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歴史的価値の高い建物とストーリー性を重視した
“日本の自然史”展示が見事に調和

 国立科学博物館 日本館


 東京・上野公園の国立科学博物館の創立は1877(明治10)年であり、創立130年という節目にあたる2007年4月17日、かつての本館をリニューアルした「日本館」がオープンした。

 今回リニューアルオープンした旧本館は、1930(昭和5)年に完成したもので、77年を経過しており、文部大臣官房建築課の設計による建物である。また、建築当時の最先端の科学技術の象徴であった飛行機をモチーフにしたデザインとなっており、歴史的価値も高い。したがって、新たな展示製作と同時に復元にも重点が置かれた。

創立130周年を迎えた「国立科学博物館」。建物自体は1930(昭和5)年完成。この外観からはわからないが、上空から見ると、当時の科学技術の象徴であった飛行機型のデザインをしているのが特徴
創立130周年を迎えた「国立科学博物館」。建物自体は1930(昭和5)年完成。この外観からはわからないが、上空から見ると、当時の科学技術の象徴であった飛行機型のデザインをしているのが特徴

 同博物館では、新館(現・地球館)建設(T期1999年、U期2004年)に引き続き、今回の「日本館」オープンに至るまで、構想から実に14年近い年月を費やしている。

 まず、狭い展示スペースと複雑な動線という課題を解決すべく、1993年に一連の博物館整備に関するアドバイザリーグループを設置。翌94年にアドバイザリーグループの提言を受け、「国立科学博物館展示将来計画」が策定された。その計画において、地球館では“生物の系統分類や産業技術”等をテーマにした展示、日本館においては日本の多様な自然と日本人にスポットをあてた展示を行なうことが決定された。

 地球館においては新たに建設するものであり、展示標本数や展示方法などについては設計以前にクリアになっている部分があった一方、日本館においては竣工後77年という歴史的価値の高い建物を活かした展示方法が求められるため、設計図面通りにいかないことも少なくなかったようで、施工現場で一つひとつ確認しながらの作業となった。

 展示に関して留意した点としては、展示室ごとにストーリーに沿った標本展示をし、かつ国立科学博物館として伝えたいことをメッセージとして発信することで、理解を深めるとともに問題意識を感じてもらうことを目指した。

 そのうえで建築意匠との関係を考慮したうえで、効果的な展示手法、照明演出により、重厚で歴史的価値のある建物の雰囲気を損なわず、十分に活かすことが課題となったが、建物のデザインを展示のなかに取り入れることにより展示との調和が図られた。

 そのため、什器については新たに設置したにもかかわらず、以前から展示されていたかのように違和感なく、いい意味での古さが活かされた博物館となった。

 オープン後1か月間での来館者は17万7344人を数えた。平均滞留時間は2〜3時間であるが、じっくり見るには1日あっても足りないことから、リピーターが多いのもこの科博の特徴であるが、今回の日本館オープンを機に年会費1000円で何度でも入館できる「リピーターズパス」がつくられ、すでに1000人以上が入会している。

 企画展についても年間4〜5企画が催されているほか、研究員とラジオ局のアナウンサーによる対話形式による音声ガイド(有料)など、リピーターにも飽きさせない工夫がなされている。歴史的価値のある建物と調和を図り、ストーリー展開を重視した展示手法とともに従来の博物館の枠から脱した注目スポットといえよう。

ネオルネッサンス様式を基調とした吹抜けのドームとステンドグラスで彩った「日本館」中央ホール。1930年の完成時から残るもので、歴史的価値も高い 飛行機型の建物デザインをしていることから、展示室にはこの“1階南翼”のように“翼”が付けられているのが特徴。写真にある「トロートン社製赤道儀天体望遠鏡」は、1880年にイギリスから導入されたもので、重要文化財になっている 1階北翼の企画展示室。およそ年4〜5企画が開催される
(左)●ネオルネッサンス様式を基調とした吹抜けのドームとステンドグラスで彩った「日本館」中央ホール。1930年の完成時から残るもので、歴史的価値も高い
(中)●飛行機型の建物デザインをしていることから、展示室にはこの“1階南翼”のように“翼”が付けられているのが特徴。写真にある「トロートン社製赤道儀天体望遠鏡」は、1880年にイギリスから導入されたもので、重要文化財になっている
(右)●1階北翼の企画展示室。およそ年4〜5企画が開催される

