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■海外情報 * overseas network The Museum Report in New York City 第12回 (最終回) (2003.11)
スナッグ文化センターは、スタテン・アイランドに位置する文化的複合施設。元々は、船長であったロバート・ランダルが、引退した水夫たちのために1833年に「セイラーズ・スナッグ・ハーバー」としてオープンしたもの。当時は、園内に病院や、レストラン、水夫のための住居があった。それから、約140年後の1976年に、住む人が殆どいなくなり、半ば見捨てられたこの施設を、ニューヨーク市が買い取って、文化センターとしてオープンした。センター内には、ニューハウス・センター・フォー・コンテンポラリーアート(美術館)の他に、植物園や中国庭園、チルドレン・ミュージアムがあり、市民によるアートのワークショップやコンサートなども開かれている。
今回は、この現代アートのための美術館で、「The Invisible Thread:見えない糸」展が開かれている。これは、今年の秋から冬にかけてニューヨーク市で開催されている仏教美術プロジェクトの一環。 同展では、禅の円相をテーマとしたタナハシ・カズアキの作品や、曼荼羅をテーマとしたクリサーヌ・スタサコスの作品などを展示していた。これらは、始まりと終わりが一緒である「円」を繰り返し描くという行為を通して、作家が瞑想と精神的な修養を行ったもの。
また、アンドリュー・ギンゼイの「ハイフン2003」は、廊下に設置され、来館者が仏陀の上を歩くことができる 。廊下の最初と最後に鏡があり、仏陀(の思想)を通過する前と後との自分の姿が確認できるようになっている。(しかし最後の鏡は最初の鏡を映しており、円相のように最初と最後が同じという見方もある。)その他にも、瞑想のためのコーナーが用意してあったり、お坊さんを実際に呼んで、瞑想のワークショップを開催するなど、来館者が心の平静を保てるような工夫がしてあった。
ワールド・トレード・センターの崩壊以来、テロやイラク戦争の不安を抱え、町中にいつも警官が立ち、サイレンの音がなりやまないニューヨークでは、ストレス発散にこういった展示が必要なのだと思う。 オノ・ヨーコの「Wish Tree (願いの木)」では、多くの来館者が、短冊に平和を願うメッセージを書いて、それを木に吊るしていた。 また、ロン・ビン・チェンの「ワールド・ブッダ・プロジェクト−ニューヨーク2003」では、電話帳に記載された全てのニューヨーカーの名前(とその生活)が、仏陀の姿の中に表現されていた。 9月21日にダライ・ラマがセントラル・パークで講演会を開いき、6万5千人の聴衆を集めたそうだが、大停電が起こったり、スタテン・アイランド行きのフェリーが衝突して死傷者をだすなど、生活の不安が増大する中、ニューヨークで今求められているものは心の平安なのかもしれない。
仏教をテーマとした展示があるかと思えば、他方では、性と俗を扱った展示も開催されている。去年の10月にマンハッタンにオープンした、ミュージアム・オブ・セックスは全米初の「性の歴史」をテーマとした博物館。オープンした当時は、かなり噂になり入館するのに行列ができたという。(ただし入館者は18歳以上のみ) 2階だてで、1階は、19世紀にマンハッタンにできたストリップ劇場やキャバレーの様子を撮影したビデオや、ダンサーの写真を展示。また100年前に使われていた避妊具や、解剖用の人体模型なども展示されている。 2階は、ゲイやレズビアン、トランスベスタイト(衣装倒錯者)などをテーマとした雑誌や、写真、ビデオ、コスチュームなどが展示されている。 他にも、SMやハイヒールなどのフェテッシュのコーナーがあり、性の嗜好性とその歴史の変遷も紹介している。ニューヨークは、人種の坩堝もしくは民俗のサラダ・ボウルといわれているが、性的にも多様で、数多くのゲイやレズビアン、トランスベスタイトの人などが生活を営んでいる。展示内容は、必ずしも教育的とは言い難いが、そういった人たちの文化・歴史を保存する目的で、「博物館」を建設する必要性があったのではないかと思う。
また“Together in the City”のコーナーでは、エイズ・ウォーク(HIVに感染した人たちのためのパレード)やユダヤ人の祭典であるヨム・キップの集いなどが、地下鉄に乗って擬似体験できる機械が設置されており、ニューヨーク市のイベントを体験できる。
