トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言 連載第8回
 
“全方位型新ターミナル百貨店”の創造
増床・全館改装計画でヤングアダルト層取込みへ
地域一番店として地歩固める“商圏深耕策”

 
株式会社東武百貨店 常務取締役 船橋店店長 
長 武男氏

聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
 東武百貨店船橋店(常務取締役店長 長武男氏)は、2003年10月、全館改装、“新ターミナル百貨店戦略”をスタートさせている。
とくに今回のリニューアルは、専門店ゾーン7000m2を百貨店化し“全天候型MDの搭載と強化”を図ったもの。宇都宮地区における東武百貨店(社長 根津公一氏)の“磐石な地域一番店構築”に続く再強化策であるだけに、その行方に注目が集まっている。

東武百貨店船橋店は、顧客重視の店舗運営により 地域一番店としての地位を築いた

 
専門店街を統合し、増床
開店以来の大規模リニューアルで
商圏内顧客層の拡大を狙う

 
−リニューアル・オープンして1か月経過しましたが、お客さまの反応は、いかがですか。
 
長氏  予想を上回る好調さでスタートを切ることができました。まず、入店客数について申し上げますと、1日当たりの入店客数が昨年に比べ2倍近くふえました。従前は、平日が約3万5000人、日祝日が5万5000人くらいだったのですが、現在は平日約5万人、日祝日は9万人近くのお客さまにお見えいただいております。
 顧客の反応ぶりは、さまざまです。従来からのお客さまは、「たいへん売場がきれいになり、明るくなった」という評価を沢山いただいておりますが、その半面、「売場がわからなくなった」といった苦情もございます。また、一部リニューアルの積み残し部分もあります。たとえば今回はトイレを全部直せなかったので、そこのところを突かれまして「トイレが汚いわよ。トイレはいつ直すの?」といったご批判も受けております。 
 
−おしなべて、順調な滑り出しといえると思います。来店客数が倍増したということは、商圏が拡大し、新規のお客さまがふえたということでしょうか。
 
 そうですね。しかし、どちらかといえば「商圏拡大」というより「商圏内深耕」による客数増加ですね。特に目立ちますのは、ベビーカーにお子さまを乗せたお客さまが非常にふえたことです。これは今回、私どもが「戦略顧客」として設定し、狙った客層です。その方々が予測通りにお見えになってくださっている、という感じがします。
 
−各売場、絶好調のようですがデータ的には、どのようなものになっていますか。
 
 売上げの伸び率で判断しますと、改装オープン前の10月13日から3日間内覧会を行ないまして、16日にグランド・オープンしましたのですが、10月13〜31日までの売上伸張率は前年比169.7%です。
 売場別で見ますと、食品143%、ギフト・サービス293.0%、婦人服飾雑貨157%、婦人服第1部(ヤング・アダルト)367.5%、婦人服第2部(ミセス)192.4%、子供・宝飾・呉服133.2%、スポーツ・紳士服179.5%、リビング135.6%という数字です。
10月13日以前の数字を加えた10月トータルは、対前年比125%です。
 今回、リニューアルに伴い約2割増床していますので、そこまで売上数字も付いて出ている点では、まあ好調なスタートが切れたと思っています。
 
−思い切った全館リニューアルと増床が功を奏した好例といえますね。今回のリニューアル作戦のポイントは、改めて伺うと何だったと見ていますか。
 
 当店は、今年開店してから26年になるのですが、開業以来、百貨店と専門店街という2つの小売形態を1つの建物の中で展開してきました。今回の全館リニューアルを契機に、これを改めて百貨店の括りに1本化したということです。  したがって、双方の売場面積は、百貨店ゾーンが2万9000m2、専門店街が7000m2だったのですが、今回、専門店街をなくしてオール百貨店の運営にしました。これによって百貨店の売場面積は、3万6000m2になり、全方位型のターミナル百貨店を目指すことになったのです。これが最大のポイントでしょう。
 
 
船橋地区の地域一番店として
“新ターミナル百貨店”を創造へ
その具現化として“MDと客層”拡大

 
  
−近年、百貨店の一般的な動向は、自前売場スペースの有効活用を図るためにテナント化する傾向が多々見られます。今回のリニューアルは、その逆張り戦略とも見受けられますが。
 
