トーク * THE SC [連載第6回]
夢のプロジェクト六本木ヒルズで
都市生活者の新しいライフスタイルを提案

logo.gif 森ビル都市企画(株) 常務取締役 頭山 秀徳氏 
 聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏

何よりも人を大切に考える人間第一主義を掲げ
チャレンジ精神溢れる業態・商品開発で
商業の活力を生み出す

 
今年4月のオープン以来、数多くの来街者で賑わう六本木ヒルズ。約17年という年月をかけて実現に至ったこのビッグプロジェクトが注目を集めているのは、その規模の大きさと話題性だけではなく、従来の日本の都市開発の問題に立脚しながら、これからの都市のあるべき姿を描き出してみせたからである。いわばプロジェクト全体がひとつのチャレンジであるが、職・住・遊の融合という視点から、商業施設にもその精神が大いに発揮され、新しい試みが随所に見受けられる。消費不況といわれるなか、多くの人々を引きつける魅力がどのように生み出されたのかを伺った。


 
“24時間稼動する街”を理想に
ウォーキングディスタンスの視点から
新しい商業の姿を提案

 

六本木ヒルズ森タワー8階にて対談
 
−いま六本木ヒルズはTV、新聞はもとより経済誌から女性誌までさまざまなマス媒体で取り上げられていますが、私の印象としては、新しい都市開発のあり方を強く提案しているという感じがします。また、機能中心ではなく、人間が中心になっているという印象も受けました。不動産事業に携わってきた立場からみますと、これだけ広大な敷地で地権者も多いところを、最後まで夢をおもちになってまとめられたことにも非常に感心しています。この雄大な夢を実現された六本木ヒルズのなかで、今回は商業施設の構想についてお聞かせいただきたいのですが。
 
頭山 大西さんがおっしゃるように、六本木ヒルズには当社の森社長の理想と夢、そして創造が実現されています。森ビルが東京で手がけてきたこれまでの大型開発は、アークヒルズにしても六本木ヒルズにしても、地権者が多く、地形が谷底のようなところで、大手デベロッパーは敬遠していたところだと思います。しかし、優れた開発をすれば価値は上がりますし、いままで住んでいた方たちにも喜んでいただける。これこそがデベロップメントに携わる者の幸せではないでしょうか。
 
 また東京という都市には、防災性、耐震性の問題や、職・住・遊が分離していること、そして平面過密・上空過疎という都市問題もあります。ニューヨークのマンハッタンの平均的な容積率を当てはめれば、東京は4区の広さに収まってしまう。ですから、挑戦する意義のある空間がたくさんあるはずなのです。
 
 有望な若い人たちが今後の日本を支えていくだけの精神力と健全な肉体をもつためには、通勤時間が2時間も3時間もかかり、家に帰るのがやっとという現状を変えなければなりません。ウォーキングディスタンス、つまり自分の歩く範囲にすべてが満たされるということが必要です。東京には何でもあると言いますが、では映画を観て食事をして、そのあとさらに演劇を観に行ったりジャズを聴きに行ったりということができるでしょうか。ニューヨークやロンドン、パリでは、お年寄りが午後10時にレストランで食事をしたあと、一緒にジャズを聴きに行くことができます。ところが日本では、10時に食事をしたらすぐに帰る支度をしなければなりません。これはやはり健全ではない。そのような視点に立って商業ゾーンの企画をしました。
 
 たとえば営業時間です。“24時間稼働している街”を理想に掲げ、いろいろなアイデアを出し合いました。仮に、レストランが朝7時に開店して翌朝5時まで営業する場合、朝と夜では従業員や店長のシフトがありますし、給料の形態も違うでしょう。それでも、朝と夜でお客さまに違いを感じさせないような、一貫したサービスが提供できるように、経営者は従業員を教育する必要があります。ただ、これは非常にむずかしく、そういうことのできる方は日本に何人もいません。
 
