トーク * 特別対談
アメリカの最新流通事情から何を学ぶか

(社)日本ショッピングセンター協会 会長 (株)ルミネ 取締役会長 岩崎 雄一氏
(株)丹青社 営業開発室 プランニング&プロデュース部 部長 チーフディレクター 松本 大地
 
「物の売り方」を重視した
"業態"への転換を
早急に進めるべきだ


 
ICSCのリーシングモールは
年々盛況に

 
松本 岩崎会長は今年5月下旬、アメリカ・ラスベガスで開催されたICSC(国際ショッピングセンター協会)の「2001年スプリングコンベンション」に、日本ショッピングセンター(SC)協会から団長として参加されましたが、まずその感想からお聞かせ願いますか。
 
岩崎 このところ毎年、ICSCのコンベンションに参加しているのですが、年々盛んになってきていますね。それをみると、やはり「小売業は情報産業だな」と感じます。最先端の情報・ノウハウを求めて人は集まってくるのですね。
 
松本 特に最大のイベントであったリーシングモールには、2年前に比べて50%以上も出展者がふえてウエイティング企業も相当数あったということで、かなりの大盛況でしたね。やはりアメリカでは、広大な国土に多くのテナント企業が点在しているため、一堂に会して情報交流する意味が大きいのでしょうか。
 
岩崎 おっしゃるように、ICSCのコンベンションで最大の呼び物がリーシングモールで、そこでは実際にデベロッパーとテナント企業の間で具体的な商談が行なわれるのです。その意味では実に便利な機会です。したがって、ICSCの総会ということと同時にビジネス的な意義が大きいのです。
 
松本 双方向のコミュニケートで商談ができるわけですね。日本からもJR東日本さんやダイヤモンドシティさんなど、いくつかのデベロッパーがブース参加していましたが、専門店企業においてももっと積極的に参加してもよいのではないかと感じますね。
 
岩崎氏 岩崎 日本の流通業者は、欧米の売れ筋商品で日本に持ってこられるものはないかという視点が精々で大部分は日本における次の流行は何かをアメリカの現状から探ろうという情報収集が主な目的のようです。日本の商品をアメリカ市場に売り込もうという意気込みがあってもよいと思いますね。
 昨今叫ばれている"流通のグローバル化"も、海外企業が日本に進出するという一方通行的なグローバル化なんです。日本のGMS(総合スーパー)で東南アジア等に進出している例はありますが、専門店ではいまだその数は限られています。もっと日本発の国際商品が海外へ出て行くべきなんでしょうね。近く、ユニクロが海外進出されるというのは、日本の流通業界としても大きいわけです。
 日本ショッピングセンター協会でも昨年からSC全国大会のなかで小規模なリーシングモールを設けていますが、今後は日本国内だけでなくアジアに向けてリーシングモールを拡充していきたいと思っています。
 
アメリカの
流通業界は
人的サービスに回帰

 
松本 今回の視察団には私も同行させていただき、岩崎会長とともにラスベガスやニューヨークの商業施設を見て回ったのですが、アメリカの最新流通事情についてはどのように感じましたか。
 
岩崎 毎年アメリカを定時観測している格好になっていますが、こうしますと、変化の実態がよく見えます。むしろアメリカの人よりもわかるかもしれない。
ニューヨーク五番街のH&Mは低価格とファッション性で相変わらずの人気のようでしたが、今年感じたのは、商品が一年前と殆ど変わっていないこと、接客サービスがひどく雑になったなということです。このままでは、ユニクロが来れば苦戦するでしょう。
H&M
ニューヨーク五番街のセレクトショップ「H&M」
SOHOが年々高級化して周辺のロア・イーストサイドやノリータ、チェルシーなどの地区がかつてのSOHO化しているのも目立つ変化ですが、そのSOHOにジ・アパートメント、サイト、アドホクといった個性的なホームファニシングの店がありました。カンペールの靴屋もなかなかの魅力店です。ロア・イーストサイドでは、ザオウ、セブンといったアパレルのセレクトショップが目に入ってきました。そのほか、ニューヨーク市内では、テーマカフェが増えていたように思います。
 
松本 ラスベガスでも郊外の商業施設を視察されましたが・・・
 
岩崎 面白かったのは、ウォルマートとコストコの価格比較です。ウォルマートでは1個44セントで売っていたチョコレートが、コストコでは36個入りのケースで買うと1個当り31セントで、3割も安いのです。世界最強のバイイングパワーを持つウォルマートよりホールセラーでまとめ買いをすれば、こんなに安くなるということです。コストコは日本にも上陸しましたが、消費者にまとめ買いのスタイルが浸透すれば、こうしたホールセラー業態は日本にも定着するのではないでしょうか。
 
