トーク * 座談会
特集 21世紀型観光系ミュージアムの可能性

出席者/
全国生涯学習まちづくり研究会・企画専門員 まちづくりコーディネーター
 中奥 良則氏
(株)丹青研究所 文化空間研究本部 企画研究部 ディレクター 大木 美枝子
(株)丹青社 公共空間事業部デザイン制作センター プロデューサー 草刈 清人
(株)丹青社 公共空間事業部デザイン制作センター プロデューサー 洪 恒夫
(株)丹青社 公共空間事業部 公共空間営業2部 部長 須見 隆
 
21世紀の地域のグランドデザインは観光系ミュージアムから


 
観光系ミュージアムは地域の宝
 
― いまから10年ほど前にICOM(国際博物館会議)で「観光」という言葉がはじめて取り上げられました。それはきわめて画期的なことだったといえます。大英博物館、ルーブル美術館、メトロポリタンミュージアム、あるいはスミソニアン博物館群にしても、調査研究・収集保存というミュージアム本来の役割を押さえながら、同時にそれが観光に寄与しているというのです。
また、観光立国を標榜するフランスなどのヨーロッパ諸国では、「観光」をキーワードとしているミュージアム行政を進めているようです。  日本でも独立行政法人の検討を経て、博物館=ミュージアムの在り方も大きく変わってきているようですね。

 
大木 かつて日本の博物館の学芸員は「博物館は文化施設である」との意識が強く、観光という視点から博物館を考えることを嫌ったようです。もちろん、今も日本の博物館や美術館は、生涯教育機関としての輝きを失っていません。しかし、ICOMが「博物館は観光に寄与する」と指摘したことから、今後は21世紀の地域づくりという視点からも、調査研究・収集保存に加えて観光という役割を担った観光系ミュージアムを考えていく必要があるのではないでしょうか。
 
中奥氏 中奥 観光系ミュージアムといったときに、まず「観光」とは何かを考えてみる必要があります。日本で観光というと、慰安を伴う宴会型の団体旅行を中心にしてきた歴史がありますが、明快な定義は理解されておらず、人それぞれに違います。
 ご存じのように、「観光」は中国の古典『易経』から生まれた言葉ですが、環境デザイナーの泉眞也さんがある雑誌で「易は単なる占いではなく、六四通りの卦によって未来を考察する優れた未来の指導書である。観光の〈観〉は卦の20番目に当たり、眼光紙背に徹し、ものの見方を授けてくれるということである。〈光〉は国や地域の優れた物、宝物をあらわす。したがって、観光とは国や地域の宝物を見いだす営みである」ということを書いておられます。観光の本質を見事に解説されていると感銘いたしましたが、観光が「地域の宝物を見る」という活動だとしたら、観光系ミュージアムこそ住民が本当に大事に思う「地域の宝」であるべきだろうと思います。
 
 私は地域振興アドバイザーという立場から、その地域の人々の宝探しをし、それを地域の人たちが語るところから地域づくりをはじめるという手法で各地の地域おこしをお手伝いしていますが、そういう形が本来の観光系ミュージアムではないかと思います。地域住民が参加してつくり、地域住民がお客さんを心からお迎えできるような体制ができている施設を、私は観光系ミュージアムと呼びたいという気がします。
 
草刈 平塚市博物館学芸員の浜口さんが、博物館には「放課後博物館」と「遠足博物館」の2タイプ(注…「季刊ミュージアム・データ」20号、1992年12月、丹青研究所発行)があるとおっしゃっています。放課後博物館は、子どもが学校の帰りに立ち寄るような地域密着で日常的な博物館のことです。一方、遠足博物館は、遠くからわざわざやってくるタイプの博物館です。観光系ミュージアムといった場合、どちらかといえば遠足博物館がそれに当たるのではないでしょうか。つまり、観光系ミュージアムとは、地域外利用者、広いマーケットを対象としているものだということです。
 
 最近、観光の分野では「デスティネーション・マーケティング」という考え方が登場してきています。たとえば、北海道という観光地を台湾にアピールするというような方法です。そこでは地域の“売り”をつくることが大事です。観光系ミュージアムといった場合も、地域の魅力を増す施設といえるのではないでしょうか。
 
