トーク * Design対談
デザインが生まれる現場から
 
NORI INC.代表取締役 栗原 典善
IST(INTERSPACE TIME)代表 牛建 務氏
 
公共性が高く関わる人も多い
車のデザインは、発案者の考えを
いかに先に進めるかが
非常に重要になります


人が車に求める用途はさまざまであり
それぞれの用途にフィットする車がある

牛建 今回、ゲストで出ていただいた栗原さんは、イタリアのカロッツェリア、イタルデザインやヨーロッパフォードで経験を積まれてきた日本を代表するカーデザイナーの一人です。僕はアメリカ、栗原さんはヨーロッパから帰ってきた直後に、二人ともこの小田原に郷愁を感じていたようですね。そのときにお話ししただけで後は梨の礫(つぶて)ですみませんでした。再会できてなによりです。僕も帰国から 年程住んでいたので、よく箱根の山に車で出かけたりしていました。

 今、一年がかりでキットカーを組み立てていたりします。今日はどんな話が聞けるか楽しみです。栗原さんは日本だけでなく欧州でも仕事をされていますが、日本の車と欧州の車の根本的な違いは何だと思いますか。

栗原 強いて言えば「味付け」でしょうね。われわれはご飯を食べ、ラーメンを食べ、カレーを食べる国民です。しかし欧米人はそうではない。

牛建 確かに欧米の車は、メーカーの味というものを明確に出していますね。たとえばBMWで言えば3・5・7のシリーズがあって、そのシリーズをきっちり守って作っていく。日本の場合は市場があると思うラインを作り、そこに顧客を獲得するための要素を付加していく。そこには思想が余りないなぁと感じています。

栗原 そう思います。BMWなどは企業理念ありきで製品をつくっていますが、日本は市場ありきで製品を作っています。しかし、どちらが良いか悪いかではなく、違いだと思います。ある意味日本のメーカーは車を大衆に広めたという功績もあります。

牛建 最近の車選びはライフスタイルと結びついていると思います。高いから買えない、安いから買えるというのではなく、この車が好きだから、自分のライフスタイルにはこの車が合うから乗るということです。僕の場合は国産で自分に合う車が見つからないので、スマートの軽自動車に乗っていますが、車代の3倍のお金をかけて、内装を全部やり直しました。なぜスマートの軽なのかというと、乗っていて楽しいからなのです。というよりなぜ楽しいのかを追求するために乗っているという感じですね。
 そういう車を日本車では見つけることができないのです。

栗原 日本の会社は、そういう個性のあるものを作って失敗することが怖いのだと思います。

牛建 長年、車に乗ってきてわかったのは、僕が車に乗るのは目的地までの過程を楽しみたいからなのだということです。だから楽しい車でないと駄目なのです。

栗原 まったく同じです。移動が楽しくなければ電車に乗ります。

牛建 みんなは高級車がどうのといいますが、そういうことに関して僕は興味がありません。

栗原 私もそうです。私は高級車も持っていますが、それはスタイルが好きだからです。「高級」ということは、私にとっては意味がありません。いかに楽しく移動できるかです。

牛建 いま乗っているロータスエリーゼにはエアバッグも付いてない、音もうるさい、エアコンも効かない。それでも乗るのは、なぜこんな車がつくれるのかという感動があるからです。腕、足、お尻のところから伝わってくるインターフェースのようなもので、車と一体になって走っているような感じになれます。

栗原 あれは本当に面白い車です。

牛建 エリーゼに乗ってわかったのは、速い車が良い車ではないということです。公道ではスピードを出せないので、性能の良さを発揮するところまでいかないので、ストレスが溜まります。

栗原 私はオートバイが好きですね。車も好きですが二輪の楽しさにはかなわないと思います。

牛建 風を受けて自然と一体になったような疾走感が二輪の楽しさですね。車にいろいろな用途を求める人がいて、それぞれにフィットする車があるのではないでしょうか。

 

日本車も 欧州車とは違う形で
ブランディングに 注力されるように

こんなクルマが欲しい…プライベートにイメージしたもの栗原 一般の人がいろいろな車に乗ってみて、これは良いということを経験することはなかなかできません。だから選択肢が多いようでいて、実は少ないのではないかと思います。それで結局、大きくて安いのが得みたいなことになります。日本の企業の売り方も、こちらの方が得だと思わせることで成り立っているという気がします。

