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■ Design対談 デザインが生まれる現場から(株)SAMURAI 代表 佐藤 可士和 氏 IST(INTERSPACE TIME)代表 牛建 務氏 顧客の頭にあるイメージをつかんで コンセプトメイキングを行い アウトプットをしていくことが デザイナーの役割だと思います 広告の仕事の経験が
佐藤 僕がデザインの世界に入ったきっかけからお話しますと、もともと子どものころから絵を描くのが好きで、また、父が建築家という環境で育ったこともあって、ごく自然に美大に進みました。美大に入ると決めた当時は、まだ高校生ですから、デザインの仕事のことをよく理解していたわけではありませんでしたが、グラフィックデザイン科を専攻したのは、「デザインはファインアートと異なり、社会をキャンバスにしたアート活動だ」と思ったからです。 牛建 広告は広く社会を対象にし、人の考えや行動がダイレクトに返ってくるところがあります。そうしたところが絵画などのファインアートとは異なるところですね。また、佐藤さんは、もともと、デザインだけでなく幅広い分野に関心をお持ちのようですね。 佐藤 確かにいろいろな分野に興味があって、大学時代はバンド活動もやっていましたし、ファッションにも興味がありました。要するに何でもポップカルチャーとして捉えて、興味を持っていたということですね。 牛建 博報堂では『こどもといっしょにどこいこう』というコンセプトのもとに展開した「ホンダ ステップワゴン」や自ら商品開発にも携わった「キリンチビレモン」の広告などを手がけられていますが、約11年間在籍された博報堂を独立しようと思われたきっかけはどういったことだったのですか。
牛建 私の場合は、インテリアの世界で仕事をしてきましたが、やはり、何か特別なきっかけでもないと、インテリア以外の分野の仕事に携わることはなかなかないのですが、佐藤さんは広告代理店にいた経験があることから、ジャンルの枠にとらわれずに、さまざまな仕事に入っていけ、発想の広がりもあるのではないでしょうか。 佐藤 携帯電話の場合ですと、4つの色を使いましたが、たとえば赤い色を使うことが広告になるという考えでデザインしました。デザインすることでコミュニケーションにもなるし、製品としても機能するということですね。 牛建 それはやはり広告の現場で、マーケットと向き合ってきたから発想できるものなのでしょうね。「こういうものを、みんなが持っていたら面白いな」というところから発想するのですね。
クリエイターの仕事は 佐藤 さまざまなことを手がけていますが、自分としてはすべて「コミュニケーションのデザイン」と捉えていて、仕事によって、立体になったり、映像になったり、空間になったり、グラフィックになったりと、メディアが違うだけだと思っています。伝えたいことがあり、伝えたい人がいて、受け手がいるというのは、アートでも商業でも同じです。 僕は、デザインという力を使ってそのインターフェースを作っているということになります。携帯電話の場合は、NTTドコモという会社がさまざまなサービスや携帯電話の未来を考えていて、僕がそれを一つのアウトプットにしてマーケットに出す。それも一つのコミュニケーションです。そのように考えると、僕の仕事はコミュニケーションのインターフェースをデザインしているということになります。 今回の携帯電話のデザインは、プロダクトデザインというよりも、あのようなアイコンを社会に出そうというつもりで行いました。プロダクトデザインは初めてでしたが、技術的なことなどで、わからないところがあればNTTドコモやNECに聞けばいいわけです。 牛建 一つのジャンルの中にいると発想も限られてきます。しかも、プロダクトのデザインは、そこに機能という要素も考えないといけない。また、こうすればローコストで作れるからと妥協してしまう部分も出てくるので、最初に出てきた新鮮なアイデアをキープできなくなるということもよくあります。佐藤さんのように、そうしたディテールに入り込まず、少し引いたところから発想して、技術的なことなどは、その専門の人に手伝ってもらうという手法は面白いですね。ある意味で、いまの時代にあっているのではないかと思います。 佐藤 クリエイターというのは、一般の人が発見できなかったことを、新しい視点を提示することが仕事だと考えていますから、そういう形で仕事ができるのだと思います。
佐藤 そう思います。僕の場合は、ボーっと普通の生活をしている普段の自分がいて、それをクリエイターの自分がいつも見ているという感じで、それが大切だと思います。そうすれば、たとえば携帯電話のデザインを考える場合でも、「何でシンプルなものはないのかな」と思うことができる。だから依頼が来た瞬間に「こういうたたずまいのものをつくれば絶対に新鮮だ」と、すぐ思いつきました。 牛建 よくレストランで働いている人は内側ばかり見て、外を見られないと言われますね。普段から携帯電話のデザインしている人は、機能のほうに先に意識がいってしまい、その結果、みんな同じようなものになってしまうわけです。そこでは、一瞬で「こういうものがほしい」というと発想は出てこない。佐藤さんのような人が新しい発想を入れていくことで、エンドユーザーの目に新鮮に映る製品が生まれるのでないでしょうか。 