トーク * Break! NEO専門店!! 連載13回
 
(株)日影茶屋
(株)チャヤ・マクロビオティックス

 
角田 庄右衞門氏
(株)日影茶屋 (株)チャヤ・マクロビオティックス 代表取締役  
聞き手/ (株)丹青社 営業開発室 SCマーケティング研究所 所長 松本 大地
 
「継承する味」と「創造する味」の調和を追求する同社では、老舗料理店でありながら、スタイルにこだわることなく、常に一流の食文化を発信。
食を通じた新しいライフスタイルを提唱している
 

 
 江戸中期に葉山・鐙摺(あぶずり)港近くの料理茶屋として創業した日影茶屋は、神奈川の老舗日本料理店として、宮家の方々や文化人、財界人など数多くのファンに支持され、確固たる地位を築いている。現当主である10代目・角田庄右衞門氏は、洋菓子店、仏料理店を開業するなど次々と新しい分野に挑戦、そのいずれも成功に導いてきた。そして近年では「マクロビオティック」(注1)を通じてわが国本来の食文化を世界に向けて発信するという試みに着手している。
 今回のインタビューでは、若いときから現在までの取組みをひも解くとともに、将来の夢について語っていただいた。

 
エリアとして楽しめる
"茶屋ビレッジ"を構想

 
―江戸中期の創業と聞いていますが、何代目ということになりますか。

角田氏 角田 庄右衞門という名では10代目です。古い記録ではその前に4代あるとなっているようです。この辺りは江戸がまだ葦の原だった鎌倉時代から人が住んでいた古い土地柄です。港があり、交通の要衝として栄えた宿場町で茶屋ができた。つまり、最初はこの辺の山海の珍味を提供する小さな料理屋だったわけです。それが段々大きくなって、「一大楼閣を有す」などとものの本には書いてあるようになります。それから明治になって葉山に御用邸ができましたが、それ以降、皇族や財界の方々も別荘をつくられるということで、この地域が大きく変わったわけです。

―同時にこちらの店も発展されたということですね。

角田 さらに戦後、進駐軍が葉山や逗子に来たということで欧米の文化が入ってきた。ですから私が子供の頃、店には宮様方がよくお見えになりましたし、米軍の将校がパーティを開いたりしていましたね。
 いまの葉山という町は、いろいろな文化が一緒に存在しているというのが最も大きな特徴だと思います。そして、それぞれ一流ということにこだわっているということですね。

―異文化に囲まれどのような子供時代を過ごされたのでしょうか。

角田 家はお客さまが中心ですから、忙しいと子供は放っておかれる。ですから、夏は海で冬は野山で朝から晩まで遊んでいました。

―お店には石原慎太郎さん、裕次郎さんのご兄弟もよく来ていたそうですね。

角田 ええ。近くに住んでおられたので。裕次郎さんにはよく肩車をしてもらいました。また慎太郎さんのヨットにはクルーとして参加させてもらっていました。

―多様な文化と素晴らしい自然、そういう環境で育ったことが現在の事業展開につながっていると思います。昭和47年に洋菓子の店「パティスリー ラ・マーレ・ド・チャヤ」を開業されました。それまでは「和」一筋だったわけですが、その狙いはどういうことだったのでしょうか。

角田 友人がこの辺りに遊びに来たという話を聞いていると、この周辺は訪れる人にとってどうもはっきり目的地になるところがないところと映っているようだということを感じたわけです。そこで食事をしてすぐに帰るのではなく、お茶やケーキも食べられてゆっくりしていただけるところをつくったら、そういう目的地として来ていただけるところになるのではないかということを考えたわけです。ちょうど遊休地もありましたので、エリアとして「茶屋ビレッジ」のようなものができるといいなという構想もありました。
 そこで、つくるなら一流のケーキということで、フランス料理店のパティスリー部門でシェフをしていた人をスカウトして始めたわけです。建物もヘンリー・オン・テムズというロンドン郊外の街にある素敵なアフタヌーンティーの店を参考にしました。最もケーキを買う層は年代的にいうとヤングマダムですから、そういう方々に一生懸命手書きのDMを出したりしましたが、そういう努力が実を結んだこともあって予想以上に人気が出ました。

―まだ20代の若い時でしたが、時代のスタイルを読む感性が鋭かったということですね。洋菓子店の5年後にはフレンチレストラン「ラ・マーレ・ド・茶屋」も始められましたね。

角田 和食の次は洋食だということで、これも茶屋ビレッジの構想の一つです。この店は海に面したベネチアの雰囲気にしようということでつくりました。
  ケーキが人気になったのでその専門店を広げていくというやり方もあるでしょうが、マニュアル化によってリモートコントロールするような形はどうも苦手なので、自分の目の届くところに店をつくろうという考えですね。