大木氏 大木 私はエコミュージアムの考え方を用いた地域活性化などに携わっており、現在、三重県鳥羽市における地域活性化のお手伝いをしています。鳥羽市は伊勢志摩の宿泊拠点として年間600万人の観光客が訪れる一大観光地です。しかし、観光客の多くは夕方やってきて翌朝早く次の目的地に発っていくという形で、ほとんど通過していくだけというものでした。都市としての基盤整備も、海側の観光エリアは整備が進んでいるのですが、それ以外は遅れている状態です。これまでのまちづくりは、観光客をいかに効率的にさばくかという、高度成長期の大量消費型の観光スタイルに追従して進められてきたといえます。
 
 いま商工会議所の呼びかけで4つのエリアでエコミュージアムの地区検討会を開催し、テーマの検討などを行なっているところです。そのなかで、これまでのまちづくりに対する反省が出てきています。地域の人々が住んでいて快適と思えない町は、訪れる人も快適だと思えないのではないかという、従来の観光の考え方とは180度違う発想が生まれてきています。観光地のあり方そのものが変わってきているのではないかという気がしますし、観光系ミュージアムもそうした変化と呼応した内容が求められるのではないでしょうか。
 

 多くの博物館は
 運営面で課題を抱える

 
―最近のミュージアムの実際の動きはどうでしょうか。

 
洪氏  鳥取県倉吉市の鳥取二十世紀梨記念館という果樹栽培振興と観光振興を目的にした博物館の企画から制作に関わり、今年4月に施設がオープンしました。学芸員はいませんが、梨や梨農家について詳しい専門普及員がいるうえ、地域の人が梨の専門家のように知識豊富で、熱心で、声をかけるといろいろな資料や情報も集まりました。また、そうして地域の人の情熱をもとに誕生した博物館にも誇りをもっています。
 
 「観光系」とか「集客型」施設としては、施設が完成した時が終わりではなく、博物館はそこから始まるといえます。したがって、つくるだけでなく、運営していくうえでどのようにアイデアを出し、どのように活性化していくか、そこが大事だと思います。
 
中奥 そうですね。つくる段階から運営まで誰が継続して責任をもつのか、そこが問題です。民間の場合は企業が資金を出すから当然、企業が一貫して責任をもつ。しかし公共の施設では、最初に関わった人が最後まで責任をもってやれるかというと、多くは人事のローテーション等があってそういう形になっていません。
 
梨記念館もそうですが、博物館の素晴らしい内容を理解できる観光客が、いったいどれだけいるかという疑問もあります。
 
 旅行エージェントにお客さんを連れてきてもらうのではなく、施設がダイレクトに「こういうお客さんに来てほしい・理解して欲しい」というマーケティングをする必要がある。誰をターゲットにして施設をつくるかということが大事であり、施設のほうで来てくれるお客さんを選ぶ時代になっているのではないでしょうか。
 
 たとえば、梨記念館を理解して支えてくれる市民がふえれば、そういう人たちは別の観光地にある博物館も同じような目で見るわけです。つまり、素晴らしいお客さんに来てほしかったら、その町の人たちを素晴らしい観光客に育てる必要があります。
 「観光教育」という言葉は、これまで観光施設の従業員向けの教育を意味していましたが、観光系ミュージアムが観光系であるためには、それぞれの市(や町・村)で、市民向けに観光教育をし、「ものの本質をいかに見るか」という人づくりを行なう必要があるという気がします。そうなれば、余所からもそういう人たちに来ていただけるのではないでしょうか。
 

 海外の博物館は  迎賓館的な利用のされ方も
 
―ミュージアムの運営については、海外と比較するといかがでしょうか

 
須見 その都市に行ったらそこを見ないではすまないような施設、それが観光系ミュージアムといえるのではないでしょうか。たとえばパリに行ったら、ルーブルやオルセーの美術館は絶対に外せない。翻って、日本にそういうミュージアムがいったい何か所あるのかなと考えてしまいますね。
 
 海外のミュージアムはサービス面が充実していて、その点で日本とはだいぶ差があるという気がします。ミュージアムショップにしても、レストランにしても、サービス面で観光ということをきちんとフォローしている。
 