−そうしますと、施設の形態よりも、新しい商業のあり方を提案しているということになりますね。
 
頭山 そうですね。東京の夜遊びというとだいたい男性向けのものばかりで、それ以外は若者のディスコくらいしかない。健全な夜遊びの回遊性がないのです。そこで六本木ヒルズは、夜9時を過ぎても家族で楽しめる場所であることを目指しました。レストランも営業していますし、美術館も曜日によっては24時まで営業します。展望台も深夜1時までオープンしています。ルイ・ヴィトンも木・金・土曜日は午後11時まで営業する予定です。これははじめての試みですので、ルイ・ヴィトンでは社員にアンケートをとったそうです。すると、そういう時間帯でもやるべきだという意見が多く、働きたいという人も出てきたそうです。
 
 ここはひとつの街であり、街には閉店がありません。また、お弁当を持ってきたり買ったりして、どこかの通路で座って食べていてもおかしくない。そういう開放感がジョン・ジャーディ氏のデザインによって演出されています。
 
 8月5日からは夏休みのイベントとして、朝7時半から太極拳の講座を開催しているのですが、400人くらいの方が参加されています。また、映画館の屋上に田んぼをつくって、地区内のお子さんたちを集めて田植えをしたのですが、秋には収穫祭をしたり、その稲の使って何かをしたりといったことまで、お子さんたちと一緒に体験していく計画です。
 
−明確なコンセプトのもとに、これだけ総合的な開発が民間でできたというのはすごいことです。商業施設では差別化・個性化ということがよく言われますが、では何を差別化するのかというときに、根幹の部分が意外に乏しいところが多いですね。
 
頭山 私も百貨店にいたころ、取引先と組んで個性化しているつもりでいても、いつの間にかそれが全国展開されていて、結局、同質化してしまいました。しかも、先行してオンリーワンのものをつくろうとしても、それだけの知識と見識をもったバイヤーが百貨店のなかにいなくなっているのです。これは取引先やメーカーにもいえることです。
 
−たしかに、高度成長期にはモノを置くだけで売れましたから、そこで成長が止まってしまったのかもしれません。
 
頭山 そういうバイヤーが海外へ買付けに行っても、海外のメーカーから全然信用されません。買いつづけてくれないし、意見も言ってくれないからです。このような状況に危機感を持った経営者が、六本木ヒルズという新しい場所でオリジナルのショップにトライしているのです。
 
 
左●“24時間稼動している街”を理想とする六本木ヒルズにおいて、「ルイ・ヴィトン」は、はじめて週末深夜営業への試みに取り組んだ
右●「10 years gifts」という新しいテーマを掲げ、けやき坂通りに出店した「HIROFU」のように、新商品を開発し新しいスタイルを提案する店舗もある

 
新業態、オリジナル商品開発への
チャレンジ精神が
商業に活力を生み出す

 
−単にスペースを提供するのではなく、業態変更も含めて、大変な情熱を傾けていらっしゃいますね。
 
頭山 6年間で2000社くらいの方とお話をしてきましたが、そのうち200社が、森ビルのロマンに共鳴して来てくださいました。
 六本木ヒルズに出店していただいたレストランは約70軒ですが、この6、7年で何軒の店に食べに行ったかわかりません。担当者のなかには、ロサンゼルスで16軒くらい食べ歩いた者もいます。そうした経験があるからこそ、ここに入っているレストランの経営者やシェフ、スタッフと何でも話せるようになるのです。そうなると楽しいし、困っているときも辛いときも話し合いができるようになります。
 
−事業者だけではなく、店舗側もそういう意欲をもっていて、趣旨に賛同されたということですね。
 
頭山 200社の方たちの多くは、その時代の求めているものを読み、21世紀を生き延びよう、もっとクリエイティブに生きよう、と考えておられたのではないでしょうか。たとえば、とらやさんの「TORAYA CAFE」はまったくはじめての業態ですし、サザビーさんの「ESTNATION」にしても、旗艦店であれだけの大型店舗ですから、軌道に乗せるのは大変ですが、そうした夢をもって取り組まれているのです。
 