―その時、シェフの熊谷喜八さんとの出会いがあるわけですね。

角田 その頃の日本のフランス料理は慇懃無礼で楽しくないと感じていました。フランスに旅行に行った時、当時パリで修行されていた熊谷さんにお会いして、失礼を顧みずにそういう気持ちを話したら、一緒にやろうということになって10年間一緒にやってくれました。彼は本当にすごい人です。よく10年間一緒にやってくれたと感謝しています。

日影茶屋本店。趣きのある建屋が老舗料理店の歴史を感じさせる。 店内から中庭を臨む。純和風の落ち着いた環境のなかで、季節の折々に旬の食材を楽しむことができる
(左)●日影茶屋本店。趣きのある建屋が老舗料理店の歴史を感じさせる。
(右)●店内から中庭を臨む。純和風の落ち着いた環境のなかで、季節の折々に旬の食材を楽しむことができる

フレンチを提供する「ラ・マーレ・ド・茶屋」。葉山の海に面した絶好のロケーションに立地 和・洋菓子舗「チャヤ逗子店」。逗子駅前に立地。世界唯一のスターバックスコーヒーとのコラボレーション店
(左)●フレンチを提供する「ラ・マーレ・ド・茶屋」。葉山の海に面した絶好のロケーションに立地
(右)●和・洋菓子舗「チャヤ逗子店」。逗子駅前に立地。世界唯一のスターバックスコーヒーとのコラボレーション店

 

マクロビオティックを通じて
日本料理が本来もつ
食文化を世界に発信

―昨年、(株)チャヤ・マクロビオティックスという会社も始められましたが、これはどういうことで事業化を考えられたのですか。

角田 一つは食にかかわる仕事をしているうえで社会に貢献したいという気持ちからです。本当に美味しいものを楽しい雰囲気の中で提供することも大事ですが、もう一歩進んで身体にいいということで貢献できないかということです。最近は食が大変乱れてきており、正しい食のあり方を見直さないといけないのではないかと考えていました。
 もう一つの理由は、日本人が世界に役立つ方法はないかと考えていたということがあります。その時にマクロビオティックを知ったわけです。現在マクロビオティックは久司道夫(注2)先生が中心となって世界に普及されている正しい食事による健康法ですが、大まかに言うと動物性脂肪は使わない、白い砂糖は摂らない、卵・乳製品を食べないということを原則にしています。また、その土地のものを旬の時期に食べる。あまり精製せずにその食物の全体を食べる。これはまさに日本料理の考え方ですが、それが身体にいいということがわかってきたわけです。また食の分野に限らず、かつての日本人の生活の中にはものを大事にし、それを恵んでくれる自然や周囲の人々に感謝するという文化があった。これもマクロビオティック的な考え方と言えます。8年前に久司先生にお会いし、日本人がそういうマクロビオティック的な考えを広めていかなければ地球は駄目になるということを聞いて感銘を受け、それで身体にやさしい食品を売る「チャヤ・マクロビオティックス」を始めたわけです。
 私もいろいろな勉強をしましたが、シェフたちにも勉強させまして、いま、私どもでは日本料理、フランス料理、洋菓子部門の5人のシェフが久司先生認定のマクロビシェフの資格を持っています。

―料理のプロにとっても新しい驚きだったのではないでしょうか。

角田 煮たり焼いたり蒸したりという料理の基本は同じで、美味しく火を通すというのは変わりません。その上にマクロビオティックの考え方をプラスするということです。ですから、一見地味な感じがするマクロビオティック料理ですが、本当に美味しいですよ。身体にいいといっても、やはり美味しくないと、食べ続けられませんからね。ハレとケということでいうとマクロビオティック料理はケの料理だと思いますが、おいしく食べるには基本的な料理の技術が必要です。私どもが提供するのはプロの料理です。昆布だしを使い、それに野菜の旨みを重ねていく。そこにプロとしての技術と演出があるわけです。

―先日、私も伊勢丹で食事をしましたが、店も独特の空気感があって、お客さまがおいしく楽しく食べているのがわかりました。やはり料理は見て楽しく、食べて美味しいということが大事ですね。

角田 最初、葉山に店をつくろうと考えていたのですが、マクロビオティック料理を食べた伊勢丹の方がぜひ伊勢丹から始めてほしいとおっしゃったので、伊勢丹の本店から始めました。お好み食堂という子供からお年寄までを対象にした広くて浅い食堂が基本であった百貨店でのレストランとしては、マクロビオティック料理は深いけれど狭いので最も不向きな料理ではないかという一抹の不安もありましたが、時代の風は絶対にこの方向であると確信した通り、現在もお客さまが増えつづけております。

