トーク * THE SC [連載第10回]
ただモノを売るのではなく、お客様に
ライフスタイルのソリューションを提供していく

logo.gif 三井不動産(株)
商業施設本部
リージョナル事業部長
 糸久 昌雄氏
聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏

お客様の声を聞きながら、
手直ししたり、新たなものを
入れていくことが大切です

 日本最大級のショッピングセンター(SC)「TOKYO―BAYららぽーと」(1981年4月開業)や我が国初の本格的ファクトリーアウトレットモール「横浜ベイサイドマリーナ ショップス&レストランツ」(98年9月開業)をはじめ、東京・日本橋に2004年3月オープンした「COREDO日本橋」や東京・銀座に05年3月オープンの「ZOE銀座」といった都心型商業施設、さらには中小商圏型ショッピングセンターの新業態"ライフスタイルパーク"など、三井不動産(株)はそのときどきの生活者ニーズに適合したSCを開発し、商業シーンをリードしてきた。そして現在、同社は首都圏において「ショッピングセンターからライフ・ソリューション・コミュニティへ」をコンセプトにした4つの大型商業施設を、06年秋から07年春のオープンを目指して開発を進めている。

「LAZONA川崎」から
『電気の街・川崎』 『映画の街・川崎』
をアピールしていきます

−まず御社が現在、川崎、東京・豊洲、千葉・柏、横浜で進められている4大プロジェクトの概要をお聞かせねがいます。
 
糸久 JR川崎駅西口の(株)東芝の工場跡地約11万m2の広大な敷地で開発を進めている「LAZONA川崎」は、(株)東芝が設定する事業用借地権(20年間)を当社と東芝不動産(株)が賃借し共同で建物の建設、運営を行うもので、住宅と業務施設、商業施設を一体とした開発を進めています。
 商業施設は地下1階地上6階建で、このうち店舗は1〜5階となります。店舗面積約7万6000m2で、JR川崎駅の自由通路とはデッキで2階レベルで直結。このため1階を日常的な空間としてまとめ、駐車場も設置するとともに、2階以上は"非日常的な空間"とします。

 1階には、(株)三和の食品スーパー「スーパーsanwa」や食の専門店、フードコートなどを配し"首都圏有数の食ゾーン"を構築するとともに、ホームセンターのユニリビングや書店の丸善などを導入。2〜5階は大型家電量販店の「ビックカメラ」や(株)東急レクリエーションのシネマコンプレックス(シネコン)、コナミスポーツ(株)のスポーツクラブの出店が決まっているほか、アパレルや雑貨の専門店などの導入を予定。総店舗数約300店という大規模商業施設となります。


 川崎駅周辺には、すでにヨドバシカメラとさくらやが出店していますが、LAZONA川崎にビックカメラが出店することで3大家電量販店が出揃うことになりますので『電気の街・川崎』というアピールをしていきたいと考えています。パイを喰いあうのではなく、3店が揃うことで多くの人が集まることになると思います。

 シネマコンプレックスも同様で、すでに川崎駅東口に「チネチッタ」と「TOHOシネマズ」ありますが、東急レクリエーションが加わることで『映画の街・川崎』をアピールすることができます。
 また昨年7月には、川崎駅西口の南側に約2000席のシンフォニーホール「ミューザ川崎」がオープンしましたが、川崎市では『音楽のまち・かわさき』を標榜していますので、われわれも音楽ということで何か考えたいと思っています。
 これほど駅に近い商業施設の開発は、当社にとってもはじめてのことですので、新しい都心型の専門店も誘致したいと考えています。
 

水に囲まれた景観が特徴の「豊洲」では
建物も船を意識した設計のものになります

−東京・江東区で進めておられる「(仮称)豊洲プロジェクト」は、石川島播磨重工業(株)の造船ドックだったところですね。

糸久 そうです。ドックは2基あったのですが、そのうちの1基を埋め立て1基は残しています。このプロジェクトは2200台の駐車場を持った都心部で最大級の商業施設になります。徒歩約3分のところに東京メトロ有楽町線の豊洲駅がありますが、06年春には「ゆりかもめ」が豊洲駅まで延伸して有楽町線と接続するので、さらに便利になります。

 周辺はマンションの建設が進むなど人口増加地区ですが、量販店の競合も厳しくなっています。そこで、いろいろ検討して、食の分野では静岡県内で店舗展開している「アオキスーパー」に出店していただくことになりました。アオキスーパーは、独自のバイヤー組織をもつ企業ですので、競合に十分対応できると考えています。上層階にはユナイテッド・シネマ(株)のシネマコンプレックスやスポーツクラブ、エデュテインメントタウン「キッザニア」、それに東急ハンズ、紀伊國屋書店などが出店を予定しています。

−キッザニアというのはどういう施設なのですか。

糸久 これはメキシコから誘致した施設で、幼稚園から小学校低学年層を対象にした職業体験エンターテインメント施設です。約50のブースがあって、そこでいろいろな職業を体験し楽しむというもので、メキシコでは年間80万人の来場者があるということです。ウイークデイは学校の課外授業としても利用されており、土日は一般開放されています。施設内のみで使える"疑似マネー"で、お金の使い方も学ぶことができます。メキシコでは小さなお子様を持つ方にとても喜ばれているそうです。

