コラム * tannet flash
エンターテインメント・アイ
松本 大地

テーマ・ホテルにみる
エンターテインメント・テクノロジー・バトル


 IT(インフォメーション・テクノロジー)の文字を眼にしない日がない昨今、 これに拮抗できる21世紀のキーワードは「ET(エンターテインメント・テクノロジー)」ではないだろうか。

 「エンターテインメント」には本来、(1)楽しみ・遊び、(2)催し物・余興、(3)もてなし・待遇、 といった意味があり、その本意は"人を楽しませたり、喜ばせたりしながら、精一杯のおもてなしをする"ことにある。 アメリカはITだけでなく、ETも先進国。ニューヨークの都市計画づくりをディズニー社が担当したし、 スタンフォード大学病院はコンセプト、環境、コミュニティと多方面でのモデル施設になった。 さらにラスベガスは街全体がファミリー・エンターテインメントに変貌・・・と、街づくりから商業施設、 文化施設、病院、学校にいたるまで、 ETが社会やマーケットのあり方と大きな構造を変える原動力となっている。 成熟社会ゆえ、エンターテインメントのコンテンツがビジネスの成否も大きく左右するようになり、 楽しさやもてなしといった技術、すなわちETを極めることがますます重要視されている。

 私はこうしたエンターテインメントの要素に常々着目しているが、 この欄でもさまざまなETの視点から、商業空間ビジネスにおける問題提起や課題の検討を試みていきたい。 今回は、ラスベガスのテーマ・ホテルに見る、ET格差による優劣事例を検証する。

 通称「ストリップ」と呼ばれるラスベガス・ブルーバードは、個性的な外観のホテルやアトラクション、 商業施設が並んでいる。 過去のカジノオンリーの街から脱皮し、最新の有数のエンターテインメントが競う 「ディスティネーション・リゾート」に街を変えた原動力のテーマ・ホテル群では、どうやら勝ち組、負け組が鮮明になってきた。 ルクソールの室内、安普請が目立ってきた  表1の1989年から99年までの10年間の主な施設の客室数と事業費を比較すると、 89年にオープンした「ミラージュ」は3044室で7.5億ドル、同時期の「エクスカリバー」は 4008室ながら3.0億ドルの小投資、ピラミッドで有名な「ルクソール」が4476室で4億ドルに対し、昨年できた 「ベラッジオ」は3005室ながら16億ドルという大規模な投資額になっている。 客室数規模の差が投資額にスライドしていないことがわかるが、「 どれだけ人々を感動させるか」というエンターテインメント要素への投資額の差がグレードや人気を決定し、 客室稼働率やカジノ売上高に反映される結果、如実にホテル経営の明暗を分けているといえよう (写真: ルクソールの室内、安普請が目立ってきた)
 
50年代のマンハッタンもどこかチープな印象  表2はET格差によるテーマ・ホテルの現況評価である。 現在のラスベガススタンダードの先駆となった「ミラージュ」では、火山の噴火の無料アトラクションを ホテル外の街路からも楽しませるなど、 ハード面の仕掛けや充実したホテルサービス哲学を徹底させいまだに高いレベルと人気を維持している。 反面、テーマ性に乏しく小手先のオペレーションで安普請の施設、 ET追加投資ができていないホテルは苦戦を強いられている (写真: 50年代のマンハッタンもどこかチープな印象)

 つまり、エンターテインメントへの取組み内容次第でビジネスの雌雄が決められているのである。 また人が集まり流れる界隈を左右することから、テーマ・ホテルの浮沈は街そのものの中心地を大きく変動させており、 いかにET戦略が重要であるかがうかがえる。

