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HOME > tansei.net22号 >Break! NEO専門店!! 連載17回
きちり

平川 昌紀 氏/ (株)きちり 代表取締役
聞き手/ (株)丹青社営業開発センターSCマーケティング研究所 所長 松本 大地
 
"人にふれ合い、人に感謝し、人に感動する"ことによって、
一人でも多くの人達に「癒し」「豊かさ」「明日への活力」を提案、提供していく


 関西の厳しい飲食マーケットにおいて、近年、飛躍的な成長を遂げているのが、大阪・本町に本社を置く(株)きちりである。1997年の創業以来、同社は、成熟市場である外食業界において、「モダンジャパニーズダイニング」「カジュアルダイニング」「トラディショナルダイニング」「スウィーツ」の4つのジャンルで、新感覚の飲食業態を次々に世に送り出し、団塊ジュニア世代以降を中心に高い支持を集めるとともに、真心のこもったホスピタリティの提案・提供によって、外食産業での新たなスタンダードの創造を目指している。

さまざまな企業の
トップの話を聞くため
ゴルフ会員権の営業からスタート

―平川社長が飲食事業に携わろうと思われたのは、日本マクドナルドの創業者である藤田田さんの著書を読まれたのがきっかけとお聞きしていますが。

平川 大学受験に失敗し、浪人して大学に入学しましたが、大学で自分はどう生きたらよいのかと人生についていろいろと考えました。その時に出会った本の一つが藤田田さんの『ユダヤの商法』という本でした。その本で受けた感銘が私の深層心理の中にあって、それがモスバーガーのFC店を始めたことにつながっていったのではないかと思います。

―どういうところに感銘を受けたのですか。
平川氏

平川 その本には、世界の経済を動かしているのはユダヤ人であり、彼らはターゲットを絞り込む独特の商法を持っているから成功するという話が書いてあります。具体的には、ターゲットを「お金」(金融)か「口に入るもの」(薬や飲食)か「女性」(宝飾品)に絞り込むというのです。その話を読んで、金融業はイメージしにくく、口に入るもの、女性を意識したものとして、ぼんやりとですが外食産業に注目しました。

 そこで、まず、アルバイトをしてお金を貯めて、レストランに行くことからはじめました。自分に対する投資という気持ちで、着なれないスーツを着て、神戸のホテルにオープンしたばかりの3つ星レストランに行ったこともあります。しかし、大学卒業後は、外食企業には就職せず、ゴルフ会員権の営業マンになりました。

―外食産業に注目されていたのに、それはまた、どうしてですか。

平川 大学時代に読んだ本で、藤田さんの本と並んで感銘を受けたものにナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』がありました。その中でナポレオン・ヒルは、さまざまな経営者に会って、その成功哲学について聞いています。その影響を受けて、私も多くの経営者に直接会って話を聞き、自分の経営者像というものを作りたいと考えました。ゴルフ会員権の営業マンであれば、さまざまな企業のトップと直接話をすることができるのではないかと考えたのです。

―ユニークな発想ですが、確実性がありますね。

平川 実際、ゴルフ会員権の営業に行くと必ず社長に応接してもらえましたし、趣味のゴルフの話をきっかけに話が弾んでいき、さまざまな話をお聞きすることができました。自分としては会員権の営業よりも企業のトップからお話を聞くことが目的でしたので、仕事自体、楽しみながらできましたし、それが契約にも結びつきました。入社半年でトップセールスになり、翌年には営業チームのリーダーにとして、新入社員6人を部下に抱えることができました。

 その後退職し、父が経営していた不動産開発会社で2年ほど土地の買付けなどを行いました。「売り」と「買い」の両方の仕事に携ることができたことは、貴重なビジネス経験になりました。

 そうした経験を経て、1997年11月にフランチャイジーとして大阪府柏原市に「モスバーガー河内国分店」をオープンし、個人事業主としてスタート。それ以来、飲食ビジネス一筋です。

京都烏丸のモダンジャパニーズダイニング「KICHIRI karasuma」は、京都特有の路地を模した長く続くアプローチ、シャンパンタワーを配した大人のシックな空間が魅力的な(株)きちりのハイクラス店舗。天井高は6mを超える。ビジネス街の中心に立地するが、観光客が多いのが京都ならではの特徴
京都烏丸のモダンジャパニーズダイニング「KICHIRI karasuma」は、京都特有の路地を模した長く続くアプローチ、シャンパンタワーを配した大人のシックな空間が魅力的な(株)きちりのハイクラス店舗。天井高は6mを超える。ビジネス街の中心に立地するが、観光客が多いのが京都ならではの特徴

