トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言 連載第11回
 
"追随許さぬファッションの伊勢丹"軸に業界をリード
"伊勢丹ウェイ"の構築、一番乗りに成功

 
(株)伊勢丹 代表取締役会長  
小柴 和正氏
 
聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
  バブル崩壊後、大手百貨店を舞台とした競争は、一言でいうと"生き残りを賭けた改革競争"であった。第一ハードルである財務危機からいち早く脱却し、第二ハードルの営業開発でいかに先行できるかの競争であった。10数年の闘いを経て、その結果――"勝ち組の筆頭は伊勢丹"とオーソライズされるに至ったのである。その舵取りをしてきたのが、今回ご登場いただいた代表取締役会長の小柴和正氏である。改革競争10年間の闘いぶりと今後の課題等を聞いてみた。
 

百貨店業界をリードする"ファッションの伊勢丹"の新宿本店

リモデルされたメンズ館
 
 
 
3期6年協会会長の重責果たす
まだまだ試練が続く百貨店業界
地方百貨店を追い詰める難題

 
−小柴会長はこの春まで3期6年、日本百貨店協会会長という重責を務められました。この間、百貨店にとっては、大変厳しい冬の時代が続きましたが、いろいろご苦労も多かったのではないでしょうか。
 
小柴 とにかく、無事に大役を果たすことができて、いま、ほっとしているところです。重責を無事果たせたのも協会会員各社の皆さんが支えてくれたからで、私一人だけが苦労したわけではありません。
 
−この6年間の中で、一番ご苦労されたことはどういう点でしょうか。
 
小柴 100年、200年と歴史のある地方老舗百貨店や大手百貨店が破綻したり経営不振に陥ったことです。すべて初めて経験することばかりで、その対応に追われた日々でした。最も問題になったのは「全国百貨店共通商品券」で、破綻企業の共通商品券をどう取り扱うかということでした。いろいろな問題も噴出しましたが、混乱もなく何とか無事に済みました。
 
−まだまだ地方の百貨店にとって厳しい環境のようですし大変な時代が続くことになる…。
 
小柴氏 小柴 そうですね。国の政策は、依然、減反政策を堅持しており田畑が余ってくる。そうするとそれが狙われるわけです。デベロッパーが安く買って、広い駐車場と大規模な商業施設をつくる。一つそういう施設ができて、百貨店がいろいろな対応策を考えて実行し売上げがようやく戻ってきたと思ったら、また新しい大規模商業施設ができると――。それの繰り返しです。
 
ですから、そうした事が重なり業界全体の売上げは、この約10年の間に1兆円も激減しました。これが百貨店の現状ではないでしょうか。
旧来の繁華街は、後継者問題とか駐車場問題などで寂れているときに、近くに大きな新しい施設が出来たらどうなりますか。お客さまは、そっちに行きますよ。そういうことで、地方の老舗百貨店は、従来、いい場所に立地しているにもかかわらず、お客さまの来店が少なくなる。百貨店は重装備ですから、土地代が安くて経費がかからない大きな施設が出来ると、競争するのが大変なのです。
 
 
再生は「真似」より「独自性」で
「百貨店は不滅」が持論だが
地方店舗は困難の時代に

 
−ではどうするか!ということになりますが、これはなかなかむずかしい…。
 
小柴 いろいろなやり方があるでしょうが、基本は、お客さまのニーズにあった商品をしっかり揃え、より良いサービスでおもてなしすることです。さらに、店の独自性を出せるようなセンスのある商品を揃え、お客さまの身になって買い物のお手伝いをし、わかりやすく説明してあげる。気配り、目配りをしっかりしてサービスで差をつける。百貨店らしいよい商品を揃え、サービスを良くするということ、まずはこの二つが武器ですね。
 
スーパーマーケットと違うのは、われわれは対面販売でやっていることで、お客さまに納得して買い物をしていただく。それで再度の来店していただき、リピーターになってもらう。百貨店業態というのは、そういう特徴でできており、今日まで生きてきたのです。
 
−多くの百貨店は、伊勢丹に学ぼうとしています。あえて、私見を述べれば、再生の道筋は各社が伊勢丹の真似をするのではなく、それぞれ自分達の独自性を打ち出すことが先決です。チャレンジ目標を決めたらそれに向かって全社一丸となって取り組む。そうした思いがいまこそ大事だと思いますが…。
 
小柴 その場合、上に立つ人がどの方向に行くべきかを明確にわかっていることが大事でしょうね。そうでないと下の人は、どっちに行ってよいかわからないし、社員がばらばらに走ったら、せっかくの力も分散しますからね。
 
−日本人は、百貨店が好きなのです。ですから、産業再生機構ではないですが地方都市のインフラとして、最低1店は百貨店を残したいと…。
 
小柴 僕は、「百貨店は永遠に不滅です」と、ジャイアンツのように言っていますがジャイアンツももうひと踏ん張りしてもらわないと(笑)。なかなか難しいことが多いですな。 
これだけ交通網が発達してくると大きな買い物をする時は、大都会に出かけて品揃えの豊富な店で選ぶという行動に出ます。小さな店でハイエンドのブランドを選ぶとなると品揃えに限界がありますので、その辺がむずかしいですね。
 