 私どもの専門店街は、26年前の開店後、ご承知のように新しい商業施設が周辺にたくさんできてきました。それらの競合施設と比較した場合、専門店街は、1店舗当たりの店舗面積も小さく、テナントさんも、いまの時流から判断するとやや古いと感じられるところも少なくありませんでした。
 そこで今回のリニューアルにあたって、思い切って専門店街をクローズしようと決断したわけです。成績のよい、百貨店と一緒に今後も取り組んでいただけるテナントさんには残っていただきましたが、大部分のテナントさんには退店していただきました。
 百貨店としては、大幅な増床ができましたので、お客さまに対する新しいMDの構築が可能になったわけです。 
 
−今回のリニューアルでは、「新ターミナル百貨店の創造」というスローガンを掲げておられますが、具体的にはどのような点を改善されたのですか。
 
 改善ポイントは、4つほどあります。
 1つは食品の強化です。2つめが婦人ファッションの強化です。もともと私どもの店は、ミドルシニア(50歳以上の婦人)の方のファッションは非常に強かったのですが、今回のリニューアルでは、25〜26歳前後のヤングアダルトの客層を戦略顧客として位置付け、MDの強化と見直しを図りました。
 3つめは、買い回り性の改善です。具体的にいえば、リニューアル前は、地下1階に家庭用品、5階に寝具、7階に家具と、リビング関連商品が3フロアに分かれていました。これを、同一フロアにすることで買い回り性の高い売場にしていこうということです。
 それから、当店は東武野田線船橋駅の駅ビルに入っているため、2階部分の百貨店と専門店街の中間に駅施設の一部があり、行き来するのに、いったん外のペデストリアンデッキに出ないとなりませんでした。そこで、その施設を別の場所に移設してもらい、館内に通路をつくることができました。この結果、2階のファッション・フロアの買い回り性が非常によくなりました。
 
 また7階は、百貨店ゾーンは家具売場、専門店街はレストランゾーンで構成され、その間の一部が屋上になっていました。今回、この屋上部分に屋根をかけて、増床し、分断されないフロアになったのです。
 4つめのポイントは、新しいレストラン街の構築です。リニューアル以前は、専門店街の6階と7階にあったのですが、今回のリニューアルで先ほど申し上げましたように増床した7階のワンフロアに集中させ、通路幅も5mにするなど、お好みの飲食を選びやすく、楽しく回遊できるレストラン街にしております。また、旧8階屋上部分にゆったりとした120坪のスペースに湯葉と豆腐の店「梅の花」を展開いたしました。
 
 
ハード面の改善では
高齢の顧客にも利用しやすい
百貨店の売場づくりに注力

 
−百貨店業態は、商品力・サービス力・心地よい売場環境づくりの3点が特に重要になっております。売場環境面・サービス面では、どのような改善策を施されましたか。
 
 環境面の整備等に関していえば、正面入口のスロープ化や、各フロアのメイン通路を30cm以上広げ、2m40cmに拡大していること。先ほども申し上げましたが、分断されていた2階部分の通路開設や7階部分の屋上に屋根を付け、天候を気にせずに旧専門店街との往来が可能になったことがあげられます。
 また、つくりたての惣菜をスピーディに安全に提供するため、屋上に共同厨房を設置しました。売場へは専用エレベーターで運んでいます。
 次にサービス面の強化ですが、池袋店同様「全館を番地表示」にして、お客さまに現在地や目的の売場・場所をわかりやすくしました。

船橋駅からのメイン入口となる1階2番地正面入口。リニューアル前は入口から売場までが階段になっていたが、お客さまが入店しやすいようにという配慮からスロープ化した
 また、お買い物の合間にくつろげるよう「休憩スペースを拡大」し、エスカレーター脇には肘掛け椅子とテーブルを用意したり、ゆったりとしたレストスペースにしました。
 さらに、婦人服売場には車椅子やベビーカーでも気軽に入れるような「大きなフィッティングルーム」を設置し、随所にバリアフリー化に対応しております。  
 
−その他、全体的に留意した点はどういうことですか。
 
 これまでのお客さまから「東武さん、きれいになっていいわね。でも、何だか私たちには入りにくくなったわ」とか、「何よ、私の利用していた売場がなくなっちゃったじゃない」といった声が出ないようにすることに留意したことでした。そんなことで大事なお客さまをなくしてしまったのでは、リニューアルをした意味がなくなってしまいます。
 増床したぶん、婦人服売場などは広くなったわけですから、既存のお客さまに店がわからなくなるような売場づくりは絶対にやめようという点に気を使いました。
 
