トーク * THE SC [連載第7回]
地域を支え、地域に支えられる
玉川高島屋S.Cによる街づくり型SC開発を推進

logo.gif 東神開発(株)
常務取締役 玉川事業本部 本部長
 石津 秀樹氏 
聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏

地域にふさわしい上質なライフスタイルを提案する
新南館をグランドオープンし
郊外型SCに新時代を拓く

 
 1969年、時代を先取りした、わが国初の本格的な郊外型SCとしてオープンした玉川高島屋S・C。以来、地域に根ざしたSCの姿勢を貫き、二子玉川という街自体をひとつのブランドとして確立するに至るなど、街づくり型SCとして成長を続けてきた。
 その玉川高島屋S・Cに今秋、「上質な日常」をテーマに掲げる新南館が誕生した。この地に足跡を刻みはじめてから34年、南館の開業からも四半世紀を経たいま、玉川高島屋S・Cが、開業以来取り組んできた「ニューアーバンアダルトシティ」のコンセプトによる“街づくり”は、この新南館によりひとつの完成をみたといえる。
 時代は21世紀。人々の生活環境、価値観、社会の仕組みがますます大きく変化していこうとしているなか、玉川高島屋S・Cは地域のSCとしていかに次代を見据えているのか、お話をうかがった。

新南館の完成により、全体で344店舗の専門店を擁する規模にスケールアップした玉川高島屋S・C。
コンセプトにも「ガーデンシティ」と謳われるように、周囲の環境との共生にも配慮された施設づくりが進められてきた


 
いま地域のお客さまに
求められている
ベストの姿を目指した計画

 
−玉川島屋S・Cが、日本のSCの草分け的存在であることは業界の通説ですが、この度の新南館のオープンを拝見しまして、単に草分けとか伝説的な存在などではなく、いまもなおリーディング・カンパニーであることを確認し大変嬉しく思いました。まず、新南館計画の基本的なコンセプトと戦略についてお話をお伺いしたいのですが。
 
石津 玉川高島屋S・Cは1969(昭和44)年にオープンしましてから、今年で34年になります。この間にはいろいろな波がありましたが、一時は本当に神話的な存在だった時期、つまり玉川高島屋S・Cで買い物をすることがステータスだったという時代もありました。高島屋を含めて1000億円を越える売上があったという、本当に独走状態だった時期があるのです。ですが、近年はバブル崩壊以降の経済環境の低迷や、周辺に多くの競合商業施設ができてきたことなども影響して、非常に厳しくなってきた。数字の面だけでなく、内容的にも、「うちも並みのSC」という意識が私どものなかにも生まれてきていました。いわば危機意識です。それが、「伝説の玉川高島屋S・Cを復活しよう!」という今回の新南館計画を実現させた重要な動機です。
 
−そうなのですか。それほどの危機意識があったとは想像できませんでしたが…。
 
石津 1977年の南館の開館から26年になるのですが、新南館の計画はすでにそのときから構想しておりましたから、映画の宣伝文句にたとえれば「構想20年・制作2年」の歳月をかけて、この新南館は実現したわけです。
 
 新南館を計画する際にベースにした基本的な考え方は、私どもがこの玉川高島屋S・Cを開業したときに想定した商圏、つまり小田急線と東横線にはさまれた地区・160万世帯をターゲットに、どのような商業施設をつくるべきかということでした。とくに今回は、SCの半径5kmのエリア圏に存在するお客さまを中心としました。私どもにとって、このマーケットはきちんと確立されたものでしたから、切り口は、この商圏の中でどのようなSCとして存在するのがベストなのか、言い換えれば、いま最も必要とされている商業施設とは何かということを改めて問い直したのです。すでに顧客である方々の声もお聞きしましたし、商圏内調査では、たとえば、玉川高島屋S・Cに行かないという方には、「なぜ、玉川高島屋S・Cに行かないのですか?」といったご意見もお聞きしました。
 
 その結果、新南館の計画に際しては、レストランと食料品をメインにするという路線を打ち出しました。限られた商圏内のお客さまにできるだけ数多くリピートしてご来店いただくことが私どもにとって一番大事だと判断しての結論です。ご承知の通り、いまはどこの商業施設もアパレルの比重が高くなってしまっている。4割から5割はアパレルです。しかしこれは、お客さまのご要望というより、デベロッパーの都合なのですね。なぜなら、アパレルのテナントさんは、美しいし、効率がいいし、家賃をいただきやすいからです。逆の意味で、食料品や飲食店、また雑貨の店舗などを、デベロッパーは敬遠してきたわけです。そこをあえて挑戦してみよう。言い換えると、収益性よりも、私どもの商圏のお客さまがより必要とされるSCを目指していこう。そういう発想で新南館をつくったのです。
 
 
商圏と顧客イメージを
明確に絞り込んだ
MD戦略を展開

 
−そういう明確なコンセプトが、ハードの面にもテナント・ミックスにおいても打ち出されていますね。とくに上層階レストラン・フロアの「無駄の効用」をあえて主張しているようなスペースの使い方、備品、空間など、素晴らしいと思いました。
 ただ、不動産効率の面でみると、どうなのかという疑問は若干残りましたが。
 