 
"勝ち組・伊勢丹"の誕生
百貨店業界にもプラス材料に
"人を生かす経営"の勝利だ

 
−最近の"伊勢丹への高い価値"は、業界にとっても好材料で、"勝ち組"として明確になったのは良いことです。その功績は、小柴会長が社長に就任した年前に遡ることになりますが、まず、新しい企業理念として「ファッションの伊勢丹」を打ち出し、目標に向かって行動に移したことに起因すると見ていますが…。
 
小柴 「毎日が新しいファッションの伊勢丹」という企業スローガンは、社長に就任してすぐ、私と会長・副社長に外部の4人の有識者の方々と半年にわたり議論し決めました。翌年4月1日から「伊勢丹企業理念」として掲げました。あれから年になりますが、現在それを武藤社長が深く掘り下げ、関連企業にまで広げた「伊勢丹グループ企業理念」というものをつくって徹底して実践しています。それに沿って優秀な成績を上げた社員には年に1度、"社長賞"を出しモチベーションをさらに上げる政策に出ています。そういうことが、みんなの励みになっているのだと思います。
 
−「ファッションの伊勢丹」というのは、いわば伊勢丹の憲法のように定着し、若い人材育成にも役立っている。つまり、この10年間、業界は改革競争を行なってきたわけですが勝ち組の伊勢丹を検証しますと、伊勢丹は現場の創意工夫を汲み取る仕組みを構築できた点が同業他社と一線を画す企業となれた所以です。
 
小柴 そう、働く社員はただ給料を貰うことのためにだけ働いているのではなく、働き甲斐を求めていると思いますよ。働く目標がああいう形で明確になり、意識統一に役立っていると思います。ファッションには広い意味があり、衣料品や雑貨だけでなく食品もリビングにもファッションということが含まれますから頭を使わざるをえない。あのスローガンにそれらがこもっていることも良かったのではないでしょうか。
 
そのせいかこの前、いい年をして随分ファッショナブルなメガネを買わされました。昨秋、メンズ館をリモデルしましたが、「リモデル記念に、会長もぜひ買ってください」というので、似合わないと思ったが買ってみたら結構いける。おしゃれが楽しくなりましたよ(笑)。
 
−新装なった本店メンズ館を改めて拝見しましたが、伊勢丹らしい素晴らしいMDが搭載されている。増床なしでもコンスタントに売上げが2割以上アップできるのは、業界初の快挙のようですね…。
 
小柴 お蔭様で、リモデル以来業績は順調に推移していますが、この秋の1周年以降が正念場です。絶えず新しいものを投入しているので、新しいお客さまが評判を聞いてどんどん来店されますから大丈夫と思っています。こういう世の中ですから、2年目も飛躍的に伸びるというのは難しいですが、コンスタントに成績を伸ばしていけると見ています。
 
リモデル後の新しい現象としては、確実に男性のお客さまが増えているということです。これまでは、ご婦人用のメンズ館だった。現在は、男性が一人で来店する館となり、新しい市場を開発している。もちろん、ご夫婦や恋人同士で見えるケースが多くなっていますが。
 
−リモデル計画が進められる中で当然、会長答申という形で説明があったと思いますが、その内容と出来上がった時を比べ、出来栄えは予想以上だったということですか。
 
小柴 いまは、現場にそんなに口出ししません。ですから、ちゃんと決まってから「会長にも説明しておかないと」ということなのでしょうか、一応計画の説明がありました(笑)。それを見て「なかなかいいじゃないか」と言いました。ネオアールデコに統一した商業空間という提案でしたが、本当によくできたと思っています。
 
−あれだけ高質の男のギアが一堂に揃っていると、思わず買いたくなりますね。また、一人のお客さまにフロアを超えてサービスするアテンダー制も新設され、サービスも本格的になってきた。業界のリーダーとして先進的なことにチャレンジされているという印象を受けます。
 
小柴 メンズ館リモデルに関しては、繊研賞、日経流通新聞賞をいただきました。また8月20日に発表されたのですが、毎日ファッション大賞特別賞もいただけたそうです。とくに、繊研賞は満票だったそうで、聞くところによりますと満票というのは今回が初めてだそうで、本当にありがたいことだと思います。
 
 
 
 
 
「男の館」に続いて"美"へ挑戦
ソリューション提供に踏み出す
さらに、バーニーズが、秋には銀座進出も

 
−その後、今年に入り今度はヘルス・アンド・ビューティ分野で新しい挑戦をしている。2月にパークシティ1に各社のビューティサロンを設けたのに続いて6月にも伊勢丹会館に本格的な美容拠点を本格的な美容拠点を誕生させ"ファッションの伊勢丹"として第二ステージに入っている…。
 
小柴 メインは、資生堂さんとの共同プロジェクトですが、2月25日にパークシティ・イセタン1(1階)に「ISETANBEAUTYPARK1」、6月30日に伊勢丹会館地下1階と1、2階に「ISETANBEAUTYPARK2」がオープンしました。
 