 博物館行政の違いもあるし、学芸員の地位も高い。調査研究をきちんとやるという基本がしっかりしている。また営業部門があって、一所懸命に営業努力をしているところも大きく違う。そういった点が観光という面でも好循環を生み出していますね。
 資料のストックの量も違いますね。単に観光ということで行っても、その量に圧倒される。
 
中奥 オスロを訪問したとき、ノルウェー民族博物館でレセプションをしてもらったことがあります。その国の歴史を展示した部屋の中で歓迎レセプションを開くということは、観光施設として最高の使い方です。料理もノルウェーの伝統料理が出てきました。高級ホテルで開いてもらうより、数倍も感動しました。
 日本の博物館にはそういう発想はないし、飲食も貧弱です。教育系のミュージアムとなるとアルコールもダメで、大がかりなパーティなどは考えられませんね。
 
大木 沖縄サミットのとき、福岡市博物館を使って各国首脳の歓迎レセプションをやりましたね。あれは日本では画期的ことだったと思います。イギリスなどでは、ミュージアムが海外からの要人の歓迎会場に使用されることが結構あります。設立のときから、そういう場所を明確に設けているんです。
 
 ヨーロッパの場合、日常レベルでミュージアムを多様に活用できるようになっていることが多いです。アムステルダムのマリタイムミュージアムはパーティ会場として貸し出すスペースがあって、絵画や版画などが置いてあるところでパーティができるようになっていました。
 また、キュレーターが自立するための経営、ミュージアムマネジメントを行なっています。たいへん失礼だが、日本の学芸員と比べて地位も高いし、ミュージアムを事業として成立させる姿勢をもって運営していることに驚きを覚えました。
 
中奥 国内で文学のツアーを企画する場合があるんですが、文学館で昼食をとるようにすればコンパクトにツアーが組めるんですが、なかなかそういう対応をしていただけない。観光系ミュージアムというところには、ぜひともそういう施設を付帯してほしいですね。
 
大木 また、海外はミュージアムショップが非常に充実しています。そこに行って買わないと絶対に手に入らないものを売っている。
 日本のショップのスペースは海外と比較して狭いし、サービス全体という面でもだいぶ違っています。地域振興の視点からも、日本のミュージアムでもショップを充実させていくいくことはきわめて重要だと思います。
 
海外のミュージアムショップには、それぞれフィロソフィーがあるという感じがします。感動した展示物の関連商品を買いたいのは自然の感情だということがベースになっている。しかも、実にうまく商品開発しています。インターネット上でのサービスもあり、充実している。ニューヨークのMOMAなどは個人のデータをもとにダイレクトメールを送り、「誕生日や結婚記念日などのプレゼントにいかがでしょうか」というアプローチも盛んに行なっています。
 
 ショップに関連して、ある動物園では販売員を「第3のキュレーター」という言い方をしています。販売員は最もお客さんに接するところにいる。だから販売員が「オランウータンの子どもがいつ生まれた」といった情報をお客さんに伝えるサービスをするわけです。ちなみに第2のキュレーターは事務員です。そういう意識のあり方は参考になると思います。
 

 フェイス・トゥ・フェイスの
 ふれあいを

 
―欧米のミュージアムと比べるとスタッフが少ない日本の「博物館」のようですが

 
須見 日本と比べると、欧米のミュージアムはスタッフの数がだいぶ違いますね。ボランティアを含めて、お客さんに接するスタッフの数がかなり多い。
 
 日本の場合、解説員やコンパニオンという人の説明はマニュアルに沿った説明で、それ以外を質問すると答えが返ってこないこともあります。対して海外の場合は、もう少し深い部分で話をしてくれたり、お客の興味に応じて説明を変えてくれたりする。 
 日本でも、企業系のミュージアムにはスタッフが多いのですが、行政主導のところは少ない。そういう面でも、サービスが違ってきますね。やはり、人と人とのふれあいからミュージアムのよさが伝わるということもあります。その意味で日本の施設は「顔が見えない」といえるかもしれません。フェイス・トゥ・フェイスでファンをふやすことが大事なのではないでしょうか。
 
大木 フェイス・トゥ・フェイスということでいえば、エコミュージアムの場合、そのための人づくりが必要です。エコミュージアムは地域全体が博物館ですので、学芸員は地域住民ということになります。街角で立ち止まっていると、地元の人がその建物について説明してくれるというように、人と人とのふれあいがサービスということになるわけです。ふれあいによって思い出が生まれ、その地域のファンになるいうことが起きるわけです。
 
