コラム * tannet flash
エンターテインメント・アイ
松本 大地

エンターテインメント・ビークル


 近所にミステリー作家・西村京太郎さんの自宅兼記念館ができた。外壁は原稿用紙を模したデザイン。館内には鉄道模型が走るジオラマや、鉄道に関する展示品、書籍の数々が並んでおり、否が応でもミステリーロマンや旅情を掻き立てる演出になっている(鉄道ファンにはこだわり派が多く、小説に登場する背景は、すべて自らで実証した材料でないと後にクレームがドッサリくるとのこと)。
 
旅情といえば、キャサリン・ヘップバーン主演の“サマータイム”。ヴェニスでの恋の出会いと別れが、列車やゴンドラという乗り物(ビークル)がドラマの大道具となり、心の機微を表現していた。遠ざかっていく列車の窓から身を乗り出して手を振る別れの場面は、映画史上最も愛されているラストシーンといわれている。
十津川警部、湯河原に登場(西村京太郎記念館)
十津川警部、湯河原に登場(西村京太郎記念館)
SL「冬の湿原号」 ダルマストーブとスルメが…
SL「冬の湿原号」 ダルマストーブとスルメが…
 釧路から網走を走る釧網(せんもう)本線。冬の釧路湿原のなかを走るSLの乗車体験は、感動的なエンターテインメントであった。旅の情緒を満載した白煙を靡かす男性的なSLと、絶妙に石炭をくべる職人芸の機関士との関係は、懐かしさと優しさの豊かな文化を描いてくれる。客車にはなんとダルマストーブが備え付けられており、スルメを焼きながら至福の地ビールを味わいつつ、湿原に生息する動物達が車窓を楽しませてくれた。
 
《遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休めるとき…》毎晩0時になると、♪ミスター・ロンリー♪をBGMにした“ジェット・ストリーム”との出会いは、FM放送との擬似夜間飛行体験だったかもしれない。乗り物は単なる移動手段ではなく、乗り物にどんな思い入れがあり、どんな時間を過ごすかで、さまざまなエンターテインメント空間に変貌する。書斎であったり、ダイニングであったり、思いを馳せたり、笑ってみたりと…。
 
 最近の国際線エアラインは、機内でのエンターテインメントを強化している。パーソナルで楽しめる液晶ビデオムービーやゲームソフト装備、機内ショッピング、選択肢のあるグルメメニューなどを充実させ、いかに機内で快適に楽しく過ごす経験をしてもらうか躍起になっている。シンガポール航空に次いで、人気ランキング2位のヴァージン・アトランティック・エアラインでは、ビジネスクラスに専門家によるクイックマッサージのサービスもあるとか。さらに、機内のエンターテインメントにとどまらず今年の3月、英国のリバプール空港の新名称は「リバプール・ジョン・レノン空港」になった。英国内の空港に個人の名前が付けられたのは初めてのこと。空港のロゴには、ジョンの肖像画と、「イマジン」から“above us only sky(上には空だけ)”の一節があしらわれている。「ジョンもケネディやダヴィンチと同等に位置づけられたんだな」と思いつつ、チケットにビートルズの絵柄が入り、機内でメロディーが流れていたら、たまらなく一度は搭乗してみたくなるだろうなと思う。特に団塊世代は…。
 
 飛行機、船、鉄道、バス、路面電車、トロッコ、馬車等など。いろいろな乗り物での移動手段も、速さや便利さが優先する豊かさだけでなく、そこで過ごす時間体験による感動価値の豊かさでの物差しでみてみると違った味わいが生まれてくるだろう。お節介だが、絶対に鉄道の旅には、ウォークマンやiモードより単行本が似合うと思うが・・・。
 

(まつもと だいぢ/(株)丹青社 営業開発室プランニング&プロデュース部 部長・チーフディレクター)

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