トーク * Break! NEO専門店!! 連載11回
サンクゼール・ワイナリー
 
久世 良三氏
(株)斑尾高原農場 代表取締役 
聞き手/ 営業開発室 SCC2部 部長 松本 大地
 
「田舎の良さを都会に伝えたい」。
生産から商品化、販売に至るまで"カントリー・カンフォート"というコンセプトに貫かれた同社の活動は、高感度な消費者を中心に大きな支持を集めている


 
 "カントリー・カンフォート(田舎らしい心地よさ)"をコンセプトに、地元長野産の果物をはじめとする新鮮で安全な素材を使用した良質なジャムやワイン、ドレッシングなどの製造・販売を手がける(株)斑尾高原農場。現在、同社が展開する直営ショップ「サンクゼール・ワイナリー」は、その商品力を背景として多くのユーザーに支持されるのみならず、全国のショッピングセンターからも熱いまなざしを向けられる注目店でもある。 2003年5月の東京ドームシティ・ラクーア店(13店舗目)で首都圏初進出を果たし、以降も全国の話題の商業施設へ相次いで出店。11月末現在で全国25店舗と躍進中だ。
 
糖度を抑えた
手づくりジャムが出発点

 
―私が「サンクゼール」の店舗を初めて訪れたのは、小淵沢の八ヶ岳リゾートアウトレットでした。その後、東京ドームシティ・ラクーアで首都圏初出店をされ、さらに関西・九州と急速に拡大されました。現在の店舗数と出店された各地での反応はいかがでしょうか。
 
久世氏 久世 現時点では22店舗ですが、いま銀座・阪急のモザイク、梅田の阪神、ららぽーと甲子園への出店を進めていまして、それを合わせると11月末の時点で25店舗になります。

 地元長野県でも小淵沢でも反応は安定していて非常に良い状況です。東京では有楽町のプランタンは予定どおり、京王百貨店は予定の140%以上、また大阪のなんばパークスは予想をはるかに上回り2倍以上の成績を上げています。なんばパークスの商業施設としての存在感と大阪のお客さまの食への嗜好がうまく合ったのだと思います。

 
―斑尾高原でペンション経営をされた後、糖度の低いジャムを世に広めたいとの思いで食品の製造販売に進まれたと聞いておりますが、創業にかかわるエピソードをお聞かせください。
 
久世 私は若いとき独身でペンションをはじめたのですが、2日目に来たお客が女房でした。出会って半年後に結婚しましたが、スキーばかりしている私に愛想を尽かして、2年目に実家に帰ってしまったのです。そこではじめて向き合って話し合いをし、ペンションを閉めて愛のある家庭を築きたいという彼女の気持ちを理解したわけです。
 
―やはり好評の手づくりジャムが原点だったんですね。
 
久世 ジャムについては素人考えで砂糖の少ない方が体に良いのではないか、添加物が無い方がいいのではないかということで、砂糖を控え目にしたジャムをつくってお出ししたら、お客さまが非常に新鮮に受け止めてくださいました。それで御土産に袋詰めのジャムを差し上げていたのですが、それが非常に評判になりましたので、ビン詰めにして商品化してみてもいいのではないかと考えました。75年にペンションをオープンして3年後くらいからジャムをお出ししていて、78年か79年頃には脱ペンションと並行してビン詰めを売り出すようになりました。
 
―当初は、事業資金などの苦労もあったのではないでしょうか。
 
久世 最初は10万円くらいしか遣っていません。無いなりに工夫してやりました。 工場もありませんでしたから、近くの工場に委託して、ジープに乗るくらいの量を発注して、 手書きのラベルをつくって、やってみたら、それで資金が集まってきました。 従業員もいませんでしたし、大きな投資もしていませんでしたので、売った分だけ利益がでて、 ペンションは苦しかったのですがジャムの方は比較的順調にいきました。
 
(左)●レストランサンクゼール。ファームリゾートをコンセプトに自家栽培の無農薬野菜を使った欧風田舎料理を提供

(右)●眺望のよいレストランからは志賀高原や飯綱高原、戸隠が望める
 
(左)●サンクゼール・ワイナリー本店。ジャム、ワインをはじめ「そばパスタ」などのオリジナル商品も充実
(右)●よく手入れされた中庭は、ガーデンウエディングなどイベント会場としても利用される