石津 百貨店は、どんな人もお客さまです。来る人は拒まずというのが、百貨店の基本的なスタンスなのです。しかし逆に、私どもは対象客層を明確に絞りました。ターゲットとしているお客さまのイメージは、架空ではありますが、例えば成城に住んでいて、ご主人は医師、自家用車はBMW、娘を有名幼稚園に通わせている、というようなご家庭のミセスです。そういう方々が心地良いと感じるMDミックス、商業施設環境とはどういうものかという絞り込んだマーケティングを行ないました。確かに無駄なスペースがたくさんあります。店舗利用率はせいぜい4割くらいでしょう。しかしながら、そのほうが私どものお客さまには喜んでいただけるはずだと考えたからです。痩せ我慢かもしれません。でも、私どもは、そういうお客さまに来ていただきたい。極端にいうと、それ以外の方々には来ていただかなくても結構ですという発想なのです。
 
 また、従来は40代・50代のご婦人がメインでしたが、そのお嬢さんたちが、いま、25歳から30歳くらいのミセスになられていて、これからはその方たちがメインのお客さまになっていきますから、そういう方たちに向けたMDも組まなければいけません。既存のテナントさんから「方針を変えたのですか」と言われましたが、そういうサーキュレーションもしませんと、メイン顧客層の年齢が上がる一方になってしまいます。
 
 つまり、メイン顧客層の年代は若く想定しながら、対象客層はあくまでも絞り込んでいくということなのですが、正確にいいますと、私どもの顧客イメージとは必ずしも合致しないけれども、それに憧れ、そういう人に自分もなりたいという人たちを含めた客層が、現在の私どものターゲットといえます。
 
−非常に明確なコンセプトですね。これからのSCには大事なことだと思いますが、他のSCではまだそこまでできないでしょうね。
 
石津 「お客さまは神様です」では、少なくとも明確なコンセプトは打ち出せません。非常に曖昧になってしまいます。明確なコンセプトをもつためには、お客さまを選択する必要があります。
 
−玉川島屋S・Cは、それができるマーケットですね。
 
石津 バーゲンも、いままでは6日間行なっていましたが、新南館ができてからは4日間にしました。本音をいえば止めたいですね。なぜかというと、バーゲン期間中のお客さまは、あくまでもバーゲン目当てのお客さまで、私どものメイン客層ではないからです。むしろ普段来られているお客さまには「バーゲン期間中は違う人たちが来ているし、商品も変わっているので行きたくない」という声が多いのです。ですから、私どもとしては止めたいのですが、アパレルでは在庫品を整理しなければなりませんので、それにも応えなければなりません。でもいずれは、「当店はプロパーの商品をきちんと販売していますので、バーゲン商品は扱いません」というSCを実現したいですね。
 
−新南館上層階のレストランは、ラフな格好では入りにくい、そんなステータスがありますね。
 
石津 そうでしょうね。それが私どもの狙いですから。「あの店に行くときは、それなりの服装でないと入りにくい」、そうあってほしいですし、そのほうが気持ちいいというお客さまが多いからです。
 一方で「柏高島屋ステーションモール」は、18〜25歳くらいの普通の若い人たちがメインですから、ラフな若者向けのテナントさんで構成されていて、毎日がお祭りみたいに賑わっている。同じ企業の経営しているSCでも、対象客層が異なればオペレーションも当然違ったものになります。バーゲンも柏のほうは逆にもっとどんどんやるべきだと思います。 
 
パブリックスペースのデザインコンセプトは「玉川邸宅」。 フロアごとに異なるテイストでまとめられ、ファニチャー類もオリジナルデザインで レジデンシャルな演出がなされるなど上質な時の流れが感じられる空間が実現されている

 
デベロッパーにとって
お客さまであるテナントが
気持ちよく働ける配慮も必要

 
−本来、商業というものはドメスティックなものですから、商圏・地域・客層等によって施設のつくり方・オペレーション・MD等が異なるのが本当ですよね。それなのに、どこの商業施設も画一的な展開を長い間行なってきた。今回の新南館の開発は、独自性が非常に明確に打ち出された画期的なものです。
 
石津 最近、私どものレストランが、丸ビルや六本木ヒルズのレストランと一緒に紹介されたり語られたりしていますが、私は「違うのではないか」と申し上げたい。というのは、これは私の想像なのですが、丸ビルや六本木ヒルズのレストランは接待需要がかなりの割合を占めているのではないかと思うからです。私どもは違います。ご自分のお金で家族や友人・知人と利用されているお客さまがほとんどだからです。
 ですから、「たん熊北店」さんなども京都の本店に比べるとリーズナブルな価格ですが、質は落としていません。自分のサイフで利用されるお客さまは、高いだけで美味しくない店には2度と行きませんからね。立派なワインクーラーを備えたレストラン「代官山ASOチェレステ」さんも人気店で、昼も夜も予約で一杯なのですが、女性客が多いんです。ですからワインをボトルでオーダーするという方が少なくて、客数は多いのに単価は意外と高くない。これをみても、私どものレストランが普段の生活のなかで利用されているかがおわかりいただけると思います。
 
