トーク * Design対談
アメリカンデザインビジネスの潮流

HOK(ヘルムース オバタ カッサバゥム インク) 副社長/東京事務所長 棚町 弘志氏
IST(INTERSPACE TIME)代表 牛建 務氏
 
海外の設計プロセスは
フェイズごとに確認して進む


 
公共分野では
10年ほど前から
外国の建築設計事務所を起用

 
牛建 世界的に著名な建築設計事務所であるHOKでも、はじめて、日本で建築デザインの仕事をされる際には、かなりの戸惑いがあったと思います。現状の認識からお聞きかせ下さい。
 
ショッパーズモール泉佐野 棚町 海外の建築設計事務所が日本で仕事をする場合、公共工事と民間建築で状況に違いがあります。
 まず公共工事では約10年前、アメリカ政府が中心になって「日本の建設関係のマーケットを開放してほしい」との要望を出し、それを契機に海外の事務所が日本の市場に参入しはじめました。HOKも日本に事務所を開いて10年になります。
 カルチャーギャップもあって当初は日本の行政も戸惑っていたようですが、現在では、「外国の設計システムも、それはそれでよい」ということを次第に認めはじめています。しかし現実的には、日本の事務所とのジョイントベンチャーという形にすることが多いですね。デザイン的なアイデアは外国の事務所が行ない、それをもとに日本側で実施設計をしていくというスタイルが多くなっています。
 
 ただ日本の場合、公共建築デザインのプロセスは「基本設計」と「実施設計」しかないのですが、外国ではもっと細かく分かれています。アメリカあるいは外国のデザインの方式でも、日本側でデザインのプロセスに合わせてくれることで、次第に理解されるようになってきています。
 アメリカ的な設計のプロセスというのは、まず「コンセプチュアル」な段階でデザイナーが絵を描いてプレゼンテーションを行ない、クライアントの了解を得てから次の段階に進みます。コンセプチュアルが終わったら「スキマチック」、さらに「デザイン・デベロップメント」へと進む。それぞれのフェイズごとに、クライアントのデザイン責任者にプレゼンテーションを行ない、その度にクライアントの責任者からサインをもらいますから、後戻りがないんです。そして、そのつど請求書を出します。
 
 日本のように基本設計と実施設計という大きな括り方をしてしまうと、節目ごとにクライアントとコンタクトし確認していくプロセスがないため、コンセプトを確認しなければならない段階で、いきなり「手すりはどうなってる」といった飛び離れた議論になってしまう場合もあります。
 しかし建築のプロセスというのは、そういうものではありません。大事なのは建築のプロセスをクライアントと一緒に確認していくことです。アメリカ的な設計のプロセスはそれを守っていきます。そうすると後戻りがないし、結果的にお互いが望むものができることになるわけで、非常に安全なプロセスといえます。
 
牛建 そうですね。一見、うるさくて大変だなと思うのですが、各段階で確認をとるということは後戻りがなく、デザイン変更がない。したがって最終的には、非常にスピーディにできるシステムですね。 
 たとえば、アメリカでは配管工事が終わるとその時点で検査が入り、建築確認が下りた図面どおりの工事であるかどうかを厳しくチェックしてから埋めます。アメリカでは検査に携わる検査官も多いし、見回っている行政官の人数も日本の何倍もいます。ですから違法建築もまったくありません。また、日本では突貫工事ということがよくありますが、アメリカでは絶対にありえないことですね。
 
民間建築での
海外デザイナーの進出は
商業施設が先行

 
福岡空港 棚町 公共工事に比べて民間の建築分野への海外デザイナーの進出は遅れています。 しかし、そのなかで商業建築の分野は外国の設計事務所が起用されるケースが多くなってきました。ただし日本の場合、商業建築は本格的な建築物とは見なされていない傾向がありますが、それでも外国のデザインが評価され、理解されてきているのは確かです。
 
 ご存じのように、日本の商業の経営者方々はアメリカの施設をくまなく見て歩いています。そして業態はもちろん、誰が設計したか、建設費はいくらかということまで調べている。しかし、日本の設計事務所やゼネコンに「同じものをつくれ」といってもできません。それこそが、アメリカンデザインのスキルになる訳ですが、そこで、デザインの最初の部分だけでもアメリカの設計事務所に頼もうということが多くなっています。これは、「デザインがビジネスのひとつのツールになる」という認識が、商業施設のデベロッパーに芽生えてきているんじゃないかと思っています。
 
 アメリカの商業施設は80年代から90年代に過当競争を経験しており、その競争に建築家やインテリアデザイナーたちがもまれて淘汰され、その淘汰のなかで「成功する商業施設のデザインとはどうあるべきか」というノウハウが確立されてきています。日本のデベロッパーもそのことを理解して、外国の建築家を雇うようになってきたのでしょうね。
 
