■コラム * tannet flash
マーケット・フォローウィンド
宮沢 勲
“経験”が商業施設を救う(2)
前回は元町「キタムラ」の店舗戦略と「経験経済」の関連性について触れた。今回はこの経験経済について若干考察してみたい。
さて「経験経済」とは2000年に米で急浮上してきたマーケティングのキーワードである。B.J.パインIIとJ.H.ギルモアが記した『THE EXPERIENCE ECONOMY』(邦題『経験経済』、電通「経験経済」研究会訳、流通科学大学出版)が学問的な裏付けになっていると思われるが、1990年代後半に出現した学問であり、まだまだ発展途上といえる。ただ現在のように経済が閉塞感を増すなかで、「経験」という価値が唯一価格競争を回避する手段であり、新たな経済的価値を生み出すという主張は、前回ふれた「キタムラ」の事例に見るように、現代における一種の経済原理になりえるように思う。
著書のなかでは「商品の価値は一人ひとりの消費者によって異なるが、感動や美的な満足を与えてくれる商品やサービスに対して、人は進んでその対価を支払うが、そうした感動がない商品、サービスは『コモディティ化』(農産物のような一次産品のこと)していき、絶え間ない価格競争を強いられていくことになる」(前掲書より引用、一部修整)とし、「これからの経済成長にとってのカギは『経験』を独自の経済オファーとして認識することだ」(同)と主張する。
そもそも産業の発展は産業革命によって第1次産業から第2次産業に移行し、20〜30年前に「サービス経済化」といわれるように、第3次産業に移行して現在に至っている。現在はこの「サービス経済」が行き詰まっており、新たな価値が求められているのであり、その新しい価値が「経験」なのである。 事実、この「経験」を武器に業績を伸ばしている企業が現われてきており、その代表例がスターバックスコーヒーである。 スターバックスコーヒーは「自社の提供する価値を『コーヒー・エクスペリエンス』という言葉で表現しているが、そこで主張されている価値は、商品としてのコーヒーでも、知的で洗練された店舗インテリアでもなく、そうしたものをすべて含んで『スターバックスでコーヒーを飲むという経験』という価値」(前掲書より引用)なのだと主張する。コーヒー豆だけでは当然価格競争は激しく、単にコーヒーを出す喫茶店であればほとんどが価格競争に埋没してしまう。これに対して確かにスターバックスコーヒーの魅力は、コーヒーを飲むという行為だけではなく、スターバックスにふれるということであり、これが一種の喜びにさえなっている。だからコーヒーだけでなく、カップなどいわゆる「グッズ」までが売れているのではないか。
前掲書では、この「経験」という言葉を「『過去の経験、体験』という意味ではなく、『今、ここで感じる身体的、精神的あるいは美的な快楽、感動』を指している概念」と捉えているが、この「経験」を商業施設活性化、特に物販施設活性化のキーワードとして捉えた場合、「過去の経験、体験」も含む広い概念として捉えたほうがよいのではないかと私は考える。
商業施設は商品を提供する「場」であるのだが、けっして単なる箱ではなく、効率的な経営を行なうための戦略ツールであると同時に、お客さまを迎え入れ、商品やサービスを体験していただくマーケティングツールであるといえる。そこでしか買えない商品がほとんどなくなった現代においては、商品を買う場所を選択する基準はその商品の価値と店舗の価値とのつりあいで判断される。たとえば単なる野菜は毎日の食材であり、近くで安い地元のスーパーマーケットで購入すればよいのだが、ハンドバッグは銀座に行って、銀座の三越で買おうということになる。このとき重要なのは、店舗の中で買うという経験を、いかに素晴らしいものにするかという「身体的、精神的あるいは美的な快楽、感動」だけではなく、商品を持ち帰った後に、その商品を使いつづけることで積み上げられる「過去の経験、体験」でもあるはずである。だから、またその店舗を利用しようと思うのであり、ストアロイヤリティは高まるのである。そのためには本当にいい店舗とこれをいい状態で維持すること、いい商品を長く使いつづけていただくサポート体制が欠かせない。そのためのお客さまへの情報発信が常に行なわれていく必要があろう。
当社は店舗をサポートする立場であるが、お客さまの「経験」をいつまでも大切にしていただける、商品に合った店づくりや維持体制を提供できるよう、日々努力していかなければならないと考えている。
(みやざわ いさお/(株)丹青社 経営計画部企画課 課長)
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