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■コラム * tannet flash 雑考ノート 高橋 哲 グロテスクな街 フィレンツェ、ピッティ宮殿のグロッタを見た。洞窟風の空間で、天井や壁には鍾乳石を模したコテコテの装飾が施され、人工池には、ヴィーナスや何とか像が祀られていて、何となく淫靡。わざとらしさを極めた空間なのだが、グロテスクの語源がグロッタだと聞いて驚いた。が、グロテスクのニュアンスと結びつかない。グロテスクと言えば、奇怪な様だとか、異様で気持ち悪いとか、エログロ(エロティックでグロテスク)のグロを連想する。 タイミング良く、NHKの番組で、荒俣 宏氏がサンクト・ペテルブルグを訪れ、ピョートル大帝が威信を掛けて建設したペテルゴフ宮殿のグロッタ(人工洞窟)に言及していた。その隠れ家的なグロッタでは、水を浴びて若さを取り戻す宴会や、時には愛の直截的交換が行なわれていたらしい。グロテスクの語源はと言うと、皇帝ネロの住宅跡が発掘された際、その地下に面白い模様で飾られたグロッタが見つかった。神や動物達の連続模様がやがて植物に変わったり、また戻ったりと、宗教色の無い騙し絵のような模様。この壁面装飾様式がブームとなって、グロテスク(グロッタ風)模様と言われるようになったそうだ。そして、中世ヨーロッパの貴族社会において、秘密の園的な存在としてのエロ趣味が増幅されたのがゴージャスなグロッタなのである。 そこでエログロのルーツも、グロッタだったのかと独り合点。しかも、金に糸目を付けない驚き仕掛けの遊興空間、これってテーマパークの原点じゃないか。その過剰な装飾や少々エロティックな演出は、現代のグロテスク・ワールド。ダーク・ライド系のアトラクションなんかはグロッタそのものだし、家族やカップルが愛を育む定番スポットでもある。加えて、夜中の、暗くて人気の無い遊園地なんか、それはもうグロテスクだし、夜の歌舞伎町や六本木、また渋谷やお台場なんかも、エリアごとグロッタ状態と言ってもいいだろう。 グロッタついでに、イタリアでは「グロッタ・ジェスティ・テルメ」等の温泉美容リゾートや洞窟温泉が今に繋がる。東京ではリストランテ「ラ・グロッタ・セレステ」やピッツェリア「グロッタ」と言った洞窟的内装の店がある。 が、日本で古来から親しまれてきた洞窟風呂や子宝の湯、またコミュニティホテルなんかの方が日本版グロッタだと言いたい。 さらに、東京そのものをグロテスクな街と言ってしまおう。今の東京は、混沌魅力も、歴史の重みも、先端性や洗練性にも乏しいような気がする。あるのは脈絡の無い継ぎはぎ模様と、刹那的で倹約精神に欠けた過剰装飾。 都市そのものの装飾的要素(模様)を、道路や街並、広場や公園、ランドマークや夜景、人々のファッションや行動形態だとすると、明らかだ。 蜘蛛の巣や血流を連想する道路網や鉄道網。散在する墓標のような超高層ビル。街の過去を敬わぬスクラップ&ビルド。懲りずに瞬くネオンサイン。コンビニやFFまたカフェを約束事として、欧米風・アジア風、モダン・レトロ何でもありの街並。ビジネス・ショッピング・Hエリアが近接する刹那的な繁華街。演歌の世界とテクノ・カルチャーが混在する街。スーツやブランド品で身を固めて、ラーメンをすする人々。日曜、夜9時頃のTV視聴率。パチンコ、耽楽、物乞いをしないプライド高き浮浪者。そんなこんな、がパターン化しながら模様を織り成しているのが東京なのだから。 ところで、六本木ヒルズや汐留等の大型再開発区域と、新宿や渋谷等の既成繁華街との顕著な違いがある。パチンコ屋やママばばの働く店が無く、センター広場があること。欧米先進事例に倣った街づくりだが、先のエログロ要素に欠けるようだ。こんなのがスタンダード化し始めると、必然的に荒廃・頽廃する地域も出てくるし、東京のグロテスクな魅力も希薄になってしまうだろう。そういえば、街の健全化と犯罪発生率は相反しているような気がする。過っての東京は、危なげながら安全であった。今は安全そうで、実は危ない。 宵越しの銭は持たぬ、供宴と愛(?)を大切にする、もっともっとグロテスクな街に暮らそうではないか。 (たかはし さとし/(株)丹青IDS プランニング&プロデュース・ディビジョン 企画部 チーフプランナー)
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