立ち呑みスペースとテーブル席を併設する大阪・本町の「本町酒場 福力」は“本質ある食材・料理を飾り気なく提供する”本格酒場。人の賑わい、喧騒の中でほっこりと寛ぎ、明日への活力を与える店として、新しいライフスタイルを提供 立ち呑みスペースとテーブル席を併設する大阪・本町の「本町酒場 福力」は“本質ある食材・料理を飾り気なく提供する”本格酒場。人の賑わい、喧騒の中でほっこりと寛ぎ、明日への活力を与える店として、新しいライフスタイルを提供
立ち呑みスペースとテーブル席を併設する大阪・本町の「本町酒場 福力」は“本質ある食材・料理を飾り気なく提供する”本格酒場。人の賑わい、喧騒の中でほっこりと寛ぎ、明日への活力を与える店として、新しいライフスタイルを提供

 

中国の戦国時代を切り拓いた曹操のように
外食産業の新しいスタンダードを目指す

―まずビジネスの基本的な考え方を身に付けてから、満を持して飲食業にトライされたということですね。

平川 飲食ビジネスの入口としてモスバーガーを選んだわけですが、これは、藤田さんの本のイメージが頭にあったことに加え、モスバーガーは創業者の櫻田慧さんが一代で東証1部上場を果たした企業ということで、そのことに非常に興味があったからです。

―モスバーガーのFC店を立ち上げた後、98年7月に(有)吉利を設立され、大阪府柏原市内に同年8月、自社業態として「だいなーきちり」をオープンされましたね。

平川 そうです。飲食ビジネスを行う以上、自社業態をつくる必要があると思っていましたので、いろいろなお店を見て回っていました。そして柏原にオープンした自社業態第1号店は洋風居酒屋でした。同店の店名であり、社名ともなっている「きちり(吉利)」は、「三国史」の英傑、曹操孟徳の幼名からとったものですが、これは『志』として、中国の戦国時代を強いリーダーシップで切り拓いた曹操のように、激しい生存競争にある外食産業で新しいスタンダードを作ろうという思いが込められています。

―会社設立から約8年。現在、店舗数は27店舗。前期(05年6月期)の売上高10億円に対し、今期は24億円と大幅に伸びています。厳しい関西の飲食マーケットにおいて、躍進を続けている理由はどういったところにあるのでしょうか。

平川 ビジネスの捉え方が明確にできているからだと思います。外食企業の経営者というのはビジネスマンかクリエーターのどちらかに分かれると思いますが、私はビジネスマンのウエイトの方が高いと思います。4年ほど前にビジネススクールに1年間通い、そこで体系的な企業経営を学びました。たとえば、創業期に経験したFCビジネスというのは係数管理がすべてで、少しでも原価率・人件費率がぶれると自分の給料が出ない。それくらい外食ビジネスはマネジメントを体系的に理解していないといけないという危機感をもっています。

 

『大好きがいっぱい」を経営理念に
ヒューマンタッチな企業づくりを目指す

―これまでのお話を伺っていると、平川社長の集中力の凄さというものを感じます。しかし、それが、社長ご自身だけだったら会社がここまでにはならないと思います。そうした社長の思いを周りの人に伝え、皆が共感したというのも、きちりの成長の秘訣ではないでしょうか。

平川 私は、採用試験の社長面接で、「生き方をいまの時点で選択しなさい」という話をしています。いまの豊かな日本では、それほど努力しなくても、とりあえずは生きていけます。その対極にあるのが精一杯生きるという生き方です。そのどちらかを選択しなさいと言うわけです。緩やかな川の下流を流されていくような人生でいいのならうちは向いていない。うちは急流を遡って成長を目指して行く会社だから、どこまで行けるか試したい人間には良い会社だが、非常にしんどいよ、と。それを前提で入るのであれば、活躍のフィールドは与えるという約束をします。

―きちりのお店に行くと、若い人がはつらつとし、お客様が元気をもらえるような感じがしますが、いまの社長のお話でその理由がわかるような気がします。つまり、働く人のサービスのパワーが伝わってくるということです。
  私は、お店には3のパワーが必要だと思っています。1つは商品のパワー、2つ目は店舗デザインを含めた空間のパワー、そして3つ目がサービスのパワーです。しかし、ビジョンや目標を若い人に伝えていくのは、なかなか難しいテーマですが、御社ではどのようにされているのでしょうか。

