コラム * tannet flash
環境演出デザイン考
出原 秀仁

私の環境演出デザイン考(その3)


 商業施設における評価のひとつは、いかに集客するかということ。この意味で商業施設は「集客施設」ともいうことができるとお話しました。今回はこの集客ということを意識して私の環境演出(Scene make space design)考の話を進めることにしましょう。
 
 集客には独自のシーン提供と継続的な話題の提供が必要だと思います。経済不況の今、国内の商業エリアあるいは商業施設は、目先の売上げに注力するあまり、それぞれが相対化傾向にあるといっても過言ではありません。表面的なデザインや規模において差別化を図ってはいるものの、どこに行っても同じブランドや同じ品揃えの店がある印象です。相対化は確かに日常生活において、安易に商品を手に入れることができるという利便性がありますが、単にそれだけではインターネットを使ってパソコンの前でクリックすることと何ら変わらず、場所の意味が薄れてしまいます。商業施設あるいは場所に、生活者が時間と体力を割いてわざわざ出かけるに値する魅力を提供すること。その場所や空間ならではの魅力を造らなければなりません。
 
 買い物に出かける楽しさは、「予期せぬ出会いや発見をすること。また、自分の欲求を本当に満たすものであるかを肌触りや匂いなど五感を使い確認できること」だと思います。「情報を知り、その場所に行って楽しむことが本来の姿であって、そうしなければモノの本質や満足は得られない」と前回のコラムでお話しましたが、本来施設や場所、いわゆる空間や環境にはそうした「シーン」が必要なのです。今のところインターネットやテレビなどデジタルの世界では、人間が最も敏感で重要視する「肌触りや匂い、ざわめきや温もり」など情緒的な部分の表現が発展途上にあります。この情緒的な部分が、シーンを造る大切な要素であり、これらをモノやコトを含め独自の気分や雰囲気として表現提供することができれば、空間や場所のもつ意味や役割はインターネットやメディア情報に負けることなく重要なものになるでしょう。
 
 ゲストの購買や行楽の行為を思い浮かべてみると、「人を集める」あるいは「出かける」という行為の前に、当然「行ってみたい」「出かけよう」という来場のモチベーション(動機)があるはずです。集客を前提として「シーンメイク」する場合、このモチベーションからアプローチする場合が多く(俗にプロモーションといいますが)、私の場合、イベント装飾や仕掛けを含めた入口のデザインという意味で「ポータルデザイン(Portal Designing)」と呼んでいます。ポータルとは、インターネットの世界ではおなじみの正面玄関・入口・始まりなどの意味です。施設のファサードデザイン、サインマーキーなどすべてポータルデザインといえますが、私はゲスト・ターゲットの生活シーンを考えたうえで、来場集客のモチベーションとなる仕掛けをつくることも意識します。イベントや広告のデザインだけでなく、あらかじめそうした集客の受け皿となる仕掛けを環境に用意するために、計画段階から施設づくりのスクリプト(脚本)のなかでヒントとして描いていくわけです。たとえば、広告写真に使えるような、あるいはゲストが記念撮影をしたくなるような、いわゆるフォトスポットなどもポータルデザインの部類に入ります。
 
 ポータルデザインとはオープン前だけでなく、再来場する動機をつくるオープン後の話題の提供も含みます。再来動機として、「あれがあるから」というだけでなく「こんな楽しいことがまた出来ました」という継続的な話題の提供に関することも含みます。シーン表現は形や空間を造ることではなく、時間変化の移ろいを描写すること。すなわち「時空間の構築手法」ですから、開発者側からだけでなく、施設を訪れる・利用するゲストの側からも考え、それらの時空間ごとのシーンを考えていくこと、シーンメイクをすることからさまざまな事柄が浮かび上がってくるのです。
 
 こうしてみると、環境演出すなわちシーンメイクとは、さまざまな要素を一枚一枚重ね合わせてそれらを透かして見るような、ちょうどコンピュータのレイヤーをたくさん操って一つの絵を描くような行為にも似ています。
 私は大学時代、都市計画とともに環境デザインにふれ、そのなかで日本庭園の造園技法を学びました。借景や非対称など狭い土地のなかでいかに広々と、そして情緒的にシーンを造っていくか。日本の空間意識は、欧米のパースペクティブ(遠近法)に対して近景・中景・遠景という"景"の重ね合わせによって意識されます。それは造園だけでなく、歌舞伎の舞台や日本建築にも古来から培われてきた日本人独特の空間表現なのです。そういえば日本でも大活躍のアメリカの商業建築家がレイヤーの手法と称して建築、オブジェ、イベント、サインなどを重ね合わせて賑わい感を創出しています。私にとってこの手法は、とても日本的な空間表現に思えるのです。(つづく)
 

(いずはら ひでひと/(株)丹青IDS取締役 プランニングデザイン2部* 部長)
*TANSEI INTEGRATED DESIGN STUDIO CO.,LTD. Scene Make Space Design DIV.

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