 人づくりは、そういうことを地元の人に理解してもらうことから始まると思います。そして最終的には、地元の人が主体となって外から来る人を迎えて、自分たちの地域の財産を案内する。そこからフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが発展していくのだと思います。
 

 ボランティアに頼るのではなく
 NPOや有償の職員の登用活用を

 
― 日本では、ミュージアムの人員を充実するということが最もむずかしいことですね。そういう現状で、期待しているのはNPO(非営利活動法人)ですが。

 
草刈氏 草刈 海外のミュージアムの素晴らしさという話が出ましたが、日本の博物館ができないわけではない。日本でもしっかりやっている施設はあるし、海外でもダメなところはいくつもあります。大事なのは、ホスピタリティということをきちんと位置づけて、地域外のお客さんにきちんと対応してあげるということだと思います。そこの部分をもう少し充実する必要があります。
 
 サンフランシスコのエクスプロラトリアムは、地元の子どもや観光客がたくさん訪れる有名な科学館ですが、エクスプローラー(説明員)というスタッフが数多くいます。その主体は高校生です。高校生にトレーニングを行ない、デモンストレーションの手伝いなどをやってもらうわけですが、ハンバーガーショップなみのアルバイト料をきちんと支払っています。
 
 日本ももう少しペイ・スタッフをふやしていく必要があります。その際にボランティアの充実ということがよくいわれますが、ボランティアは自主性が発揮されることで効果を出すわけで、博物館の無料の従業員ではない。
 
 フルタイムのスタッフをふやせればそれに越したことはありませんが、なかなかむずかしい。また、博物館は必ずしもいつも忙しいわけではないですから、お客さんが大勢来るときにトレーニングしたパートタイムのスタッフを多く配置するようにする。それで博物館の印象は、かなり違ってくると思います。
 
中奥 フランスには、1970年法という日本のNPO法と同じような法律があります。何人か集まってアソシエーションをつくると補助金が出るわけです。そういうアソシエーションがフランスのミュージアムを支えている。日本もNPOが成長して、ミュージアムを支えるようになってくるのではないでしょうか。
 
大木 現在、山形県朝日町の朝日町エコミュージアムでは、NPO(朝日町エコミュージアム協会)が法人格をとって一所懸命やっています。若いお母さんたちが町を案内したりしていますが、NPOはそれらの活動に対してきちんとお金を払っているわけです。
 観光地に行って地元の人と会話をすることはとても貴重なことで、その語り部を養成するためにNPOをもっと活用すべきなんでしょうね。
 
草刈 観光系ミュージアムでは、地域の方々は利用者の立場だけでなく、スタッフやボランティアとして運営側に参画し、他の地域からおいでになった方々を暖かく迎え入れ、トータルでその地域に対する良い「思いで」を持って帰っていただくことが、本当に大切だと思います。ボランティアはこれからの博物館では大切で重要な柱ですが、スタッフがそれなりの対価をもらってきちんとサービスをすることが、本当に大事なんですよね。それがミュージアムでのサービス向上につながると思います。 
 

 観光客のための
 営業のあり方を
 考え直すべき

 
―一般的な事例ではオープン初年度に比べると、2年目には65%程度の入場者しかこない施設が多いようですが。

 
中奥 日本の観光施設の場合、オープン初年度は大勢の人が来るけれど、それ以降は右肩下がりで入場者数が減少している。しかし、継続は力なりで、その施設のことが世の中に知れわたって、年が経つにしたがってお客さんが集まってくる、というのが本当の観光の姿なわけです。
 
 最初から「この施設は儲けなくてもいい」ということでスタートしていることが問題です。お客さんを呼ぶためにどうするのかという仕掛けをきちんと積み上げたうえで、初年度はこれだけの人が来る、さらにその積み重ねで2年目はこれだけの人が来るという読みが必要ですし、集客のためのスタッフも必要です。
 
