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tansei.net report 特集

「子どもが遊ぶミュージアム」

インタビュー

前キッズプラザ大阪副館長
 
山田 隆造

[聞き手] tansei.net編集長 柳原 敏幸

「子どもが楽しめる施設」であることが
チルドレンズミュージアムの
最大の価値です

山田氏

チルドレンズミュージアムの
“先駆け”として開館した
「キッズプラザ大阪」の
運営で感じたこと

−山田さんは、チルドレンズミュージアムの先駆けとして大阪・扇町に1997年7月オープンした「キッズプラザ大阪」(以下、キッズプラザ)の副館長として、長年、チルドレンズミュージアムの運営に携われましたが、チルドレンズミュージアムという施設をどのように捉えていらっしゃいましたか。

山田 キッズプラザがオープンした当初は、いくつかの疑問点がありました。
 まず第一に、大阪市には当時、科学館や自然史博物館、子ども文化センターなど、さまざまな市立の子どもの学べる生涯学習施設が、すでにありました。そうしたなかで、本当にチルドレンズミュージアムが必要なのか考えました。

 それから、展示物についての疑問です。博物館といえばガラスケースなどに貴重な資料を展示するというイメージだったのに、キッズプラザにあるのは一見すると巨大な遊具や玩具ばかりで、これが展示物なのかと驚きました。

 いま申し上げたようなこともあって、第三に、教育施設というよりも、遊戯施設にしか見えなかったということです。
 さらに、入館料が大人1200円、子ども600円と、子ども向けの施設としては、やや高いということです。当時は学校週5日制が進むなかで、博物館や美術館などの文化施設、教育施設において、小・中学生無料化が進められていました。そうした状況での高い入館料の設定に、これでいいのかという思いがありました。
 そして5つ目の疑問は、スタッフが「寄り合い所帯」だったということです。キッズプラザには一般職員のほかに、契約職員や嘱託職員、アルバイト、ボランティアもいるので、組織としてスムーズに機能していくというのかという不安もありました。

−そうした疑問というのは、キッズプラザの運営を行っていくなかで解消して言ったのですか。

山田 まず1つ目の疑問ですが、チルドレンズミュージアムというのは科学・自然から芸術・文化まで、さまざまなジャンルの展示物やプログラムが展開されている総合的な施設です。そうしたところに、他の施設にない重要な特徴があるのです。一つひとつの展示物を比較したら、他の専門的施設には、とても勝てません。しかし、民族衣装を着せてもらえるとか、化石と標本だけではなく生きた展示があるとか、見せ方の違いにおいて優位性があると思います。

 2番目の疑問については、「チルドレンズミュージアムにとって遊具・玩具も展示物である」という認識をするのに、やや時間がかかりました。要するに、そうした展示物を介して教育という営みが展開されるとか、展示物を動かしたり触ったりすることによってメッセージや価値が伝わるということこそが、チルドレンズミュージアムの展示スタイルなのです。

 モノはあくまでもモノであり、モノと人との関係を通して真実や真理が生まれてくるわけで、モノよりコトが大切であるということです。これは「ハンズオン展示」という考え方にもつながります。
 そういう意味では、3つ目の疑問に対しても、キッズプラザは遊戯施設ではなく教育施設だと言うことができます。遊びながら、体験しながら学べる場なのです。

 そして、4番目の入館料については、オープン当時は入館無料だと思って遊びに来た人も少なくありませんでした。また、高い入館料を払っているのに全然おもしろくないというクレームもありました。そうした人たちは、テーマパークや遊園地と同じ感覚でキッズプラザに来ていたわけで、このことは、私にとって非常に勉強になりました。

 そこで、2年目に組織を大きく変えました。まず、管理課を営業課に、企画開発課を企画課に変更し、営業課の下には管理係の代わりにサービス係を設置しました。

−最近でこそ、国立博物館にも「営業課」が設けられる時代になりましたが、当時としては画期的ですね。

山田 キッズプラザにおいて、大切なのは「管理する」ということではなく、お客様に喜んでいただける、言ってみれば「商売をする」という感覚だということに気づきました。
 それから、5番目のスタッフが「寄り合い所帯」であったことについてですが、契約職員というのは、一般職員のように組織内の上下関係がないため、甘えが許されないところがあります。そこでは、契約職員と一般職員が緊張関係を保ちつつ、協調して仕事を進めていくことが大切です。「寄り合い所帯」であったことが、逆に、いい意味で運営の刺激になりました。

 

チルドレンズミュージアムを
運営するうえで、重要な
ボランティアの存在

−チルドレンズミュージアムの運営においては、ボランティアの役割も重要なのですよね。

山田 そうですね。チルドレンズミュージアムにとってなによりも大切なのが「人」で、そのなかでも重要なのがボランティアであるといえるでしょう。

 キッズプラザでは、20代から80代までと、幅広い年齢層の方にボランティアとして参加していただいています。一方、職員の平均年齢は、オープン当時、24〜25歳で、若い職員からは、ボランティアよりアルバイトを増やしてほしいという意見がありました。なぜなら、職員とアルバイトの関係は縦関係なので、「命令」がしやすいからです。これに対し、横の関係になるボランティアに対しては「命令」ができません。

