■コラム * tannet flash
環境演出デザイン考
出原 秀仁
私の環境演出デザイン考(その4)
私の環境演出デザイン考(Scene Make Space Deign)も、ひとまず今回で最終回です。
ほかにはない、そこだけの気分・雰囲気。光や音、匂い、温度などビジュアルでは表現しにくい気分・雰囲気を司る要素を伝え、またコンセプトや開発に関わるすべての人の共通言語となる文章表現「スクリプト(Script)」。
環境を物理的な場所と考えるのではなく、時の移ろいのなかで起こるさまざまな情景を描写し、重ね合わせ、人と人とのコミュニケーションをも含めたシーンに想いを馳せる。シーンメイクによるデザインアプローチには、ビジュアル表現のテクニックをもたない人でもクリエイティヴ(創作)に参加することができ、イマジネーション(想像)を具現化する共通言語として共有できる利点があります。
あらゆることが複合化され、情報量も過大でデザインの領域も広がっている近年、1人のデザイナーがすべてをデザインするのではなく、大型の商業施設やテーマパークなど、デザイナーだけでなく大勢の人が関わるクリエイティヴワークには、そうしたクリエイティヴに対する共通言語が存在すると、時間的にも空間的にもそして経済的にも有効で効率的なことだと感じます。もちろん、さまざまな考えや条件を統合して一つのモノや事実としてまとめあげるデザインの力は強力で、その意味において最終的には1人のデザイナーの感性が判断することも必要でしょう。しかし、その過程においては諸々の条件を加味し、目標に照らし合わせ、あらゆる分野でさまざまな事象を判断する。けっして独りよがりな恣意的な志向に走らないためにも、関係者の間でクリエイティヴに対して共通言語が存在すると、結果、できあがる価値も皆で共有できるものになるのです。
スクリプト、すなわち万人が理解でき、また使うことのできる文章表現によるデザインアプローチ。デザイナーはもっと文字を、そして文章表現を大切に扱っていただきたいと思います。大半のデザイナーは物事を直感的に捉え、一つの形に表現することは得意ですが、文章で表現することはかなりの苦痛を伴う作業です。私もデザイナーの端くれとして、やはり物事を形として、あるいはビジュアルとして表現するほうが楽ですし、また表現に要する時間も予測しやすい。でもあまり大きな声で言えませんが、私もこのコラムの文章1枚書く場合でも徹夜になったり、下手をすると1週間くらいかかってしまう。自分でも情けなくなるときがあります。それはおそらく日本のデザイン教育のシステムにあるのでしょう。この話はまた別の機会に話すとして、ともかく独自の気分・雰囲気を提供する場合、デザイナーはビジュアルだけでなく、シーン情報を伝えやすい文章にも着目したいものです。
さて、そもそもデザインとは誰のために行なうものかといえば、私は「一般大衆」のために行なうものだと考えています。けっしてある特定の権力者や富裕者に対して行なうものではなく、一般大衆が喜びを感じ、生活のなかで心や身体を豊かにするものでありたい。未来や過去に思いを馳せて、新たな自分と出会い、そして生活に潤いを与える。デザインとはそうした庶民性をもつべきだし、生活に密接したものでありたいと思うのです。そしてそのデザインがホンモノかどうかは、そのクリエイティヴの根底にある意味によって判断できるでしょう。むずかしい言い方をすれば、哲学や思想、あるいはミッション(使命)です。人々を魅了する優れたデザインには、優れたコンセプトがあるものです。
同じテーマであってもアプローチしだいでは、その結果としてのデザイン表現や事実はさまざまです。よくデザインに対して良し悪しが言いにくいということがありますが、これはテーマは一つかもしれませんが、解釈はいくらでもありうるということです。でもそれが恣意的にならないために、すなわち自分の思い付きや気まかせな思うままの考えではなく、明確なメッセージを提供しようとする場合、テーマや条件を徹底的に対象化し、そのテーマから導き出せるイメージやシーンを必然性をもってプログラミングする必要がある。そのデザインのミッションや誰のために行なうのかといった、使命や意味そしてコンセプトを明確にして、かつプロジェクトに関わる人たちとその使命を共有できる共通言語として翻訳しなければならないのです。シーンメイクという気分や雰囲気といった一見曖昧でありながら、総合的な場や時間を提供する場合、特にそれらに着目し重きを置きたい。
◆訪れるゲストに提供するものは何か?
◆どんな気分をゲストに買っていただくか?
◆それにはどんな環境演出が適切か?
場の記憶、音、光、匂い、色、会話、いわれ……。
何よりもシーンとは「場と時間そして人と人とが織り成す情景」なのですから。
(いずはら ひでひと/(株)丹青IDS取締役 デザイン部長)
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