トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言 連載第12回
 
「複合商業施設」で色褪せない店づくりを実現した京急百貨店
 "来期開業10周年"さらに満足度アップへ

"生活者本位の運営"がもたらした94か月連続売上クリアの偉業
 
(株)京急百貨店 取締役社長  
市川 昭司氏
 
聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


  1996年10月、電鉄系百貨店としては後発組の誕生となった京急百貨店―バブル崩壊後14年、後遺症から立ち直れないでいる夥しい店をよそに開店以来、月次売上高で、同店は94か月連続して前年実績をクリアし続けている。この驚異的な業績は、開業以来掲げてきた"生活者本位の店づくり"が地域住民に支持されてきた証であり、営業戦略的にいえば「色褪せない店づくりを目指し採用してきた複合商業施設としてのMD刷新策がみごとにジャストミートした」結果とも言い直せる。今5月、前社長・神田捷夫氏から経営のバトンを引き継いだ市川昭司新社長に、現在のこうした好調要因と来年迎える開業 10周年に向けた新たな経営的取組みを訊いてみた。

 

社長就任、社員へ新たな檄
"フットワーク""ヘッドワーク""ネットワーク"の"3ワーク"で前進、徹底を強調

−今春、京急百貨店の社長に就任された際、社員および幹部社員にはどのようなメッセージを送りましたか。

市川氏市川 私は、自分を"根アカ"の性格だと自認していますので、社員にも「明るく、物事を前向きに考えてやっていこう」と。もう一つは、現場に溶け込み皆さんと一緒に仕事を進めていくというのが私の流儀なので、「現場第一で自由闊達に言いたいことを言い合って、会社を盛り上げていこうではないか」と呼びかけました。専務の時からやってきたことですので、これを基本動作として取り組んでいくことになります。

 百貨店には外商活動などもありますが、本業は小売業です。まずは店頭の売上を上げることが重要で、そのためには営業力を徹底的に強くすることが必要です。営業力を強化するには、体・足を大いに動かし売上アップを実現する「フットワーク」。頭を使って、差益額・差益率を稼いでいく「ヘッドワーク」。そして、和を広め全社員の力を結集する「ネットワーク」―この"3つのワーク"を徹底する、そう思ってお話しました。

 また、社員の皆さんには「あなたのお客様は誰ですか」。そのことをハッキリ認識することが必要です。店頭で働いている最前線の人にとっては、来店されるお客様が大切な方ですし、店頭を支援する役割の後方部門や営業本部のスタッフの人達にとっては"お客様"と現場で働いている人たち"の両方が大切です。

 さらには、基本的なことですが百貨店営業に欠かせないことは、街をよく見て、取引先には積極的に出向き、つねに、世の中の変化を勉強し研究しておくことです。
 社員全員が、そうした姿勢で仕事に取り組んでいくことで、「やる気のある集団」「勉強する京急百貨店」という社風が醸成され、共に目標に向かって歩むことになると考えています。

−消費環境が厳しい中で、京急百貨店は94か月連続、月次売上で前年実績をクリアし続けています。これは、業界の金字塔ですが、好調要因はどのようなところにあるのですか。

市川 決して無理して売上をつくっているわけではありません。確かに94か月の間には、達成が難しそうな月もありました。その時は、新聞折込みチラシを増刷したり、売上向上への販促を掛けたりし、クリアしてきました。そんな折り"売上をつくる"ということは、非常にコストがかかるということを改めて実感しました。

 ですから、コストをかけすぎてまで売上を伸ばす考えはありません。通常営業の流れの中で売上を伸ばす態勢を整える。売出し計画を一つひとつ精査する。お客様のことを第一に考えて、何をすべきかを考えていく。そのことが大切で、こうしたルーティーンが当たり前にできるようになってはじめて達成できるようになったと見ています。

−今夏の中元商戦も好調のようで、対前年比108%と立派な実績を残されました。

市川 「漢プリ」という、既存顧客が注文する際に、再度相手先等を書き込まなくて良い簡略化システムを導入したことは好評でした。
 さらに、地元産品ギフト「神奈川グルメ」がブレイクしたこと。昨年よりラインアップを拡充したことで、今後も"神奈川の限定品"としてより一層クローズアップしていきます。

 

スーパーブランド戦略でなく、
"手の届く高級感"の展開で対応強化
今では"京急百貨店の独自性"に

−組織論からいえば、社員は一枚岩の方がよいわけですが、開業以来、百貨店各社からの"混成部隊"を余儀なくされてきました。9年間やってこられて、企業文化の違いで生まれる齟齬は、もう解消できましたか。

市川 会議等で時折"方言"が飛び出たりします(笑)。しかし、まったく問題はありません。京急百貨店は寄せ集めの"混成部隊"というより精鋭の"多国籍軍"です。むしろ、それぞれの出身企業のスキルを持って一堂に会していますので逆にプラス面のほうが多くなっていると思います。