−インテリアもよく非常に高級感がありますが、価格は比較的リーズナブルですね。
 
石津 一般的にいうと、たとえばランチが3800円という価格は安いとはいえないかもしれません。しかし都心の高級レストランのランチと比べたら、かなりリーズナブルな価格設定をしています。
 
−新しい駐車場サービスも提供されているようですね。
 
石津 ヴァレーパーキングのことですね。実は私どもの駐車場は古いものですから、一台一台の駐車スペ―スが狭いんです。ところが、お客さまの乗って来られる車は4割が外車でして、なにしろベンツがカローラみたいに走っている地域ですから(笑)。で、運転されて来られるご夫人方からは「駐車しにくい」とよく言われていたのです。駐車スペースを広げればいいのですが、そうすると収容台数が減ってしまう。そこでヴァレーパーキングという発想が生まれたわけです。簡単にいえば、運転して来られた車の出し入れを代行して行なうサービスです。1回1000円なのですが、よくご利用いただいております。
 また、車で来られた方はお酒が飲めないという問題があります。レストランとしてはお酒を提供したいところですから、お酒を飲まれたお客さまの車を翌朝まで無料でお預かりするというサービスや、運転代行のサービスもはじめました。
 
−東神開発さんは、バックヤードにもいろいろ気を使われているようですが。
 
石津 テナントさんの休憩室や社員食堂、倉庫など、まだ十分とはいえませんが、気を配っています。たとえば、倉庫の照明や換気の改善、社員食堂のメニューのグレードアップなどです。私どもデベロッパーにとっては、テナントさんこそが一番のお客さまですから、テントさんができるだけ気持ちよく働いていただけるようにしなければならない。そういう心がけが大事だと考えているからです。 
 
(左)●新南館オープンに先駆け、7月からはじめた「ヴァレーパーキングサービス」は、お客さまの自動車を預かり、駐車場まで回送するもので、開始以降、利用者も多く好評だ
(右)●既存南館の屋上に設けられた庭園。本館とブリッジでつなげられ、 緑豊かな屋上庭園が連続する

 
 
SCは生きもの
常に時代を先読みする
精神が欠かせない

 
−画期的なSCができたというのが多くの人の印象のようですが、手応えはいかがですか。
 
石津 売上も来店客数も非常に好調で、私どもが想像していた以上の実績が出ています。こんなにお客さまに来ていただいたのかと嬉しくなる数字です。 
 
−今後の展開については、どのようなお考えをお持ちですか。
 
石津 SCというのは生きもので、日々変わっていきます。お客さまの気持ちも変化していきますし、極端な話、その日の天気によっても変わってしまうものです。新南館はオープンしてまだ1か月足らずですが、これは間違いなく好調だというテナントも出てきていますし、手応えの感じられないところもあります。そういう違いが出てくるのはやむをえないことですが、MDの再構築というのは常に考えておかなければならないことです。それがデベロッパーの仕事でもあります。
 
 最初に「構想20年・制作2年」というたとえをしましたが、新南館は2年前に計画がスタートしています。ということは、2年前のMDがいま具現化されているわけです。つまり、すでに2年前のMDなのです。ですから、「うちはもうすでに世の中の流れから2年遅れているんだ」と私は営業の者に言っています。「その遅れた2年間を取り戻さないと、2年間変わらずにいいところもあるかもしれないが、逆にいま行列のできている店も、やがて行列ができない店になるかもしれない」ということです。
 
−変化が早いですからね。それに競合店もどんどんできてきますし。
 
石津 いま、東京では丸ビルと六本木ヒルズが話題ですので、ジャーナリストの方などから「どう対抗されるのですか」という質問をよく受けますが、私としてはまったく対抗する気はないんです。なぜなら、玉川高島屋S・Cは限られた商圏の中で存在感を確立していこうとしているからです。その意味では、丸ビルさんや森ビルさんとは違った立場にいます。つまり、ナンバーワンになろうとは思っていないのです。玉川高島屋S・Cは、オンリーワンのSCでありたい。それが私どもの目指す姿です。
 
−大変貴重なお話をいただき、どうもありがとうございました。
 
関連サイト: 玉川高島屋ショッピングセンター
 
 
石津氏 石津 秀樹氏
いしづ ひでき●1943年生まれ。69年、日本大学法学部経営法学科卒業後、同年東神開発(株)入社。その後、営業部宣伝課長、営業グループ支配人、営業本部玉川営業グループ支配人(衣料担当)等を経て、97年、取締役に就任。98年、柏営業本部長、2000年、常務取締役、2002年、玉川事業本部長に就任。

大西 直良氏
おおにし なおよし●SCの開発および経営に関する実務コンサルティング会社、(株)ウエルウエスト代表取締役。日本ショッピングセンター(SC)協会の理事・広報委員長。亀戸の「サンストリート」の開発・運営会社、タイムクリエイトの前・代表取締役。
大西氏

 
 

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