トーク * THE SC [連載第8回]
エントランスは2階。各階には、"こだわりの食"を中心に
「上質なサービス」を提供するスタイリッシュで個性的な店舗を導入

 
logo.gif 東京圏駅ビル開発(株)
代表取締役副社長 マーケティング開発部長
 菊池 眞澄氏
聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏

単にJRが商業ビルを開設したというのではなく、
地域ごとの歴史や特徴を尊重し、今後の街のあり方を
情報発信していく施設を目指す

 
 24時間都市・東京では、経済のグローバル化、産業構造の変化、情報通信・交通網の発展を踏まえ、一極集中型から多心型の都市構造への再整備が進められている。他方、高齢化の進行に合わせ、公共交通機関とその周辺での商業施設の利便性・重要性があらためて評価されてきている。
こうした東京圏における環境の変化のなかでお客さまのニーズに対応し、地域ごとの歴史や特徴を尊重しつつ、ショッピングセンター「アトレ」とオフィスビル、さらには二つの機能を融合させた複合駅ビルを広域的な拠点に開発・運営し、地域の発展への貢献を目指しているのが、東日本旅客鉄道(JR東日本)グループのデベロッパー会社、東京圏駅ビル開発(株)である。

品川港南口エリアの新しいシンボルとして 「アトレ品川」が3月3日開業


 
駅の流動客を
いかに取り込むかに
焦点を合わせMDを構築

 
−東京圏駅ビル開発が展開する「アトレ」は、一つの型にはまることなく、常に進化を続けているように感じられますが。アトレの展開の基本的なコンセプトと戦略についてお話をお伺いしたいと思います。
 
菊池 まず最初に当社の沿革をご説明しますと、当社は1990年4月にJR東日本の全額出資子会社として設立されました。そして、同年9月にJR中央線の四谷駅に「アトレ四谷」を開業、93年には新浦安と大井町で「アトレ」を開設したのですが、立ち上がりはあまり順調とはいえませんでした。
 私が東京圏駅ビル開発に入ったのは、ちょうどその93年で、「JR恵比寿ビル」プロジェクトを立ち上げるためでした。恵比寿というと、いまでこそ代官山が近いという感じですが、当時は通勤客が乗り換えるだけの駅で、恵比寿から代官山への人の流れもありませんでした。まだ恵比寿ガーデンプレイスができる前で、渋谷の隣ということもあって、商業ポテンシャルは高くありませんでした。
 
 JR東日本としての当初の計画は、代官山や広尾といった高級住宅地を控えて、同心円商圏を描いたものでしたが、当時の駅ビルは『駄目なSC』の代名詞のようなイメージでしたから、とても成功するとは思えません。恵比寿駅の乗降客は平日で22万〜23万人ほどですが、週末には極端に減って、付近の商店も8割以上が営業しないという状況でした。
 そこで着目したのが駅の流動客をいかに取り込むかということです。テナントミックスや環境計画、運営計画のすべてを、そこに焦点を合わせて実施したところ成功。その後、アトレ上野をオープン、不振だったアトレ四谷とアトレ大井町もがらりと方向を変えました。特に大井町は売上げが10%程度伸びている状況です。これらはすべて『街の玄関』である駅の流動客を、いかに掴むかということでやっています。
 
 つまり、お客さまの心理面まで立ち入って、その生活スタイルを想定し、駅を利用するシーンの中でMDを構成していくわけです。駅というのはモノを買いにくるところではありません。主目的は別にあるわけです。それをいかに買う気持ちにさせるか、どのようなものなら売れるか、そういうことを徹底的に考えてマーケティングを行なった最初の事例が恵比寿でした。これが成功したわけです。
 
 

 
品川は情報発信を一歩進め
平日の流動客だけでなく
週末の目的客も取り込む

 
−御社の最新のプロジェクトである「アトレ品川」を拝見しまして、従来の駅ビルのイメージとはかなり異なる面白さがあるように思いました。ニューヨークテイストというか、とてもおしゃれな感じがしますね。
 
菊池 品川は4年くらい前に基本計画の依頼を受けました。全体のボリュームやSCとオフィスの割合は決まっていましたが、エスカレータの配置やオフィスの入口をどこにするか等についてのアドバイスを求められました。基本計画後は、JR東日本で計画決定の手続きをして、2年ほど前から本格的にはじめました。
 アトレ品川は品川駅の港南口にありますが、駅の流動客を掴むだけではうまくいきません。そのボリュームが圧倒的に少ないのと、ただ通過するだけなので、お客さまの足が極端に速いのです。その足を止める演出もむずかしいし、圧倒的に男性が多いので、それを買い物に結びつけるというのもむずかしいため、どうしてもお客さまをよそから連れてこなければいけないわけです。
 
 そのためにはある種の情報発信をしなければなりません。頻繁に利用してもらうためにはやはり日常性を中心にしなければいけないということで、飲食をメインに据えました。それもただの飲食ではなく、本物や本質といった部分をきちんと打ち出すものでなければなりません。
 