平川 私どもは「ライフプラン」を作成することを全社員に課しています。将来の人生の目標を達成するためには、半年後、1年後、3年後にどうなっていなければいけないかということを自分で書かせるのです。それを半期に一度、上司が評価します。それによって、自分の進捗状態が思わしくない人には反省と、何が不足しているか考える機会を与え、うまく進んでいる人には、さらにステップアップしてもらうという方法をとっています。

 目標と現状の間のギャップが分からないと人間は頑張れません。自分が今どの位置に立っていて、将来どこに行きたいのか、どうなりたいのかというのを明確に示す必要があります。ですから、いまの立ち位置を示してあげるというのが最初の取り組みになります。

 また、私が各店舗を回ってスタッフと話をする「店舗ミーティング」ということも続けています。いつも頑張っていただいていることへの感謝の意味を込めて、私がお店のスタッフのためにケーキなどを買っていき、それを食べながらカジュアルに話をするというものです。始めてまだ1年も経っていないので、まだ3ラウンド目ですから、年に6ラウンドくらいは行いたいと思っています。そこでは、私がいま感じていることや人生観について話をしています。

―素晴らしい取組みですね、その積み重ねが店舗のパワーになっているのだと分かりました。

平川 私ども「きちり」の経営理念は『大好きがいっぱい』です。ヒューマンタッチな会社でありつづけることを望んでいますが、そのためにはトップである私が、その具現者でなければなりません。創業当初から、そのように社員に接してきましたので、会社の規模が大きくなっても、この部分は変わらないように最大限の努力をしていきます。

大阪・難波の飲食店ビル「アソルティなんば」の5階に入るカジュアルダイニング「KICHIRI 難波駅前店」は「KICHIRI」の普及型業態(繁華街、駅前立地出店型) 大阪・難波の飲食店ビル「アソルティなんば」の5階に入るカジュアルダイニング「KICHIRI 難波駅前店」は「KICHIRI」の普及型業態(繁華街、駅前立地出店型) 大阪・難波の飲食店ビル「アソルティなんば」の5階に入るカジュアルダイニング「KICHIRI 難波駅前店」は「KICHIRI」の普及型業態(繁華街、駅前立地出店型)
大阪・難波の飲食店ビル「アソルティなんば」の5階に入るカジュアルダイニング「KICHIRI 難波駅前店」は「KICHIRI」の普及型業態(繁華街、駅前立地出店型)

 

すべての行動において
「目的」と「理由」がなければならない

―平川社長が師と仰いでいらっしゃる方はどなたですか。

平川 やはり父は無条件に「商売の先生」です。いつも「従業員を大切にしろ」と言っています。それ以外にも、さまざまなことを教えてもらいました。また、歴史上の人物では、織田信長と曹操孟徳で、彼らに関する本は繰り返し読んでいます。イメージの中でこんなとき信長ならどうするかというようなことをよく考えますね。

―現在、東京進出の準備を進めていらっしゃるとうかがいましたが。

平川 はい。年内にカジュアル業態のオープンを予定していますが、その前にもう1軒、ハイクラス業態のお店をオープンさせたいと思っていまして、現在、物件を探しているところです。

 私どもは、これまで、ハイクラス業態でブランド力と提案力を身につけ、そこで評価の高かったものをカジュアルダウンするという手法を採ってきました。ハイクラスはブランド力、提案力を高める業態であり、カジュアル業態は普及していく業態というイメージを持っています。初めからビルインの低価格のカジュアル業態だけやっていたら、現在のようなイメージは付かなかったと思うのです。
大丸梅田店の“デパチカ”(西館地下1階)にオープンした「スウィーツカンパニー Sweets & Co」
大丸梅田店の“デパチカ”(西館地下1階)にオープンした「スウィーツカンパニー Sweets & Co」
 ですから、東京進出でも、ブランド力をつけるためにハイクラス業態から展開したいと考えています。
 
―ブランド力、提案力がつけば自然とお客様は入ってくるということですね。

平川 そういうことです。どこの地方都市の外食企業も、東京に行きたいという気持ちがあると思います。ただ、ローカルでできることを飛び越えて東京に出ていったら「出稼ぎ」になってしまいます。「出稼ぎ」では長続きしません。ですから、私どもでは、関西での基盤をきちんとつくって、ビジネスを成長させ、その成長の過程として東京というものが必要になったときに出店していくという考え方をもっていました。今まさに、その機が熟したと思っています。お話があったから出店するというのではなく、すべての行動において「目的」と「理由」がなければならないと考えています。

