コラム * tannet flash
「レプリカ」と「バーチャル」の世界観
古川 俊弘

イマジネーションの冒険旅行 光の虚と実


 夜の盛り場の風景は期待と幻惑、奥に潜む未知への恐怖や畏怖、知らない世界を想起させるに充分に魅惑的である。空想としてのイマジネーションが自分の中で大きな比重を占めていく。想像が知らず知らずふくれあがったりしぼんだりするイメージや心象風景の躍動の場である。その大きな起爆剤のひとつとして光の存在がある。闇の世界であるはずの場が人工的な光に彩られて昼間の世界とは違う異世界としてしまう効果は格段の切り札である。異世界への掛け橋として光はすさまじい物量のイメージのレプリカ、あるいは心象風景のバーチャルとして真にその力を発揮する。光が本来の威力を増すとき、イマジネーションの冒険旅行が始まる。
 

 
 今はイルミネーションやクリスマスディスプレイが季節の風物詩として身近な存在である。深閑とした漆黒の闇と冴えた空気の中でわれわれの心の中に直接飛び込んでくる。その場では光は主役の座を他者に譲らない。光が圧倒的優位に存在する風景である。
 
 展示施設やディスプレイ、商業施設などわれわれの業界で光は切り離せない効果装置であり影響も大きい。もちろん光はごく一般的に暗いところを明るくするという機能が即座に思いつくのであるが、その他の機能や効果という面ではさまざまな事例が展開されている。直接的な訴求としては広告塔やビルボード、案内や誘導などのサイン。展示施設や展示会での内照式のグラフィック。施設における基本照明。安全機能としての誘導灯や非常灯。演出効果を上げるための舞台やショー、コンサートでのムービングライト、新製品発表会や式典、各種パーティーのスポット照明、その他の各種演出照明。飲食施設や専門店の意図された照明配置。明滅する誘引装置や文章表現。商品や製品自体を際立たせる店舗の照明やウインドウディスプレイ。アトラクションのストーリーの補足としての使用。大きなものでは建築物や各種施設などを映えさせるライトアップ。光自体が主役のイルミネーションやパレードカー等々。
 
 
 それらの成立のプロットを少し細かく見ていくと用途や機能によって細かく分類されていく。発光方法、演色性、耐久性、耐効性、輝度、照度、光量、発光スペクトルなどの特性があり騒音や寸法や重量、環境条件も必須項目である。光を使用するとき何を目的にするかによって器具や製品の特性を最大限に発揮させる、あるいは用途が違うものを採用するミスマッチを防ぐことがベースとなる。たとえば特殊な環境を要求される文化物の展示品は保存劣化を防ぐために紫外線や温度、湿度の影響を考慮する。絵画など美術作品を展示する際、生鮮品を扱う場合でも生花、食肉、果物、鮮魚らを一層効果的に見せるには別々の器具が要求される。目立つこと、視認性を重視する場合は光源として発光波調と目の分光感度に合わせる器具を選定したり、海岸沿いで使用する場合の塩害対策。等々光が持つ役割を効果的に使うには実に多彩で奥が深い。
 
 
 今では焚き火をする場面は制約上かなり場所や時間が限定されてしまう。加工された肉を買うことはできるが、自分で狩をして皮を剥いで焚き火で食べることは一般人には論外の経験である。そのような原初的な経験を個人が持つ機会が少なくなっているのと同様に光や明かりも人工的なものに多く依存している。たいまつやろうそくのゆらぐ照明器具などエネルギーを光に変える原理や技法、素材の用途や機能に応じるための技術は幅広い。銀座のガス灯を再現した照明は、こんなに暗いのかと思うくらいに意外である。
 
 夜の街は闇と空間が感じられる。昔の家屋では光と闇が混在していた。地底や洞窟では窒息しそうな無機質な真の闇が広がる。展示施設やアミューズメント施設を造る時、だれもがかすかに覚えているであろう原初的なDNAの過去の記憶をくすぐるギリギリの線で来場者に提供したり、反対にDNAが与えてくれない世界を人工的に構築する機会をわれわれに与えてくれる。
 
 
 光の虚と実。闇と対峙し、闇の中に君臨する光、光の中で彩られる光。光を牛耳り思うままにあやつる専門家は自分のイマジネーションと結末を予想する技術と経験を持って挑む。光という現象から物事を見ていくと自分自身と向き合わざるを得ない。森羅万象へとつながる時間と空間を提供してくれる。光が自分に尽くしてくれる明るいことや見えることへの忠誠心は圧倒的である。反面、他者に伝えることができる言葉は情報量として不足がちとなる。自然が与える朝焼けや夕日、凛とした冬の夜空、真夏の空気のきらめき、秋の木漏れ日、満天の星空を見たときに感じる心の湧き上がりを、われわれはどこまで再現して伝えられるだろう。
 
(ふるかわ としひろ/(株)丹青社 IMC事業部 購買部 購買課 課長)
 

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