トーク * 新世代百貨店 21世紀の提言
 
“企業拡大”より“顧客満足志向”で再生の道探る
事業の立脚点は小売業、“お買い得づくり”を優先
社員も資本参加、新モデル構築へ全員野球

 
株式会社 さくら野百貨店 代表取締役社長 
臼井 修氏

聞き手/(株)丹青社 営業開発室 専門役 齋藤 秀樹


 
 2003年3月27日、仙台駅前に(株)さくら野百貨店仙台店(社長・臼井修氏)が改装オープンした。同店は、マイカルの経営破綻で連鎖倒産を余儀なくされた旧会社ダックビブレが経営母体で昨年、再生計画の認可決定後、社名変更し、現在、民事再生手続きを進行中である。元々黒字体質であったことから新しい資本支援もえて再建を模索してきた。今回、仙台店の改装開店を契機に改めて地域への密着度を深めた顧客満足重視の政策と全員野球で再生を図ろうというもの。東北4県に版図を拓き、7店舗網を抱える同社は、仙台店再スタートを起爆剤に攻勢に入っているだけに、今後の行方が注目される。
 
 
地場百貨店として投資家募り再建の道を拓く
第一弾、仙台店を全面改装・開店

 
−2001年マイカルが破綻、それに関連してマイカルグループだった御社も民事再生法による企業再建に取り組んでこられました。この間、社名も(株)ダックビブレから「(株)さくら野百貨店」に変更され、東北に軸足を置いた百貨店として原点回帰し独立独歩の道を歩みはじめたわけです。まず、これまでの再建経緯をお聞かせください。
 
臼井氏 臼井 ダックビブレ時代は、東北を事業基盤とする流通業(百貨店業態)として生きてきました。しかし、マイカルの拡大路線のなかで小樽事業に参加したあたりから経営がおかしくなりました。SCに核として小樽店を出店、初年度から赤字のうえに、経済のデフレ化が進行し、それまで黒字であった既存店のほうも収益性が落ち、連鎖倒産しました。  2001年2月期に社長に就任し、そのとき私が親会社に申し上げたことは小樽店を事業から切り離して再建を図ることでしたが、間に合わず親会社は、同年9月に民事再生法の申し立てを行ないました。
 
−黒字の(株)ダックビブレ自体も当時、かなりの有利子負債があったのですか。
 
臼井 ありましたが、それは健全な経営状態の範囲内でした。自前でやっていた東北に関しては、信用で資金の自己調達ができていました。しかし、小樽出店で背負った債務が大きく、私どもの体力では大変厳しいものでした。
 
−因果関係でいえば、小樽出店が大きな誤算であったということですね。
 
臼井 そうです。小樽出店前は、関東エリア(川崎店)にあった店舗を整理するなど、事業領域を東北に集約したことで大変業績が上向いていました。東証二部への上場計画も進めていたところでした。
 
−さて、再建に向けては、東北の方々に資本参加を得る等、多大なバックアップがあったようですが。
 
臼井 社員からも資本を募り1億も集めることができました。社員も経営参加し責任感を旺盛にして働く体制ができましたので、武田(株)(本社青森)や銀行、その他の地場の事業者から資金調達できたわけです。
 
 また、2001年10月に国策としての企業再建ファンドがまとまりましたので、これを活用して再生できないかと日本政策投資銀行に申し入れをし、厳しいデューデリジェンスの結果、事業価値を認めていただいたわけです。
 
 ですから再建にあたっては、事業価値があることが大切で、拡大・成長することが絶対条件ではなく、収益力だと思います。したがって、私どもは昔を偲ぶのではなく、まったく新しい事業立脚点の下で、新しい企業ミッションをもって、地場に軸足を置いた小売業を目指そうということです。その新価値のシンボルとして、まず旗艦店の仙台店を改装し、3月27日にオープンしました。
 
 
セレクト系ショップの導入で
客層も大きく変化、 好調な船出

 
  