 要するに、どこの街にもある老舗のようなものを狙ったわけです。そうすれば遠方からでも永続的に来ていただけるのではないかということです。しかし街がまだできていませんから、10年後の老舗を目指すというイメージです。それぞれが新しい業態ですが、10年後をにらんで本物志向でやっていただきたいということでテナントを選択・配置しました。
 
 ターゲットを、女性だけでなく年齢が上の男性も狙えるようなものにしたことも、新しい発想かも知れません。女性は滞留時間が長い割にお金をあまり落としてくれないので、飲食をやるなら男性も狙えること、また女性連れで来る雰囲気をどのように演出するかがポイントだと思いました。
 
 イメージとしては、上司が部下の女性を気楽に連れて来られるようなちょっとおしゃれな感じです。それがニューヨークスタイルというコンセプトなのです。テナントさんには、ニューヨークに出店するとしたらどうやるかという設定で業態のイメージをまとめてもらいました。
 
−3月3日のオープンでしたが、感触はいかがでしたか。
 
菊池 われわれは、月曜日から若干上がりながら推移して金曜日がピークになり、土・日曜日は下がるという平日型の売上げ想定をしていたのですが、実はそうではなかったのです。完全に週末型なのです。金曜日が一番よいのですが、土曜日も負けず劣らずよくて、日曜日がまた良いということです。
 
−新幹線のお客さまもいらっしゃいますね。
 
菊池 流動のお客さまをできるだけとれるようにエスカレータも配置し、人の流れに沿って立体的にコンコースを使うようにして、無駄足のないように工夫してあります。また、データをきちんととって、仮説がうまくいっているかどうかを検証するというのがわれわれのやり方ですので、通過人数を時間ごとにチェックすることができるようになっています。その結果、オープン前、平日23万人であった流動客が26万人に、土曜日の6万人が9万人に、日曜日の4万人が7万人になっています。増えた人数の全部ではありませんが、かなりの割合の人が入館しているわけです。
 
 そして入館した人の45%がお店のお客さまになり、残りの55%はSC内を回遊していただいています。これがなかなか重要なところです。要するにこの55%が次のお客さまにつながるからです。われわれは、買上げ率が低いほど流動のお客さまを捕えていると考えています。
 品川の45%というのは他のSCに比べて低いですから、それだけ流動客を捕えているということになります。リニューアル前の四ッ谷の買い上げ率は非常に高いものでしたが、いまは55%くらい、恵比寿が65%、大井町が75%くらいです。75%というのは地域のお客さまと流動のお客さまとがうまくミックスされているというふうに見ています。
 そういうことで、品川は平日の流動のお客さまもとれているし、週末のわざわざ来られるお客さまもとれているということです。
 
 いまの感触では今後もこのままいくのではないかと思います。恵比寿以降の手法ではじまった品川ですが、情報発信性という面で一歩進んだものになっています。
 店舗面積は5000m2と非常に小さいのですが、広場に面していてわかりやすく、『街の玄関口』という象徴的な位置にあるという立地の良さが活かされた形で、個性のある情報発信ができていると思います。
 
 
買っていただくより、まず寄っていただくこと。
『派生消費』に注目

 
−いまのお話で流動客と吸引力のある店舗を入れるということに対するお考えがよくわかりました。
 
菊池 いまわれわれは『派生消費』ということに注目しています。いわゆる「ついで買い」ということです。駅中ビジネスも含めて駅ビルでこれをどう仕掛けていくかを研究しているところです。「ついで買い」の典型例はキオスクだと思いますが、そこからはじまってどこまで膨らませられるかということです。たとえばいくら立地が良いからといって、駅ビルでアルマーニのスーツは売れません。そういう感覚です。買うつもりでない人の足を物理的に止めて、買う気持ちにさせるための演出が必要です。
 
 それには、日常的な日用品と非日常的なファッションをいかに組み合わせるかということと、常に大衆を相手にしているという感覚が重要です。20代、30代のOLのようなコアのお客さまを見つめながら、横目では、もう少し年齢の高い層や男性も視野に入れて演出していくという感じですね。
 
−東京圏というむずかしいところで、非常に洗練されたコンセプトを実現されたと思います。いまのお話で興味があったのは、食品が週末型だということですが、なるほどと思いました。私は日本橋にいるのですが、急速にマンションが建設されています。ところが週末には食事をしようにも店はない、スーパーはない。都内にはけっこうそういうところがありますが、これは穴場ですね。いまは都心回帰ですから、マンションも1階をスーパーにしたほうが、よほど売れるのではないですか。
 
菊池 そう思います。
 
−東京であるがゆえのむずかしさもあるのではないでしょうか。
 
菊池 そうですね。最初、駅なのに同心円商圏を設定するということには違和感を覚えました。乗換え駅であればかなりの遠方も商圏になりますし、駅を利用される方のすべてがお客さまになるわけです。たとえば恵比寿では、横浜まで商圏に含まれます。駅の利用者のいろいろな利用シーンを考えMDを構成していくのが良いのではないかと思います。
 
−駅ビルはもともと立地条件が良いのですが、そのなかで、駅ビルならではのマーケティングとMDが進化していると感じました。他の施設がいかに集客するかに多大なエネルギーを使っているのに対し、御社の駅ビル開発では来られた方をいかにストップさせるかを重要視しています。その違いが逆にMDを進化させたのではないかという感じがしました。
 
