トーク * THE SC [連載第5回]
「脱遊園地」を掲げ、街づくりの視点で多様な魅力を発信
logo.gif (株) 東京ドーム 代表取締役社長  林 有厚氏 
 聞き手/ (株)ウエルウエスト代表取締役 大西 直良氏

複合施設LaQuaの開業で
男性中心のイメージからの脱却を図り
より幅広い層が訪れる街へと成長

 
今年5月、スパ、商業モール、アトラクションという3つの要素を融合させた「LaQua」をオープンさせた(株)東京ドーム。以前は、後楽園ゆうえんちとして親しまれながら、野球を中心としたスポーツと男性のための場としてイメージされがちだったが、ホテルの開業を契機に大きく変貌を遂げてきている。今回のLaQuaは、癒しの施設や魅力的な商業施設を集積させることで、利用者層の拡大とともに、従来のイメージを大きく転換させることになるだろう。今後も、ひとつの街として、魅力ある成長を遂げていくことが期待される。


 
消費のリーダーである
女性をメインターゲットに
複合型商業施設を発想

 
−後楽園とは、野球好きだった子どもの頃からの長いお付き合いでして、ここは個人的にも大変興味深い場所になっています。今回は“後楽園ゆうえんち”の再開発事業として、この5月にオープンされました融合型商業施設「LaQua」についてお話をうかがえればと思います。
 再開発にあたり「脱遊園地」ということが大きな柱になっているようですが、そうした発想は最初からあったのですか。
 
 都市型遊園地の先駆けとして、1955年以来営業してきた「後楽園ゆうえんち」ですが、83年の東京ディズニーランド誕生の影響で入場者数が落ち込みました。90年代になり景気の低迷が続くなかで、日本中のテーマパーク・遊園地が衰退を余儀なくされてきた状況があります。そこで、遊園地という形に対して根本的な手を打たなくてはという思いがありました。
 
 私どもは、東京ドームの完成以来、ドームを核とするひとつの街として「東京ドームシティ」というコンセプトを打ち出してきました。街を標榜するには多彩な機能と同時に、24時間型の賑わいが必要です。そこで社内に20〜30歳代の女性を中心にしたプロジェクトチームを立ち上げ、脱遊園地をテーマとした新たな施設のあり方の提案を行なうよう指示したのです。
 
 
−その結果誕生したのが、女性をメインターゲットにした複合型商業施設ということですね。
 
 私どもはこれまで、主に男性を対象にした事業が多かったと思います。野球にしても、その隣りの場外馬券売場にしても然りです。その後、アイススケートやボウリング事業に取り組むなどして、次第に女性のお客さまも増えてきましたが、男性主体というイメージや構造はなかなか変わりませんでした。しかし、いままでのように男性主体の街ですと、昼間のお客さまは期待できません。街として昼の時間帯にも賑わいがほしいということになれば、いまや消費のリーダー的存在である若い女性に多く来ていただかなければなりません。これまで取り込めていなかった、そうした女性層を取り込むということが、今回の再開発の基本方針でもあったわけです。
 
−ショッピングモールを導入されたのも、そうした狙いがあったからですね。
 
 そうです。ショッピングは女性にとって大きな楽しみです。女性の集客を考えるには、その楽しみをいかに提供するかが重要だと思います。
 私どもがここに物販店舗を出したのは、野球や音楽コンサートにおいておみやげや軽食を提供する付帯施設のようなものでした。これは行政のいうところの 便益施設というものです。それというのも、この場所が都市計画公園の指定を受けていまして、遊園地やスポーツ施設はつくってもいいけれど、デパートやショッピングモールのようなものはつくってはいけないという規制があったからです。
 
 したがって、ここでは本格的な物販業務はできませんでした。あくまで野球を観戦する方々がサインボールを買ったり、空腹のときに食事をしたりといったサービス施設をつくるという範囲内のことなのです。ですから、店のつくりもいままではスポーティな感じのものばかりでした。それを今回は大きく変えたわけです。
 
−今回、LaQuaのような複合商業施設が可能になったのはどのような事情によるものですか。
 
 ここは敷地が約4万坪あるのですが、そのなかで1000坪だけ都市計画公園の中に入っていない部分があります。その1000坪は地下鉄の路線に沿った幅10mくらいの区画で、これまではそんな細長い土地では何もできないだろうと思っていました。しかし、今回はこれを見逃す手はないということで発想の転換を行ない、そこに集約して物販などの商業施設を建設したわけです。
 
 当社は、物販としては「SHOP IN」という店を直営してきておりまして、若い女性層をターゲットにしたマーチャンダイジングにはそれなりの実績があります。そこで、ここに「SHOP IN」のようなものをぜひ入れようと考えました。今回のプロジェクトチームには、そうした経験をもつスタッフも入れて、企画からリーシングまでを担当させました。
 しかし、小さい店舗を1つつくったところで大きな集客は期待できません。やるのであれば、多様な店を最低でも50店舗は揃える必要があるということで、飲食19店舗と物販51店舗、合わせて70店舗という規模になりました。
 