 
フランス ノルマンディ地方の
成熟したライフスタイルに感銘

 
―いよいよこの三水村での大事業となるわけですが、当時の経緯をお聞かせ下さい。
 
久世 ジャムが行けそうだとわかりましたので、ペンションは売ってしまいました。そして、地元の中野市に倉庫と事務所を借り、「斑尾高原農場」というブランド名で販売していたのですが、お客さまからしだいに農場を見学したいという要望が出て来るようになりました。しかし実際の農場があるわけでもありませんし、自前の工場もありません。これではお客さまを欺いているのではないかという後ろめたい気持ちがありました。

 ちょうど、その頃、ペンションを売ってゆとりができたこともあり、何年か遅れの新婚旅行ということで女房と二人でフランスに旅行しました。2週間ほどレンタカーを借りてノルマンディーを巡ったのですが、景色も素晴らしいし、リンゴ園の中にブランディの醸造所があるという牧歌的な工場の在り方に感銘を受けました。また、どの田舎町にいっても、外見は地味だけれど、きちんとした郷土料理を食べさせるレストランが充実していて、そこでは中高年の落ち着いたカップルが食事をしている。そういう成熟した雰囲気に触れて非常に感銘を受けました。その後、ボルドーにもいきました。田舎で誇りをもって自分たちの食文化やライフスタイルに自信をもって暮らしている人たちをみることができてとても楽しかったですし、感銘を受けました。そこで目にしたフランスの生産者のあり方が、私たちに目指すべき方向を見せてくれたということがあります。またレストランのたたずまいが、それまで思っていたものと違い本当に自然な感じで、将来こういう世界を長野県で再現したいし、長野県には合うという思いがありました。また本格的なワインも体験して、感動をもって帰国しました。そこで、いろいろな人にその感動を伝え、実体をつくるべく土地を探したのですが、三水村の村長さんが賛同してくれまして村と共同で開発することになりました。また県の地域総合整備事業にも採択され、道路も作っていただきました。本当に運が良かったと思います。
 
―完成したのはいつですか。
 
久世 88年、私が38歳の時です。89年にはレストランをつくり、90年にワイン工場ができました。しかし、そこまでは良かったのですが、レストラン、葡萄畑、ワイン工場で資金が必要になり、借入金が膨らみました。ある時期から銀行さんの態度も変わりまして、それからは苦しい本当の意味の経営が始まりました。その苦しい時代に自分の限界を思い知らされ、女房に聖書を読んでもらうことで救われるという体験をしました。
 
―実は今年の夏休みに、家族でこの地を訪れました。その時に小さな教会やいたるところにキリストの言葉があるのを目にしました。キリストの教えが、企業のバックグラウンドとして存在していることがわかりました。
 
久世 いま考えると鬱的な状態だった思いますが、会社がつぶれそうなときに1年近く声が出なくなりました。田舎ではすぐにあそこは危ないという噂が広まるので、余計気持ちが萎縮してしまったということもあります。そういうときに女房が聖書をよく読んでくれました。それまで自分は仕事だけでやってきましたが、はじめて弱音を吐いたことで、女房が支えになってくれました。聖書の御言葉の中に、「神は耐えられないような苦しみは与えない」とか、「苦しみは試練のために与えるけれど、脱出する方法もちゃんと用意している」とか、あるいは「艱難が忍耐を、忍耐が希望を生み出す。そしてその希望は決して失望に終わることはない」というような言葉がたくさんあります。眠れないときには隣でいつも読んでくれ、それで救われたわけです。強いときのお前も弱いときのお前も神からみれば愛すべき人間だと。むしろ人間は砕かれたときに神を求める、それを神は喜ばれるのだと。そんなことですごく勇気づけられました。
 
―そういう精神が、いま経営においても生きているわけですね。
 
久世 これで会社も最後だというような時期がありまして、そのときに女房と2人で従業員を呼び、会社が駄目になるかもしれないという話をした時があります。それまで強くあらねばという経営者でしたが、そこではじめて差し迫った会社の実態について話し、自分自身でも情けなくなって泣いてしまいました。会社が大変なのだ、社長も弱い人間なのだと。それからは、みんながそれまでの3倍も働くようになり、会社の復興を支えてくれました。
 

 素晴らしい人たちがいたのに、それまで気付かなかったわけです。聖書を読むと、組織というのは眼の人もいるし鼻の人もいるし内臓の人もいるし、だれひとりとして無駄な人はいないのだとあります。それぞれのポジションでそれぞれのタレントを活かして仕事をするのが組織であるということが聖書に書いてありまして、それでやっと部下の話に耳を傾けるようになりましたし、心から周りの人たちに感謝できるようになりました。その辺から会社も変わって来ました。
 