−今回の仙台店改装では4階のミッシー・ミセスのフロア構成が大きく変わりました。これが新しい百貨店づくりのシンボルということですか。
 
臼井 それと6階にLサイズの婦人服を入れました。本当は5階、6階も販売環境を大幅に変えたかったのですが、投資に限りがあって今回はできませんでした。  ですから、ハード面では、以前から位置が悪いと意見の多かった中央部のエスカレータを撤去・移動して、主導線をしっかりと取りました。これによって、全館がすっきりとした構成になったと思います。
 
 
−新しい仙台店に対するお客さまの反応は、いかがですか。
 
臼井 3月27日からの5日間では、5億円という売上げ目標を達成し、その後も、順調です。
 
 
−今後のテーマとしては、どれだけ新しいターゲットのお客さまを開拓・確保できるかがポイントになってきますね。
 
臼井 そうです。以前と比較すると客層が大きく変わりました。この変わったお客さまをどこまで拡大できるかが、ひとつの勝負になっていきます。
 一方で、従来のミッシー・ミセス・シニアと呼ばれるお客さまのなかには、自分たちの買うモノがないという評価をされている方もいます。そういう方たちに対しても、再度、訴求し直す必要があるとは、思っています。
 
−今回、1階に三大セレクトショップの一つ「ユナイテッドアローズ(UA)」が入り、仙台としても初上陸です。頑張りましたね。
 
臼井 社長就任時から成長へ向けた大きなステップのひとつとして考え、準備してきました。そのときから、ユナイテッドアローズをはじめ、セレクト系ショップをできるだけ多く導入しようと考えていました。UAは大変好評ですし、他のセレクト系ショップもお客さまの反応が良いです。
 
 ただ、今回、手を加えなかった部分が多々あるので、お客さまがちょっととまどっておられます。秋には、地階を含め、引続き改装を進めていきたいと思っています。
 
−今回の再建計画で投資総額額は、どのくらい掛かったのですか。
 
臼井 仙台店の改装投資は、当社分が約12億5000万円、取引先からの投資が約10億円です。
 再建資金については、証券化で得ましたので、その証券化に伴う投資がハード・設備関連で約22億円。合わせて45億円弱の投資になりました。投資に対するリターンを、きちんと定量的に求められるような経営をしていかなければいけないと思っています。
 
 
(左)●3月27日に改装オープンした「さくら野 仙台店」。新店名・新社名は一般公募から決定されたという
(右)●オープン以来、好調な売上を誇る「ユナイテッドアローズ」。1階がメンズ、2階がレディスという構成

 
 
100万人都市の駅前立地
商品構成は買回り商品で訴求
食品売場の再構築が次なる課題

 
−100万人都市・仙台というマーケットをどう見ておられますか。
 
臼井 どこのマーケットでも、消費のパイが拡大しているところはあまりありません。仙台のマーケットも同様で、拡大はしていません。郊外に大きなSCができて、日常的な商品はそこで購入するという状況になっていますので、より買回り性の高いものを訴求していく必要があります。その象徴が前述したUA(ユナイテッドアローズ)の好調につながっていると思うのです。
 
−中心街の駅前と一番町の関係については、どうお考えですか。
 
臼井 売場面積でいえば、駅前のほうが一番町よりも大きくなっています。しかし、大きなカテゴリーショップは、だいたい駅前、あるいは駅の東側に集合しています。ですから、百貨店らしい百貨店はなかった。
 
 仙台店は、約2万4000m2の売場面積がありますから、駅前地区の核となれる本格的な百貨店にしたいと考えています。人が集まる環境としては、駅前のほうが圧倒的に恵まれていますので、このエリアに集まるお客さまに、どう訴求していくかをもっと真摯に考えながらやっていきたい。
 
 今回、セレクト系のショップを多く揃えたことで、お客さまが増え売上げも上がっています。つまり、私どもの店舗は、こうした編集型の売場で勝負し、そこにこそ収益の源泉があるという考えでいます。
 
 つまり、顧客志向に立脚できる売場が自主編集の売場であり、“買い場”と言い直してもいい拠点です。この発想を広げていかない限り、これからの百貨店の成長はないとも思っています。たしかにリスキーではありますが、それによって人材が育ち、MD技術も蓄積されますから将来につながる施策ということです。
 
