コラム * tannet flash
エンターテインメント・アイ
松本 大地

エンターテインメント・フィロソフィー


 “今後の生活で何に重点を置くか”という内閣府の「国民生活世論調査」から、言い古されたフレーズであるが、物から心に時代が推移した現実が見える。30年前の1972年は、“心の豊かさ”に重点を置くとの回答は38%、まだ“物の豊かさ”のほうが40%と上回っていた。しかし、30年後の2002年には、“心の豊かさ”は60%と上昇し、“物の豊かさ“回答は28%に下落している。
 
今後の生活で何に重きをおくか
1972年 1980年 1990年 2002年
心の豊かさ 38% 40% 55% 60%
物の豊かさ 40% 40% 32% 28%
 
モノ欲求が十分満たされた人々は、次の精神欲求である「心の満足」を求めて社会活動を行い、その消費動向には心理的な要素が大きく左右してくる。よって、人々に心の満足を見据えた確固たるフィロソフィーを持って時代対応していく姿勢がなければ、企業の存続はありえない。
 
「楽しい」「わくわくする」と
感じるものには
人を引き込む力がある。

 
 1998年にCDデビューしたジャズ界の新鋭“綾戸智絵”は遅咲きの45歳。昨年出掛けたコンサートの客層はまさに老若男女の面々。10代のヤング層から、シルバー層までが押し寄せる。小柄な身体に似つかない骨太の実力派のヴォーカルと楽しいトークは、客席との距離感を縮め会場全体を優しく包み込む。世代を超えて楽しめるジャズ音楽が彼女のフィロソフィーである。綾戸ワールドに魅了された観客は、コンサート会場でバラード、スタンダードナンバーのCD、自伝、エッセイ本を感動消費として求め合う。IT化時代の対極として、人々は温もりやこだわりに共鳴し、そこでの感動や体験を楽しむことには時間と金額を惜しまない傾向にある。
 
人的サービスがあって始めて
楽しさや感動が生まれる。

 
 成熟社会だモノ余りだと言いながら、生活者の立場からみれば「本当に欲しい商品・サービスがない」ということになり、個人消費を引き上げる創造力や努力が不足していたのではないだろうか。
 「基本となるのは“店舗をつくる”ではなく、“文化をつくる”という考え方です」と話すのは、(株)うかいの鵜飼社長。高品質な空間づくりと接客サービスで、「うかい鳥山」の飲食事業と、「箱根ガラスの森」や「河口湖オルゴールの森」でのミュージアム事業を展開している。
 
 アミューズメント専門誌で対談をした際、ミュージアムに訪れたお客様からの礼状を拝見させて頂いたが、そこには数々の感動体験の内容が綴られていた。駐車場スタッフのホスピタリティ溢れる誘導の仕方(実は社員ではなく地元警備会社の派遣であり、外部スタッフにもフィロソフィーが浸透している)、コンシェルジェレベルのホールサービスをするウエイトレス、心に響くエンターティナーの生演奏、ベンチに腰掛けて少し寒いと感じていたときタイミングよく差し出されたブランケットの話しなど、従来の観光地にある施設には期待できなかった感動のエピソードである。
 
個性的なMD展開のミュージアムショップ(箱根ガラスの森)
 
個性的なMD展開のミュージアムショップ(箱根ガラスの森)
 実は、レストラン施設もミュージアムも好立地にはない。「アクセスは多少悪くても、お客様に感動を与えられる質の高い空間・サービスが提供できれば人が集まります」と鵜飼社長は語る。利便性や経済性を追求するのではない“うかい文化”を自然に浸透させていく哲学に、人々は賛同し感動業態が創られていくのであろう。
 
 多くのテーマパーク、遊園地、観光施設等の低迷が続いている現在、小手先や見掛け倒しのエンターテインメント装置では、感動は永続しないことを学んだ。エンターテインメントの持つ本質は、今後加速度的に様々なビジネス領域に大きな影響を与えつつ、社会全体を活性化するキーファクターになると確信している。これからも、エンターテインメントの哲学(フィロソフィー)から、様々な事柄を学んでいければと思う。
 
 さて、創刊以来8回に渡り“エンターテインメント・アイ”を掲載させて頂きましたが、今回をもちまして終了することとなりました。長い間ご愛読下さいましたこと、心より感謝申し上げます。
 

(まつもと だいぢ/(株)丹青社 営業開発室 SCC 2 部部長)

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