 
今年5月1日にオープンした「LaQua」。Spa LaQuaとショップ&レストラン、アトラクションの3つの要素が融合した、新しいタイプの複合型商業施設である

 
消費意欲を向上させるため
良質で安価なものを
気軽に購入できる店舗構成に

 
−リラクセーションをテーマに温泉を導入したことが大きな話題になっていますが、その発想はどこから生まれたものですか。
 
 ターゲットである若い女性がいま何を求めているかということを知るために、外部の機関に依頼して女性の意識調査を行ないました。その結果のなかで、「温泉に入りたい」「世界のお風呂を楽しみたい」という声が多かったのです。
 
 日本にはたくさんの温泉があり、どこも女性客が主な顧客になっています。しかし、いま数多くある温浴施設と似たようなものでは訴求力はありませんし、といって、いまさら、かつてのヘルスセンターのような施設をつくるわけにもいきませんから、若い社員を世界各地の温泉施設の視察に行かせ、新しい魅力をもつ本格的な温泉づくりに取り組もうということになったわけです。
 
−しかも、ここで温泉の掘削に成功されました。
 
 かつて温泉が出ない立地といわれていた大分県の城島後楽園で掘削して湧出したという経験があったものですから、ここでも掘ってみようということでやりましたら、すばらしい温泉に突き当たったということです。
 
 今回の「Spa LaQua」は世界各地の温泉・温浴のいいところを学んで構成されています。たとえば「ヒーリング バーデ」は、バリ島のイメージで全体を演出すると同時に、内容的には、韓国で人気のチムジルハンという低温サウナを採り入れるなど、従来の日本にない温浴の形を提案することにしました。
 
−温泉でリラックスしてもらった後は、ショッピングを楽しんでいただくということですね。
 
 そうです。温泉で女性のお客さまがたくさん集まるのですから、ショッピングモールも入れた複合施設にしようという考え方です。
 
−ショッピングモールのコンセプトはどのように考えられたのでしょうか。
 
 新宿、銀座、池袋に囲まれたこの立地では、特別高級なブランドを揃えるより、ここに集まる若い人たちにとってのブランドといえるような品揃えのほうが、お客さまの支持が得られるだろうと考えました。つまり一点豪華主義の買物をされるときは銀座に行っていただいて、ここでは日常的に使うもののなかで最も良いものを扱っているお店を集めようというスタンスをとりました。
 
 たとえばユニクロさんがそうです。銀座で高価なものを買って一生使うという方もいらっしゃるでしょうが、ファッションは日々変化するものですから、ここではそれよりも、良質で安価なものをいろいろ買い揃えて、毎日違ったコーディネートを楽しんだりできるように、新しいものを気軽にどんどん買っていただけるようにしたかったのです。
 
 かつてアメリカ経済が伸び、日本が昭和30年代に経済成長を遂げたのは、旺盛な個人消費に負うところが大きい。いまもアメリカ経済は個人消費に支えられています。いまの日本は消費不況でみんなが慎ましくなってしまい、少しでも安いものを探してそれを大事に使っているようですが、それでは経済は伸びません。大いに消費することで、結果的にみんなが潤うという消費経済をどこかに忘れてしまっています。日本や、われわれが取り組むべきことは、消費を振興することなのです。そのために私どもは、買いやすい商品と入りやすい店づくりに取り組んだわけです。
 
 
利便性の追求が
地元のみならず
周辺地域からも利用者を呼ぶ

 
−ここの立地を考えると、文京区という文化的レベルの高い地域のミセスという客層があります。それから、レジャーでやって来る女性とその連れである男性を含めた若い層、あるいは観光で訪れる人々など、非常の幅広いターゲットが想定できるのではないかと思います。 
 そうしたなかで、成城石井さんというスーパーマーケットを含めた本格的なモールを形成されているということが大変興味深いと思います。今回、成城石井さんが入られたということも含めて、商業の面で見たとき、いままでの流れとは違う、地域住民に目を向けた地域密着型の思想のようなものを強く感じるのですが、いかがですか。
 
 ご指摘の通りです。温泉をつくりましたが、都心の施設ですから、基本的には宿泊せずに温泉を利用できるわけです。地域の方を中心にSPA感覚で気軽に楽しんでいただき、多くの方にリピーターになっていただきたいと思っています。野球観戦や音楽鑑賞では、ウィークデーの日中の賑わいはあまり期待できません。ですから、温泉でリピーターを創出して常に賑わいのある施設にしていきたい。また、それと合わせてスーパーマーケットを入れたかったのです。候補の店はいくつかありましたが、実際にお店を視察しながら検討した結果、成城石井さんに出店をお願いしました。
 
 都心部で200台の駐車スペースをもつスーパーマーケットというのは珍しいと思います。それだけに、周辺の方々に便利な施設として利用していただけると思います。
 
−最近は、六本木、汐留、品川と都心部での大型開発が進んでいます。LaQuaも、そうした流れのなかでの展開で、都心部の空洞化を変える力になっていると思うのですが。
 
 そうですね。文京区には8万7000世帯あるそうですが、企画の段階で、私どもはそうした文京区にお住まいの方々を対象として考えておりました。しかし実際にオープンしてみますと、隣りの千代田区からのお客さまが意外に多く、驚いています。千代田区には高額なマンションに住まわれるような裕福な層が多いようですが、日常的な買い物をするのに適当なお店が少ないのではないでしょうか。
 
