コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
南 夏樹

ミュージアムの展示は誰のもの?


「博物館における展示とは展示資料(もの)を用いて、ある意図のもとにその価値を提示(Presentation)するとともに展示企画者の考えや主張を表現・説示(Interpretation)することにより、広く一般市民に対して感動と理解・発見と探求の空間を構築する行為である」※1 。この定義は、現在私たちが依拠している博物館展示に関する考え方を、端的に表している。
 
この考え方の背景となっているのは、1970年代の、博物館における「陳列」対「展示」論であり、それは以下のようなものであった。「従来の博物館の、『資料』を並べて観せる方法には、きわめて主観的なものが多い。それは、博物館が『もの』を並べて見せてやるという考えの流れがあるからで、その並べ順を追ってみつめてみると、単に宝物の羅列であって、そこには何の意図も思想もみとめることはできない。これを『陳列』という言葉で表現することができる。しかし、今後、博物館のなかに『もの』を並べるということには、一貫した理念がなければならない。単なる並列、羅列ではなく、並べること自体に目的をもたせ、思想をもたせて、そこに並べられている資料が、観る側の人を説得するものでなければならない。このような考え方にもとづいて『もの』を並べることを、『陳列』から区別して『展示』というのであるが、以後、『展示』という言葉をそのような概念として扱うこととする」※2
 
一方このような展示理論に対して、様々な疑問が提起されている。国立歴史民俗博物館の篠原徹氏は、小学生グループによる、展示室での次のような会話を取り上げる※3 。「『ヤキバタケの村って』と1人が聞く。他の1人が『これ、昔、人が焼かれたのかなあ』と答える。(中略)壁に掛けてある背負子をみてまた一言二言いう。『昔さあ、お婆さんを山に捨ててきたじゃない、あれよ』という。横の子がうれしそうに『私知ってるよ』と答える。『これに乗せていったのよ』ともういかにも確信ありげである。かくして山の運搬具・背負子は姥捨伝説の道具となり、照葉樹林文化論で問題の焼畑は人を焼く奇習を持つ未開の地となる」。篠原氏は、「人はおよそ民俗学者の解説には無関心である」、と嘆きながらも、「博物館は歪曲を恐れずむしろ誤解と偏見から見られてこそ魅力に富んだものになる」、「解釈や理解を無意識に強制することになる解説文の多い論理的な展示より、見る側の想像力や自由な発想を重視」する「不思議な場所」であるべきだと結論づけている。
 
イギリスの博物館論研究者であるE.フーパーグリーンヒルは、博物館展示のコミュニケーション過程に関し、「伝達モデル」と「文化モデル」という二つモデルを示している ※4。伝達モデルによれば、知識は学習者に外在的なものであり、そのため教育の目的は、情報をいかに効率的に学習者に授けるかということになる。伝達モデルの立場からコミュニケーションは、外在的で客観的な知識が、送り手から受け手へ、機能的・直線的に伝達されることとみなされる。一方文化モデルの観点からは、意味や価値はあらかじめ存在するものではなく、継続的な交渉を通じて形成されるものである。そこでは、各人がそれぞれの経験に基づき、能動的に自分自身の意味をつくりだしている。このプロセスがコミュニケーションと呼ばれるものである。フーパーグリーンヒルは、博物館における伝達モデルがいかに観客を受動的なものとみなし、そして文化モデルがいかにその参加者を能動的なものと前提しているかを強調したうえで、観客は常に「能動的」なものなのだ、としている。
 
フーパーグリーンヒルの「伝達モデル」と「文化モデル」は、先にとりあげた支配的な展示理論とそれへの批判という二つの考え方にうまく照応するように思われる。しかし、だからといってこれまでの展示に関する考え方が無効になるというわけではない。学芸員や展示デザイナーといった送り手にとって「展示する」こととは、展示資料の価値づけ・意味づけ・文脈化以外のなにものでもない。しかし一方で展示の解釈が受け手である観客に100%開かれたものであることもまた事実だろう。計画者は展示の解釈を観客に強要することはできない。計画者による資料の文脈化と観客によるその解釈は直線的につながっているものではない。私たち展示の送り手はその断絶を認めなければならないだろう。それを認めたうえでどう展示を計画するか、観客の自由な解釈を、どうやってより豊かな意味や価値の創出に結びつけていくことができるのか、それが今私たちに問われていることなのだろう。
 



※1新井重三 1981 『展示と展示法』 博物館学講座第7巻 雄山閣出版
※2加藤有次 1977 『博物館学序論』 雄山閣出版
※3篠原徹 1988 「不思議な場所としての博物館」 『民俗展示の構造化に関する総合的研究』 国立歴史民俗博物館民俗研究部
※4Hooper-Greenhill, Eilean, 1999, 'Education, communication and interpretation: towards a critical pedagogy in museums', in E. Hooper-Greenhill (ed.) The Educational Role of the Museum, 2nd ed., London & New York: Routledge 

 
(みなみ なつき/(株)丹青研究所 文化空間研究本部 マーケティング研究部
マーケティング戦略研究室 室長)

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