−いずれも化粧品というモノを売るのでは、"美のソリューションを提供する"新しいゾーンの誕生を意味します。これだけ本格的なエステ関連施設、バスやコンサル各コーナーは、業界として初めての取組みですね。
 
小柴 そうです。"ファッション伊勢丹"の延長に位置づけられる試みで、おっしゃる通りお客さまの美しくなりたいという思いをかなえて差し上げるゾーンです。結果的に、付随して化粧品をお買い上げいただくということになります。
 
−この秋には、バーニーズもいよいよ銀座進出を果たしますが。
 
小柴 今年10月1日にオープンします。銀座と言えば日本の商業の象徴的な地域ですし、しかもハイエンドのブランドが集中しているところです。いいお客さまが集まるでしょうから、楽しみにしています。
銀座は、新宿、横浜に次いで3号店となります。
 
−新しいトライを連打する昨今の伊勢丹で、ますます目が離せなくなった。知名度からいっても企業・伊勢丹のブランドは、全国版になったばかりでなく世界的な存在になりつつある…。
 
小柴  国内でいえば、新宿を中心とした首都圏だけでなく北九州、新潟や京都にも展開しており、店も好調に推移していますのでファッション雑誌に絶えず伊勢丹の商品情報を掲載してもらっています。
 
そこで全国のおしゃれな女性は、伊勢丹をマークしており、欲しいブランドが入ったとなるとお買物で上京される。本当にありがたいことだと思います。5、6年前にトッズという靴を当社が最初に販売したことがありました。その時には、関西方面から新幹線に乗ってお客さまがお買物にお見えになり、3万円以上もする商品ですが、お一人で2足も3足も買って帰られるということがありました。
 
−伊勢丹は企業としても順調にいっていますが、あえて今後の課題を上げるとするとどういうことになりますか。
 
小柴 これは、永遠の課題ですが、成熟消費の中で売上げをどう確保し、どう利益を得るかということになるわけです。そのためには特に販管費に注目しており、これをどう削減できるかということが課題だと思っています。売上げを拡大し、販管費を削減する。その差額が利益になるわけですからね。
 
いまは営業利益率が3%を切っている状況ですから、これを早く3%に乗せ、さらに5%にもっていくことです。
それから、これまでも大事にしてきましたが、人づくりですね。
 
−伊勢丹は、流通業界に多くの人材を輩出して話題にもなっている。やはり、人づくりの企業として評価が高いのは、いい傾向ですね。
 
小柴 当社は、戦後、社員のリストラはやらないという一貫した方針で来ており、人の育成に力を注いで来ました。人材は簡単には育ちませんから、時間が必要です。
新入社員で入って、店頭で一人前に動けるようになるまでに、5年から10年はかかります。いま、係長になるのに6年から7年はかかりますから、そのくらいになってようやく使えるようになる。まさに、企業の財産となるわけで、企業力は、この人材の数で決まるとさえ思っています。
 
−本日は、お忙しいところ、長時間ありがとうございました。
 
 
 
齋藤秀樹の提言
 
 「将の将たる人材がいない」と日本の将来を憂い逝ったのは作家・司馬遼太郎だが、これは政治の世界に限らず百貨店業界にも当てはまることである。
 
現在の業界各社を見渡しても、賢くまとまった経営者(将)は沢山いるものの、時代を貫く強い信念と思想を堅持し大局観にたって彼らを束ねる"将の将たる人材(大将)"があまり見当らない。
 
かっては業界にも御意見番といわれた大明神が少なからず存在していて、何でもアリ!の乱世の時でも企業活動のおもしとなって機能した。しかし、その後、将の将たるリーダーの不在時期が長かったこともあり、バブル崩壊後に起きた業界の迷走ぶりには歯止めがかからず再生の遅れとなってしまったと指摘する人さえいる。
 
今回、当情報誌にご登場をお願いしインタビューが叶い小柴会長と久しぶりにお会するにおよび、会長こそ新世紀の業界をリードする将の将たる人材だと確信に至った。
それは、今日の「勝ち組・伊勢丹」を舵取りした経営手腕に対してばかりでなく、百貨店業界にもうこうした"素晴しき店"が存在していることを世界に広く知らしめた功績は、極めて大きい。
 
勿論、ここまでの道のりは、決してなま易しいことではなく顧客起点による店作りなどここ数年、数々の諸改革を断行して掴んだ結果である。例えば、「売り場」を「買い場」に発想転換し全館を見直したこと。いち早く"美ノコンシェルジュ"を導入、ソリューション提供型経営に踏み切るなど随所に業界各社の手本となる施策を展開してきたからである。
 
インタビューでの小柴会長は、終始、控えめに小売の基本を語っていらしゃったが、百貨店成功への方程式についても言及、「顧客ニーズに応えながらニーズの裏にあるウォンツにも注目すること」。
 
それには「社員を大切にし、つねにモチベーション向上策に努める」。「5年、10年かけて若い人を一人前に育てること。リストラなんてとんでもない」と"人間重視の企業文化"を強調していたのが印象的。
 

 
関連サイト: ISETAN 伊勢丹
 

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