―まさに"食"への時代の要請だと思います。ですから伊勢丹からスタートしたというのは成功でしたね。

角田 出店したタイミングも良かったのだと思います。マクロビオティックはマイナーな領域でしたが、それがメジャーになるちょうど境目の時期だったということでしょうね。

―最近は多くの雑誌もこぞってマクロビオティックを特集するようになり、多くの人々が注目していますね。

角田 フランス料理店はたくさんありますから競争が厳しく、サービスに気を遣います。マクロビオティック料理は身体にいいのだからということで、美味しく食べる工夫や店としてのサービスが二の次になりがちです。しかし、これからは競争相手も増えてくるでしょうし、サービスをきちんとしていくことが大事だと思います。

―チャヤ・マクロビオティックスの多店舗展開は考えていますか。

角田 ビジネスとしてはレストラン部門とリテール部門の二つの柱がありますが、リテール部門に関してはまだまだいろいろなものを揃えていかなければならない段階です。商社的にものを仕入れて売るということは難しいですから、自分たちの生産したものを売るようにしたい。そうするにはまだ時間がかかります。輸送が発達してパンやケーキも送れるようになっていますし、インターネット販売も伸びてきていますが、まずは「見せ場」としてカフェ・スタイルでの展開を考えています。ライトランチとカフェとスイーツと食材を置いておく。すると20〜30坪の広さで展開できます。

―それだとOLの方が気軽に寄れるような店になりますね。ぜひとも駅ビルで展開したい。

角田 そうですね。マクロビオティックだからということであまり堅苦しく考えずに、ノーシュガー、ノーミート、ノーミルク、それにできうる限りオーガニックということでいいと思います。
 この9月に鎌倉駅の西口にチェーン店のコーヒーショップの大きな店ができますが、その中にチャヤ・マクロビオティックスの店をつくる予定です。

―それは素晴らしい。
 身体に良い食生活を実践するというと、これまでややもすれば精神性や宗教的な側面が強くなる傾向があり普通の人には近寄り難いイメージがありましたが、そうならない切り口が大事だと思います。楽しくなければ、美味しくない精進料理と変わらないということになりますからね。

角田 おっしゃる通りです。精神性や哲学はもちろん大事ですが、とんがり過ぎてはいけない。チャヤ・マクロビオティックスは先鋭的な意識をお持ちの方とまったく関心のない方のちょうど中間を対象にしていきたいと考えています。本物だけれど、あまりうるさいことは言わないという考え方です。
 日影茶屋グループのホームページを開設していますが、そこにアクセスされる方の中でマクロビオティック料理に関心を持たれている方の割合は非常に高いですね。メール会員の数がいますごく増えています。また、私どものグループに就職したいと言ってくる若い人も、マクロビオティックス部門を希望する人がすごく多くなっています。彼らは食を通じて世の中に貢献したいと考えているわけで、勉強しているし非常に意識が高い。

―それをうかがって、うれしくなりました。とてもいいお話で、これからの時代に光が見えたような気がします。

角田 今の若い人は理想や夢がないとよく言われますが、けっしてそんなことはないと思いますよ。

「チャヤ マクロビ ショップ葉山店」。地元で獲れるフルーツや野菜など季節のローカルフードを採り入れ、旬の味覚を提供する 「チャヤ マクロビ ショップ葉山店」。地元で獲れるフルーツや野菜など季節のローカルフードを採り入れ、旬の味覚を提供する
「チャヤ マクロビ ショップ葉山店」。地元で獲れるフルーツや野菜など季節のローカルフードを採り入れ、旬の味覚を提供する
 
「チャヤ マクロビ レストラン 新宿店」。2002年3月、同社の展開するマクロビオティックレストランの1号店としてオープン 「チャヤ マクロビ レストラン 新宿店」。2002年3月、同社の展開するマクロビオティックレストランの1号店としてオープン
「チャヤ マクロビ レストラン 新宿店」。2002年3月、同社の展開するマクロビオティックレストランの1号店としてオープン

 
現代社会において食の果たす役割は
とても大きいと考えています

 
―最後に今後の夢をお聞かせください。

角田 葉山にマクロビオティックの総本山のようなものもつくりたいですね。それから、マクロビオティックの学校をつくりたいですね。いま服 部学園から声を掛けていただいて、子供のための食の教育である「食育」の活動に協力させていただいています。子供たちが健全に育つには食べものが一番重要です。食べものによって健康になり、健康になることでいろいろがんばれるし、人にも優しくなれる。日本でいま起きているさまざまな事件、問題はそういうことでないとけっしてなくならないと思います。