−確かに、あるのはデパ地下くらいでしょうね。お台場あたりの方も、電車に乗って新橋まで買い物に出て行くといいますから、都心の生活者の需要を満たすお店が不足しているということだと思います。そういう意味で、今回の施設に成城石井さんを入れられたということは、時宜を得た展開ではなかったかと思われますが、お客さまの反応はいかがですか。
 
 非常に好調のようです。成城石井さんの目前にエーエム・ピーエムさんがあるので、競合する要素もあるのではないかと少し心配もしましたが、商品の内容面で競合することはないようですので安心しました。
 
−Spa LaQuaは朝9時まで営業されているということですが、スーパーマーケットにも 時間営業型が登場しています。都市生活者の生活パターンが変わってきましたので、このような都心型の施設は“時間”という切り軸からもいろいろな可能性があるのではないでしょうか。
 
 いまは物販の営業時間は午前11時から午後9時まで、飲食は午前11時から午後11時までとなっています。成城石井さんは、今後、午後10時や11時までの営業が実現可能かどうか研究なさっているようです。
 
−飲食店の構成はどのように考えられたのでしょう。
 
 商業施設と同様、日常的に気軽に使っていただけるようにということで、ファストフード的な店を中心に考えていました。そこに非日常性の感じられるテーマレストランを配して、活気を生み出すという配慮をしました。
 
 
(左)●総面積約4万坪に多彩な施設を複合し、都市型リゾート空間として成長を続ける「東京ドームシティ」
(右)●2000年6月にオープンした「東京ドームホテル」。地上43階、高さ155mの超高層ホテルで、1,006室の客室、18の宴会場、10のレストランとラウンジを備える

 
街として常に変わり続けることで
新たな魅力を生み出す努力を継続する

 
−オープンされて以来、たいへん好評のようですね。年間集客数800万人という予想をされているようですが、いまの状況からいきますと予想をかなり超えるのではないでしょうか。
 
 そうですね。オープン1か月を過ぎ、5月の来場者が175万人でした。このペースですと年間1000万人は軽く超えるのではないかと思っています。
 
−かつて、スポーツクラブのない時代に後楽園ジムをつくり、日本ではじめて機械化されたボウリング場をつくって、さらに東京ドームをつくった、というように、日本初のものを次々と展開されてきた御社が、今度はLaQuaで、アーバンリゾートというテーマで商業モールと癒しと遊びの総合施設を先駆的に展開された。 
 これまでの、男性中心のスポーツと娯楽という事業展開から、女性を含めた幅広い年齢層に対して総合的なアプローチで事業を展開させる方向に進んでおられるように思われます。今後の事業展開についてのお考えをお聞かせください。
 
 いまのような不況下では、みなさんは先行きの不安から貯金をなさって、あまりお金を使わないという現状があります。また、リゾートというのは基本的に土・日祝日にしか出かけませんから、ますます消費から遠のくわけです。ですから、リゾートという部分についてはあまり過剰な打ち出しをしないようにしながら、「東京ドームシティ」を中心にした事業展開をするという方向でやっております。
 
 一昨年、東京ドームホテルをオープンしましたが、それについても建設許可をとるのに長い時間がかかりました。ちょうど中曽根内閣のときでして、経済の復活は民活しかないということで出た許可です。都市公園の中のホテルとして、これも第1号でした。そして、今回の再開発施設LaQuaが完成したことで、スポーツ施設、アミューズメント、ホテル、温泉、商業施設が揃い、街として形が整ってきたといえます。こうした、この街を形成するいろいろな要素が渾然一体となって魅力を発揮するように、これからの事業を進めていきたいと思っています。
 
−総合的な要素で構成される都市拠点になりましたが、これでひとまず東京ドームシティは完成ということでしょうか。
 
 水道橋駅側の角地に未利用地が残っていますから、今後その部分の開発も検討していきたいと考えています。この“街”は常に変わり続けることで魅力を生み出していく、このことが何より大事だからです。
 
 また、私は“日に新た”をモットーとしております。東京ドームシティにいらっしゃるお客さまを日々新たなる気持ちをもってお迎えし、ご満足していただきたいと思っております。
 
−本日は、お忙しいなか、ありがとうございました。
 
関連サイト : TOKYO DOME CITY WEB SITE
 
 
林氏 林 有厚氏
はやし ゆうこう●1930年生まれ。慶應義塾大学大学院終了。55年に(株)後楽園スタヂアム(現(株)東京ドーム)入社。80年、取締役人事担当、82年、常務取締役、84年、専務取締役、87年、代表取締役副社長を経て、96年、代表取締役社長に就任。

大西 直良氏
おおにし なおよし●SCの開発および経営に関する実務コンサルティング会社、(株)ウエルウエスト代表取締役。日本ショッピングセンター(SC)協会の理事・広報委員長。亀戸の「サンストリート」の開発・運営会社、タイムクリエイトの前・代表取締役。
大西氏

 
 

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