トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言 連載第9回
 
名古屋店「新南館」は
"百貨店新スタイル"の情報発信
今期、"事業の選択と集中"テコに基盤強化は
"エンパワーメント(権限委譲)"から

 
株式会社松坂屋 専務取締役 本社営業本部長 
茶村 俊一(さむらしゅんいち)
 
聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
  名古屋に本社を持ち、百貨店業界で最長の歴史を誇る老舗・松坂屋(社長・岡田邦彦氏)が動き出している。
昨年、名古屋本店を増築(「新南館」構築)し国内最大級の店舗を誕生させる一方、大阪地区では、赤字経営にあった2店舗の閉鎖を決断した。いわば、“事業の選択と集中”により同社は、今期から名古屋本店に続いて東京地区(上野店、銀座店)に軸足を移し、攻めの営業戦略に向けて駒を進めることになった。
 本号では、「エンパワーメント(権限委譲)」をテコに売場活性化の先頭に立つ、本社営業本部長の茶村俊一専務取締役に今期の重点政策や課題を尋ねてみた。

昨年「新南館」を誕生させ、売り場面積が国内最大級の百貨店となった名古屋本店

 
百貨店の原点に立ち返り
売場で顧客満足の実現を目指す
店頭の「権限委譲」により店頭の販売力強化目指す

 
−はじめに、今期に向けた松坂屋としての企業スタンスをおうかがいしたいと思います。
 
茶村氏 茶村 昨年は、プラス面・マイナス面ともに大きな決断と進展がありました。攻めの経営という点からは、名古屋本店南館を増床(1万800m2)。経営の見直しという点では、大阪地区から2店舗の退店を決断しました。まさに、“事業の選択と集中”を目指した1年でした。
 今期は、社長が就任してから2度目の経営計画である中期(3か年)経営計画の最終年度になります。本計画では、基本テーマに“百貨店事業の革新”を掲げ、“競争力ある百貨店事業の展開”をはじめとする重点課題に取り組んでいます。
 
 全社的方針としては、営業方策を予算と連動させ営業現場まできちんとブレークダウンできるよう進めていきます。経営計画というのは、ややもすると現場から遠ざかりがちですが、百貨店の原点は、個々の売場における一人ひとりの社員の接客サービスにあります。とくに今の時代は、お客さまのニーズが多様化し、百貨店に求めることがお客さま個々によって違ってきています。ニーズをいち早く捉え、現場で的確に対応できる態勢を確立することが急務だと思っています。
 
 そのキーワードとして、「エンパワーメント」を推進し現場の活力を図りたい。「エンパワーメント」は、直訳すると「権限委譲」となりますが、当社では、社員一人ひとりの能力を伸ばしその力を発揮できる仕組みをつくることにより、組織の活力を高め競争力の強化を図るという意味で使っています。
 
 今期は、これを営業方針の根底に据えて推進することで、中期経営計画の仕上げの年にしたいと思っています。なかでも「お客さまの信頼の獲得と絆づくり」を重要な施策のひとつに掲げており、やはりそのベースとなるのは、一人ひとりの社員が自分たちの能力を高めて売場でどう発揮していくかということになります。
 
 全国百貨店の総売上は、1997年以来、7年連続して前年割れしています。デフレによる消費の減退という要因もあり、前年を超す実績を上げることはかなり難しい状況になっています。そうしたなかで、いかに自分たちの力を最大化するかが大きな課題だと考えています。
 同時に、組織の活力を高めることも忘れてはなりません。いままでの名古屋、東京、大阪という3事業部体制が大阪地区の2店舗の撤退に伴い2事業部になりますので、組織をよりシンプルにし、意思決定のスピードを上げることにより営業の競争力を強化することも大切です。
 
−大阪地区の退店2店舗は、いつ閉店される予定ですか。
 
茶村 まず、「くずは店」が今年3月末、天満橋の「大阪店」が5月5日にクローズします。「高槻店」は、これまで通り拠点として残しますので、大阪地区は3店舗体制が今期から1店舗となるため、名古屋事業部と統合させて営業力の強化を図ります。
 
