トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言 連載第7回
 
京王百貨店の“中高年戦略”いまなお健在
'96新宿戦争で“独自のミセス戦略”として構築
来期、創業40周年契機に全館改装、さらに強化・本物へ

 
株式会社京王百貨店 専務取締役 百貨店事業本部長 
土居 英保氏

聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋 藤 秀樹


 
  7年前、繰り広げられた新宿百貨店戦争で、自らのアイデンティテイを鮮明にして戦った京王百貨店―。その後のデフレ不況をも乗り切り好業績を示すなど、“成功ビジネスモデル”として昨今、注目されはじめている。とくに、中高年をメインターゲットにした“独自路線”は、当時、地味で脇役にまわっていた作戦だったが、結局、最も“顧客に支持された戦略”として力が証明された恰好になったからだ。来年、創業40周年を前にして、今度は“日本一のシニア百貨店構築”を掲げるなど、健在そのもの。そこで、これら一連の仕掛け人であり立役者でもある土居英保専務にご登場を願い、同路線誕生の経緯や狙い等を訊いてみた。
独自の路線を歩み、シニア百貨店としての地歩を築いた京王百貨店(新宿店)

 
 
「地域3番店」が選択した新戦略
“自店の既存顧客”分析から、第3の道(すき間戦略)は
こうして生まれた

 
−百貨店各社の売上が軒並み前年割れするなか、京王百貨店は堅調な業績を示され、すっかりデフレ不況にも強い企業となった。前文で触れたように96年高島屋の新宿進出を端に勃発した“新宿百貨店戦争”で、他店はこぞって若者路線に雪崩れ込みました。しかし、御社は、“独自の路線=ミセスに照準を合わせた新大衆百貨店路線”を選択した。
 この路線は、“百貨店第三の生き方”を示すものとして注目しており、「激戦地における“すき間戦略”は有効だ」と見ています。御社にとってこうした見方は、不本意かもしれませんが。
 
土居氏 土居 いいえ、不本意なことはありません。創業時から高島屋さんと資本・業務提携をしておりましたので、当時、“高島屋ナイズされた店づくり”をしようという考えもありました。また、他店と同様、伊勢丹さんなどをモデルとしてやっていれば成果が上がるのでは…といった錯覚もありました。
 
 バブル経済当時には、自分たちの足元を見ずに、価格は高くても華やかであることが、百貨店の進むべき道、方向性だと考えてしまったように、百貨店人は業績のよいところに学び、追随してしまう安易さがあるように思います。
 
 私は、もともと4階ミセスフロアの出身で再配属されたのですが、当時セーター、ブラウス、ドレス、コートの平場は、時代遅れだという議論の真っ最中で、売上も落ちに落ちていました。私自身、元の売場に戻ったことで、以前は欠点と思ったところが長所に見えたり、長所と思っていたところが実は欠点だったとわかったりと、これまでと違う目で物事が見られるようになっていました。
 
 4階の売上が下降線なのは、「高齢のお客さまばかりだからで、うちももっと若い人たちに焦点を当てなければいけない」といった見方が強かったのです。
 実際、4階を歩いてみると、確かに中高年のお客さまばかりです。しかし、このお客さまを無視して若い人にターゲットをシフトするのは、本当に良いことなのか。迷いましたが、私としては、間違いではないか、という思いを強くしていました。
 
 逆に、こうした従来からのお客さまに、さらにご支持いただけるような売場づくりをしなければいけないのではないか、と考えるようになりました。
 社員の多くは、「百貨店はこういうものだ」という固定観念がありますから、なかなか理解してもらえることではありませんでした。価格帯の見直しをしたこともあって、「量販店にするつもりか!」とも言われました。
 
 しかし、当時の社長の理解もあり、熟年層の顧客をいままで以上に大切にする路線を推し進めたところ、バブル崩壊後下降線を辿っていた売上が上昇するようになりました。その実績から4階に来られるお客さまと連動するように1階のウォーキングシューズ売場を拡充したところ、これが大きな反響を呼びました。
 
 これで4階と1階に戦略核となる売場ができ、中高年路線が急速に他の部門からも認知されるようになりました。
 また、長引く不況のなかで、熟年層をターゲットに売上を伸ばしている百貨店という観点から、マスコミにも取り上げられるようになり、徐々に中高年戦略が当社のアイデンティテイとなっていったわけです。
 
 これからのテーマは、「日本一のシニア百貨店をつくろう」という目標を高く掲げていきます。これらは、考え抜いた新しい戦略というよりは、もっている長所を強みとして徹底していくことの延長にあると思います。
 ヤング・キャリア偏重のMD政策は、今後の人口構成の変化を考えても道理に合いません。
 
 
京王百貨店に学べ
“百貨店の生き残り策”“独自路線”をいかに
打ち出せるかで決まる!