―「目的」と「理由」がないと動かないという姿勢は、これからの飲食業にとって必要なことなのではないでしょうか。時代の風潮で次から次と出店しているところは、得てしてサービスや従業員教育が疎かになりがちです。

平川 飲食ビジネスというと一般的には「参入障壁が低い」と思われがちですが、企業として継続していくことは非常に大変です。ですから、「目的」と「理由」をきちんともっていないと判断を間違えるという危機感を常に抱いています。「金」と「物」だけでは絶対に動かないことがあり、やはり「人」が最も大切です。その意味で、私は「きちりが成功した」とは、まだ考えていません。「成功」というのは会社が考えているビジョンを達成した時が成功なのだと思います。

―今後の新業態としては、どのようなものをお考えですか。

平川 新業態としては5業態くらいを考えていて、商標もすでにストックしています。

 新しい業態や商標を考えるのは楽しい時間です。ただ、いまは現在あるものをしっかり成長させていく時だと思っています。

 

会社のビジョンを達成するために
いろいろな人と約束
その約束を果たす責任がある

―空間デザインをする時にはどのようなことを大切にしておられるのか、お聞かせください。

平川 もともと形に対するこだわりが強いし、建築物を見るのも非常に好きなので、気に入った建物があると空間デザイナーと一緒に再度見に行ったりします。そこで同じものを見てどう思うかというところから空間のデザインを考えていきます。

―空間デザイナーと一緒に見て共感することは大事でしょうね。そうでないと伝わらない部分が出てくる。

平川 いろいろなものが調和してその空間の雰囲気ができています。ですから、たとえば「あの景色だからこの形が必要だ」とか、「ここの床ならあの形はどうだろうか」というように伝えていきます。

―空間デザイナーに必要なのは空間をデザインするだけでなくて、その会社の半歩先のイメージを空間のなかで表現するということだと思います。いま流行っているからこういうものはどうですかではなく、コミュニケーションデザインというのが必要になるのではないでしょうか。
  最後に、社長ご自身の夢をお聞かせください。

平川 いまはビジネスに特化していますので、正直に言うと「個人の夢」というのはありません。まずは会社としてのビジョンの達成というのが目標ですから、それが達成できたら個人のことも考えていきたいと思っています。

 会社としてのビジョンを達成するために、私はいろいろな人と約束をしてきました。個人的な夢を抱く前に、その約束を明確に果たすという責任があります。

 会社の理念である『大好きがいっぱい』ということを具現化していくことで、私と関わって良かったと思われるような人間になりたいと考えています。

―お話を伺っていて、人を大事にされる姿勢に成長の源泉があるということが分かりました。
  本日は、どうもありがとうございました。

 

関連サイト : (株)きちり

対談後記 
松本 今年の3月初旬、お客様と一緒に関西方面に視察した際、KICHIRI淀橋店を訪れた。予約が難しい金曜日であったが、無理を言って10名近くのテーブルを用意して頂いた。あいにく平川社長は出張が入っており、再会は難しいとのことであった。淀橋店にタクシーで向ったが、お店はモダンな大人のテイストで、外看板も控え目であったこともあり、なかなか場所が判らず右往左往しながら15分遅れての入店となった。その時、飛び込んできたのは小雨降る中、傘も差さず外で待っていてくれた社長の姿であった。
 笑顔で「ようこそ、お久しぶりです」の一言、そしてお連れした皆様にご挨拶をして下さり、出張先に踵を返していった。その鮮やかな姿は目に焼き付いている。「どうしても一言挨拶がしたくて」との気持ちで現した行動力に、こうと決めたら愚直なまでにやり通す強い精神性を感じた。入店時の心のこもった社長との出会いに始まり、絶妙な料理、デザイナーズホテルのようなスタイリッシュな空間、そして高級ホテルで味わうような気配りのホスピタリティーを体験したとき、このすべての結集パワーこそが飲食激戦区で綺羅星になれた証だったと感得した。
 「大好きがいっぱい」の理念、社員だけでなく、取引先も、顧客もきちりのことが「大好き、ありがとう!」と言うのだろうと心に刻んだ対談であった。


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