他に、“Animal Outpost”のコーナーでは、蝿や蜂、ゴキブリなど身近な昆虫が何を食べて、どんな風に生活しているのかその生態を紹介。 中でも、その日のワークショップは、午前中は生きたタランチュラを使って、午後はイグアナの実物を使ってその生態を子供に紹介していた。他にも2メートルくらいある白大蛇なども飼育していて、結構グロテスクな動物を飼育していることに驚いた。アメリカのテレビ番組やホラー映画でよく、蜘蛛だのヘビだのワニがでてくるので(さすがにワニは飼育していないと思うが)、アメリカの子供にとって身近な動物として、コレクションしているのかもしれない。他にも、各国のコインや人形、おもちゃ、彫像なども収集しており、文化、民俗、芸術、自然など、バランスよく遊びながら学習できるようになっていた。
ニューヨーク市の博物館とその特徴 ニューヨーク市のミュージアム巡りをしていて思った事は、民族系の博物館が結構多いということである。ジューイッシュ・ミュージアム、ヒスパニック系ミュージアム、アジア系ミュージアム、アフリカン・アメリカン・ミュージアムなど。美術館も、「アフリカン・アート」や「インディアン・アート」など、各民族ごとのアートを専門で紹介している館も少なくない。 ニューヨークに居ながら、世界中の歴史や芸術を知ることが出来るとは、誠に文化的に恵まれた環境にあると言えるだろう。 しかし、そういった民族系の博物館が沢山あるのには、訳がある。 アメリカは移民の国であり、特にニューヨークは多民族化が進んでいるため、博物館が各民族の歴史や習慣を保存し、イニシアチブをとって市民をまとめていかないとバラバラになってしまう。 例えば、混血が進んで、1人の人間にインド人と黒人と中国人の血が混じっていると言った場合、肌の色や言語だけでは割り切れず、アメリカ人ではあるが、どこの集団に帰属しているのかわからない。また移民の2世・3世も、家庭内の伝統的な風習を理解できず、アメリカの社会と家庭の間にギャップを感じている場合もある。親が母国語を話しているのに、兄弟同士は英語で会話している風景もよく見かける。 そういった複雑化した生活や個人のアイデンティティを支えるのに、市の博物館は、各国の歴史を説明した展覧会を企画したり、公立の学校と提携して、それぞれの文化・生活・習慣を紹介したワークショップを行っている。 また、同市では、各地域ごとに民族の住み分けがされている。(例えば、ウェストとイースト・ハーレムはヒスパニック系、セントラル・ハーレムは黒人、アッパー・ウェストと特にアッパーイーストサイドは裕福な白人か少数の日本人、チャイナタウン周辺は中国人が住んでいる。)場所ごとに、違った考え方や生活習慣(例えば地域に流れる食べ物の匂いや音楽など)があり、他のコミュニティの住人に対して誤解や偏見を生みやすい。しかも、一時的な滞在者や、観光客も絶えず出入りしているので、常に流動的であり、まとまりに欠けるきらいがある。 そこでニューヨーク市の博物館は、その地域に根差したお祭りやコンサートなどのイベントを通して、コミュニティの交流を計ったり、外国から来た観光客の地域的な理解を深めている。 日本でも、町おこしなどで、地域的の発展を願い、その土地の産物や市民の活動にフォーカスした博物館もあるが、ニューヨークの場合、博物館はもっと市民の生活に密着している感がある。上で述べたような理由もあって、学校では児童をよく博物館に連れて行くし、博物館に馴染んで育った市民は、年をとって引退しても、余暇を利用して博物館のボランティアをしたり、レクチャーに参加している。ニューヨーク市では、博物館は市民に開かれており、街を支えていく上で、大きな役割を果たしている。 最後に、紹介しきれなかった主な博物館をリスト・アップしたので、そのうちの幾つかでも、ニューヨークを訪れた際には立ち寄って欲しい。 ニューヨーク市の博物館
長い間、(随分間があいてしまいましたが)ミュージアム・レポートを読んでいただき有り難うございました。また、記事を投稿する機会を与えてくださった柳原編集長、写真のレイアウトを担当して下さった白井美由紀さんに、心より御礼申し上げます。 (2003年11月 スミ・ヒロコ)
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