コラム * tannet flash
マーケット・フォローウィンド
宮沢 勲

ニーズはどこに消えた?


 新たな事業創造や事業の転換においては、単にアイデアを事業化してもその事業の成功確率は非常に低い。事業の成功確率を上げるためには、そのアイデアを事業機会へと昇華させる必要がある。事業機会とは事業の魅力、永続性とタイミングの3つを備えているという点において、アイデアとは根本的に異なるものである。そして何より市場に価値を与えるものでなければならない。したがって事業機会を発見するには市場のニーズに着目することが最も手っ取り早い。さらにそのニーズは大きく次の3つに分けることができる。
 
 ひとつが、ニーズはあるが既存の企業が気づいていないものである。この場合、新製品や新サービスの開発、製品やサービスの改良などによって事業機会が発見できる。 
 2つめは、ニーズはあるが既存企業では満たせていないものである。この場合、ニーズを細分化することで事業機会を発見することができる。
 
この方法によって事業機会を発見した典型的な事例としてあげられるのが、定食の「大戸屋」さんである。大戸屋さんは、女性の社会進出の高まりを背景に、女性がバランスよく食事できる場所に対するニーズが高まると予測した。ここまではアイデアである。大戸屋さんはこれを事業機会とすべく、アンケートという形で徹底的にニーズを探った。そしてファストフードとファミリーレストランの間のニーズを探り当てた。
 
 3つめは、顕在化していない新たなニーズに対して新たな製品を開発するものである。この場合、なにも新たな製品でなくてもよい。マクドナルドの日本進出は、ハンバーガーという新たな商品によって新たなニーズを創り出すことに成功した事例といえるだろう。
 
 一方で、ニーズを捉えることが事業機会発見のために必要不可欠なことは間違いないのだが、このニーズの捉え方を間違えると、事業として成立しない。最近、このニーズの捉え方のむずかしさを表わした事例を目にした。
 
 それは葬儀市場で低価格化を打ち出したエポックジャパンという企業の事例である。実は、この会社の専務とは数年前にあるベンチャー向けセミナーで知り合い、以来親しくさせていただいている。エポックジャパンの当初のビジネスモデルは次のようなものであった。
 
 皆さんもご存知のとおり、葬儀を行なうと100万円以上は当たり前であり、その価格の内訳も明確でないものが多いのだが、葬儀の忙しさと気持ちの問題から、値切ることはほとんどない。さらに、オプションが多く、結局見積りよりも数段高い料金を払わされている。エポックジャパンはこの高価格性に着目し、当初 万円というパッケージで市場に参入した。
 
 まず、地方からこのパッケージを販売し、仮説の検証を行なったところ、ある程度予想した結果が得られたため首都圏に本格的に展開したが、一向に販売は上向かなかった。なぜ、首都圏では芳しくないのか。首都圏は住宅も狭く、大きな葬儀は行ないにくいため一見、小型の葬儀に対するニーズが高いと思われがちだが、ここに落とし穴があった。
 
 結局、エポックジャパンは昨年12月に新たなパッケージ商品を発売することにした。それは当初の15万円という低価格パッケージを否定するものであったが、その代わり当初見積もった金額から追加料金は一切いただかないというものであった。当初は低価格を実現するために保有しなかった葬儀場も、徹底したローコスト化を行ないながら設置し、革新的な低価格ではないものの、割安感を出すことに成功した。この商品発売後、急速に業績が向上しているという。
 
 結局、首都圏の消費者のニーズは単なる低価格に対するニーズではなく、価格が透明であること、追加料金が発生しないということにあったのである。確かに首都圏では、自宅ではなく葬儀場で葬儀を行なうことが多くなっている。したがって15万円のパッケージを仮に頼んだとしても、葬儀場の使用料、料理など追加要素が多く、結局は高いものについてしまうのではないかという消費者の心理が、低価格商品の販売を阻害していたのである。
 
 このように単にニーズを低価格と捉えたとしても、その中身は多種多様であり、真のニーズを捉えるということは非常にむずかしい。
 われわれの携わる空間創造ビジネスにおいても低価格化の波が押し寄せている。しかし、ただ単にローコストで商品を提供しても、お客さまに満足してはいただけない。そのお客さまの背後にいる消費者の真のニーズを捉えなければ、適切な商品は提供できないのである。実は当社の使命は、その背後にある消費者の真のニーズを捉え、これを空間に表現することにある。これは非常にむずかしいことであるが、これができて初めて、空間創造ビジネスの新たな事業機会を捉えたといえるのである。
 

(みやざわ いさお/(株)丹青社 経営計画部企画課 課長)

このページに掲載の内容、写真などの転用をお断りします。
Copyright 2002 TANSEISHA.co.,ltd.
All right reserved.