草刈 賛成です。博物館の善し悪しは利用者の多さだけではありませんが、沢山の人に来てもらいたいなら学芸とは別に営業、マーケティングの専門部門が必要だと思いますね。
 
大木 東北歴史博物館の岡田茂弘館長は「顔の見える博物館」ということをおっしゃっています。学芸員も週に1時間でいいから、来館者と話をしようということを実践しています。これまでの博物館は学芸員が表に出なかった。しかし、これからは出ていくべきだというわけです。コミュニケーションをとれば、お客さんが求めていることは何なのかということも理解できるだろうし、どういう研究をすればよいのかといった刺激も受ける。 また、北海道立近代美術館の元館長であった倉田公裕先生は「学芸員は全員、落語の高座を聞きに行け」とおっしゃった。落語の語りを展示室でやれば人が集まり、みんな生き生きする。語りかけるコミュニケーションが大事だということです。
 
中奥 観光はイメージ産業です。湯布院の町があそこまで有名になったのは、時間をかけて好ましいイメージをつくっていったからです。これから日本の観光系ミュージアムは、そういう戦略も立てていくべきですよ。
 
 それから営業時間の問題。本当にお客さんに来ていただける時間になっているのかどうか、もう一度考える必要があります。午後5時で閉館して観光系ミュージアムの役割を果たしているといえるのかどうか。たとえば温泉地では、観光客は夕方5時ごろにならないと到着しません。そして翌日の朝9時には出発していきます。つまり、その町にお客さんがいる間はミュージアムが閉まっているのです。本当にお客さんに来てもらいたいなら、お客さんに合わせた時間に開館している必要があります。
 
 また、都市型観光が24時間観光に変わってきているなかで、夕方5時に閉めるのがはたして観光系ミュージアムといえるのか。来ていただくお客さんに合わせた営業時間を考える。これは“おもてなし”のなかで最も基本的なことですね。
 

 単館でのミュージアムが
 もつ限界も集合することで
 可能性が高まる

 
―ミュージアムを核とした町おこしをしたいと思う自治体や民間事業者があれば提言をお願いします。

 
須見氏 須見 観光ということを考えたら、ミュージアム単館だけの発想ではダメだろうという気がします。点と点をつなぐ、あるいは面として考えるということが必要で、単館では無理があるのではないでしょうか。
 
 たとえば山口県下関市の海響館は、関門海峡の前に立地しており、海峡を丸ごとテーマパークにしてしまおうというコンセプトがあって、水族館をはじめ商業施設やホテルなどとの複合により、面としてお客さんを呼ぼうという姿勢があります。それは下関だけでなく、海峡を越えた九州の門司にも同じ動きがあって、やはり面で考えている。そういう形でゾーンとしてのボリュームを打ち出し、地域の人たちが一緒になって取り組んでいく。けっして単館で完結するものではないのです。
 
 いろいろな考え方があるでしょうが、ひとつの方法として行政が核となる施設をつくって地ならしをし、そこに民間も出てきて段階的に面としての広がりをもたせていくという形があります。グランドデザインがあって、それを元に広がりをつくっていくことが大事だと思いますね。
 
中奥 姉妹都市とか観光大使というようなものも含めて、各地にファンをつくる努力をすべきです。そのファンのクチコミによって広がりをつくっていく。
 
 まちおこしには、情熱をもって行動する「ばか者」とそれを応援する「よそ者」、それに「すぐれ者」の3者が必要といわれます。各地にファン(よそ者)をつくり、それが町おこしを進める「ばか者」を応援するところまで行けば、ミュージアムも本物になりますよ。
 
草刈 観光系ミュージアムには「よそ者」を集めるための仕掛けが必要ですね。営業のセクションをつくるのがポイントですが、行政のシステムでは、すぐにそういう形はとれないかもしれない。
 とすると、中奥先生がおっしゃられたように友の会のような組織をつくってファンをふやすことが重要です。地域外に住んでいる人のほうが、その地域に住んでいる人よりもずっと数が多いという事実に、もっと目を向けるべきでしょうね。
 
大木 成功しているエコミュージアムの一例として、千葉県富浦町の富浦町エコミューゼがあります。もともと特産品であったビワと花卉(カキ=花を咲かせる花)を核に観光農業とリンクさせ、枇杷倶楽部という拠点施設から町全体に面的な広がりをもたせています。「道の駅」の機能と合わせて、旅行エージェントともうまく提携しています。(行政側にいらっしゃる)非常に熱心な方が中心になって、行政だけでは実践できないようなさまざまな取組みにも挑戦していることが特筆されます。
 