−オンリーワンというコンセプトで、各社が商品、店舗をオリジナルに開発されたと伺っていますが。
 
頭山 はい。たとえばブルーミング中西さんが「クラシクス・ザ・スモールラグジュアリ」というハンカチの専門店をつくられたのですが、商品の最低価格は1800円です。いまハンカチは、百貨店やショッピングセンターですと500円から800円くらいですから、3倍くらいです。その価格のものが非常に売れているのです。
 
 ここの商品は全部オリジナルで、刺繍だけでも200種類あり、そのなかから好みのものをオーダーできます。だからこそ1800円でも安いという感覚になるのです。
 中西さんとしては、ただ売るだけの商売をやっていては社員が育たないのではないか、という問題意識から出発し、新しいことに挑戦されている。そうしてチャレンジしたことで、百貨店の3倍もの価格のヒット商品が生まれたわけです。
 
−そういうステージを森ビルさんがおつくりになったことによって、商業の活力、新しい文化が生まれているという気がしますね。
 
 
(左)●発祥の地に新しいコンセプトで蘇った「HEARTLAND」、六本木ヒルズ独自の品揃えで好評の「ZARA」など、店舗がそれぞれにオリジナリティを発揮している
(右)●すべてオリジナルのハンカチ専門店としてオープンした「クラシクス・ザ・スモールラグジュアリ」、まったく新しい業態での出店を決断した「TORAYA CAFE」など、六本木ヒルズだからこそという独自の店舗づくりにこだわったところが多い

 
 
来街者一人ひとりが
自分らしく行動できる
ライフスタイルをもてる街に

 
−六本木ヒルズにはオフィスワーカーや住民の方が数多くいらっしゃるわけですが、一方で全国から非常に多くの観光客が訪れています。そういうなかでは、商品の品揃えやコンセプトづくりはむずかしいのではないでしょうか。
 
頭山 六本木ヒルズでは衣料品だけにとどまらず、アートから食品、レストラン、雑貨関係まで、すべてがファッションだという捉え方を私はしているつもりです。また、ライフスタイルとは自分の家の中での生活をどのようにするかではなく、いかに自信をもって自分の行動ができるかということだと考えています。お弁当をベンチに座って食べても、「私は格好いい」と思えること。ソフトクリームを食べながら歩いていて、ウインドウに映った姿を格好いいと思えること。要は、お金の使い方ではないということです。その意味で六本木ヒルズは、自分らしく行動できる街ですから、リピーターはさらに増えるはずです。
 
 10月18日には六本木ヒルズ森タワーの52・53階に森美術館がオープンします。ここが夜12時まで営業すれば、お客さまにとって時間の選択がより自由になり、展望台から景色を見ながらでも、リラックスしてアートが鑑賞できる。そういうことが非常に大事なのです。
 
 映画館も、いまの街なかの映画館というのは、昼間でも男性が一人でトイレに行くのは怖い雰囲気があります。ここの映画館は朝まで営業していますから、女性が夜中の2時、3時に、何の心配もなく一人でトイレに行けるような映画館でなくてはなりません。そのために、店長も2交代制にして、夜中でも安心して来ていただける体制を整えています。 
 
−客層はいかがですか。想定していたよりも観光客の比率が高くなると、商品の内容も違ってくるのではないかと思うのですが。
 
頭山 そんなことはありません。というのも、グランドハイアット東京の宿泊客のなかには、けやき坂のブティックで一度に500万〜600万円の買物をされる方もいらっしゃる。また「ZARA」では、売上が良すぎて仕入れが間に合わないくらいです。
 
 六本木ヒルズの客層は、年齢層が高いということが大きな特徴です。ポイントカードの会員比率をみると、10代は1%にも満たず、大半は25歳以上の女性です。そのような方々に、渋谷や原宿とは違う「私たちの街」という感覚をもっていただいているのではないでしょうか。
 