佐藤 幼稚園をリノベーションするプロジェクトを現在進めています。僕が幼稚園のコンセプトを考え、それを建築というアイコンにするわけです。僕は図面を引くことはできませんので、建築家の手塚貴晴さんとコラボレーションしています。 牛建 それは、どういったきっかけで取り組まれるようになったのですか。 佐藤 NHKの番組に出演したときに「教育などこれまでデザインの力をあまり使っていない分野の仕事をしたい」という話をしたのですが、その番組をたまたま見ていた幼稚園プロデュース会社の方から電話をいただきました。そのときは「デザインの力を使って教育の新しいビジョンを一緒に考えられる先生がいたら是非やってみたい」というお話をしたのですが、それから10か月ほどしてまた連絡があり、「立川にそういうことを考えている幼稚園の園長先生がいるので会ってもらえないか」というお話をいただいたのが、そもそものきっかけでした。 その幼稚園は「ふじようちえん」といって、敷地が約1000坪、園児が約600人もいる大きな幼稚園ですが、老朽化していて、建替えが必要になっていました。しかし、新しい園舎の設計をどの業者に頼んでも、同じような箱形の建物の提案しかなく、せっかく新しく建てるのに夢が消えていくような思いだったそうです。 初めて園長先生に会ったとき、僕は「園舎の設計はできませんが、幼稚園をブランドとしてとらえて社会とどうコミュニケーションをとっていくかというコンセプトメイキング、クリエイティブディレクションはできます」というお話をしました。それで、僕がコンセプトを考え、それに適任の建築家を選んで新たな幼稚園づくりをしていくことになったわけです。Webサイトなど建築以外のディレクションについても、僕が行っています。 牛建 なるほど。園長先生が、既成の視点ではない新しいものを求めていたところに、佐藤さんの考えがぴたりと合ったということですね。具体的には、どういうコンセプトを考えられたのですか。 佐藤 幼稚園は、子供が社会に第一歩を踏み出すところですが、遊ぶことで社会に必要なさまざまなことを学ぶわけです。ですから「遊び」ということが非常に大事です。そこで『園舎そのものが巨大な遊具』ということをコンセプトに考えました。敷地には、たくさんの木が生えていたので、それを活かして、部屋の中に木が突き抜けていたり屋根に登れたりするようにする。いわば『巨大なツリーハウス』という感じでやりましょうと提案したわけです。 牛建 面白いですね。それなら子供が自然に遊びに入っていくことができる。園長先生もありきたりではないものを求めていたのだから、それで「すぐやりましょう」ということになったわけですね。 佐藤 そうです。園長先生としては、卒園した人たちがそこで結婚式をできるようにもしたいなど、さまざまな夢がふくらんでいるわけです。つまり、単に幼稚園ということではなく、教育を核にしたコミュニケーションの場をつくるということだったのです。園長先生の頭の中にあった、そうした考えを具体的にデザインするというのが、僕の役割なのです。
自分がやりたいことを 牛建 建築家やデザイナーなどのクリエイターのなかには、外部からコンセプトを持ち込まれたくないというタイプの人がいます。それはなぜかというと、自分のスタイルを見せたいという気持ちがあるからです。逆に、面白い発想を外からもらって、それを自分で消化していきたいというクリエイターもいます。佐藤さんは、そのどちらでもないという気がします。形というのはあくまでコンセプトに基づいて表現するものだということを常に考えているように見えます。 そうしたスタンスは、博報堂にいたときに、顧客が何を望んでいるかということを理解し、それを形にする方程式をきちんと学んだということから生まれたことなのではないでしょうか。ですから、どんなジャンルの仕事がきても、ここの部分を活かしてコンセプトを設定すれば成功するということがわかるし、顧客も、それを望んで仕事を依頼してくるのでしょう。 佐藤 僕がいつも言っているのは、自分はアーティストではなくデザイナーだということです。デザイナーの仕事には必ず対象がありますから、「自分がやりたいことをやる」という発想はまったくありません。答えは必ず相手のなかにあります。 相手が、頭のなかでは思っていてもなかなかうまく説明できないような「コアの部分」をつかみ出してあげるのが僕の仕事だと思っています。ですから幼稚園の場合も、園長先生と話をしているなかで、「園長先生はこういうことがしたいんだ」ということがわかった瞬間にアイデアができあがるわけです。どの仕事でも、「コアの部分」さえ、きちんと押さえていれば途中でぶれることはなく、後は具体的な作業を進めるだけです。 牛建 依頼する側としては安心感が生まれて、佐藤さんにすべてお任せしますということになるわけですね。 幼稚園や学校などの教育機関をどうしていくかということは、これからの大きな問題だと思います。これまでのように、廊下があって、教室があって、先生が入って来て、授業するという形ではなく、もっと自由に授業ができるような学校建築を考える建築家もいて、そういう新しい形も何年か前からつくられています。これからは子供たちを育てるためにソフトとハードがうまく融合した新しい学校が必要になってくるし、建築のあり方もすごく変わってくると思います。