松本 私がウォルマートで感心したのは、たんにディスカウント価格を打ち出すだけでなく、カスタマーサービスにも力を入れていたことです。たとえば店の入口にグリーターがいて、来客と気軽な挨拶を交わし、荷造りを手伝ったり、荷物を車まで運んでくれたりしていました。
 
岩崎 かつてのウォルマートは"安さの追求"が第一だったのですが、やはり「人のサービスが今後の差別化の要素だ」と方針転換したのですね。部分的には対面販売のコーナーもあり、これらの人件費を生み出すために流通経費をいかに削減するかが企業戦略となっているようです。
 
松本 私自身、今年ほどアメリカの流通業界で"人的サービスへの回帰"を感じたことはありませんでした。
 
駅ビルの開発では
アメリカより
日本が先行している

 
松本 松本 流通業界とは少し話がそれるのですが、私はラスベガスのテーマホテルを視察して、昨夏に開業した「アラジン(デザート・パッセージ)」に期待外れの感を抱きました。1999年に「ベラッジオ」などのテーマホテルがオープンしたのをピークに、いまラスベガスのエンターテインメント施設は踊り場に差しかかっているのではないでしょうか。
 
岩崎 1000室以上の客室数をもつホテルは日本には10軒も無いくらいだと思いますが、ラスベガスのホテルは最低でも3000室ときわめて大規模です。しかも、そこにショッピング施設やテーマパーク、カジノ等があって、エンターテインメント性も十分に備わっています。これらのアコモデーションを背景に、街の一角に大規模なコンベンションセンターがあり、今、ラスベガスは世界最大のコンベンションシティです。いまだ成長過程であって、今後ますます発展するだろうと思います。その証拠に人口がどんどん増え、すでに150万人近くになっています。今後は都市機能の整備が必要になってくるでしょうね。
 
松本 まさにアーバンツーリズム、典型的なデスティネーション型のエリアなんですね。  ニューヨークは、さらに治安がよくなって文化都市としての成熟度がますます増してきたと感じたのですが。
 
岩崎 そのとおりですね。数年来、景気もよくて物がたくさん売れることから商業エリアが拡大し、それに伴って健全な地区がふえています。特に42丁目の再開発は素晴らしいですね。日本で言えば銀座のど真ん中を再開発するようなものです。ニューヨークを活性化するためには、まず最大の繁華街であるダウンタウンを活性化させ、都心機能を一段と充実させようという意気込みには感心します。
 
松本 素晴らしい都市プランニングですよね。ニューヨーカーが誇りをもつ施設に生まれ変わったグランドセントラル駅も見逃せませんよね。
 
チェルシーマーケット
ナビスコ工場跡地に開発された
「チェルシーマーケット」の内部
岩崎 かつては、暗い・汚い・危険・くさいという4Kが駅に対するアメリカ人のイメージだったわけです。したがって日本の駅ビルのことを説明してもなかなか理解してもらえない。その意味でグランドセントラル駅のリニューアルは、ニューヨーカーの駅に対するイメージが変わることにもなり、よかったと思います(笑)。
 
松本 重厚で優雅な"顔"としてのグランドセントラル駅の誕生は、日本の駅ビル開発にも参考になる点があるのですか。
 
岩崎 日本の場合、昭和30年代から駅ビル開発がはじまり、昭和46年に国鉄が駅ビルに出資できるようになって活発化してきた経緯があります。したがって駅ビルの開発は、アメリカよりも日本のほうが進んでいると思います。確かに規模の面では小さいかもしれませんが、駅そのものをコミュニティの中心として活用していこうという歴史と実績は、日本のほうが上じゃないかと思います。

リニューアルしたグランドセントラル駅内のカフェ「ダイナー」

 
松本 JRさんの「コスモスプラン」が話題になっていますが。
 
岩崎 コスモスプランは、駅ルネッサンスを目指す、駅の構造的な再開発計画です。旧国鉄債務の償還のため、JRには関連事業用の土地がなくなっていますので、主要駅に人工地盤をつくってでもスペースを確保し、そこに商業施設等を開発するというもので、駅周辺の資産をより有効に活用し駅機能を高度化して行こうという狙いです。
 
