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■コラム * tannet flash マーケット・フォローウィンド 宮沢 勲 ある居酒屋の"再生"に思うこと 山手線のある駅近くにその居酒屋はあった。近いといっても駅前ではなく、歩いて10分ほどの距離だ。周りは閑静な住宅地で、お世辞にも良い商業立地ではない。さらに悪いことに、店はマンションの地下1階にあった。その日はオープン後間もなくで、居酒屋のゴールデンタイムだというのに客は私1人。そんなことから店主の悩みを聞くことになった。 店主は30歳前の独身で、以前は料理屋で働いていたという。独立の資金ができたので中華料理店の居抜きだったこの店を借り、若干内装に手を入れて開業した。料理には自信があり、一度食べてもらえれば必ずファンになってくれるはずだ、という。また居酒屋として特徴を出すために地酒の品揃えに力を入れた。実際に食べてみると確かに他の店にないような特長は感じられる。しかしその良さも食べられてこその話。お客様に来ていただかないと意味がない。そこが悩みであった。 その日結局、私は店主に2つの進言をした。今あえて経営管理論的に言い換えれば、「ドメインを明確にする」ことと「マーケティング戦略を構築する」ことである。難しく聞こえるが、つまり「誰に何を」「どのように」売るのかという商いの基本の見極めだ。具体的提案の1つとして、メニューに素材の産地などキャッチをつけてはどうかとお話しした。 数週間後店主から丁寧な手紙が届いた。そこには「○○の清流で作った○○をご用意してお待ちしております」とあった。業績もここのところ上向いてきたという。さて私はここで考えた。なぜこの店はこのようにたやすく業績向上が可能だったのか。そこから逆に2つのポイントが見出せたように思う。 1つは店のコンセプトや戦略を顧客にどう伝えるかの部分にある。サービス業のマーケティングでは、サービスは必ず従業員を媒介として提供されるという特性がある。必然、従業員の質がすなわち商品(サービス)の品質となり、企業(経営者)のコンセプトの表現となる。そしてコンセプトが正確に伝わるかどうかが顧客の満足度に直結するのである。先の居酒屋では、幸か不幸か店主すなわち従業員であり、店のコンセプトが直接顧客に伝わりやすい構造だったことが奏効した。 2つ目は、そのサービスで誰を喜ばせるのかという点にある。サービス業に限らず全ての企業活動は、その企業の提供するものが誰かを喜ばすものでなければ成立しない。これには先の「ドメイン(誰に何を)」と「マーケティング戦略(どのように)」の合致が不可欠だ。例の居酒屋では、若い女性を喜ばせる目的で新メニューを開発したり、店主の手紙にあったようなメニュー表現の工夫や、食器、料理や酒の提供の仕方を変えた。これが立地の弱みを強みに変えることになった。 さて今はネットビジネス流行(ばやり)だが、ネットを通じて誰に何を提供し、そのことによって誰が喜ぶのかが明確でないビジネスも多い。それらは早晩淘汰されるのだろうが、むしろネットに頼らずとも、既存の商品やサービスとターゲット、マーケティング手法を見直すことで、比較的簡単に活路を見出せる企業も多いのではないか。とある居酒屋の“再生”に触れて感じたことである。
(みやざわ いさお/(株)丹青社 経営計画部企画課 課長)
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