多いので、これまで「渋谷で洋菓子は売れない」という固定観念がありました。しかし、パティシィエが実際につくっているお店をはじめ、十数店を集積させたことで、来店されたお客さまに「たいへん素晴らしい」とお誉めいただいています。
新関 食品売場で大事なのはバランスと明確なゾーンMDだと思います。かつて120億円だった旧食品売場の売上げが、今年は200億円近くいくと思います。 樋口 1年目は増床という効果もあり、対前年比で約150%という成績です。以前がよくなかったわけですから1年目は売れて当たり前というところがあります。昨春オープンして、しばらく開業景気が続いていましたが、秋ごろに一旦お客さまの動きが落ち着いたときがありました。今は、どの商業施設でも線香花火的に人気の浮沈ということがありますから、人気を持続できるかどうか不安はありました。しかし、洋菓子売場の充実ということがあって、クリスマスから大ブレイクしました。その後、バレンタインデーなどでさらにお客さまがふえ、2年目に入っても増加しつづけています。 私どもがお客さまに求められているのは「進化」だと思います。流行を追うのではなく、究極はお客さまの期待感と潜在的欲望を形にしていくのが一番の仕事だと思います。
樋口 私自身、リモデルに取り組んだのは初めてですし、「フードショー」でも未完成の部分が相当あったと思います。もう一度、最初から任されたら同じことはやらないだろうという気もします。時代も変わっていますし、自分のなかで甘かった、青かったと思う部分がいくつもあります。現場でこの一年間運営をやらせてもらいましたが、それが改装のプランを練る以上の大きな財産になっています。感度のいいお客さまが目に見えますし、いろいろなイベントでその反応を確かめられるということで、ここは日本一の実験教室になっていると思います。
樋口 「成城石井」さんは本来ならフルラインで出店されるのですが、東横店ではお酒もなし、生鮮もなしという異例の形態です。いわゆるグロッサリーに特化して出店いただきました。チーズや輸入食材、製菓材料、輸入菓子など商品に奥の深さがあります。チョコレートでも100種類くらい置いていて、他の惣菜などを買いに来た方でもちょっと寄ってみたくなる楽しさがあります。それによって来店動機が大きく広がる。そういう意味では「フードショー」のイメージにぴったりの品揃えですし、顧客満足が高いお店になっています。
渋谷本店では ワンランク上の食品フロアを計画
新関 改装して、多くのお客さまから「毎日来たいお店になった」と言われた時が一番うれしかったですね。企画して運営を担当する樋口をはじめ売場の人々の"気"が、売場のすみずみまで行きわたっているということを感じます。
新関 そうです。「フードショー」というコンセプトがきちんと確立していますから、それぞれの店が立地・競争条件にあわせて再構成しましたが、いずれも改装後の売上げは伸びています。ですから、考え方をきちんと固めるということが大事だと思います。
樋口 同じ「フードショー」とはいえ、それぞれの百貨店にはエリア戦略があり、入店するショップも異なります。たとえば吉祥寺店は、ターミナル立地ではないので主婦の方が多い。そこで生鮮やグロッサリーを強化し、一般のファミリー層向けのメニューを提案していくということで切り口を変えています。また、エリア戦略として地元の店を数多く導入したりしています。
新関 本店は他の店とは位置づけが違います。ターミナル立地でもないし、郊外立地でもない。しかも近接する東横店で「フードショー」として“にぎわい”を創出していますから、同じネーミングを使った展開はできません。本店については現在、フードショーを超えた東急本店ならではの食品フロアの展開方法を検討しており、2002年3月上旬にオープンする予定です。
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