−仙台店の営業改革の今後のステップアップについては、どのようなスケジュールを考えておられますか。
 
臼井 百貨店が変わったとインパクトを感じていただけるのは、何といっても食品売場が一変することです。それが、最も訴求力がありますので、秋には、食品分野を積極的にテコ入れをしなければいけないと思っています。
 
−店内を拝見した感想をいえば、東京では“デパ地下”と“1階の化粧品売場”が百貨店の牽引車です。仙台店は、駅前立地ですし、化粧品と惣菜ブームを捉えた食品強化が急務と見ましたが…。
 
臼井 おっしゃる通りです。時代やお客さまが望んでいる変化になかなか対応できていません。専門度の高い店に出店していただき、問題解決をしていきたいと思っています。
 
−開店から1か月ほど経ちましたが、社内での総括・反省がありましたら…。
 
臼井 いろいろなご指摘を受けましたが、私どもが内側から見ていても課題が山積しています。面積の大きさだけでなく、お客さまにとって楽しくて快適な環境が本当にできているのか。また、新しい情報やファッションに出会う機会を店内で提供しているのかどうか。
 
 本来、百貨店とは、そういうあり方を目指すべきだと思います。反省材料は、たくさんありますので、一つひとつ解決しながら改革へつなげていきたい。
 
 
本社体制をスリム化し
マーケット第一主義で
店ごとに魅力ある店舗構築目指す

 
−「さくら野百貨店」は、仙台店以外に6店舗を展開しています。各店の状況、その後は、どうなっていますか。
 
臼井 他の店舗は、ほぼ前年度並みに復調してきました。破綻した後も4店舗は、利益を出しているという状況です。再建にあたって、事業価値が高いと認めていただいたことに対する成果は、今後も示すことができると思います。
 
 店舗展開にあたっては、大きく二つのグループに分け、特徴化し強化を図っていきます。ひとつは、仙台店に代表される「市心型店舗」(青森店、八戸店など3店)、もうひとつは「郊外型店舗」(弘前店、北上店、石巻店、福島店の4店)で、本部も2本部制にし対応していきます。
 
 営業面での特徴は、二つありまして、ひとつは自主編集の売場が6割を占め、リスクを負いながら自前でやって収益の源泉となっていることです。粗利が26〜27%という時代もありました。
 
 もうひとつの特徴は、食品は、スーパーマーケット業態を中核にして展開しているということです。なぜそういう形をとっているかというと、店舗周辺に暮しの環境があり、商業と混在しているからです。そういう立地環境において一番いいサービスは、より日常性の高い食品を展開することです。
 
 私どもは、いち早く地方百貨店にスーパーマーケット業態を取り入れることでそれを実現したわけで、「自分たちの街の百貨店」というお客さまの意識はそういうところから生まれてきます。そして、食品がいい成果を収めているときが、最大の利益を生むときなのです。
 
 しかしながら、店の評価をするのは私どもではなくお客さまです。ですから、百貨店はマーケット第一主義であることが大事だと思います。マーケットにおけるお客さまの評価が業態を決めるのであって、私どもが類型化した尺度で決めるのは非常に危険だと思っています。
 
−仙台店以外の6店についても、これからリニューアルあるいはスクラップ&ビルドしていくことになるわけですね。
 
臼井 北上店と福島店は、人口に対して店舗面積が広いという問題を抱えています。北上店は2万m2、福島店は1万8000m2あります。これをいかにして適正規模化するかが課題です。自前で行なう部分を縮小するのもひとつの方向かなと思っています。
 石巻店は駅前で1万3000m2で、行政人口が13万人ですから、これは適正規模です。
 弘前店は1万8000m2。ここは郊外で、SC全体では8万m2あります。物販が中心ですが、他にホテル、温泉、パチンコ、映画館、ボウリング場があり、また別棟に大きなカテゴリーショップも入っています。これは私どもが所有し、各店舗に固定賃料で貸しています。
 
 資産は資産として、ペイされたものでカウントしていくというほうが健全だと思います。百貨店は、ややもすると自前でないものも売上げに上げます。しかし、そういうやり方では、かえって収益構造を悪くしていくのではないか。カウントするなら自前で行なっているものをカウントすればいい。
 そこで資産の収益性を見極め、一方では自前の経営でどうキャッシュフローを生み出すかを考える。そのように両立てで取り組めば、経営の健全性はより確かなものになるはずです。
 