 現在では、会社の理念の中に聖書の精神を取り込み、会社のスタッフ全員に浸透させていきたいと考えております。 ゴスペルを歌ったり、聖書の学びと言う勉強会を開催したりと、クリスチャンになってもらいたいと言うのではなく、 人としてどうあるべきか、どう生きて行くべきかを聖書の中から学んで欲しいと考えています。 一人一人の生き様が、会社の生き様になり、私たちが目指すべき誠実な会社へと成長すれば、 これほどうれしい事はありません。そしてそれは必ずお客さまにも伝わるものだと信じております。
 
―お客様はお店の雰囲気で会社の姿勢を察知しますね。ところで、サンクゼールという名前の由来を教えてください。
 
久世 レストランをつくるときに「久世さん」をもじってサンクゼールと付けました。スペルについてはフランス人の方にアドバイスをいただいて、フランスには該当する言葉がないことを確認して造語しました。
 
(左)●ワイナリー。工場見学や試飲などの体験も可能

(中)●サンクゼール・チャペル。ブライダルユースだけでなく、小さいながらも礼拝を行なう本格的な教会
(右)●長野県三水村の本店には10万m2のブドウ畑を中心にワイナリー、ジャム工場、レストラン、チャペルなどが展開される

 
カリフォルニアのナパヴァレーを参考に
独自のビジネスモデルを構築

 
―ワイン工場のツアーに私も参加させていただきました。お客さまに葡萄畑から製造工場まですべて公開され、でき上がるまでの工程や美味しい飲み方の解説など、食文化を来訪者と共有したいという姿勢を強く感じました。
 
久世 精神はフランスを参考にするが、ビジネスのモデルとしては、当面カリフォルニアのナパヴァレーを参考にしていこうと考えています。  アメリカのカリフォルニアワインの産地であるナパヴァレーは50年の歴史しかありませんが、世界的レベルのワインをつくり、観光地としてもショップなどの運営でも成功を收めているエリアです。はじめて訪れたときに、歴史のないところにこれだけの素晴らしいワインづくりをするエリアができたということに感動しました。そして、われわれにとって、ビジネスモデルとしてはアメリカの方がキャッチアップしやすいのではないかと感じたわけです。ナパヴァレーでは、見学の方に試飲をふんだんにしていただくし、お客さまに面白おかしく説明をして会話を楽しむ。向うのワイン工場の見学ツアーのあり方がすごく楽しかったので、日本でもはじめました。
 
―モノがあるだけではなくて、その空間のなかに心地良さとか感動とか体験という無形なものが「サンクゼール」の中にはたくさんあります。会社のコンセプトとして「カントリー・カンフォート」ということを謳っていらっしゃいますが、まさにそういう感じがします。
 
久世 カントリー・カンフォートというのは田舎の豊かさとか快適さということですが、ありのままの田舎ではなくて世界的な田舎ということを考えています。いまのお客さまは海外に何度も行かれています。イタリアにもフランスにも、アメリカにも行かれて、本物を見ておられる。そういう人たちの眼から見ても、豊かな田舎、快適な田舎でありたいということです。そういう意味ではショップのあり方あるいは人間的な接し方も、やはり世界的なレベルで評価されてしまう時代であると思います。モノづくりもそうです。ですから常に世界水準のいい人たちと接する必要があります。うちのスタッフも、ヨーロッパやアメリカに研修にいっております。私だけでなくて、みんなに本物にふれてもらいたい。そこの中でお店づくりも商品も、磨き込んでいくということです。  去年、うちの工場長がミシェルグロー(Michel Gros)というワイン工場に研修に行きましたが、奥さんにもフランスの地方料理を覚えてきてくださいということで一緒に行ってもらいました。どうせわれわれが参考にするのであれば、言葉も文化も吸収して、奥さんにも協力して支えてもらえるようにしたいと思います。
 
 
日常品を売るショップではなく
田舎の良さを伝える食のブティックを目指す

 
―今後、「レストラン・サンクゼール」の出店の可能性はありますか。
 
久世 将来の夢としては、東京あたりに料理教室・レストラン・ショップというコンプレックスをやってみたいですね。人材がきちんと育ち、資金等の面でも余裕ができてやれればいいなと思います。
 
―最近、銀座のプランタンと新宿京王百貨店の8階にご出店されました。 どちらも素晴らしい店舗ですが、京王百貨店ではアクティブシニアをターゲットにした〈健康と美の広場〉 リフレピアというフロアですが、この融合には新しい魅力を感じました。手応えはいかがですか。
 
