コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
南 夏樹

博物館の評価 その3


 日本の博物館が危機的な状況にあるという認識について前回述べた。その危機は1990年代始め、バブル経済の崩壊とそれに伴う経済・財政状況の悪化に端を発し、博物館開設数の減少及び既存の博物館への歳出予算の激減という形で、1990年代の終わりに顕在化した。そして博物館評価をめぐる様々な言説や動きが増えてきたのも、まさにその時期であった。博物館評価に関する議論はその危機の中から立ち現れてきたとさえ言える。いま博物館評価に期待されていることが、現在の博物館の危機を回避するための、有効な手段となることであるとすれば、博物館評価と呼ばれる混沌の中から、何を取り上げて私たちの議論の対象とすべきなのかが明らかになってくるのではないか。
 
 第1に、ここで考察の対象とする博物館評価とは、博物館自らが運営を改善するため、あるいは変化する環境に適応していくための道具として使用することのできる評価でなければならない。なぜなら、評価が博物館の危機を回避するための手段であるとすれば、危機を回避するその主体は、博物館自ら以外にはあり得ないからである。
 
 博物館自らが行う評価としては、大きく2つの区分が考えられる。1つは、展示や教育プログラムといった、博物館が提供する個々のプログラムに関する評価である。そしてもう1つは、そうした個々のプログラムの集合体としての博物館という社会的プログラムに関する評価である。これまで博物館評価についての議論の主流であったのは、展示や教育プログラムといった個々のプログラムに対する評価であった。琵琶湖博物館におけるシンポジウムのテーマとなったのがこのタイプの博物館評価である。
 
 しかしいま博物館に問われているのが、個々の展示や教育プログラムの効果であるのかと言えば、そうではないだろう。むしろ博物館に問われているのは、そうしたプログラムの総体としての博物館という存在が、社会にとってどのような価値や意味を持つのかということなのではないか。むろん個々のプログラムの効果は、そうした問いに答える時に重要な材料となる。しかし現在博物館に、その危機という形で突きつけられた重大な疑問に対しては、より包括的で体系的な回答が求められている。そこで問われているのはおそらく、私たちの社会にとって博物館とは本当に必要なものなのか、必要であるとすれば、博物館とは社会にとってどのような効果や便益をもたらすものであるのか、という根本的な疑問である。博物館評価にはそうした根本的な疑問に答えることが求められている。
 
 こうした疑問に答え得るような評価の手法として、「業績測定」(Performance Measurement)と呼ばれる方法に注目したい。アメリカにおける業績測定の理論的な主導者の1人であるアーバン研究所のハリー・P・ハトリーは、業績測定について、「サービスあるいはプログラムの成果と効率について、定期的に行われる測定」と定義している。あるいは佐々木亮と西川シーク美実は、「ある公共政策や公共プログラムの目的や目標を明らかにして、それを測定するための成果指標と数値目標を決めて、事前・中間・事後に定期的にその指標値を測定することにより、当初の数値目標がどれだけ達成されたかを評価し、現場での実施改善と意思決定とアカウンタビリティの改善に利用していく仕組み」であると定義している。
 
 業績測定の背景となっているのは、「ニュー・パブリック・マネジメント」(New Public Management)と呼ばれる先進諸国に共通した行政改革の大きな潮流である。大住荘四郎によれば、ニュー・パブリック・マネジメントとは、1980年代のなかば以降、イギリス・ニュージーランドなどのアングロサクソン系諸国において形成された行政理論であり、民間企業における経営理念や手法、さらには成功事例等を可能なかぎり行政運営に導入することを通じ、行政部門の効率化・活性化をはかろうとするものである。その核心は、行政の各ヒエラルキーにおいて「経営資源の使用に関する裁量を広げる」と同時に、「業績/成果による統制を行う」ことにある。そしてそのために、(1)民営化・エイジェンシー化・内部市場等の市場メカニズム(契約型システム)の活用、(2)住民をサービスの顧客と見る顧客主義への転換、(3)組織のヒエラルキーの簡素、等の手法が用いられる。こうしたニュー・パブリック・マネジメントの具現化を支える重要なツールが業績測定である。ニュー・パブリック・マネジメントの中心的な概念は「業績/成果によるマネジメント」であるが、業績測定とは、その「業績/成果」に関する目標を定め、目標への達成を測定するための手続きであると言える。
 

(みなみ なつき/(株)丹青社 公共空間事業部 事業企画室 室長 )

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