「パリス」シンボルのエッフェル塔とホテル 「ベネチアン」ショッピングゾーンではゴンドラが回遊 そもそも人々がラスベガスに何を期待しているかと言えば、非日常空間におけるトリップ体験ではないだろうか。 ラスベガスの街そのものが舞台であり、自分が主役を演じつつ、 多種多様な刺激と出会いのドラマを求めているのである。 ドレスアップしてショーを鑑賞し、余韻に浸りながらのディナー。 「フォーラムショップス」ではノスタルジックな劇場空間でのショッピング。 「パリス」や「ヴェネチアン・ベラッジオ」では時空を超えた演出とスケールアップされた空間など、 ラスベガスにおけるETの仕掛けは空港に始まり、郊外のアウトレットモールにまで及んでいる。 そこには来訪者の情感を満足させる戦略と物語性が内包され、 ETによる空間体験満足度が"ラスベガス・マーケット"を形成していることが見える。 その最たるものが、今回検証したテーマ・ホテルなのである (写真左: 「ベネチアン」ショッピングゾーンではゴンドラが回遊/写真右: 「パリス」シンボルのエッフェル塔とホテル)

 近年、我国でも劇場型の商業施設空間が続々と誕生している。歴史・街並みの再現や、 独自のバックストーリー設定による非日常空間の創出などできわめて高い集客を実現し、 そこでの感動消費や体験消費に結びつけるというエンターテインメント・モール業態はますます増加傾向にある。 今後はそれぞれの商業施設の担う本質や役割を充実させつつ、ETをどう位置づけ、どう共鳴させ、 どう高度化していくかが重要であり、 小手先の真似事やチープなETでは逆にアイデンティティの喪失につながりかねない。 経営再建中のプラネット・ハリウッドや他の一部のテーマレストランの業績不振にみるように、 エンターテインメントは高コスト体質により事業収支のバランスが難しく、 環境のアミューズメント性だけでは永続しえないからである。 常にETによる時代提案をすすめてきたラスベガスも、カジノ収入が下降気味の現在、 さらなる次のエンターテインメントへの挑戦とあわせ、周辺商業施設との連動をどう図っていくのか、 熾烈なテーマ・ホテルET戦争からしばらくは目が離せない。

(まつもと だいぢ/(株)丹青社 営業開発室 企画・テナント情報部 部長)

表1・ラスベガスのテーマホテルの誕生推移

 ホテル室数数事業費
(億$)
テーマ
1989 ミラージュ 3044 7.5 トロピカル/南洋
1990 エクスカリバー 4008 3.0 中世(騎士団)
1993 トレジャーアイランド 2891 4.7 宝島/海賊
1993 ルクソール 4476 4.0 古代エジプト
1993 MGMグランド 5005 10.0 オズの魔法使い/MGM映画
1996 モンテカルロ 3002 3.5 地中海/モンテカルロ
1997 NY ニューヨーク 2035 4.6 マンハッタン
1997 ハラーズ 2700     
1998 ベラッジオ 3005 16.0 イタリア・コモ湖
1999 マンダレイベイ 3700 9.0 南洋パラダイス
1999 ヴェネチアン 3000 12.0 ヴェニス/運河
1999 パリス 2900 7.6 パリ

(資料)Casino Journal,Nov,1998
表2・テーマ・ホテルの現状評価

(好調なホテル)(課題があるホテル)
ホテル名理由ホテル名理由
パリス エッフェル塔のランドマーク性、商空間の界隈性、フランスに拘った話題性等 ルクソール全体に安普請が目立ち、立地的ハンディもあり苦戦
ベネチアン ベニスの街並みと商空間のランブリングの楽しさ MGM Grand 業績不振で付帯のテーマパークはオフシーズン閉鎖へ。
ベラッジオ 魅了する噴水ショーとブランドショップの集積。最もリッチな仕上がり ハードロック ギターやスター衣装を展示しただけでは迫力無く、立地も悪い。
シーザースパレス フォーラムショップの2期工事で好調に推移。利便性高い。 マンダレイベイ 常夏のビーチというテーマも弱く、2期工事のメド立たず
モンテカルロ ベラッジオとの専用ドラムで連動性アップ。投資額のわりに高級感漂う。 NY・ニューヨーク ランドマーク性はあるが、チープな大道具の世界で人気が離れる
ミラージュ 噴火ショーはマンネリ気味だが、高いサービスレベルを維持している。 サーカス・サーカス 立地的ハンディと旧式なアトラクションのへの飽き


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