 有料入園制で、1タームが5〜6時間。1日2タームの入替え制になります。インストラクターが付いて、銀行があって預金もでき、次に行ったときに引き出して使うことも可能です。ご両親が子どもたちの様子を見る場所も用意されています。広さは1800坪くらいで、そこに50〜60のブースを設けます。一度に体験できるのは4、5ブースですから、何度も来て楽しめます。

−面白い施設になりそうですね。豊洲の開発計画図を拝見しますと、それぞれのゾーンが船の形になっていますね。

糸久 豊洲プロジェクトは水に囲まれた景観が特徴ですので、建築デザイナーのジョン・ローも、船を意識した形を採用しました。ウォーターフロントですので、会員制のクルーザークラブに使用してもらうとか、観光汽船が立ち寄るようにするなどという案も検討しているところです。

−基本的にはインモールでありながら、オープンモールと同じような形で一つの街を構成していますね。

糸久 もともとドックのあったところには基礎が打てないので、ドックを外して建物を建築しなければなりません。それでこういう形になったのです。

「LAZONA川崎」完成予想図 「(仮称)豊洲プロジェクト」完成予想図
左●「LAZONA川崎」完成予想図
右●「(仮称)豊洲プロジェクト」完成予想図

 

「ららぽーと横浜」は
4大プロジェクトで
最大規模となります

−4大プロジェクトは、外の空気を吸いながら楽しめる空間ということで共通していますね。今年8月24日に開通する「つくばエクスプレス」の「柏の葉キャンパス駅」前で進められている「(仮称)柏の葉キャンパス駅前プロジェクト」は、どのような特徴があるのでしょうか。
 
糸久 柏の葉キャンパス駅前プロジェクトは、周辺に東京大学柏キャンパスや千葉大学環境健康フィールド科学センター、東葛テクノプラザなどの施設が集積していることから、「つくばエクスプレス」の開通に伴い同地に「柏の葉キャンパス駅」が開設されることとなりました。

 当プロジェクトの開発地は、当社が「柏ゴルフ倶楽部」を展開していたところで、敷地面積は約4万2000m2です。この街全体のコンセプトについても基本的にはローハウスということを採り入れたSCにしたいと考えています。それから自然を大事にし、緑を多くするということを考えています。

 (株)松竹マルチプレックスシアターズのシネコンの出店が決まっていますが、柏はシネコンがない地域なので、これができると初ということになり、かなり集客の力になると思います。またスポーツクラブ、食品スーパーと専門店などを導入する計画です。建物は地上4階建で、店舗面積は約3万6400m2、店舗数は約170店舗になります。

 
−4大プロジェクトのなかでも最大となるのが、横浜市都筑区に誕生する「(仮称)ららぽーと横浜」ですね。

糸久 開発地はJR横浜線鴨居駅の近くのNEC工場跡地の約10万m2で、「TOKYO−BAYららぽーと」の3分の2ほどの規模になります。「イトーヨーカドー」が出店するのと大丸が約5000m2の規模で食の分野に絞った店舗を出店することが決まっています。

 周辺は教育に熱心な地域でして、子どもさんの教育だけでなく、大人も自分を高めるのに積極的だという調査結果が出ています。そこで、カルチャーということをキーワードにSCをつくるということを考えており、3階の半分くらいを使って一大カルチャーゾーンをつくる計画を進めています。

−それぞれのオープンはいつになりますか。

糸久 川崎、豊洲、柏は、それぞれ来年の秋、横浜は07年春を予定しています。

「(仮称)柏の葉キャンパス駅前プロジェクト」完成予想図 「(仮称)ららぽーと横浜」完成予想図
(左)●「(仮称)柏の葉キャンパス駅前プロジェクト」完成予想図
(右)● 「(仮称)ららぽーと横浜」完成予想図

 

ライフスタイルパークでの
経験を活かして
地域コミュニティづくりへの
取組みも進めていきます

−いずれの施設も規模が大きいですが、4大プロジェクトの推進にあたっては「ライフ・ソリューション・コミュニティ」というコンセプトを打ち出していますね。
 
糸久 われわれがいま考えているのは、ただモノを売るということではなくて、お客様にライフスタイルのソリューションを提供したいということです。これはどのデベロッパーも口にすることですが、実際に行うのはなかなか難しい。われわれはそれを何とか具現化したいと思っています。

 そのためには、お客様のもともとのライフスタイルを知る必要があります。それは地域によって異なりますから、まずそれを把握し、どういうソリューションをつくるかを考えていく必要があります。また施設がオープンした後も、お客様とのコミュニケーションを深め、その声を聞きながら手直ししたり、新たなものを入れたりしていくことが大切です。これをやり続けないと、本当のライフスタイル・ソリューションになりません。
 
