コラム * tannet flash
環境演出デザイン考
出原 秀仁

私の環境演出デザイン考


さて今回は環境演出デザインに登場する演出手法について話を進めることにしましょう。

前回「環境演出」とは英語に訳すと"Scene Make(シーンメイク)"であり、"景を造る"ことを意味し、そのデザインは造形・装飾だけでなく光・音・におい・イベントをも含む「時空間」構築手法のことをいうとお話しました。環境演出にはこの「時の概念」が入っていることを見逃してはいけません。私たちは今まで建築やデザインの対象を単に3Dの空間として捉えてしまい、この「時の概念」を曖昧に処理してきたと思います。しかし空間を3Dの空間として捉えるのではなく、シーン(情景)として捉えると、そこに集う人の動きや音・光などその場に流れる「時の移ろい」が気になるはずです。時の移ろいを昼・夜、一日、一年と長きにわたって考えてみると、歴史や時代そして文化というようなところまで想いは広がって行きます。シーン表現とはそうした時間変化の移ろいを描写することでもありますから、環境演出デザインとは「時空間」の構築手法というわけです。

さて環境を演出する手法とは、最終的には空間デザインとして表現されるデコレーションやオーナメントといった装飾物あるいは光・音・においといったものになりますが、具体的な手法をひとつのシーンとしてまとめ上げるためにはそれらをプログラミングする必要があります。

私はそれらのプログラミング作業をスクリプティングワークと呼びます。スクリプトとは日本語で脚本という意味で、皆さんもご存知のように映画制作の世界ではよく使われているものです。シーンを造るために空間の時間経過や商品のストーリー性を主に文章として表現するわけです。人を魅了するモノや形には必ずなぜそのようになったのかというコンセプトがありますし、歴史・文化や言われなど時間が費やされた果てに構築されるものにはストーリー性が存在します。空間のデザインやアイデアは、通常図面やスケッチを媒介として第三者に伝えて行きますが、時の移ろいをこうしたビジュアル表現だけで伝えることはかなりむずかしい作業です。ところが文章ならこの時の移ろいを第三者に伝えることができます。たとえば小説を読むと光、音、においまでも頭の中でその情景をイメージできますよね。

このスクリプトが送り手の伝えたいテーマ・コンセプト・商品のウリを最大限に伝える場の気分・雰囲気を造る手助けをし、IT技術も含め様々な演出手法やデザインを引き出し、一つのシーンとしてまとめ上げて行きます。

私のスクリプトへの取り組みはけっしてデザイナーやクリエイターに対して、具体的なデザインや手法を示すものではなく、そこからから様々な解釈やイマジネーションを引き出すことを心がけています。商業施設におけるシーンメイクとは博物館のようにどこかに実在するものを再現するのではなく来場者が「らしさ」を感じる、あるいは「らしさ」に共感・感動し、その場の気分になりきることによって、その購買動機や遊び心を引き出して行くことが必要です。こうした意図的なプログラミングによって建築的なイメージやそこにデザインされ存在するエレメントは、単に他にある同じもののレプリカではなくなり、デザイン化のプロセスにおいても何かを思い起こさせる、施設コンセプトやそこで売られる商品と必然性をもったその場独自のものを造りあげて行けるわけなんです。私は物流・購買方法の変化や情報伝達を加速するインターネットやデジタルコミュニケーションツールの発達により、これからの商業施設あるいは場所には生活者がわざわざ時間と体力を割いて出かけるに値する魅力を提供するという視点が必要になると考えています。このことはその環境が独自の商品価値を持たなければ集客できないことを意味します。

むろんテーマや提供する商品のコンセプトが本来の商品価値ですが、それらと必然性をもった環境演出によって提供されるその場の気分・雰囲気は、空間としての付加価値を生み、その付加価値が本来の商品価値をリードして集客する場合もあるわけです。(つづく)

(いずはら ひでひと/(株)丹青IDS取締役 環境演出デザイン部* 部長)
*TANSEI INTEGRATED DESIGN STUDIO CO.,LTD. Scene Make Space Design DIV.

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