−施工面では、どのようなことに注意されたのですか。
 
 明らかに「業者にお任せだな」というリニューアルはやめよう、という方針を立て、貫きました。
 開店して26年目の建物ですから、たとえば給排水や空調など諸設備の老朽化もずいぶん進んでいました。そこで、1階の天井高を上げたり、2階に通路を設けたりとか、構造を改修する大幅なリニューアルになりました。ですから、投資額も64億円に増えました。シビアにいかないと、施工費がどんどんかさみますので、今回お手伝いいただいた施工業者さんには、ずいぶんご無理なお願いをしてしまいました。
 
 それから、これはリニューアルの際によく感じることなんですが、デザイン会社には、デザインに対する1つのポリシーがあります。ですから、私どももいろいろ提案を出していただくわけですし、施工をお願いするわけです。
 これもよくあることですけれど、プレゼンで聞いているときには、頭で納得できていても、いざできてみると、これはおかしいぞということがままあります。デザイン会社からご提案いただいた内装や什器・備品などが、見栄えはよくても、実際にお客さまにとって商品が見やすかったり、選びやすかったりするかどうかは、疑問なケースも少なくありません。
 今回のリニューアルでも、駅から続く1階正面入口の照明の位置が、デザイン会社の提案だと、あと30cm下げなければいけない仕上がりでした。しかし、1階は売場が入口から下がっていますので、そこまで下げると見通しが非常に悪くなってしまいます。そこで、手直しをしてもらいました。デザイン会社は「作品」をつくりたいのかもしれませんが、私どもは「作品」をつくってもらうためにリニューアルをしているわけではありません。
 基本的な部分は、一度つくってしまうと、なかなか直せませんから、納得のいくものにしていただくしかありません。そういう意味では施工業者には、ご苦労をおかけしたと思います。
 

専門店街から転換された1階1番地にはヤングアダルト層をターゲットとするブランドが並ぶ

2階の旧専門店街側との連絡通路。駅施設だった部分は売場と段差があるため、階段に加えエスカレータとスロープを設けた
 
 
 
マーケットの成熟度に合わせ
店づくりやMDの見直しに
今後、引き続き取り組んでいく

 
−「おしゃれで新鮮な暮らしをサポートし、2世代・3世代でのショッピングを楽しんでいただける」“新山の手主義”をキーワードに全館改装された今回の施策は、百貨店業界でも数少ない成功例です。今後、商圏はどう変化していくと見ていますか。
 
 私どもの店の商圏は、船橋市を中心とした第1次商圏が約200万人、それと近隣地域(市川市・鎌ヶ谷市・習志野市・佐倉市・白井市・千葉市の一部)の人口を合わせた約200万人が第2次商圏という捉え方をしています。
 戦略的には、先ほど触れましたが、この商圏を広げるというより、商圏内のお客さまで、これまで都心の百貨店に行かれていた方の何割かが、私どもの店に来ていただければと期待しています。その意味で“商圏の深耕策”です。
 実際にそういう傾向は出てきているようで、消費者相談室から上がって来る資料を見ますと、「いままで日本橋の三越へ買い物に出かけていましたけど、新装オープンした東武さんなら、わざわざ向こうまで行かなくてすむ」というお声を頂戴しています。
 
 
魅力ある船橋駅前を目指し
西武百貨店と協同戦線も

 
−ヤング・アダルト層のお客さまが予想通りに増えているということは、千葉県船橋ブロックは、相変わらずニューファミリーの人口が増えているということですね。
 
 船橋の中心街は、駅を挟んだ海岸側が古くからの市街地でした。ところが、船橋駅周辺に私どもの店や西武百貨店さん、イトーヨーカ堂さんができたため、商店街は衰退してきました。
 けれども、その商店街が昨今、商店を廃業してマンション街に変わりつつあるんですね。
 ここは、都心に通勤するには便利な場所ですから、そういうマンションにニューファミリー層がどんどん流入して増えてくるのです。
 
−少子化で市場が縮小するというマクロデータはどこ吹く風、ベビーカーを押す家族連れがふえていますか。
 
 マクロ的には減少していますが、船橋地区は増加していますので、私たちもお子さま向けの売場についても再考しなければならないと思っています。その点で新しくなった津田沼ジャスコさんのキッズ対応は、怖いですね。
 