 しかし「命令」ができないということは、逆に言えばボランティアが自主性や主体性を発揮できるということです。たとえばアルバイトの場合、言われたことはマニュアルどおりにやりますが、それ以外はしません。ところがボランティアは、自分の考えで動き、お客さんとの関係を自主的につくっていくのです。
 そして、最も大切なことは、ボランティアの人たちは「市民」だということです。つまり、ボランティアの方に参加していただくということは、「市民」と協働でチルドレンズミュージアムを運営していくことができるということです。

 キッズプラザのボランティアの登録者は、現在約300人で、毎日約20人が活動しています。
 チルドレンズミュージアムを運営するうえで、ボランティアは非常に大切な存在です。施設とお客さんとの架け橋になって、喜びの声にせよ、クレームにせよ、お客様と同じ市民同士という関係の中で得た「生の声」を、市民の目で伝えてくれるからです。また、施設の自己満足や閉鎖性を防いでくれる存在でもあります。

―キッズプラザは、開館から10年が経過しましたが、依然として、年間40万人の集客を維持しているのもすごいことですね。

山田 集客性と教育性は二項対立的に捉えられがちですが、けっしてそうではありません。集客性は以下の3つの点で重要な意味を持っています。

 第一に、キッズプラザは、収益を上げなければ成り立たない財務構造になっているということです。事業主体は(財)大阪市教育振興公社で、市から補助金をいただいていますが、人件費の一部と事業費、施設管理費等は自己負担で、年間2億円強の収入がないと成り立ちません。

 収支構造を安定させるには入館料収入が重要ですが、国宝級の展示物があるわけではないので、集客力をアップしようと思ったら、施設そのものに魅力がなければ来てもらえません。楽しくて、なおかつ教育的な価値を生み出すもの、つまり、集客性と教育性を融合するということです。

 確かに、アニメの人気キャラクターを使ったイベントなどを開催すれば、集客効果は期待できますが、それはそのとき限りのものです。それよりも、日常的な展示やワークショップによって、面白くて、教育性のあるものを創り出す必要があります。これはきわめて創造的な仕事だと思います。
 この仕事を契約職員のプランナーに担当してもらっています。各部門の合計9人のプランナーが、現場のいろいろなプログラムをつくっており、子どもたちはいつも違ったプログラムやワークショップを体験することができます。展示物はせいぜい5年周期でしか変えられないだけに、プランナーの役割は非常に重要です。

 

子どもたちをできるだけ
 自由にしたいと考え
 打ち出した「三無主義」

―キッズプラザの運営の“キモ”として「山田流三無主義」があるとお聞きしているのですが、それについてお聞かせください。

山田 キッズプラザは徹底的に子ども中心主義ですので、子どもたちが館内でできるだけ自由に動きまわり、やりたいことをやれるようにしたいと考え、「三無主義」を掲げました。

 まず、動線が無いということです。順路もなく、館内に矢印もありません。館に来たらどういう体験をするか、どういう展示物で遊ぶかは、あくまで子どもの自主性に任せます。

 2つ目が、館内に禁止事項の表示が一切無いことです。なぜなら、表示をすると必ず守らない子どもが出てきて、ほかのお客さんからクレームが来るからです。それで子どもを注意すれば親が怒りだします。禁止事項を表示することによって新たなトラブルが発生するのでは、表示する意味がありません。それよりも、性善説に則って管理主義をやめること。もし子どもが見るに見かねるようなことをしたら、その子の親かほかの親か、あるいはボランティアが注意すればいい。貼り紙で解決するのではなく、人間同士の関係によってトラブルを回避するということです。

 3つ目は解説が無いことです。書かれたことをただそのとおりにやるよりも、どうやったらいいのかなと考えながら展示物に関わったほうが、メッセージが伝わってきていろいろなことに気づくと思います。

―最後に「チルドレンズミュージアムはこうあってほしい」というお考えをお聞かせください。

山田 チルドレンズミュージアムは、まず第一に、子どもの「遊び場」でなければなりません。子どもがそこで楽しく時間を過ごせるかどうかというのが大事な要素です。次に「親子が楽しめる場」であることが重要です。そして、3番目に「学びの場」であるということです。「遊び」や「体験」を通しての「学び」のプログラムをつくっていく必要があります。ただし、あまり教育機関であることにはこだわらないほうがいいでしょう。子どもが楽しめる施設であることが、チルドレンズミュージアムの最大の価値なのですから。

―お忙しいなか、本日はありがとうございました。

*この頁の写真はすべて科学技術館

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