 しかも地域の経済効果をきちんと調査して、その金額や花狩り・ビワ狩りの参加者の実績などを公表しています。従来、エコミュージアムが地域に与える波及効果を定量的に捉えたことはほとんどなかったと思います。しかし富浦町では、具体的な数字を見せることによって、地域の人の理解とやる気を高めているのです。
 

産業をささえてきた人々の姿を
見せるミュージアム

 
―これからの観光系ミュージアムのテーマ設定はどうあるべきでしょうか

 
須見 博物館のテーマ設定についてはさまざまですが、原始からはじまって近代、現代と時代の流れとして押さえていく通史的な展示手法が主体です。しかし、そのように通史として町の歴史を押さえると、どこでも同じような展示になってしまう。
 観光系ミュージアムは、歴史を展示するにしても通史ではなく、地元により密着した「ここにしかない」というテーマに絞って展示する必要があるのではないでしょうか。
 
 構想段階からのテーマ設定に施設の構造が合致して、運営のシステムもうまく合うということが大事だと思います。人間でいえば施設は肉体であり、運営は心ということになると思いますが、その両方がぴったり合ったときに、あるべき姿のミュージアムになる。私たちは肉体としてのミュージアムをつくるのが仕事ですが、その肉体がどういう歩み方をしていけば健やかに育つか。つくるだけでなく、これまでの展示の経験値からフィードバックできることはたくさんあると思います。
 ですから今後は、オープン以降のコンサルティングということも、われわれの大きなテーマになるのではないかと感じています。
 
草刈 これからのミュージアムでも次代を担う若い世代の利用は大切ですが、マーケットを考えると、人数が多く、平日を含め可処分時間が豊富なシルバー世代や団塊の世代をもっと重視しなければいけない。そういう人たちに対するホスピタリティを工夫する、教育普及活動にしてもそういう視点で開発することが大事でしょうね。
 
 そう言う意味でも、今後の観光系ミュージアムにおけるテーマとして「オヤジ」がキーになるという気がします。これまでは観光というと風光明媚な場所、優れた美術作品、スポーツなどが主体でしたが、最近では北九州市や名古屋市などの「産業観光」が注目されるようになっています。こういう、産業・仕事、そしてそれを支えてきたオヤジ、オバサンもですが、の魅力を観光系ミュージアムを中心に伝えることが大切になるでしょう。
 
 どちらかといえば地域密着型ミュージアムですが、私たちの会社で千葉県浦安市郷土博物館(「AMビジネス」(月刊レジャー産業別冊)36号、2001年7月、綜合ユニコム発行)をお手伝いしました。隣が老人福祉施設で、そこに集まるお年寄りの方々に博物館に来ていただいて活躍してもらっています。たとえば、昔の漁の話しを聞かせてくれる、船大工だった人は張り切って船をつくっています。これは見ていて非常に面白い。生活や仕事に関わるテーマを、目の前で実演・製作してもらうというのは、思わず引き込まれる魅力・迫力があります。そういうものはどこにでもあるようで、よくよく見ればそこにしかないオンリーワンであるわけです。
 
 これからテーマ志向型の観光が盛んになると思われますが、産業や仕事、そしてそれに関わる人の魅力「オヤジの世界」は重要なテーマになりうるものと確信しています。
 
中奥 観光系ミュージアムのテーマを設定するにあたっては、それぞれの地域で地域学をしっかり確立する必要があるのではないでしょうか。地域で自分たちの宝であるテーマを見つけて、深めていく。しかもそこに「よそ者」の専門家に参加してもらい、一緒になって進めていく。そういうプロセスのなかで深められたテーマが、やがてミュージアムという形になるというのが理想の姿だと思いますね。
 
本日は、お忙しいところありがとうございました。
(司会 (株)丹青研究所 文化空間研究本部本部長 常務取締役 里見 親幸)

 
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中奥氏 中奥 良則
全国生涯学習まちづくり研究会、まちづくりコーディネーター・企画専門員
地域振興アドバイザー・まちづくりコーディネーターとして活躍。
集客施設としてのミュージアムに大いに興味があり、鳥取二十世紀梨記念館でも、オープン後の運営に関して提言をしている。

 

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