−横浜商圏に大きな変化がありました。今年5月、三越横浜店が32年の歴史を閉じました。影響はありましたか。

市川 中元戦では閉店効果がプラスとしてありました。一方、サテライト店舗の三越上大岡店は、一足速く2年前の 12月に撤退しましたが、特に大きな影響とはなりませんでした。

 やはり、老舗「三越」という百貨店ブランドはステイタスが高く、閉店後それまでのお客様は、日本橋の三越や横浜高島屋に移られたようです。京急百貨店としては、"手の届く高級感"を打ち出すことで、既存顧客の深耕に取り組んでいきたい。

−確かに、百貨店に「グレード感」を期待するお客様は少なくありません。都心の各社はスーパーブランドを導入し、集客を図る傾向が強い。京急百貨店は、スーパーブランドなしで戦っている唯一の百貨店…。

市川 スーパーブランドがないということは、ある意味で京急百貨店の「独自性」だと考えています。ただ、スーパーブランドがないことは、お客様の期待感に添えていない部分がないとは言えないので、お客様の声を聞き、世の中の流れを見ながら、しっかりとお応えしていきたい。

 例えば、この9月には革小物の「COACH」が入ります。インショップ(50坪)で、フルラインで出ます。これも「手の届く高級感」と位置づけています。

−京急百貨店は、開業以来"生活者本位性百貨店"として、地域密着を打ち出しニーズ・ウォンツに応えてきました。その成果が上がってきたと見ていますが…。

市川 ありがとうございます。地域住民のお客様が望んでいることをローコストで運営し提供していくこと、それが、京急百貨店の基本的な考え方です。

 駅立地なので地下1階の食品売場は非常に強く、スーパーのように短時間で買い物できるようになっています。また1階は「マツモトキヨシ」や生活雑貨を配して駅利用客のコンビニエンスにも対応している。8、9階には、家電のカテゴリーキラー「ヨドバシカメラ」も導入しています。

 さらに、6・7階にはクリニックプラザを展開するなど、京急百貨店は「多面体的商業施設」となっています。

 

来期、開店 周年へ向け計画多発4テーマ「プロジェクト」立ち上げる
"団塊ジュニア( 代)対応"の強化へ

−来年、開店10周年を迎えます。何か節目となるMD導入や記念イベントのようなものの開催は計画されているのですか。

市川 現在、社内にプロジェクトチームを立ち上げ取り組んでいます。リモデルへの投資、10周年の商品政策、要員計画、そして建物の見直し―この4つをテーマに動き出しています。

 まず、リモデルについては、すでに食品売場の什器の見直しに着手していますが、 周年に向けて、"団塊ジュニア対応"を強化するため3階婦人雑貨フロアと5階子どもフロアを中心に改装を実施していきたい。

 商品政策では、御取引先の協力のもと、 周年記念商品の開発を進めていくほか、「ISO14001」を取得していますので、環境に優しい商品約400アイテムも販売していますが、これも充実させていきたい。

−今夏話題になった「クールビズ」は、百貨店営業を押し上げたほか、環境問題への取組みの一つともなったといえますか。

市川 クールビズ効果は、結構ありましたね。ネクタイ売上は対前年比約90%で終わりましたが、その分はシャツとジャケットの売上で落ち込みをカバーできました。結局、多くの男性が、スーツとネクタイ以外に仕事に着用していける服を持ってなかったためです。環境問題では、温暖化意識を広く植え付けた点で間接効果はあったと思います。

−オープン時に入社した新人も、9年経ちますのでもう係長ですか。要員計画では、どんな取り組みを実践されているのですか。

市川 当社の生え抜きは4期生まで、現在30〜35歳になっています。彼等が売場を取り仕切っており、「小さな政府」で、即断即決で売場の人たちを引っ張っていってもらいたい。パート社員の方々は、人生の大先輩で、その人たちに戦力になって働いてもらうためには、知識を正しく伝えていくことが重要です。そのための勉強をつねにしてくことが必要です。「可能な限り店頭に張り付いて、顧客の視点ですべて判断し、動いてくれ」と言ってあります。

−新卒採用のほうは、間断なく続いている…。

市川 契約社員やパート社員からの正社員への登用はありますが、新卒採用を控えてきました。ローコスト運営の観点から総売上に対する人件費比率は6%台に抑えていく方針ですので、契約社員やパート社員の方々に引き続き頑張っていただく。その分、正社員一人ひとりの責任は重くなりますが、そのためにもモチベーションが上る環境を整えていきたい。

 

"店はお客様のためにある"この理念を
"組織呼称"にも反映
「商品カテゴリー別呼称」を
「ハートフルサービス部」に変更

−郊外百貨店は、ショッピングセンターとの競合が厳しくなり、改めて「百貨店の原点」とは何かが問われている。百貨店が百貨店たるゆえんは、自主編集平場で"ライフスタイル提案"をすることです。市川社長は、どのように考えていますか。

市川 当社は、平場の自主編集売場は他社に比べ多いほうです。3階婦人雑貨フロアの服飾雑貨売場は単なるブランドの塊ではありませんし、同じく4階婦人服フロアのジーンズ売場やセーター売場、それから「カラーセレクト」のコーナーも平場構成です。