「自然をみる技」と題した1階南翼の一画ではさまざまな時計を展示 地域によって異なる形状のノコギリクワガタ5種などの展示
(左)●「自然をみる技」と題した1階南翼の一画ではさまざまな時計を展示
(右)●地域によって異なる形状のノコギリクワガタ5種などの展示

「生き物たちの日本列島」と題した2階南翼の展示。「渡来と分化の足跡」ゾーンではヒグマの剥製展示などにより生物史を解説 大陸との位置関係や気候、島の大きさが類似しているイギリス、ニュージーランドとの生物種の総種数、固有種数を表わした展示。ガラスレリーフの高さでその違いを表わしており、日本には多くの生物種が生息していることがわかる
(左)●「生き物たちの日本列島」と題した2階南翼の展示。「渡来と分化の足跡」ゾーンではヒグマの剥製展示などにより生物史を解説
(右)●大陸との位置関係や気候、島の大きさが類似しているイギリス、ニュージーランドとの生物種の総種数、固有種数を表わした展示。ガラスレリーフの高さでその違いを表わしており、日本には多くの生物種が生息していることがわかる

縄文時代早期から現在までの人口を表わした展示。累計人口としては5億〜6億人になる 「人と社会を取り巻く生き物」と題した2階北翼の一画には、人間が家畜や鑑賞用として改良し生活に役立てた生き物などの展示コーナー 港川人(およそ1万8,000年前)から近世人まで、日本人の変遷を精巧に表現
(左)●縄文時代早期から現在までの人口を表わした展示。累計人口としては5億〜6億人になる
(中)●「人と社会を取り巻く生き物」と題した2階北翼の一画には、人間が家畜や鑑賞用として改良し生活に役立てた生き物などの展示コーナー
(右)●港川人(およそ1万8,000年前)から近世人まで、日本人の変遷を精巧に表現

「日本列島の素顔」と題した3階南翼では、日本列島の自然や日本列島を囲む海の生物などを展示 3階北翼には日本館で最も目を引く「フタバスズキリュウ」の全身復元骨格が展示されている。約8,500万年前の日本海に生息していた首長竜で、体長は約7m イルカ、クジラを天井から吊り下げて展示するなど、変化を付けた標本展示が特徴
(左)●「日本列島の素顔」と題した3階南翼では、日本列島の自然や日本列島を囲む海の生物などを展示
(中)●3階北翼には日本館で最も目を引く「フタバスズキリュウ」の全身復元骨格が展示されている。約8,500万年前の日本海に生息していた首長竜で、体長は約7m
(右)●イルカ、クジラを天井から吊り下げて展示するなど、変化を付けた標本展示が特徴

2階南翼の階段。踊り場のステンドグラスがアクセントになっている 日本の鉱物、および日本に落下した隕石を展示したスペース。この部屋は3階南翼の流れであるが、他の展示室から独立した単独の展示室となっている 地下1階のミュージアムショップ。左は音声ガイドの貸出しカウンター
(左)●2階南翼の階段。踊り場のステンドグラスがアクセントになっている
(中)●日本の鉱物、および日本に落下した隕石を展示したスペース。この部屋は3階南翼の流れであるが、他の展示室から独立した単独の展示室となっている
(右)●地下1階のミュージアムショップ。左は音声ガイドの貸出しカウンター

「日本列島の生い立ち」と題した3階北翼の「日本列島誕生前」ゾーンには、さまざまな化石類を展示 「日本列島の生い立ち」と題した3階北翼の「日本列島誕生前」ゾーンには、さまざまな化石類を展示 およそ1,500万〜2万年前の日本海誕生前の哺乳類や貝化石を展示
(左・中)●「日本列島の生い立ち」と題した3階北翼の「日本列島誕生前」ゾーンには、さまざまな化石類を展示
(右)●およそ1,500万〜2万年前の日本海誕生前の哺乳類や貝化石を展示