―確かに、現在の食の乱れは深刻な問題ですね。

角田 家庭の食事が教育に果たしていた役割はすごく大きいのです。食べるということへの感謝の気持ちがある。食べるときの礼儀作法がある。家族のコミュニケーションがある。

―食は家庭教育の重要なステージと感じます。

角田 いまは皆さんが忙しくて、そこがおろそかになっているケースが多いわけです。教育ということもありますが、少なくともいいものをきちんと食べていれば、いらいらしやすいとか切れやすいという状態は少なくなるわけです。食べ物が悪いとそのことで子供たちの身体や精神が蝕まれてしまいます。マクロビオティックは、家庭で実践してこそ意味があるのです。
 かつて都市の食事を調べたところ、日本の食事が一番良くてアメリカの食事が良くなかった。それで久司先生はまずアメリカでマクロビオティックの活動を始めたそうです。しかし、いまは日本の食事が悪くなってきています。

―子供だけでなく、食が乱れると生活習慣病など、大人にも影響が大きいですね。

角田 そうですね。そのことと関連するのですが、大きな病院と提携して、食で病後や産後の方の体調を整えるシステムもつくりたいと考えていて、いまいろいろと話を進めているところです。病院関係の方には注目していただいていて、いろいろなところからお声がかかって講演をさせていただいたりしています。

―いま病気治療の現場で、食べるということの大切さが改めて見直されているようです。単に栄養を摂ればいいということではなく、美味しく食べることが重要で、それによって身体が活性化し病気の回復も早くなるということですから、それは今後とても大きな可能性があると思います。日影茶屋グループの一流の味が病気の回復に大きな役割を果たすそのシステムは、ぜひ実現していただきたいですね。

角田 夢はいろいろあるのですが、一度にはできないので、徐々にやっていこうと思っています。

 
―「体に良くて美味しい病院食」とても素晴らしい発想です。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
 

注1 マクロビオティック
 ギリシャ語で「大いなる(マクロ)生命(ビオティック)」の意。現代では「長寿食」を意味する。チャヤ・マクロビオティックスの料理は、マクロビオティックの料理法に則り、入手可能な限りの未精白の完全穀物、有機栽培の農産物、天然海草や、伝統的製法で作られた天然調味料を使用し、肉類、卵、バターやクリームなどの乳製品および上白糖は、一切使用せずに調理している。  型にはまった堅苦しい食事法ではなく、むしろ気候風土、環境、個人の体調、性別、年齢、活動レベルなど個人的な必要性に応じた柔軟性を持つ

注2 久司道夫
 久司道夫(くしみちお)氏プロフィール■1926年和歌山県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院修了後、マクロビオティックを提唱する桜沢如一氏に師事。1949年渡米、コロンビア大学大学院にて国際政治学を専攻、世界平和への道を探究。以来、世界平和を目指して、アメリカを本拠地に世界各国でマクロビオティックの普及啓蒙活動を精力的に行う。99年、米国国立歴史博物館「スミソニアン」に日本人初、現存者として初めて文献・研究資料の永久保存が決定。現在、久司財団(1980年設立)会長のほか、多数の要職を兼務。

関連サイト : 日影茶屋 

対談後記 
松本  角田さんとは、サンクスネーチャー岡田社長(tansei.net第4号NEO専門店参照)の紹介で数年前からのお付き合い。いつお会いしても自然体で、少しも偉ぶったところが見当たらない。幼少時代の過ごし方が、今の根本的な人間性や事業の感性を醸成してきたようだ。時代とビジネスの相関関係は、変化と進化の繰り返し。ちなみに、スターバックスの角田社長は義兄にあたり、ビジネスと人生の両面で庄右衞門氏の師であると同時に双方で良い時代感覚を創られている。
 さて、アメリカ社会では骨粗しょう症による車椅子姿の人が目立つ。そのためか、正しい食生活への関心が高く、元大統領、トムクルーズ、マドンナなどの有名人をはじめマクロ愛好家は200万人以上となっている。
 "美と健康"への追求は、現代生活者の最大の関心事であり、SCマーケティング研究所では「マクロビオティックスとスローフードの可能性調査」を終えたところである。
 今後、マクロビオティックス業態は日本のショッピングセンターにおいて必須アイテムになるのは間違いない。21世紀は文化価値が中核になることを改めて痛感した対談であった。

 

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