久世 お客さまが50歳代以上のきちんとした方々ですので、 納得されるとリピーターになってくださいます。オープンしてしばらく経ちますけれど、 すでに何度も来られているお客さまがおられるようです。
 
―これまでとは違った切り口による、新しいテナントミックスでの試みでしたね。
 
久世 うちの通販などのメイン層は40歳代、50歳代の方が多いですから、 京王さんではお店の客層とうちの狙っている客層がぴったり合ったということだと思います。
 
―お客さまは御社の商品を食品関連としてではなく、 生活関連型のファッションというカテゴリーで捉えているのかもしれませんね。
 
久世 私たちは、ジャムブティックであり、ワインブティックであると考えています。 お店の設計自体もそうです。
 
―そろそろブティックの良さというのは見直されてくるべきだと思います。自分たちの好きなものを、分かってくれる人だけに見てほしい、来てほしい、というのがブティックのオーナーのマインドです。御社も、この分野でのセレクトショップであってほしいという気持ちがあります。
 
久世 単なる日用品ではない、安らぎを提案したり、なにか身の周りにおいて楽しんだり、 そういうブランドになりたいですね。
 
新宿京王百貨店の8階、健康と美のフロア「リフレピア」に出店した「サンクゼール・ワイナリー新宿店」

 
―来年2月にスペシャルオリンピックスが長野で開催されます。なにかご支援をされているとお聞きしていますが。
 
久世 会社でボランティアとして応援しようということです。うちのゴスペルチームで、 選手たちを盛上げようと考えています。 長野は私どもだけでなくいろいろな方が協力しようということで、そういう機運が高まってきています。 前の長野オリンピックの時も、ホスピタリティを学ぼうとやはり会社で参加しました。 イベントというのは大変ですけれど、心の糧になりますね。
 
―最後に、将来の夢をお聞かせください。
 
久世 この近くに20万〜30万坪の森がありますが、その森をそのまま活かしながら、 リトリートセンター、つまり隠れ家的な施設をと考えています。 他人には言えないけれど、多くの方が鬱的な症状を抱えて苦しんでいます。 かつての私もそうでした。そういう方たちがセンターにきてカウンセリングを受けたり、 森を散歩したり、体を整えるようなトレーニングを受けたりして癒される。 また、子どもたちが自由に遊び回って、自然のことを学べたりするようなところにしたい。
 
  自分中心の価値観から、大いなるものの存在を認めて、その中で感謝する気持ちを持つ。 そういう教育をしたり、障害を持った人が働けるような職場をつくったり、 森の中にそういうものをつくっていきたいですね。
 
  資金的根拠があって言っているわけではありませんが、 こうしてビジョンを人にお話することで自分の頭を整理できるし、話していると、 それならこういう人がいるとか、そういう施設が海外にあるのでいってみようとか、 情報も集まってきます。まずは「ビジョンありき」です。いまは夢物語ですが、 共感してくださる方や心の健康にも配慮する企業の協力などを得ながら、地道にじっくり30年くらい かけてやるつもりです。自分のライフワークだと思っていますので、必ず実現させるつもりです。 私の唯一の取り柄はしつこさですからね(笑)。
 
 

対談は、久世社長の公私にわたってのパートナーである久世まゆみ氏も同席。
創業当初から現在に至る興味深いお話をきかせていただいた

 
関連サイト : 斑尾高原農場 〜St.Cousair〜 
 
 
対談後記 
 斑尾高原農場が日経流通新聞のトップで特集された時、マスから個への時代の風を強く感じた。 いったいこの企業の本当の強さはどこにあるのか。 幾つかの店舗で受けたその予兆は、本社を訪ねた際には確信に変わっていった。 その強さの源泉は、本社に溢れる志しに他ならない。 そこは環境、商品づくり、ホスピタリティーそしてフィロソフィーの聖地であった。 久世夫妻の自然体のオーラは言葉以上のインパクト。 「商業って、人間産業なんだな」と改めて思い知らされた。 北信濃の村からの食へのこだわりは、サンクゼールのお店を通じ、全国の人々に小さな幸せを届ける。 村おこしと食物販事業の新ビジネスモデル創造の先駆者として、 これからも時代にイノベーションの風を送り続けて欲しいと願う。
 
(株)丹青社 営業開発室SCC2部 部長 松本大地
 

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