 

独立行政法人 国立科学博物館
広報・サービス部 広報課 副課長

池本 誠也

展示している標本から
メッセージを受け止めて、
日本の自然史に興味をもっていただきたい

池本氏

 今回の「日本館」のオープンにより、1993年から取り組んできた博物館の整備計画による展示工事が終了し、名実ともに日本で唯一の国立総合科学系博物館となりました。
  この日本館、つまり旧本館は、1930年完成のネオルネッサンス様式を基調としたもので、中央ホールのドーム、ステンドグラスや銅の飾りなど、建物そのものが非常に美しいデザインをしており、それとマッチした展示が好評です。

 ただ、展示工事については、この歴史的価値のある建物の保存という側面と、自由な展示展開という側面を両立させなければならず、一番苦労した点といえます。総論賛成でも各論となるとそう簡単にはいかない。建物を保存すること、いい展示をすることに反対する人はいないわけですが、ではアンカーボルトをどこにでも打っていいのかというと、それはできないとなる。什器の設置ひとつをとっても、表面上はわかりませんが、裏を見ると建物を傷めないためのあらゆる工夫がなされています。照明の付け方についてもそうですが、建物自体のデザインを活かしながら、貴重な標本をいかによい状態で展示していくかということは、施工現場で議論しながら進めていきました。

 この日本館は日本の自然史と科学技術史に焦点をあてています。日本は自然が豊かだといわれていますが、この豊かな自然がどのようにして形成されたのか、そして今日の日本人は、この国土でどのようにして形成され、その過程で自然にどのような影響を与えてきたのか、自然からどのような影響を受けたのかを、来館者に理解してもらわなければいけません。そして、この豊かで貴重な日本の自然を次世代に引き継いでいかなければならないことを、この展示により感じ取っていただくという使命もあります。それをわかりやすく説明するには、メッセージを発信しなければなりません。その点、従来の博物館のように、単に標本を展示するのではなく、館としての主張を明確に出しているところが、当館の特徴ともいえます。

 当館がメッセージを発信することももちろんですが、たとえばアンモナイト標本ひとつにしても、「私のことを見て、私が生きていたころの環境、自然、こんな生き物がいたんだということに思いを馳せてほしい」というメッセージを発信しております。それを理解していただくための展示方法が求められるのです。効果的な展示方法、照明演出を標本ごとに考えたことで、すばらしい展示空間になったと思います。みなさんにはこのメッセージを受け止めていただき、日本の自然史や科学技術史に興味をもっていただければと思っております。

 このほか各展示室にはストーリーがあり、それにしたがった展示の順番というのがあるわけで、時系列を無視した展示ではメッセージを受けていただけない、理解していただけません。また、各展示室で完結するものではなく、次の展示室につなげる工夫も必要です。つまり館全体でわかりやすいストーリーを構成できたからこそ、よい評価をいただけているのだろうと思います。

 実は、この日本館の展示計画については、私も現場の責任者として携わりました。現在は広報という立場におり、試行錯誤しながら完成したこのすばらしい展示空間を、自分でPRすることができ、光栄に思っております。館としましては、これで10年以上に及ぶ展示工事が完了したわけですが、常設展示といえども日々進化していかなければなりません。展示を利用した人的活動の充実や、標本の入替えなど、ますます魅力ある展示にしていきたいと思っております。


[所在地] 東京都台東区上野公園7-20
[オープン] 2007年4月17日
[事業主体] 独立行政法人 国立科学博物館
[敷地面積] 13,223m2
[規模] 日本館 地下1階地上3階建
[延床面積] 約7,500m2(うち展示面積約2,000m2
[施設内容] 常設展示室5室(このほか小展示室1室)、企画展示室1室、ミュージアムショップ、カフェ・ラウンジ、シアター
[開館時間] 9:00〜17:00(入館は16:30まで)(金曜日のみ9:00〜20:00 入館は19:30まで)
[休館日] 毎週月曜日、年末年始(12月28日〜1月1日)
[入館料(税込)] 大人(大学生以上)600円、小・中・高校生無料
[URL] http://www.kahaku.go.jp
 

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