 
昨年、名古屋本店大増床で
“ビューティ&リラクセーション”を「新南館」に導入
新しい百貨店の差別化策として話題呼ぶ

 
−昨年9月、名古屋本店「新南館」を増床オープンされました。本店は、今後も改装・増床計画を継続されていくわけですか。
 
茶村 百貨店は常に時代を先取りしていく必要があります。名古屋本店は、「新世代のクリエーターズ・トレンド発信スクエア」をコンセプトとした「新南館」の増床に続いて、次は「新生活空間を提案するリビング館」として「北館」の見直しを図ります。「オーセンティック&スペシャリティ充実の総合館」をコンセプトとする「本館」と合わせて「生活創造百貨店」を目指していくことになります。
 昨年、名古屋地区は、全国百貨店総売上高が前年実績をクリアーできないなかで上回った数少ない地区です。名古屋は、大都市のなかでは比較的小売業における百貨店の占めるウエイトが高いわけですが、駅地区へのJR名古屋高島屋の進出による競合の激化をはじめ、当社の南館増床の話題が消費者の方の注目を百貨店に集めたこともプラスに働いたと思います。
 
−「新南館」のフロア構成は、いままでの百貨店とずいぶん異なります。とくに、日本最大級のビューティ&リラクセーションスペース「シスセット」が話題を呼びました。業績のほうは、その後いかがですか。
 
茶村 6〜7階のこのゾーンは、上層階に物販とは違う新しい集客施設として導入しました。名古屋本店は、百貨店としてわが国最大級の面積だけでなく、長い歴史の間に培った信用に支えられている店でもあり、その中の施設ということで安心してご利用いただけるよう万全を期しています。
 
 このような施設は、お客さまの固定化があってはじめて安定した実績を上げられるのであって、お越しいただいたお客さまにいかに固定客になっていただくかが重要です。物販に比べ時間がかかりますので、全体の好調さに比べると出遅れ感はありますが、新南館の特徴フロアとして、話題だけでなく実績がともなってくれるよう期待しています。
 
 こうしたなかにあって名古屋初登場の漢方ブティック「NIHONDO KAMPO BOUTIQUE AOYAMA」は順調に推移しています。健康に対する消費者の関心の高さでしょう。百貨店も同質で競うのではなく、ほかにはないカテゴリーにチャレンジし特徴を出していく時代ではないでしょうか。
 
 
−名古屋はまた、愛知万博をはじめ2005年にさまざまなプロジェクトを控えています。大阪・東京とは違う活力も感じます。それだけに、大きなポテンシャリティがあるということになります。松坂屋さんにとっては、本拠地ですから期待も増幅しているのでは・・・。
 
茶村 エキサイトしている名古屋地区には大いに期待していますが、名古屋本店だけが元気ということでは困るわけでして、東京地区の競争力強化も大きな課題です。厳しい地域ですが、大阪地区を縮小することによる余力を上野店と銀座店の活性化のため注力していくことになると思っています。
 
 

ラッピング地下鉄による大々的な告知プロモーションも展開された

あえて1階に配置したカフェ「キルフェボン」。「待ってでも入りたい」というほどの人気を呼んでいる

 

季節ごとに異なる香りを楽しめるおしゃれなレストスペース

大人気の名古屋嬢リカちゃんがマネキンでも登場
 
 
 
今期、東京地区の営業強化へ銀座・上野両店で再開発計画
銀座は3年くらいを目途に着工目指す

 
 
−東京地区強化への投資計画は、どのようにお考えですか。
 
茶村 行政と一体となって大規模な再開発計画を進めている銀座店は、現在の店舗の運営と歩調を合わせることが必要で、スケジューリングのすり合わせが難しいところです。
 
−すでに別会社が設立され、動いているようですが。
 
茶村 森ビルさんと共同で「銀座都市企画」という会社をつくり、地権者の方々と構成している協議会の事務局的な役割を担っています。
 
−地権者は、松坂屋さんを入れて何人くらいいらっしゃるんですか。
 
茶村 私どもも含めて合計16社です。一昨年の6月から勉強会をはじめ、昨年2月に「銀座6丁目街づくり協議会」が発足しました。現在、月1回の定例会を行なっています。いまは、測量や交通量調査などが終わった段階で、いよいよ計画の具体的なプラニングの段階になってきました。
 
−完成目標は、アバウトで何年後くらいに置かれているのですか。
 
茶村 3年以内に着工できるようにしたいと思っています。そこから3年くらいはかかりますから、完成は順調に進めば5〜6年後になりますね。
 
−銀座再開発エリアは、どれくらいの広さになりますか。
 
茶村 約9000m2強(約3000坪弱)で丸ビルと同じくらいの開発になります。その6割強が当社の所有地です。2つのブロックを一体化させる計画なのですが、道路をどうするかということも大きな課題です。また、歴史のある銀座の街と百貨店を含む複合ビルをいかに融合・一体化させるかといった課題やトレンドの最先端を行く銀座がさらに進化するための役割も感じており、現在多方面から検討しています。
 