菊池 買っていただくより、まず寄っていただくことです。そのためには、季節感や日々の新鮮さを演出することが大事です。忙しい都会にあっては、空間的なゆとりを感じてもらうことと、動線的に無駄足をさせないことが大事です。
 目指す方向に無駄なく移動しながら、10分か15分の寄り道で済むという寄り道感覚というのが重要です。押しつけがましい見せ方は厳禁です。ある種の生活スタイルの枠で統一されたさまざまなテナント構成になっていて、通過するだけである雰囲気に浸ることができるわけです。いま買わなくても記憶に止めてもらえれば、次の機会があります。給料日になると急に売上げが上がるのも、そのためです。
 
−駅ビルの場合、駅を中心とした駅前の商店街や街の中で、どういう働きかけを行なうかということも重要になりますね。
 
菊池 駅ビル開発をやると結果的に周りが潤うのです。駅ビルができることによって、人が駅をゆっくり歩くようになる、そうすると必然的に街に出はじめるのです。上野などは、駅ビルで街が寂れるという地元の予想とは逆に、女性を取り込むことによって、上野の街のもっている複雑で多様な部分がさらに増すことになったと思います。駅が変わると街も変わる、街が変わると駅も変わるという、相互関係にあるのです。
 
−品川駅の東口のようにこれから新しい街として発展していく場合、コンセプトが明確になっていることが重要だと思います。アトレ品川が今後の街のあり方についてグレードもきちんと提案されたと思います。
 
菊池 ただ単にJRが商業ビルを開設したというのではなく、今後の街のあり方を情報発信をしているという気持ちですので、そういうふうに感じていただくとほんとうに嬉しいです。それでこそ駅ビルをやった価値があるのではないかと思います。
 
 
左●品川駅東口(港南口)の駅ビル「JR品川イーストビル」(S造・一部SRC造、地下3階地上20階塔屋1階建)の2〜4階に展開
中●東側に整備された交通広場から見たJR品川イーストビルの全景
右●エントランスは2階。各階には、"こだわりの食"を中心に 「上質なサービス」を提供するスタイリッシュで個性的な店舗を導入

 
 
将来的には、駅の外に出て
街でSCを開発する
という選択肢も

 
−テナントさんとの関係についてはどのようにお考えですか。
 
菊池 テナントさんとは共生の関係にあると考えています。テナントが役者で、われわれは脚本家であり演出家です。マーケティングなどを通じてわれわれのところに集まってくる情報を、テナントさんにどんどん流して、お互いに議論を重ねながらMDに活かしていくというのが基本だと考えています。お互いの役割分担や責任の明確化をきちんとすることも重要です。定借というのもそのなかで導入しました。5年なり7年、徹底的にマーケットを共有化し、議論をし、努力をしてもらって、その結果駄目であれば、そこで別れるのも良いのではないかと考えるからです。
 
 その代わり、定借の期間中の関係は非常に密度の濃いものになりますので、好き勝手にやりたいテナントさんによっては、面倒だと感じることもあるのではないかと思います。
 
−今後の抱負をお聞かせください。
 
菊池 街がどうあるべきかという議論を抜きに駅ビルを考えることはできません。また小売業ということも、必然的に視野に入ってくるわけです。マーケットをどう捉え、どう仕掛けていくかという駅でのマーケティングの蓄積が、街や小売業でも活かせるのではないかと思いますので、できればこれから少し駅の外に出て、街でSCをやるという選択肢もあると思います。
 そのためにも、駅のマーケティングを徹底的に追求するというのが、われわれの役目ではないかと考えています。その結果見えてくるものが、SCではないという可能性もありますが。
 
−本日はお忙しいなか、どうもありがとうございました。
 
 
(左)●夜はライトアップされ"洗練された大人の空間"を演出する
(中)●4階エスカレータ乗り場のモダンなデザイン。4階には伊勢丹グループのスーパー「クイーンズ伊勢丹」が単独で出店している
(右)●"NYのターミナル"をイメージした館内はシックで落ち着いたデザイン

 
 
position 関連サイト: 東京圏駅ビル開発株式会社
 
 
菊池氏 菊池 眞澄氏
きくち ますみ●1946年7月生まれ。69年6月、東京大学建築学科卒業後、同年7月、日本国有鉄道入社。93年東京圏駅ビル開発(株)常務取締役就任、98年6月専務取締役、2002年7月代表取締役副社長就任、同時に(株)目黒ステーションビル代表取締役社長兼務。04年4月マーケティング開発部の設置により同部長を兼務

大西 直良氏
おおにし なおよし●SCおよび不動産実務に関するコンサルタント会社、(株)ウエルウエスト代表取締役。日本ショッピングセンター(SC)協会の理事・事業開発委員長。亀戸の「サンストリート」の開発・運営会社、タイムクリエイトの前・代表取締役
大西氏

 
 

このページに掲載の内容、写真などの転用をお断りします。
Copyright 2004 TANSEISHA.co.,ltd.
All right reserved.