コラム * tannet flash
エンターテインメント・アイ
松本 大地

エンターテインメント・エデュケーション


 日本で一番寒暖の差が大きく、冬はマイナス30度になる北海道名寄市。今冬“かんじき”を履き、ネイチャートレールの初体験をした。

 
樹木の表層から腹痛薬の成分を取り出したり、小動物の足跡を観察したりと、ミュージアムの学芸員はエンターティナーさながらに楽しく深く北国の自然を教えてくれた。同様の自然環境レクチャーであるが、千葉ニュータウン在住の自然観察家ケビン・ショート氏は、日本特有の里山自然の素晴らしさを、吸い込まれるような澄んだブルーの瞳と子どものような冒険心でワクワク・ドキドキの感動体験を演出してくれた。 北海道名寄市での“かんじき”体験
 北海道名寄市での“かんじき”体験
エンターテインメント研究会メンバー全員で、用意してくれた麦わら帽子を被り、虫採り網、スケッチブックも持参で里山観察。里山と共生する野草の植生、安全な蜘蛛、毒のある蜘蛛の見分け方、トンボの優しいつかみ方などたくさんの自然界の物語を体得、一汗かいた後の麦茶の美味しさは格別であった。心のキャパシティが大きく広がるような体験学習ができたのも、日常から解き放してくれる非日常体験への重要な小道具であった“かんじき”や“麦わら帽子”とともに、人の心をワクワクさせ五感に訴えかけるコミュニケーション技術、すなわちエンターテインメント・テクノロジーが送り手から受け手に対して、モチベーションを高揚させ心地よく発揮されているからであろう。
 
 ちょっと違う角度になるが、私の住んでいる湯河原町は老舗の温泉観光地。隆盛を極めた高度成長期に比べるとかなり衰退はしているが、それでも昔ながらの風情は残っており、癒しを求めて来訪する固定客も多い。温泉場にある“湯河原芸妓見番場”では、19歳から80歳の芸者さんが総勢70名在籍(ピーク時は250名ぐらい在籍)、今でも新橋から師匠さんを呼び、月数回は芸を磨く稽古に取り組んでいる。常磐津、清元、小唄、お囃子、踊りなどの伝統芸稽古風景は真剣そのもの。なんでここまで厳しくやるのかと思ったが、「芸を人様にお見せして、喜んでもらえて初めて芸者。技を磨くのが私たちの仕事」と90歳近くなった今も、湯河原芸妓の伝統を守り、伝記本まで執筆した通称「おかめばあさん」は語ってくれた。そこには教える、そして学ぶことへの相互の志が内包されているからであろう。数年前、町から街づくり活性化推進のボランティアを依頼された際、一つの具体案として、見番稽古を一般開放し、来訪者に芸妓の真の姿を見てもらうこととなった。今でも継続しているので、ここに来ればたくさんのエンターティナーに出会えるし、お座敷に呼べば素晴らしい日本の粋な文化が体験できるでしょう(ちなみに芸妓さんの料金は花代という料金体系だが、コンパニオンの料金とそう大差はない)。
 
 さて、私の担当する商業施設分野において、顧客満足度への対応が年々高まってきている。スペシャリスト養成の教育や接客対応力を高める人材育成に、テナント・デベロッパーともに積極的に取組みを強化している。成熟化社会のマーケティングとは、「顧客の目で自分のビジネスを見据えること」であり、単に商品やサービスを売っているだけでは、他より安いか便利かしか選択肢がない。顧客を理解し、互いの顔と心が読みとれる関係になれるようテナントとデベロッパーが研鑚をしていかなければ、共存共栄していくことはできない時代となってきた。顧客満足と企業満足の両立には、教育は永遠に必要不可欠である。その際、社員教育の効果を高めていく方法論として、エンターテインメント・テクノロジーを取り入れ、モチベーションを上げていくことができるならば、もっとポジティブな習得が可能ではないだろうか。ワクワクの体験学習も、見番のピーンと張り詰めた稽古もそれぞれのよさがある。家庭教育、学校教育、社会教育、職場教育、生涯教育……いずれもチョット肩の力を抜いて、楽しみながらの「エンターテインメント・エデュケーション」はいかがでしょうか。
 

(まつもと だいぢ/(株)丹青社 営業開発室プランニング&プロデュース部 部長・チーフディレクター)

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