−上野地区のほうも再開発計画があるようですが、そちらはどのような状況ですか。
 
茶村 上野の開発計画は、台東区が中心になり、かなり以前から進められてきました。単独のプランは一応でき上がっているのですが、道路の付け替えなど、いろいろクリアーしなければいけない課題もあり、地元の方々との調整も必要です。合意が得られれば計画は早く進められます。上野店の場合、建て替えは行ないませんので、営業しながらの改装ということになります。
 
−1981年以前の旧建築基準法で建てられた建物は、耐震性が低いので「耐震診断」と、必要に応じて「耐震工事」を施す努力義務が発生しますが・・・。
 
茶村 はい、まず名古屋店と静岡店から耐震工事に着手しています。静岡店は、地下食品フロアの大改装と並行しての工事になります。東海地震のエリアに入っていますので、そちらから優先していきます。
 
 
各店強化は店舗独自の“ストアコンセプト”設定
により営業力強化を図ることが必要

 
−今期の施策は、売場強化策がポイントになるということですが、具体的にはどのような取組みを行なっていくのですか。
 
茶村 商品政策(MD)では、1年を52週に区切って、そのなかでテーマ性のある売場づくり、取引先とのコラボレーションといった、さまざまなな手法で販売力強化に取り組んでいます。
 
 また、お客さまに当社のファンになっていただくためのカード戦略も展開しています。当社独自のハウスカードとして「MYカード」を発行していますが、ポイント制を導入したり特典を付けるなど、会員数を増やすだけでなく稼働率を上げる工夫をしています。MYカードの顧客データが増えることで、お客さまの購買行動がより精密に分析できるからです。そこから得られる情報をもとに、顧客ニーズに即した新しい商品開発、売場編集、サービス向上といった顧客満足向上策を推進していきます。お客さまが求めている情報をタイムリーにご提供するなど、お客さまとのコミュニケーションを深め、ご来店の促進に役立てたいと思います。
 
 また、「オンリー・アット・マツザカヤ」というお客さまの声を積極的に取り入れた魅力ある松坂屋限定商品の開発にも独自性強化のため力を入れて取り組んでいます。
 
 
−「MYカード」の会員数は、どのくらいの規模ですか。
 
茶村 平成16年2月末時点で20万会員まで伸びました。本年度末には、80万会員の達成を目指しており、魅力ある商品開発を中心としたMD戦略とともに、お客さまとの絆づくりを推進する核となる戦略として力を入れていきます。
 
−“各店の店舗戦略”というのは、営業本部が決めていくのですか。それとも各店舗で考えて行なうのですか。
 
茶村 両者の共同作業です。なかでも「ストアコンセプト」が重要です。営業活動の基になるものですので、継続性がなければなりません。
 それぞれの店舗の特色を出すため、MYカードを使った顧客購買分析や競合関係を含めた商圏分析などを行ない、店舗の「強み」「弱み」を把握してターゲットとする顧客層を設定し、ストアコンセプトを決定します。全店横並びの店舗運営というのは、百貨店の場合チェーンストアと違って難しい面が多いのです。それぞれ店舗規模、ロケーション、その地域における歴史的背景も違うからです。さらには、お客さまの価値観の変化を見逃さないように店づくりに反映させていくことが大切となります。
 
−“百貨店の基本は個店主義”とのことですが、ともすれば営業本部体制との間に齟齬が生じる可能性があります。営業本部の課題としては、どのようなことがあげられますか。
 
茶村 今期の組織改革のなかで、現在の営業本部と事業部の2層になっている営業体制の見直しも行ないます。現在のように変化の早い時代には、全社一体となって情報を共有し、いかに意志決定のスピードを上げるかが大切であり、組織についてもこれに対応させていくということです。
 
 
変化しつづける日本の消費者
“新しい百貨店のあり方”を構築・提案強化していく時代が到来

 
 
−最近はライバルの量販店も大きく変わってきています。たとえばイオンさんの「ダイヤモンドシティ」の店づくりなどは、ある意味で百貨店を凌駕しているのでは…という意見もありますが。そのへんについては、どうお考えですか。
 