−ハードの部分やテナントミックスの部分では一応皆さんもいろいろ考えるのですが、オープン後のソフトについては手が回らないという気がしますね。

糸久 当社では、04年3月にオープンした"ライフスタイルパーク"の第1号施設「LALAガーデンつくば」で地域コミュニティ組織づくりを行っています。そのノウハウを他でも活用して地域コミュニティをつくり、そこで聞いた話をもとに新たなハードやソフトを付け加えていくということをやりたいと考えています。

−リージョナル型SCでは、広域からお客さんを呼ぶと同時に足元の着実なファンをつくるということを行う必要がありますが、テナントミックスの場合、その辺がなかなか難しいのでしょうね。

糸久 難しくても、両方に対応していくということだと思います。足元商圏からご来店になるお客様に対しては利便性ということでのテナントミックス、遠方からお越しになられるお客様に対しては買い回り性を考えてのテナントミックス、その両方をうまく兼ね備えていくということです。

 しかし、そこまではありきたりの話で、それに加えて"ライフ・ソリューション"をどう示していくかだと思います。ただ、それは私たちが口でいくら説明したとしても、お客様がご覧になったときに本当にそう感じていただけないと意味がありません。「あ、違ったものをつくっているな」とか、「こういう意味で展開しているな」とか、「自分たちの気持ちをわかってくれているな」とか。そういうことが本当に伝わらないと差別化にはなりません。自分たちの理屈だけでつくって満足しているだけでは駄目で、お客様の評価がどうかということが重要です。したがってコミュニティを大事にしながら、その意見を採り入れて、随時手直ししていくということが重要になってくると思います。

−最近は新しい業態がなかなか出てこないのでテナントのリーシングで差別化が難しいという声を聞くのですが、そのことについてはどんなご意見をお持ちですか。

糸久 時代に合わせて考えているテナントと、いままでの路線の中にいるテナントと両方あるのではないかと思います。それから、ショッピングモールの開発では百貨店がまだ出てきていません。そうするとモールの構成として、コスメとか靴で感度の高い店舗が揃いません。ファッションでは感度の高い店を揃えたとしても、コスメや靴、バッグなどは、やはり百貨店の売場には勝てません。われわれはいま、そういう部分を、テナントと協力してなんとかできるようにしようと取り組んでいます。デベロッパーとテナントが協力して新しい業態開発を手がけていくということが、これからは大切だと思います。

−SC開発で百貨店を誘致するということについてはどのようにお考えですか。

糸久 ぜひやってみたいですね。アメリカの郊外のショッピングモールで核となるのは量販店ではなく百貨店ですからね。日本の百貨店の場合、モールに出るにあたっては業態改革が必要かもしれませんが。向こうの百貨店はそれぞれSCの中で独自色があります。日本もSCの中で独自色を発揮できる百貨店が出てきたらと期待しています。

−ららぽーとの開業からすでに20数年が経ちますが、ららぽーとという現場から、多くのことを学ばれたのではないでしょうか。

糸久 そうですね。通り一遍の運営ではSCは育たないということだと思います。テナントとどれだけ掘り下げた話ができるかということが大切です。たとえば各店の売上のデータがありますが、それだけを見るのではなく、そのことと合わせて消費者がどう動いているかという情報をこちらからテナントに提供することで話を深めていくのです。

 ららぽーとでポイントカードを導入していますが、ポイントカードはお客様への還元という側面と同時に、お客様の購買履歴のデータを収集するという面があります。そのデータをもとにすることで、テナントと深く掘り下げた話もでき、そうしたことで進歩した運営ができるのではないかと思います。運営、販促というと、とりあえず来店客を集めて、あとはテナントの力ですよというのが過去のSCの姿でしたが、そういう時代は終りつつあります。テナントと運営側が一緒にやることでいい結果が出ます。するとそれをほかでも提案できる。そういう循環を生み出していくのが、本当の運営や販促ではないかと思っています。

−最後に、今後の商業施設の開発について、どのようにお考えですか。

糸久 今後も積極的に取り組んでいくつもりです。自分たちで所有するだけでなく、ファンドやリートというやり方もありますから、そのなかでいろいろと考えていきたいと思っています。

−施設ができるのが楽しみです。本日はお忙しいなか、どうもありがとうございました。
 

関連サイト: 三井不動産株式会社
 
 
糸久氏 糸久 昌雄氏
いとひさ まさお●1975年三井不動産(株)入社、90年広島支店次長兼アルパ ークオフィス所長、91年商業施設事業本部SC事業部運営管理課長、97年(株)ららぽーとに常務取締役として出向、2004年三井不動産商業施設本部プロジェクト推進部長、05年商業施設本部リージョナル事業部長(現任)

大西 直良氏
おおにし なおよし●SCおよび不動産実務に関するコンサルタント会社、(株)ウエルウエスト代表取締役。日本ショッピングセンター(SC)協会の理事・事業開発委員長。亀戸の「サンストリート」の開発・運営会社、タイムクリエイトの前・代表取締役。
大西氏

 
 

このページに掲載の内容、写真などの転用をお断りします。
Copyright 2004 TANSEISHA.co.,ltd.
All right reserved.