 
−百貨店は、バブル崩壊後、自信を喪失し、お取引先情報を鵜飲みにした戦略を立てるようになりました。その結果、同質化しました。御社のように、自店路線を明確に打ち出すやり方は、今後さらに重要になり、個性化時代にマッチした素晴らしい戦略スタンスといえます。“現場から戦略を構築する”“現場から学ぶ”という姿勢がここにあるからで、京王百貨店に学べ!と声を大にして叫びたい。(笑)
 
土居 恐縮です。大事なのは、やはり現場感覚でしょうね。夢は大事ですが、分不相応なことを一生懸命やってもだめです。
 百貨店がこれから生き残るためには、他店とは違った方向性を模索する必要があります。しかもその土壌は、すでにあるものですから、それを生かす戦略をとるべき、というのが、私の考えです。
 
−同じようなことを口にする百貨店人はいますが、実行している人は、きわめて少ない。それを実行し、しかも結果を出しているわけですから、素晴らしいのです。
 
土居 私たちは、お客さまの支持を数字という結果に出さなければ、役割を果たしたことになりません。
 
−最近やっと、百貨店業界各社のなかから、50代以上のお客さまを蔑ろにしてきた反省を指摘する動きが出てきています。京王百貨店は、すでに10年前から気づいてそれを実践してきたわけですからね。
 
土居 いま思えば、「他店は若い人たちをお客さまにしているのに、なぜうちは中高年なのか。だから評判がよくならないのだ」という気持ちが社員の中にあったのも偽らざる事実です。
 
 
売場の大きな改装・改編より、
店が大きく変化したと意識されない
小さな工夫の積上げが成果に

 
  
−いまの時代、ありがたいことにお店のファンになられた方は、誘い合って来店してくれますし、口コミで、宣伝もしてくれます。口コミの威力は、凄いですよ。
 ところで、来年以降も改装を計画していると聞いていますが、今後はどんな方向性を加味しようとしているのですか。
 
土居 今後の改装は、来年の創業40周年をも踏まえて、「経営3ヵ年計画」に基づいて取り組んでいるものです。
 昨今の百貨店業界で、大規模なリニューアルを行ない成功した例はあまりありません。大枚を投じても売上を落としてしまうケースもあります。そのこともきちんと分析する必要があります。
 
 時代は変わり、お客さまのニーズ、顧客満足の中身も変わってきています。しかし私どものお客さまが、大きく変わることを望んではいないこともあります。たとえばレイアウト。お客さまが商品を探すときに戸惑ってしまうからです。 
 ということもあり、前回の改装ではミセスフロアは大きく変えないという方針を打ち出したわけです。そのなかで、ちょっとした変化―たとえば、休憩スペースができたとか、通路を歩きやすく滑りにくい床材に変えたとか、そういった小さな積み重ねが大きな成果を生んでいます。
 改革とは、日々のことでもあって、大きく変わったと意識されることが目的ではないと考えています。

店舗を改装して設けられた 休憩のための「ほっとスペース」が来店客に好評。店内にはこうした配慮が行き届いている

 
−京王百貨店の改装は、“ステップ・バイ・ステップのリニューアル”という方針になる…。
 
土居 そういうことです。私たちの体力で、3年間でどこまでできるかわかりませんが、大きなリニューアルを考える前に日々改めていかなくてはいけない。地道な積み重ねこそが変革の基本だと思っています。 
 
 
市場からの新規顧客開拓ではなく
“既存顧客の満足度”の追求が
今後の最優先テーマであり、使命

 
−お客さまを理解するということは大変ですが、それをやらねば生き残れない時代です。京王百貨店は、ミセスの婦人服だけでなく、化粧品の売上も全国5位にランクアップされたと聞いています。これもすごい評価です。
 
土居 データを見ると、私どもでは化粧品売上の約13%が40代以上のお客さまが購買している。これは想像していなかったことでした。売場を見ますと、メイクアップの「ボビイブラウン」の売場をはじめ、ヤング向けの化粧品売場にも中高年の方がたくさんいらっしゃいます。
 
 また、化粧品に限らず、ヤング・キャリア向けの婦人服ブランドでも50代の方が購入しています。われわれが考えるより、はるかに若い人向けの商品をお買いになっている。  ですから私は、「うちにいらっしゃる熟年層の方は、それだけ若々しさを求める感性の高いお客さまなのだ」といっています。しかし現状では、まだそのお客さまに十分に対応しきれたとはいえませんが…。
 
 今年10月からは、顧客データをさらに細かく分析できるシステムを稼動させます。実際にどういう顧客像なのか。そして固定顧客といわれるお客さまが実際に何を購入し、どのようなことを店にお求めになっているのか。また、どのような不満をおもちなのか。 
 そういったお客さまの実態がより把握できるようになると思います。京王の強み・弱みを明確にして、その欲求を満たせるようになれば、他の追従を許さないようなシニア百貨店に変貌できるという予感がします。
 