−食品売場についてみると、“惣菜全盛時代”ですし、地階の賑わい性を堅持させるためイートインがもう少し多くなるのかなと思っていましたが、わりと抑えましたね。
 
 大々的にやりたかったのですが、イートインというのはご存知の通り効率が悪いので、もっとスペースがあればふやしてもよいのですが、今回は見送りました。
 そのぶん、新装したレストラン街には、人気の飲食店を17店舗集めました。いずれも好評で、日祝日などはお客さまが多すぎて捌ききれない状態です。
 
−船橋西武さんも一度なくしたレストラン街を復活させるようですね。
 
 ぜひ設けていただきたいですね。といいますのは、船橋に来られお買いものされた後、せっかく当店のレストラン街に見えられても満員で百貨店でお食事ができないなんてことではお客さまに申し訳ない。ですから自分の店だけお客が入ればいいといった考え方では街そのものに魅力がなくなってしまいます。  魅力ある競合店がたくさんあったほうが、船橋は、魅力のある街になりますから。
 
−“地域対地域の競争時代”です。そうした考えは、大事な発想ですね。ところで東武百貨店船橋店は、地域一番店になってから今年で何年になりますか。
 
 1992年、先行していた船橋西武さんに逆転して1番店になりましたから、今年で11年になります。
 
−関東地区で見ても、百貨店業界では伊勢丹浦和店がナンバーワンですから、船橋東武はその次ということになりますか。
 
 そうですね。今回のリニューアルで立てた初年度売上目標の500億円(前年比108%)を達成すると、一番に躍り出るかもしれません。でも、あんまり売上競争ばかりしていても仕方がありません。それより地域の中で確実に支持され、最終的にはつぶれないで経営が成り立てばよいかなと思っています。
 
−最後に今後の課題は、何でしょう。
 
 今回、オープン以来26年ぶりにリニューアルを果たし、新しいスタートを切れたわけですから、お客さまのニーズに応えウォンツを的確に捉え対応することです。また、マーケットの成熟度に合わせて積極的に、店づくりやMDの見直しを行なっていくことだと思っています。
 
−本日は、お忙しいところどうもありがとうございました。
 
 

地下1階の食品売場は商圏の変化に対応し惣菜関係などの充実を図る

7階は、屋上部分だったスペースも店舗に転換しレストラン街の充実を図る
 
 
 
齋藤秀樹の提言
 
 東武百貨店といえばパブロフの現象のように想い出すのは、“ミスター百貨店再建請負人”こと前社長・山中氏(故人)のエピソードである。“ファッションの伊勢丹”出の同氏は、第二の百貨店人生を“銀座松屋再建”に尽力、黒字化を果し一躍業界の寵児となった。その余韻に浸る間もなく今度は、盟友・東武百貨店に招かれ武闘派トップとして“新しい店作り=人づくり”の陣頭指揮を執った。92年6月、みごと日本一の百貨店を完成させ、今日の東武隆盛の礎をつくられた数少ない“将の将たる御仁”である。
 
 語り草にもなっているエピソードとしては、新生東武開店当日、社員を前にして語った“山中スピーチの中味”である。曰く「皆さん、今日は、売ろうとしなくてよいのです。お客さまが何を求めて来店されたのかによく耳を傾け、それを叶えてやってください」という内容であった。 
 これは、トップの挨拶としてはユニークそのものである。構想含め5年の歳月、資金1600億円という大枚を投資して待ち望んだ大増築オープンの日に、「売らなくてよい」とは!――当時、真意を計りかねた社員も少なくなかったようだが私には、この発想こそ「新世代百貨店」を先取りした予言と受け止めている。 
 つまり、当時も含め現在業界各社が等しく抱えている難問中の難問は、“脱・同質化競争という追随を許さないデスティネーションストアとは、どうすれば構築できるのか!”である。そのヒントのひとつが、“モノを単にサプライする「百貨店」”から→“顧客が抱えている百の課題に応える「百課店」”への変身を急ぐことである、といえるからだ。
 
 激戦地・船橋における東武船橋店の今回の全館改装は、この“デスティネーション百貨店構築”へ向けた新しい挑戦であり、同時に“地域一番店の百貨店”に課せられた今後の新しいテーマであると見ている。

 
関連サイト: 東武百貨店
 

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