−たしかに、ただ店舗を集積させればいいというものではありません。ブランド店を揃えただけで、人間味が感じられなかったり、温かみのないだったりすると、人を惹きつけることはできません。
 
頭山 そのとおりですね。お店が努力しているということはお客さまに必ず伝わります。アクセサリーのお店でもバッグのお店でも、ここでは従来になかった商品を開発して販売していただいています。たとえばハンドバッグの「HIROFU」は「10年ギフト」というコンセプトで、新しい商品構成をされています。
 
−普通は、新しいコンセプトと、施設や環境がマッチングしないことが多いのですが、理想を実現する場があるのはすばらしいことですね。
 
頭山 レストランでは、「鮨 すきやばし 次郎」、「六本木 竹やぶ」、「てんぷら みかわ」と、数々の名店に入っていただくことができました。また、「パ・マル」は「アピシウス」の元総料理長・高橋徳男さんによるフレンチ家庭料理のパイの店です。中国宮廷料理の「レイ家菜」(レイカサイ)は、西太后が日常に食した料理を一家相伝で受け継いできた家系のお嬢さんが料理長で、彼女は国慶節宴会料理コンテストの優勝者です。
 
 スタンディングビアバーの「HEARTLAND」は、キリンビール(株)営業部長の島田さんという若い方が企画を提案されたのですが、私は、「ここはハートランドの発祥の地なのですから、せめて1年間くらいはあなた自身が責任者になって、考えたことがすべてお客さまに伝わるような店づくりをしてくれませんか」とお話ししました。いま、彼は支配人として朝5時までがんばっています。店に入りきれないお客さまが外に列をなすほどの人気で、金・土曜日は500円のハートランドビールで100万円を売り上げてしまうのです。
 
 グランドハイアット東京の総料理長、ジョセフ・ブデ氏もすばらしい人で、彼は私どもにとって「ナマズ」のような存在です。というのも、北海道からニシンを運んでくるときに、生簀のなかにナマズを1匹入れておくと、ニシンが気を張るので新鮮に運べるそうです。だから、みんなでブデさんのことを「ナマズ」と呼んでいるんですね(笑)。
 
 グランドハイアットのなかにある「フレンチキッチン」は、奥がオープン厨房になっていて、そのブデさんに鍛えられた人たちがずらっと並んで調理しているところが見えます。あそこで朝食をとると元気になるような気がしますね。日本のホテルで一番いい朝食ではないでしょうか。
 
−いままでの日本の商業施設は、どちらかというとハードに偏った開発をしてきましたから、トータルでソフトが貫かれているところはなかなかありません。
 
頭山 アメリカでは、お客さまを心から楽しませなければならないという考え方が浸透していますが、トータルにバランスのとれた企画力、実行力、そして継続力というのが、日本には足りないと思います。何よりも、人間を最も大切に感じ、考えるということ。人間第一主義であることが大事です。結局、感動は人間がつくるものであり、コンセプトがつくるものではないのです。
 
 今後、防衛庁跡地が開発され、さらに国立新美術館ができるなど、六本木は大きく変わっていきます。だからこそ、六本木のイメージアップのために、森ビルも含めてみんながリラックスして理想を語り合う場が必要です。その空気は、お客さまにもはっきり見えるものだと思います。
 
−本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。
 
 
関連サイト: 六本木ヒルズ
 
 
頭山氏 頭山 秀徳氏
とおやま ひでのり●(株)伊勢丹取締役相模原店長、同社取締役開発部長、同社取締役業務部長を経て、平成8年7月森ビル(株)入社。平成9年10月より現職。

大西 直良氏
おおにし なおよし●SCの開発および経営に関する実務コンサルティング会社、(株)ウエルウエスト代表取締役。日本ショッピングセンター(SC)協会の理事・広報委員長。亀戸の「サンストリート」の開発・運営会社、タイムクリエイトの前・代表取締役。
大西氏

 
 

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