 おそらくキーワードは“上質感”でしょう。いくつかの他のキーワードも見えています。こうした要素をバランスよく配置すれば“日本一のシニア百貨店”になる。この徹底によって、うちは、本当に強くなるのではないでしょうか。
 
 高齢化の進行の中でシニアにターゲットを据える企業も増えていますが、当社にはこの10年間失敗を重ねながら培ってきた蓄積があります。私どもはすごい金脈をもっているということになるのです。それを生かすため、意識改革や体制の硬直化の是正など、改革に取り組んでいるところです。
 
−ポテンシャルを含めると、京王百貨店の未来は明るいですね。
 
土居 ようやく形が整ったという段階です。それでも毎日、たくさんのお客さまにいらしていただいているので、「これでいいのでは」という甘えが生まれる可能性があります。お客さまの声を深く分析していくと、「これだけ言っているのにまだわからないのね」という厳しい意見を述べてくださる熱狂的なファンもいらっしゃいます。
 そうした要望に対しても応えきれていないわけですから、どうすればご満足いただける百貨店になれるか、日々、模索しているところです。
 
−ミセスの不満は、センスのいい洋服があっても、自分たちの体に合うサイズが揃っていないという不満が圧倒的です。今回、丈サイズ揃え(2センチ刻みのスラックスを販売)に挑戦したようですが…。
 
土居 ミセス強化には、サイズのバリエーションが欠かせません。「完全買取りでよいからサイズ13号まで、揃えなさい」と担当者に厳命しています。
 メーカーの方も半数くらいは応じてくれるのですが、ファッション業界では加齢による体型の変化に対する研究がまだまだ遅れています。
 50歳、60歳になれば誰でも多少はぜい肉が付きます。これは仕方のないことです。それを容認しないのが、そもそもおかしいし、たとえ冗談でも「うちの商品は60歳以上の人に買ってもらっては困る」などと言うのは、後進性そのものです。
 老いも若きも買ってくれるのが一番で、それが社会への貢献だと思います。

ミセスフロアのスラックス売場。2cm刻みで丈サイズを揃える心配りでミセスから圧倒的な支持を受けている
 
 
−ショッピング時において、さまざまな問題点がいつも発生します。ですから、売場は、単にモノをサプライする所ではなく、率先してお客さまの思いを叶えてあげる“問題解決の場”にすることが顧客満足を叶える第一歩と思いますが…。
 
土居 そうだと思います。他店の真似などしないで、いま、来ていただいている自店のお客さまに満足していただけるようにしなければだめです。
「前年比が落ちているから新規顧客を開拓する必要がある」などと言いますが、これは間違いですね。
「既存のお客さまをきちんと捉えていないから売上が落ちている」のですから、お客さまが一人たりとも店離れしないような仕組みづくりや配慮をすることだと思っています。もっとお客さまが抱えている問題を解決してくれる店になれば、自ずとロイヤリティは高くなり、1%、2%の売上は上がっていくはずです。そうでなければ困ると売場のスタッフには、いつも言っているのですが、まだ十分とはいえません。
 
−2階のヤング売場は、どのような対応を目指していますか。
 
土居 もちろん、ヤングのお客さまにたくさん来ていただいていますが、ただ、他店と比べて私どもの商品はトレンド追求型の品揃えではありません。新宿西口で勤務しているOLの方々を対象にした通勤着や普段着が主体です。流行を追うのではなく、本来の意味でのコンサバティブな、ベーシックかつトレンドも配慮した、安心できる服を提供しています。
 
 中心年齢は、仕事をもっている20代、30代の方々で、将来を考えたときに最も獲得したい客層でもあります。実際に業績も上がっていて売場面積は小さいのですが、ブランド別単位の売上は非常に高いですね。
 
 
“売る側の論理”ではなく
お客さまの気持ちのわかる
百貨店であるべき

 
−先ほども言及された「経営3ヵ年計画」では、来期に向けて社内ではどのようなことを目指しているのですか。
 
土居 来年が新宿店の創業40周年ですので、本当はそれに合わせて改装計画を完成させたいところですが、先ほども申したように「まず、リニューアルありき」ではなくて、日々やり残したことに気づいたら、一つひとつ対応していくことを優先しています。
 
 ですから、3年で完結する計画ということではなく、何年かかってもいいから、当社のお客さまが求める商品展開を実現できる基礎づくりをするということです。創業40周年を機に新しい考え方でスタートしようという気持ちでいいと思っているのです。
 