茶村 確かに、量販店はショッピングセンターとして、専門店モール、アミューズメント等、多機能を搭載し大規模になってきました。ワンストップ・ショッピングという点からみても、カテゴリーの展開において、家電、スポーツ用品、書籍等、百貨店において十分に品揃えできないものが網羅されているといってよいでしょう。
 
 しかし、都心では、お客さまが百貨店と量販店をうまく使い分けられているようです。同じエリアにそうした店ができても、大きな影響は出ていません。都心の百貨店と量販店ではトレンディなファッションまた情報発信力という点で、まだまだ大きく異なりますし、街としての魅力もあります。スーパーブランドに象徴されるような、世界のトップレベルの限定された商品の品揃えにおいては量販店とは格差があります。しかし、このような商品は、展開店舗が限定されますので、すべての店が扱えるわけではありません。結果的に地方百貨店あるいは小規模百貨店については、どうしても平均的な品揃えになりがちで、量販店との違いがはっきりとできない店はどうしても苦戦を強いられます。そのため、本部機能を活かした商品調達力の強化や外商員によるきめ細かな顧客対応など、本来百貨店の持っている強みを発揮していくことが大切です。
 
 いま地方の中心市街地は多くの問題を抱えています。今後、行政と商業ゾーンが一体となって、いまの中心市街地を活性化させるのか、または郊外の大規模なSCにシフトしていくかということです。
 
 これからの街づくりは、自分たちの街はどうあるべきかの視点から官民一体となってつくり上げていくものではないでしょうか。そうしたなかで百貨店は、時間消費のできる魅力的な商業ゾーンの中心的役割をこれからも果たしていける業態であると確信しています。
 
 名古屋本店の新南館では、街との融合という視点から1階の一等地にオープンカフェを設けています。これは、1階には最も販売効率の高い品揃えをするという従来の百貨店の売場づくりではなかなか踏み切れないことでした。ビューティ&リラクセーションスペースにしてもそうです。しかしこれからは、物販以外のこのようなサービス部門の役割がますます大きくなります。
 
 消費者のライフスタイルの変化によって百貨店のあり方も大きく変わってきています。それをどう提案していくかが新世代百貨店の課題だと思っています。
 
−本日は、お忙しいところありがとうございました。
 
 

夜間にはライトアップされ、通りに賑わいを演出する

街の融合をテーマに上部にステンドグラスを配した新南館のファサード
 
 
 
齋藤秀樹の提言
 
  創業以来300年を越える歴史を刻んでいる企業は、百貨店業界広しといえども少なく、現在、三越と松坂屋のみとなった。ともに呉服屋を淵源とする老舗企業だが、松坂屋の方が62歳兄貴分で、今年、創業392年を数える。ちなみに誕生時の慶長16年という年は、関が原の戦いで徳川側が大勝して11年目、家康はまだ健在で69歳。時代は、戦乱から平和へと切り替わろうとしているそんな転換期にいとう呉服店(後の松坂屋)は、誕生した。
 
 このところ、老舗の両雄が久々に動き出したこともあって百貨店業界は、徐々にではあるが活気づいている。三越は今年創業330年、秋の株式会社設立100周年を目指し、本店「新館」の大増築に取り掛かっている。一方、今回ご登場を頂いた松坂屋は、昨年、一足早く新世紀に相応しいカテゴリー(美と健康)を盛り込んでの大増築(新南館)を完成させ、名古屋百貨店業界を沸かした。
 
 今期から同社は、東京地区(銀座店、上野店)の強化・拡充に重点を移す。大阪地区2店舗(くずは店、大阪店)の閉鎖という決断を待っての政策決定であっただけに、社内では“事業の選択と集中の年”と位置付けられている。
 
 その中で、今後、最も注目される再開発計画は、やはり(株)森ビルと一緒に手掛ける“銀座再開発プロジェクト(展開敷地面積約3000坪)”であろう。銀座という街は、ご存知の様に“日本の銀座”というよりは“世界の銀座”という独特の市場性と今日的アイデンティテイを堅持しており、やり方如何では、エクセレントカンパニーへの道筋も描ける可能性を秘めている。
 
 今期、同社が打ち出した“エンパワーメント(権限委譲)による競争力強化”策は、タイムリーで、こうした中長期計画を見据えた施策であると受け止めたい。その意味で、松坂屋の将来には、大いに期待できるものがある。
 

 
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