佐藤さんのように、建築家とは違う視点から見て学校をつくっていくというのは、そういう意味からもすごく意義があるし、面白いと思います。 佐藤さんにいろいろな分野の仕事がくるということは、いま時代が大きく変わっているなかで、他の人が持っていない発想を持っている人が貴重だということだと思います。 佐藤 変わったことを考えるということではなく、「普通はこうだよな」「普通はこうしたいよな」ということを、純粋に考えるようにしようと思っています。誰だって安くて良いものを作りたいし、気持ちの良いほうがいい。すごくプリミティブなことですが、単純に言うと相手の立場に立つということでもあると思います。 牛建 それは広告の仕事を通じて学んだことですか。 佐藤 そうですね。「ここをつかめば結構いける」ということが分かるということです。広告のようなマスコミュニケーションは何千万人という人を相手にするわけです。その人たちが共感しなければモノは売れません。人間は感情で反応している面が大きいのですが、その感情を整理するとロジックになる。そのロジックが大切だと思います。 いろいろなことをやっていますが、その基本は「デザイン」ということです。つまり設計して計画し、整理して形にする。それはモノであってもイメージであっても同じです。現在は「アートディレクター」という肩書きになっていますが、それは便宜上で本質的にはデザイナーです。僕は『デザインの力』を信じていますし、もっとその力を使える分野があるのではないかと思っています。 牛建 本当にそうですね。僕も「デザインは生活を豊かにする」と言いつづけています。また、自分を発信していく、自分の存在を外に向けて出していくというのも『デザインの力』だと思います。
デザインという概念が 佐藤 『デザインの力』を活かすという視点から、企業のブランディングということにも携わっています。たとえば「楽天」の場合、どうしたら新しい会社が短期間で世の中にコミュニケートできるかという戦略を考えるのです。Jリーグやプロ野球の球団を所有するというようなことも、楽天の社長の三木谷さんと一緒に考えています。楽天のクリエーティブディレクターという立場で、大きな視点から企業のブランディングを考えるわけです。また、「ユニクロ」が今秋、ニューヨークに大規模な店をつくるのですが、グローバル戦略のクリエーティブディレクターとして、全体のコンセプトとロゴ、インテリアデザイン、ショッピングバッグや広告のディレクション、WEBサイト等の戦略などもトータルでディレクションします。 牛建 実にユニークですね。私が関わっている商業施設の分野では、専門分野のデザイナーがデザインを行うということがほとんどですが、専門分野以外の人が考える店舗やショッピングセンターというものがあったら、ものすごく興味が惹かれますね。これからは、もっと違うジャンルのデザイナーとコラボレーションをすることが大切だと思います。そういう新しい試みは、オーナー社長の企業でないとなかなか難しいのかもしれませんが、佐藤さんのような仕事の仕組ですと、いろいろと面白いものができるという気がします。 佐藤 僕がいま行っている仕事は、幼稚園にしても、企業のブランディングにしても、形になる前の部分をつくるという仕事を求められていると思います。そうした場合、基本となるコンセプトメイキングが大切で、コンセプトがきちんとできると軸が通る。そこが固まると、「このコンセプトなら建築の設計は誰に頼む」など、プロジェクトを進めるためのチームも組みやすいわけです。 牛建 確かに最初にコンセプトがしっかりしていたら、起用すべき人は明確に決まるし、面白いものができるということがイメージできますね。新しい会社が佐藤さんのような人を起用して、これまでにない面白い提案を求めているのは、いまの時代に合っていると思います。 もっと、いろいろな人が出て来て、いろいろな広がりが生まれてほしいですね。そのことが私たちの刺激にもなります。 佐藤 これまで、経営者からミュージシャンまで幅広いジャンルの人と仕事をしていますが、新しいことに真剣に取り組んでいる人たちと仕事で向き合っているとすごく面白いですね。ミーティングルームの壁に村上隆さんの絵を掛けていますが、これは『床の間プロジェクト』といって、1か月ごとに彼の新しい絵を飾るというプロジェクトです。僕の事務所には、海外も含めて、さまざまな方がお越しになられます。そういう『リアルな場』に現代芸術を置いて、どういう反応があるのか見てみたいと言って、村上さんが作品を持ってこられたのがはじまりです。 牛建 それは面白い試みですね。最後に、これからやりたい仕事、夢について聞かせてください。 佐藤 さきほど「『デザインの力』を教育に使いたい」という話をしましたが、教育だけでなく医療など、これまで『デザインの力』があまり使われてこなかった分野でデザインの力を発揮するような仕事をしていきたいですね。「アートディレクション」や「デザイン」という概念が定着していない分野で仕事ができたら面白いなということをずっと考えていました。 牛建 さらに面白い仕事で私たちを刺激してくれることを期待しています。
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