| ■海外情報 * overseas network The Museum Report in New York City 第10回 (2002.6)
フリック・コレックションはミュージアム・マイル(5番街)と70丁目に位置する美術館。鉄鋼産業で成功した実業家、ヘンリー・クレイ・フリックが生涯にわたって収集した美術品を展示している。1912年にフリック氏が建築家のトーマス・ヘイスティングに邸宅の設計を依頼し、1914年から死去するまでの5年間をその豪邸で過ごした。その後、ジョン・ラッセル・ホープが手を入れて、1935年に美術館として生まれ変わった。コレクションは、中世から19世紀までをカバーし、優美で豪奢な絵画や壷、時計、調度品が室内に飾られている。 中でも、フラゴナールの部屋は、有名な美術収集家でもあったJ.P.モルガン氏の遺産の中から、フリック氏が買い取った絵画を展示している。もともとこの絵画はルイ15世の愛人であったデュバリー夫人が宮殿を飾るために、フラゴナールに制作依頼したもの。テーマは恋愛で、「求愛」、「密会」、「恋人の戴冠」、「恋文」の4段階に別けて描かれている。デュバリー夫人は結局、これらの絵画を受け取らなかったらしいが、フラゴナールはこのシリーズを気に入っていたのか、その後20年間保管し、更に10枚の絵を付け加えた。解説書によれば、フリック氏は75万ドルでこの4枚の連作を買い求め、500万ドルを投じて、この絵の雰囲気に合うように、室内のすべての家具や内装をしつらえ直したらしい。
他の目玉としては、美術史の教科書でみるような、ベリーニの「砂漠の聖フランチェスコ」や「デルフトのスフィンクス」と呼ばれたフェルメールの作品、アングルの魅惑的な「ドーソンヴィル伯爵夫人」の肖像などがあり、宝石のような絵画が盛りだくさんだ。
他にも、インフォメーションデスクには日本人の女性が座っていたり、日本語版のガイドブックや音声ガイドを用意している等、かなり日本人にとって親しみやすい美術館となっている。(メトロポリタン等の大手の美術館では、当たり前になっているが、個人コレクションの美術館で、ここまで準備されているのも珍しい。)また、金曜日の夏の夜には、開館時間を延長して、中庭にワイン・バーが設置されるので、絵画を楽しみながら優雅な一時を過ごすのにも最適である。
クーパー・ヒューイット・ナショナル・デザイン・ミュージアムも、やはり5番街に位置し、フリック・コレクションと同様、美しい庭のある豪華な佇まいである。1897年に、工業家であったピーター・クーパーの孫娘であったエリナ、エミー、サラ・ヒューイットの3人がThe Cooper Union for the Advancement of Science and Art との一部として設立。1967年に、スミソニアン博物館の別館として元、アンドリュー・カーネギー氏の豪邸を使用して、オープンした。古くは漢王朝(206B.C-A.D220)から現在までのデザインにまつわるオブジェクトを収蔵し、その数は25万点に及ぶ。
今回1階ではスキン(肌)をテーマとした企画展が開催されていた。肌のすべすべした、もしくはざらざらした質感は、暖かみのあるもの、身体を守るものとして直接的に感覚に訴えてくる素材。デザイナーはその質感やイメージを服の生地や、インテリアなどに利用した。 また、この企画展では、人工皮膚の可能性として、マサチューセッツ工科大学で開発された細胞の組織で出来た人工の鼻や、近未来の人造人間のイメージした、A.I.やターミネーター等のSF映画を編集したビデオを上映。
他にもコンピューターを使って肌のイメージを加工した、アーティストの作品を展示していた。中でも黒い肌のエリザベス女王やローマ教皇、金髪碧眼のマイケル・ジャクソンを並べた写真は、議論を呼んだらしい。ここら辺に多民族国家である、アメリカを感じる。 2階では、ラッセル・ライトのデザインした食器や家具の企画展が開催されていた。ラッセル・ライトは1930年から60年にわたって活躍したアメリカのデザイナーで、簡素ながらも潤いのある暮らしを目指した。現在ではスーパー主婦でありライフスタイル・クリエーターのマーサ・スチュワートがテレビでお馴染みだが、ラッセル・ライトがその第一人者。彼は妻のメリーとともに、ビニールやプラスチックなどの新素材に目を向け、近代的でありながらも自然と調和する家具や、食器類を制作した。 また彼は“American Modern”や“Russel Wright”などのブランド名を初めて起用し、戦後アメリカの中流階級層にむけて、使い易くよいデザインの工業製品を提供した。
デザインに使用された素材や形態は、その当時の工業の発達具合や人々のニーズ、流行を反映しているので、良く見てみると面白い。また、デザインされた製品は環境と人を繋ぐコミュニケーション・ツールでもある。 クーパーヒューイット・ナショナル・デザイン・ミュージアムはアメリカで唯一のデザインの歴史を網羅した美術館なので、訪れてみる価値があるだろう。 (2002年6月 スミ・ヒロコ)
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