松本 駅が街づくりの主軸になる動きですね。さらにコミュニティ機能やエンターティメントの強化も必要になってきますね。
 
岩崎 大事なことだと思います。エンターティメント性はCSを中心に飲食機能やサービス業態、設備サービスなどで総合的にプロデュースしていくものですが、「ルミネtheよしもと」のようなケースもその一環だと考えています。
 
ニューヨークで
元気のよい
ショップはどこか

 
松本 岩崎会長はニューヨークの専門店の事情にも精通しておられますが、今回の視察で興味をもたれたショップをいくつか挙げていただけませんか。
 
岩崎 現在も景気はそう悪くないと思いますが、カジュアルのアパレルの二大勢力であるGAPグループとリミテッドグループがあまり元気がなかったのが気になりました。
 元気のよい専門店は先にも触れましたが、まずアパレルのセレクトショップです。アメリカでは1つのコンセプトのもとにいろんなブランド品を集めて販売するという業態は珍しいのかもしれません。
 個別のブランドではアバクロンピーアンドフィッチ、アンソロポロジー、アーバンアウトフィッターズといったところでしょうか。
 これも先ほど触れましたが、ホームファニシングも活気がありました。この業界は日本ではイマイチなのですが、アメリカでは親戚や友人を招いてホームパーティをやる習慣があることや最近ではIT化の進展で自宅で仕事をする人が増えたことで根強い人気があります。また、高級食材店のイーチーズ、イーライス、ゼイバーズ、ヴィネガーファクトリー、ディーン&デルーカなどが、HMRの波に乗って好調のようでした。 カフェの分野ではテーマカフェのユニバーサルニューズアンドカフェやインターネットカフェが目立ちました。この他、スターバックスのステイタスがかなり高まっていると感じました。都会の若者の1つのスタイルになっています。
 
松本 本当に多彩なショップをご覧になっておられるのですね。
 また岩崎会長は映画通でもあられますが、ちなみにニューヨークを舞台にした映画で最も印象に残っている作品は何でしょうか。私は「ティファニーで朝食を」が最初に思い浮かぶのですが。
 
岩崎 私はジーン・ケリーなどのミュージカルが好きですから、やはり『踊るニューヨーク』ですかね。
 でもニューヨークは、アメリカであってアメリカではない。本当のアメリカはもっとローカルにあると思います。しかしニューヨークが、小売業の最先端都市であることは間違いない。したがって、ニューヨークを定時観測する意味は大きいわけです。
 
買いたくなるような
物の売り方こそが
最も学ぶべき点

 
松本 日本ショッピングセンター協会の会長に昨年就任されたわけですが、今後の流通業界の展望についてお聞かせください。
 
岩崎 日本のSC数は現在2600か所ですが、アメリカには4万4000か所もあります。したがってアメリカのSC業界は飽和状態で、海外進出にドライブがかかっていると同時に、国内ではスクラップ&ビルドが進行しています。そのなかでさまざまな経験を積んでおり、それらが新機軸を生むのだと思います。そこで、私がいつもアメリカ視察の時に注意して見ているのは、「物の売り方」つまり"業態"です。商品が良い・悪いとは別に、顧客が買いたくなるような売り方の研究については、アメリカは一歩も二歩も日本より進んでいます。先ほど述べたアンソロポロジーなどはアパレル店ですが一寸見には何屋なのかわからないトータルイメージで売るわけです。とにかくアメリカの専門店は、どのような売り方をすれば買ってもらえるのかを熱心に研究しており、実際に物が売れているのはそうした革新的なショップなのです。デベロッパーの場合もテナントミックスを業態と捉えれば同じことが言えます。
日本の流通業も、こういった改革の努力がもっと必要です。それなくしてグローバル化の時代に対処することは難しいと思います。
 
 日本ショッピングセンター協会の今後の目標としては、変化の激しい・厳しい時代だけに、人材育成、情報収集、経営計画、サービス問題、公共政策への対応などの課題で、企業単独の能力を超える部分については、積極的に補完し、会員企業を支援することが協会の使命だと心得、それに向って活動をさらに活発化していくつもりです。
 

松本 会報誌も「ショッピングセンター」から「URERU」の刺激的な名前に変わり、そのような岩崎会長のポリシーが反映されていますね。
 
岩崎 協会がいくらノウハウや情報を持っていても仕方ないので、それらを流通業の発展のために積極的に活用していただきたいと願っています。
 
松本 本日は大変ありがとうございました。
 

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