牛建 流通業の競争が厳しいアメリカでは、生き残こっていくためにオーナーたちが建築デザインを非常によく勉強していますね。
 私もアメリカで長く仕事をやってから日本に来ましたが、そこで感じるのは文化の違いです。アメリカでは、いいデザインは必ず評価される。一方でデザイン自体は評価されても、売上貢献の評価をされることはありませんでした。しかし、日本ではデザインを素直に評価するのではなく、商業施設であれば売上げによって評価する。売上げが伸びるか否かは、その企業の経営責任に負う割合が大きいはずなのに、それをデザイナーに求めてくる。こういうところはアメリカと日本では大きく違いますね。
 
棚町 数字でいうのはむずかしいのですが、デザインが商業施設の売上げにどれくらい貢献できるのかといえば、デザインのインパクトが強い開業時点でも、たぶん10%くらいではないでしょうか。
 
牛建 それから、日本ではデザインといっても、いろいろなものがごっちゃごちゃになっている。アメリカの場合、たとえば、照明設計はオーナーから別発注という形が多いですよね。専門の照明デザイナーがやれば、それなりのアイデアがあります。アメリカでは、照明だけでもデザイン、イニシャル、ランニング、メンテナンスと全部管理できる会社があります。
 
棚町 アメリカではそれぞれの設計分野に専門家がいて、コラボレーションしながら仕事を進めるケースが多いですね。おっしゃるように商業施設の専門のデザインだけをするデザイン事務所がたくさんあるわけです。 
 日本でも私の関わったプロジェクトで、設計者とは別にグラフィックデザイナー、インテリアデザイナー、照明デザイナーを入れて、コラボレーションしながら仕事を進めたことがあります。クライアントからは「いやに人数が多いな」と言われましたが、口を酸っぱくしてその必要性を強調しました。結果として大成功でした。
 
建築デザインの世界でも
グローバル化が進む

 
牛建 私は今後、HOKのようなアメリカの建築設計事務所がどんどん日本に参入してくると予想していますが、いかがお考えですか。
 
棚町 社会の意識というのはそう簡単には変わりませんし、日本の建築設計のマーケットそのものがやや飽和状態ですので、海外から参入してマーケットを広げるというのは簡単ではないと思います。ただ、牛建さんがおっしゃったように、アメリカの設計事務所の将来性は非常に高いと思います。
 
 そのひとつの理由は、ビジネスあるいは経済のグローバライゼーションということです。それが建築デザインのマーケットにも影響しないはずがない。そういう状況では、日本の設計事務所かアメリカの事務所かに関らず、豊富なノウハウをもち、グローバルに生き延びている設計事務所が必要とされるでしょうね。
 たとえば、私のところでは外資系オフィスのデザインを依頼されることも多いのですが、彼らが日本でオフィスをもつ場合は必ず外国系のデザイナーに頼みます。言葉の問題もありますが、何より自分たちのカルチャーを知っているというのが大きな理由です。
 
 日本ではなかなか理解していただけないのですが、オフィスのインテリアデザインを行なう際、まず最初に「プログラミング」ということが必要です。プログラミングとは、デザイナーがインテリアの絵を描く前に、クライアントが必要としているものは何かを正確に把握する作業です。HOKではそのためのコンサルティンググループがあり、クライアントの方向性・将来性を見極めて、今どうあるべきかをプログラミングし、それからデザイナーに渡すわけです。デザインだけでなく、このプログラミングでもフィーをいただきます。アメリカが好景気の時に、プログラミングだけで事務所の売上げの25%になったこともあります。
 このようにプログラミングをきちんとやらないと、後で「こんなものをつくって失敗した」ということになるので、クライアントもそれをよく理解してくれています。
 
牛建 日本ではなかなか理解されにくいでしょうね。日本のオフィスはいつも“仮り”のものですから、欧米のオフィスの概念とは違うものなのでしょうね。
 欧米人は、オフィスはそこで働く人間にとって快適で働く意欲をもてるような環境でなければならないと思うようです。若い人たちは働くためのいい環境を求めているし、そういう環境をつくることは彼らに夢を与え、社会や経済を活性化することにもつながるのではないでしょうか。  その意味でも、海外のデザイン事務所がもつ住環境に関する意識や豊富なノウハウは、日本でも活かすべきでしょうね。
 
本日はお忙しい中をありがとうございました。
 
棚町氏 棚町 弘志氏
たなまちひろし●世界的建築設計事務所であり、外資系設計事務所の草分けであるHOKの日本代表(副社長)として10年。
「外資独特の」苦労も多かったと思われる。
今回は、建築設計業務における日本の常識と世界の趨勢について語っていただいた。

牛建 務氏
うしだてつとむ●1976年Chaix&Johnson社に入社、一貫して、商業施設のインテリアデザインを手掛ける。
現在、活動の本拠を東京に移して商業以外のデザインにも意欲的に取り組んでいる。今回の対談では「アメリカンデザインビジネスの魅力」に迫っていただいた。
牛建氏

 

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