牛建 結局、最大公約数的なやり方ですから、スマートのような車は出てきません。スマートを見たとき、座る高さが乗り降りに一番楽だったので買うことを決めたのです。

栗原 スマートは僕も、2年くらい乗っていましたが、手放したらまた欲しくなった。

牛建 あれに日本製のエンジンを付けたら非常に良いものが出来ますね。

栗原 確かにその辺は不満でしたが、コンセプトや考え方は非常に素晴らしい。

牛建 そういう車が日本に出てこないというのは、万能的でないと駄目だという考え方にあるからでしょうか。

栗原 そうですね。それから小さい車は安くしないといけないという考え方もあると思います。しかし、安さを感じさせない軽も出てきているので、軽に対する感じ方も変わってくるのではないでしょうか。スマートの軽は普通の軽の2倍くらいの値段ですが、乗れば満足が得られる。でも日本のメーカーは、小さい車であれだけ凝ったものは作らないでしょうね。

牛建 プラモデル感覚のようなところがあって、色も簡単に変えられる。少しくらい当たっても弾力性があって凹まないようになっています。都会の混雑の中を走るのには有効だと思うけれど、日本では小さい車は安いというイメージしかないのが残念です。

栗原 小さい車は都会にこそ適していると思うのに、地方の方が多いのです。都会は見栄をはる人の集まりなのかもしれません。

牛建 日本のテクノロジーを凝縮したような小さい車を探したのですが、見当たらなかったですね。

栗原 日本車のクオリティは高いけれど、「味」ということからいえば外れてしまうでしょう。

牛建 日本は車文化の面で余裕がないような感じがします。それをメーカー側も煽っているようなところがあって、総合カタログのような車ばかりをつくっています。それも日本人の心を貧弱にしているのではないでしょうか。

栗原 いろいろな種類を作り過ぎですね。それも似たり寄ったりのものです。

牛建 BMWとかベンツは形のトレンドを作りますが、日本車はこれを一律に真似ていて、これには疑問を感じます。

栗原 そうならないようにメーカーも努力はしているのです。最近の新しい動きとして、トヨタでもレクサスのブランディングということで作ってきました。ベンツやBMWとは違ったブランディングの形を作っていこうということで、日本的なブランド、控え目だが美しいブランドを目指しているようです。

牛建 ヨーロッパ車というのは古典となっているブランドの顔がありますが、日本にはロゴ一つにもそういうものがなかったですね。

栗原 安いものから高いものまで全部同じマークで一括りにしてしまっているから、どちらかが足を引っ張ってしまうということがあるかもしれません。トヨタでも600万円のクラウンから70万円の車までありますが、同じイメージというのは不可能です。それをやってきてしまったから、たとえ高級車を買っても、満足度が低いわけです。

牛建 これから中国が経済発展していろいろな車を作るようになると、人件費の高い日本では薄利多売のようなボリューム商品だけでなく、ブランドづくりが必要ではないかということを非常に感じます。

栗原 メーカーも必死だと思いますよ。トヨタなどもその辺はよくわかっていますから、ブランディングについては力を入れているようです。

本社・デザインスタジオ(左)と本社から車で10分ほどのところに位置する「C−スクエア モデリングスタジオ」(右)。 C−スクエア モデリングスタジオはスケールモデルからショーカーと言われるプロトタイプまで製作できる

 

エンジンは素人が見てもわからないが、
デザインは素人でも好き嫌いが言える

牛建 栗原さんはいろいろな車のデザインをされていますが、レベルによって情熱に違いはありますか。

栗原 仕事にレベルの高い低いは関係ないですね。こちらの姿勢としては100万円の車でも500万円の車でも変わりません。

牛建 車はデザインで売れたり売れなかったりします。性能については価格帯によってそれほど外れることはない。500馬力の車と100馬力の車で価格帯が変わらないということは絶対有り得ないから、馬力と価格は比例しています。そうなると、売れるポイントはデザインということになりますね。

栗原 デザインのほかに、いまは環境や経済性ということもキーポイントになっています。プリウスが売れているというのは、あれに乗っていると環境に配慮しているということで、インテリジェンスのある人が乗っているというイメージがあります。そういうことは非常にセールスポイントになるわけです。高級車でもハイブリッドにしようというのがトヨタの戦略です。それはすごいと思います。日本独自の技術を売り込んでいくというのは、日本人としてはうれしいことです。

牛建 日本がこれから市場で勝っていくための一つの戦略ですね。日本のプロダクトはデザインだけでは勝てないかもしれないけれど、ハイテク技術とデザインが融合したものなら世界でも勝てると思います。基本的にプロダクトというのは一人のデザイナーの思いが全部入っていないと崩れてしまうところがあります。いろいろな人が参加して、いろいろな意見を言うことを反映する企業デザイナーだと、そこが崩れてしまうのではと思うのですが。

