■コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
南 夏樹
博物館の「評価」
「評価」の問題は現在、日本の博物館における大きなトピックの1つであり、特にここ2、3年、その傾向は顕著である。近年の評価をめぐる動きを整理すると以下のようになる。
2000年2月には、滋賀県立琵琶湖博物館において、アメリカからブライアン・マクラーレン、ミンダ・ボーラン、ロス・J・ルーミスの3氏を招いて、ワークショップ&シンポジウム「博物館を評価する視点」が開催された。シンポジウムでは、「アメリカにおける展示開発の考え方」(マクラーレン)、「アメリカの博物館評価と来館者研究」(ルーミス)、「展示評価」(ボーラン)、「江戸東京博物館における展示評価」(佐々木秀彦、村井良子)、の講演が行われた。
2000年度には、東京都における行政評価制度導入(2001年度〜)のための試行として、7つの博物館・美術館の運営に関する評価が行われた。評価の結果は、最高でもC(1館)―事業の規模と内容の見直しが必要、であり、D―事業の抜本的な見直しが必要、が4館、E―廃止又は休止が必要、が2館というものであった。
2001年3月には、東京都江戸東京博物館において「博物館における評価と改善 スキルアップ講座」が開催された。内容は、展示の検証・改善のワークショップとシンポジウムである。シンポジウムにおける講演は、「博物館評価をめぐる状況」(佐々木秀彦)、「ミュージアムの経営改革を成功させるために」(上山信一)、「水族館経営とマーケティング・リサーチ」(平田穣)、「学芸員が実践する来館者調査と展示開発」(三木美裕)、であった。
2001年4月から、国立博物館の大部分が独立行政法人に移行した。独立行政法人とは、行政サービスの執行部門に財政、組織、事業運営等に関する権限を委譲することにより、サービスの質や効率の向上を目指すものであるが、その制度の中核となるのが「中期目標」による目標設定と、その目標に対する業務実績の評価システムである。現在、独立行政法人として1年度目の「評価」が実施されているところであり、評価結果の公表は2002年9月の予定とされている。
2001年12月には、立命館大学と琵琶湖博物館の共同研究(1999年〜)の成果である『施策としての博物館の実践的評価』が出版されている。これは琵琶湖博物館の経済的、文化的、社会的効果を、県民意識調査や経済統計等のデータを元に、政策科学の手法を用いて客観的に評価しようというものである。
静岡県立美術館では、2001年度からベンチマークス(比較指標)を用いた「業務評価」システムの開発に取り組んでいる。2001年度に指標の開発を終了し、2002年度からは実際にその指標を用いた評価を開始するとしている。
以上見てきたように、近年、博物館の評価に関して様々な動きがある。しかし問題は、江戸東京博物館での講演で佐々木秀彦も指摘しているように、同じ「評価」と言いながら、そこに様々な目的、方法、主体等が混在していることにある。
佐々木秀彦は、現在「博物館評価」と言われているものについて6つの類型を示している。それは、1.一定の基準による審査、2.設置者による点検、3.博物館自身による点検、4.改善・開発を前提にした検証、5.専門家による質の批評、6.利用者によるチェック、である。
佐々木亨は、佐々木秀彦の分類をさらに敷衍して6つの分類を示している。それは、1.一定の基準による審査登録制度、2.設置者による点検、3.ミュージアム自身による点検、4.業績測定をもとにした設置者・ミュージアム・利用者による目標管理、5.利用者によるランクづけ、6.ミュージアムの経済効果等の測定、7.政策判断の是非の検証、8.外部の専門家によるミュージアムの運営形態・組織・制度の改革に関する提言、9.戦略計画の策定、である。
山谷清志は政策評価の視点からではあるが、「政策評価の定着を阻んでいるのは概念の混乱に原因がある」として、歴史的な観点からの整理を試みている。山谷によれば、「評価」理論には2つの系統があり、1つはアメリカにおいて20世紀の初めまで遡る保健、教育、福祉等の分野におけるEvaluation Researchであり、もう1つはやはりアメリカにおける1950年代以降の政策科学、政策研究におけるPolicy Evaluationである。
琵琶湖博物館における講演でミンダ・ボーランは、アメリカにおける博物館評価の背景として、1.連邦政府からの資金援助に対する説明責任、2.教育的な有効性に対する関心、3.マーケティングの観点からの評価、の3つを挙げている。このうち2は山谷の言うEvaluation Researchの系譜であり、1、3はPolicy Evaluationの系譜に当たるだろう(1980年代のニュー・パブリック・マネジメント理論の導入以降、先進諸国において政策・行政の文脈と経営の文脈は一体化している)。日本における博物館評価も、1.「教育」の文脈におけるものと2.「政策・経営」の文脈におけるものの2つに大別できるのではないかと考える。
(みなみ なつき/(株)丹青研究所 主席研究員)
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