 MDは、社員が運営しています。6階紳士服フロアもスーツ売場や紳士カジュアルの売場は自主編集による平場展開です。独自性や差別化のため、平場を多くし、"京急百貨店らしさ"を出しています。

−業績は好調ですが、あえて今後の課題があるとすれば、どのような点があげられますか。

市川 食品は合格点。衣料品、雑貨、身の回り品の売上をもっと上げていくことが課題です。現在、衣料品の売上構成比は21%と少ない。地域に密着しながら、いかにシェアを上げていくかです。

 現在、ご婦人のお客様は50歳代の方が圧倒的に多い。今後のことを考えると、手薄になっている30歳代のお客様の取り込みを強化しなければならない。この世代は、結婚していれば生活費や教育費に追われていますが、独身の方も多く目の肥えた"団塊ジュニア世代"で、百貨店で高級ブランドを求める層でもあるわけです。すべての商品政策のなかで、 歳代顧客層の商品を今後、拡充していきたい。

 また、京急百貨店は「3世代ファミリー」を志向していますので、お子様を軸にしたファミリー企画にも力を入れていきます。お子様が行きたくなる店舗づくりにも引き続き取り組んでいきます。

−オープン当初からヒトを軸にした「ハートフルサービス」を掲げ、接客・サービスの強化に力を入れてきた。現在も変わらず継続している。

市川 昨年3月から販売部門の呼称を「ハートフルサービス部」に変更したほどです。食料品はいま「ハートフルサービスT部」で、これには一人ひとりが、お客様のために動く販売員になるという意味が込められており、意識改革に効果があると見ています。

−今期の売上計画および財務構造は、どのようになっていますか。

市川 今期は、前年比105%の450億円は確実に届く売上と見込んでいます。有利子負債がゼロとなり、あとは累損を消していくだけで、新たな投資ができる環境を整えていきたいと考えています。店舗の見直しを常にしていかなければ売上は伸びません。

 ショッピングセンターも攻撃的に仕掛けているところはやはり強い。京急百貨店も、売上と経費のバランスを見ながらリモデルしていきたいと考えています。

−本日はお忙しいところ、長時間にわたり、たいへんありがとうございました。

 

齋藤秀樹の提言
 
 「百貨店」と「ショッピングセンター(SC)」は、元々、大きく異なる業態であったがここに来てかなり際どく接近し、営業戦略上も両者が酷似してきている事例に遭遇する機会が増えている。時系列的に言えば、戦後、二度目の大接近である。
 一度目は、1991年バブル崩壊後、SC側からの接近があった。バブルが弾け全てのコストを見直す中で、
保証金制度"という日本的資金集めが不合理かつ前近代的な遺産で通用せず、ほぼ壊滅状態であった。その打開策として彼らが目を付けたのが百貨店の「インショップ」方式であった。つまり、敷金・保証金なしで家賃だけで運営し、短サイクルで高感度ショップが集められるなら百貨店手法は、いただき!とSCに注入しようと試みた。
 百貨店からの接近もほぼ同時期にあった。当時のおおかたは、SCのもつデベロッパー事業に対する経営的興味からであった。
1.巨艦になりすぎた百貨店店舗を有効活用するため、SCに倣い家賃収益を期待したこと 
2.テナントと百貨店の役割を明確にする手法として、SC方式で個性的店舗を目指しメリハリをつけようと考えたこと―などが、狙い目として挙げられる。
 今回、登場していただいた京急百貨店は、良い意味で"SCの魅力"を店作りに活かし、百貨店と共存し"色
褪せない魅力的な商業施設"に仕上げている。百貨店ゾーンには、それなりの自前の編集スペースを持ち、生活提案(ウェイ・オブ・ライフの提案)をきちっと行っているからだ。面積にして、約4割が当てられており、買い取り自前売場として"百貨店らしい運営"を堅持している。
 逆に、悪い事例が地方で消費が低迷する中で多発している点だ。勢い、SC化によるコスト削減に走り体力を落とし、結局、疲弊していく事例だ。共通していえる事は、
1.百貨店CIの核である平場を縮小あるいは放棄した企業に多いこと
2.便利なテナントミックスでお茶を濁し、百貨店としての独自性や顔・主張が見えなくなっていること
3.それ故、長期的に人材が育たず、淘汰への道を歩む事になる。
 昨年、日本百貨店協会が音頭をとって、「ショッピングセンター(SC)研究会」を立ち上げ、百貨店とSCのコラボレーションや経営的融合で新たなビジネスの可能性を探り始めている。やや遅きに失した感もなくはないが、積極的に百貨店再生を研究・模索する姿勢は評価したい。
 注文は、一つ。業態としての百貨店の特性やミッションを再構築して臨んで欲しいこと。つまりは、「新世紀における百貨店業態の役割とは何か」を問いながら研究し、その成果を広く発表して欲しい。その日がやってくることに大いに期待し、お待ちしたい。

 
関連サイト: 京急百貨店
 

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