栗原 車のデザインはそこが非常に難しいところです。エンジンは素人が見てもわからないが、デザインは素人でも「好きだ」「嫌いだ」と言える。会社内のプロセスでデザインをまったくわからない人が「これは嫌いだ」と言える。それを言わせないで、いかに発案者の考えを先に進めるとかいうことが非常に重要なことだし、一番難しいところです。非常にフラストレーションの溜まる仕事だと思います。

牛建 アメリカではデザイン作業が流れていくシステムがうまく作ってあります。デザイナーとして企業で働いた場合でもデザインを活かすための立場や環境を上手く作ってくれていると感じます。

栗原 それはデザインのポジショニングが非常に高いからです。そういう考えを持った人たちがやっているということを、会社全体で分かっているわけです。だから、そこまで口を出す必要はないという了解がある。最近は日本の企業でもデザイナーからも役員を出さないといけないというようになってきていますが、これだけデザインが重要だといいながら、まだ会社の経営を担うような人はいません。その辺が変わる必要があると思います。

牛建 それはインテリアの世界でも同じです。アメリカの会社名はトップの名前を組合わせたものが多いですが、必ずデザイナー名が入っています。最初が経営者、次がマネージメントをやる人、最後がデザイナーという具合です。経営する人、デザインする人、運用する人が集まって会社をつくる。そうしないとデザイン会社は成り立たないのです。

栗原 日本では経営メンバーになっているデザイナーはほとんどいませんね。

牛建 それは営業主義であって、売上をあげることが会社の成長だと考えているからでしょう。

栗原 デザインは経営上大事だといっても、まだまだ日本のメーカーは遅れています。デザイナーを変わり者の集団としか見ていない。変わっているから経営に参加させたらとんでもないことになると思っているのではないでしょうか。

牛建 日本企業のあり方も、大企業が良い、売上のある会社が良いという考えから、しだいにヨーロッパのように文化や哲学を持つ会社が良い会社だというふうに変わってくると思います。デザインが重要視されるようになれば、そういう意識も生まれて来るでしょう。

 

人がタッチしたものは
愛情もかけられるし気持ちも入る

栗原 そろそろ大量生産大量消費は一段落しなければいけないと思います。自分のスタイルでモノを選ぶという時代になってきているので、普通のモノを作っても売れなくなっていますね。下駄代わりになっている車にそこまでのクオリティは要らないと思うことがあります。エンジンさえ壊れなければいいという考えのプロダクトができないのかなと思うのですが、駄目でしょうね。まず技術者が許さない。

牛建 栗原さんのような方が、いろいろなアイデアや思いを投げ掛けていけば、一つのトレンドをつくれるのではないでしょうか。

栗原 そういうことができたら良いなと思いますが、それをやるには私に資金があって、経営者として判断するのでなければなりません。判断する人たちが個性的でないと難しいですね。ずっと会社人間だった人が判断する場合、それまでと変わったことをするというのは難しいでしょう。

牛建 ヨーロッパは人間が作り出した工業製品を大事にするという感じがします。それに対して日本は消費の文化で、修理するより捨てろという風潮になっていますね。脇道になりますが、いまの車はすべてデジタルのメーターパネルになっていますが、個人的にはアナログのものがあればいいなと思います。

栗原 わかる気がします。人がタッチしたものというのは愛情もかけられるし気持ちも入ります。やはり、人の手が入っているかどうか、魂が込められているかどうかということが重要ではないかと思います。
 いまはコンピュータが発達してバーチャルな世界がもてはやされていますが、日本の感性とはコンピュータが通用しない世界なのではないでしょうか。コンピュータが発達したことによって逆にそのことが鮮明になってきたと思います。コンピュータでは解決できない大事なことが鮮明になってきて、自分たちの価値も少しは上がっていくのではないかということを期待しています。

牛建 建築やインテリアの世界というのはまだコンピュータに依存するところが多いのですが、僕は会社でスタッフにスケッチしろと言います。学校でも教えていますが、いまはデザイナー志望の学生でもスケッチができないのです。だから、いつもスケッチしないと駄目だ、CADは絶対使うなと言っています。