−次の投資対象店舗は、どこの店になりますか。
 
臼井 できれば青森店と八戸店をと考えています。青森店は、以前は武田百貨店だった店舗で1万7000m2です。従来は、常に一番店だったところですので、早い段階で一番店を奪還しないといけないと思っています。
 
 八戸店は、約1万1000m2で、地域のオンリーワン百貨店ですが、築 年で老朽化が著しい。地元では、周辺を含めて再開発をしたいという意向で、再開発準備組合もできています。私どもも、そのなかで再生を図りたいと思っています。
 
−各店が、地域に合わせてどれだけ魅力ある百貨店を創造できるかですね。
 
臼井 7店舗を展開していますが、中央集権ではなく個店主義で臨んでいきます。それがマーケット主義ということにもつながります。7店舗が同質の展開をしても仕方がないですからね。
 
 本社は、従来は200人体制だったのですが、現在は32名に絞り込み、権限も各店に委譲していきます。取引先はある程度集約化されたなかでセレクトすることになりますが、商品のセレクト、価格政策、販売提供方法は、すべてそれぞれの店舗が主体的に行なうという仕組みです。
 
−最後に、改めて再建への覚悟・抱負をお聞かせください。
 
臼井 再建にあたっては、営業キャッシュフローを重視してやっていかないといけないと思っています。売上げのシェアは、マーケットのなかでは評価しますが、経営という点からいえば、営業キャッシュフロー、あるいは投資に対してどのくらいのリターンがあるのかということを評価していくことが大事です。そうでないと生き残っていけません。また、破綻から学ぶべきというのはそういうことだと思っています。
 
 なお、平成15年度の目標は、仙台店の改装効果を含め7店舗で600億円(前期比119.3%)を狙っていきます。仙台店を除く既存店は、前期比100%です。
 
−再建が新しい展開の契機になることを期待しています。本日は、ありがとうございました。
 
(左)●メインエントランスを入った左手に位置するインフォメーション。明るく、やわらかさと温かみを感じさせる
(中)・(右)●今回のオープンに際しては婦人ファッションをメインにした売場改装で、大きくイメージチェンジ

 
 
齋藤秀樹の提言
 
 以前、言及したことだが、バブル崩壊後の百貨店業界は“経営スタンス”に於いて、大きく二つに分類することが出来る。一つは、売上げの多寡が全てを癒すという思想で、“量の論理(規模追求の論理)”を今なお選択して止まない大手企業グループの生き方がある。もう一つは、企業拡大より顧客満足度をひたすら追求することで、百貨店の再生を目指す“小売業の論理(質追求の論理)”に徹する個店主義的生き方だ――この二つの論理の内、いずれの考え方を選択するか、それによって、各社のg事業スタンスfが決定する時代を迎えている。
 
 今回、ご登場を願った「さくら野百貨店」(本社・仙台、3/27誕生)は、前者の論理を選択した事によって破綻した経験(旧ダックビブレ時代)を持つだけに、新しく誕生した同社の経営スタンスは、勿論、後者の論理を志向している百貨店である。
 
 同じ頃、親会社が倒産し閉店を余儀なくされた熊本岩田屋を、今度は市民が熱血百貨店人と共闘し、再生を果たそうと頑張っている事例が、存在したことも今回、さくら野百貨店をクローズアップする動機となった。その名も「県民百貨店(店名・くまもと阪神)」で、ちょうど一ヵ月前にオープン(2/23)を果たしている。
 
 臼井社長のお話を拝聴し、全館改装した仙台店を拝見したが、将来的に期待できる百貨店だと思う。残念ながらまだ個店主義的店作りがあまり徹底されていないようにも感じた。是非とも、さくら野百貨店にとっての「東北各地域に於けるミッションとは何か」、「百貨店業態の魅力とは、業態としての優位性とは何か」を巡る基本的認識を再度、現場と共有化して、残る6店舗の改装に臨んでいただきたい。今は、急がば回れの時期にあり、その方が後々、大きく活きてくると思う。

 
関連サイト : さくら野百貨店 仙台店
 

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