 ただ、従来とはスタンスを変えた部分として、どこでも縮小傾向にあるリビング関連をこれまで以上に充実し、違う切り口でチャレンジしたいと思っています。
 私どものお客さまは、どちらかというと服飾品よりも生活空間における豊かさを重視されており、そうした志向性を後押しするためにリビング用品を軸にした新しい生活提案をしていくべきではないかと考えています。
 
 最初の計画では、6階リビングフロアは最後に多少手を加えればいいと思っていたのです。が、今回は逆に最重要優先フロアとして品揃え内容を大胆に変え、改装スケジュールも早めていくつもりです。
 
−もうひとつ、ミセスが会食するためには、都心デパートにとって大事なのがレストランゾーンだと思います。レストラン街も変えていきますか。
 
土居 その通りです。レストラン街の充実は、私どもの大きな課題で、前回に拡大し改装しましたが、私どものお客さまがどのようにレストランで過ごされたいのかを考えたとき、十分に役割を果たしているとは考えていません。
 ですから、やらなければならないことはたくさんあります。お客さまの思いを実現できるように、これからも努めていきたいですね。
 
−そうすることによって、「週1回は京王百貨店に行かないと落ち着かない」というお客さまが増えると最高です。毎週店に行けば、どこかが変わっている。それが動員のマグネットにもなっていく。
 そのためには、大きく変えるのではなく、ステップ・バイ・ステップで日々変化していく。また売場では、問題解決のサービスを提供してくれれば、“真に存在意義のあるシニア百貨店”になる…。
 
土居 やはり、週1回は京王に行かないと落ち着かないというくらいに、お客さまの気持ちがわかる百貨店に早くなりたいですね。
 それは、真剣に努力すればできると思っています。そのためには、まず売る側の論理を押し付けたり、売る側が都合のいいことばかりを考えていてはだめです。
 
 バブル崩壊後、百貨店という運営側の論理に立って改革してきた反動が、いまの百貨店業界不振の要因ではないでしょうか。私どもにしても、なぜ、これだけのお客さまが支持してくださっているのかが本当に見えてくれば、21世紀に通用する新しい戦略が構築できるはずです。
 
 これは、絶対に実現させたい。他店には真似できないものを、自ら手でつくり上げなければいけない。それが、この3ヵ年の私の最大の課題であり、目標です。 
 
−「顧客起点の店づくりを!」と言うのは簡単ですが、実践している企業は、少ない。ぜひ、積極的に取り組み、有卦に入っている京王百貨店にサクセスストーリーつくっていただく。そして成功させる!このことは、転換期の業界にとって大変重要なことですので、大いに期待しております。本日はどうもありがとうございました。
 
 
(左)●母と娘が一緒に買物をしていただけるよう 商品構成したミセスの売場(4階)
(中)●1階のウォーキングシューズ売場。中高年戦略のなかで拡充が図られ大好評を得た
(右)●7階に常設されている阪神タイガースのグッズ売場。チームが優勝して絶好調の今シーズン、売上のほうも絶好調だ

 
 
齋藤秀樹の提言
 
 松下電器の創業者・幸之助翁の古い随筆に「まね将棋」という短い一文がある。ご存知の方もあると思うが、翁の同文が意味するところを私なりに要約してみると、次のような内容であったように思われる。
 
 曰く「歯の立たない強い相手と将棋を打ってみてわかったことは、5分と持たないということである。そんな時、どうするか。相手が打つ通り駒を動かす手法(=まね将棋)で対抗するとなんとか5分間ぐらいは持たせることが出来ることがわかった」。しかし、「勝負は、時間の問題で、完敗する。実力は、どんなことをやっても覆い隠すことはできないのである」と翁は結んでいる。
 
 当時、家電業界は“白もの”といって高度経済成長の追い風を受け大ブレークの真っ只中にあった。その中で、業界雀たちは、「開発のソニー、真似の松下(“まね下”と呼んでいた)」と揶揄、松下電器の成功に対して鼻を明かしたい狙いからか戯言が流されていた。こうした世間を無視しなかったのは、さすが幸之助翁である。早速、幹部社員に手紙をしたため、「まね将棋」と題して他社の“まね”や“コピー”の限界を訴え、戒めたのである。爾来、松下の開発研究費は、ソニーを上回り、その後の同社を繁栄に導いたのである。
 
 今回、ご登場いただいた京王百貨店の独自路線とは、決して珍しい手ではないが勇気ある決断であった。あたかも“まね将棋のエピソード”を熟知していたかのような大人の対応ぶりで、同社は新宿百貨店戦争に勝ち残り、今日の強さを保証することとなった。 
 ここ10年、自信喪失と出口なしの状況に立ち往生している百貨店人のためにも、同社の“中高年戦略”は、是非とも大成功して欲しいものである。

 
関連サイト: KEIO DEPARTMENT STORE
 

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