ミーティング風景栗原 僕も教えていますが、コンピュータは使わせません。鉛筆で絵を描けないかぎり話にならないです。コンピュータでなんとなく色を付けて、それでデザインだと思ってしまう。しかし鉛筆で描いたものでないとデザインではないのです。描いた紙の枚数だけ自分の力になるのです。学生ではない、何年もキャリアのあるわれわれでも何百枚も絵を描きます。そのなかで、だんだん収束していって最終的に絞っていくわけです。ある時、デザインのアイデアが閃くこともないとは言えないけれど、総体は苦労を積み重ねてやっと出るものです。

 

関わる人が多い車のデザインは
ストレスが多く、しかも失敗が許されない

牛建 栗原さんの思考の原形というのは、変えられるということを基本にしたものですか。たとえ提案が受け入れられたとしても、それは一つのコンセプトであって、そこからさらにマーケティングすることで調整して変更していくこともあるわけですか。

栗原 そうですね。だから形だけではない場合もかなりあります。要するに「こういうフィーリングが良い」ということで、社内でその原案を使ってデザインをしていく。工場側やマーケティング側の事情も考慮して、これのこの部分を使おうというケースです。その元になるものが社内ではできないから、やってほしいということもあります。

 大企業には何百人ものデザイナーがいますが、僕たちはその人たちに提案するわけですから、それは厳しいものがあります。そこで勝ち抜かないといけない。われわれの存在価値とか意義というのは、彼らと違った視点で提案するということですから、その受け皿がないかぎり提案ができない。自分たちとは違う提案をしてほしいという会社だとやりやすいが、そうでないと単に猫の手になってしまいます。

 社内だけでやっているとどうしても同じ流れになってしまうので、そこから飛び出たいと思えばわれわれに提案を求めるわけです。そういう考え方がないならば外に注文する意味はまったくないということです。

牛建 絵を描いて持っていくといっても、ある程度の枠があると思いますから、それに収まらないと駄目だということになりますよね。だから僕らはどこからでも入っていける大きな輪を描いて、その輪をどんどん小さくしていくことで最終的なものに到達するようにする。それがデザインするということで、一気にいけるものではないといつも学生に言っています。

栗原 一気にいけるようなストレートな仕事ならこんなに楽なことはないですよ。私の主張だけで良いわけですからね。しかし実際は非常にストレスの多い仕事です。自分の好き勝手なら趣味の世界になってしまう。1枚の絵を描くのも大変なことです。プロジェクトによっていろいろな条件があるし、ディレクターとの感性の違いで調整が難しいこともあります。結局デザインの仕事に正解というものはありませんからね。

牛建 そういう諸条件に対応して、相手側の要望を受け止められる心構えがないと難しい仕事ですね。僕らのインテリアの仕事は結構こちらの好きなようにやらせてもらえる部分があります。

栗原 依頼する方も「牛建スタイル」というものをわかって依頼するわけですから、そのスタイルでやってくださいという依頼になると思いますが、われわれの場合は、その会社で売れそうだと判断したデザインだけが重要で、だれがデザインしたかは重要ではないのです。

牛建 インダストリアルデザインのなかでも公共性の高い車になると、いろいろな目があるから、そこで変更を余儀なくされる場面がけっこうあるということなのでしょうね。それを受け止める精神力がないと、カーデザインはできませんね。

栗原 車というのは建築より小さいけれど、関わる人の数は非常に多い。決まるまでのプロセスには相当多くの人が口をはさむということになります。ですからデザイナーとしては非常にストレスが多く、しかも失敗が許されない仕事です。ですから逆に、ある部分は目をつぶって思い切ることが大事だという側面もありますね。

牛建 その通りだと思います。本日は、大変楽しい時間を過ごすことができました。お忙しいところ、誠にありがとうございました。

栗原 典善氏 栗原 典善 氏
くりはらのりよし○1953年埼玉県生まれ。74年桑沢デザイン研究所インダストリアルデザイン研究科卒業後、本田技術研究所に入社し二輪車のデザインに携わる。78年イタリア・ペルージャ大学に留学。79年からイタルデザイン社で自動車や二輪車のデザインを手掛けた後、82年からフォード・オブ・ヨーロッパ技術開発研究所で自動車開発に携わる。86年に帰国後、デザインクラブインターナショナルを設立、2001年に同社を退社しデザイン開発会社(株)NORI INC.を設立。

  
牛建 務氏
うしだてつとむ○1976年Chaix&Johnsonに入社、一貫して商業施設のインテリアデザインを手がける。現在、活動の本拠を東京に移して、商業以外のデザインにも意欲的に取り組んでいる。
牛建氏


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