コラム * tannet flash
「レプリカ」と「バーチャル」の世界観
古川 俊弘

喜び増幅装置 ―稀代のイベント手法


 喜び増幅装置がほしいと、ふと思った。計測化や数値化は難しいが自分の記憶に刻まれ自分の中で広がる喜び、また人に伝わる喜び増幅装置がほしいと思った。
 
 物理的や化学的にひとつのパワーを法則や原理から拡大・増幅するというのは日常見慣れている。重機建設機械であったりオーディオ機器であったり乗り物をはじめとする巨大なパワー群などさまざまに例がある。展示手法としても体験型の原理模型などで表現されてはいる。が、展示やイベントの世界において心情的な記憶や感動など計測できないものを知らしめ増幅させる手立てはどうすればいいのか。本質や原型、核心を追求しながら増幅というパワーの拡大運動を展示やイベント手法のヒントとしたい。
 

 
 現在の人間は退化しているという考え方があり、多くのキリスト教信者の間ではごく一般的なものである。いわくアダムとイブを一切の人間の原型とすれば、そのコピーのコピーのコピーからこれだけの人間が増殖しているので確実に原型の本質からは薄まっているという考え方によるものである。一方、われわれは進化論をベースに置きながら物事を構築していくことにずっと慣らされている。当然のごとく太古より万物は成長していき淘汰を繰り返しながら環境に順応していき本質を保持していくという考え方である。 
 どちらが正しいかというのはさておき、物事の本質や原型が継承されたり伝承されたり違った形で表現されたりするのは展示手法の面からも興味深い。
 
 ヒット曲のリバイバルものや昔のマンガの復刻版、アニメヒーローや特撮もののフィギュアなどがここ数年で驚くほど目につくようになってきた。作り手や製作側が企業の中で力を持つようになってきた年代として提供できるようになった背景もあり、カラオケやケーブルテレビの番組でもけっこう目立つ。自分のこどももわりと知っている事柄があり驚いてしまうのであるが、記憶の増幅装置としては手近なものである。
 
 記憶のおぼろげさをカバーするものとして技術的背景がある。デジタルデータは劣化がない。本質をそのまま保存し不変である。ある意味では永遠を封じ込めた形態として驚くべきものがある。封じ込められたデジタルの永遠が個人として手軽に利用できるようになり、擬似共有体験化が盛んになってきたのもデジタル技術のおかげかもしれない。
 
 
 デュッセルドルフで展示会(見本市)を見てきた。業界では有名なユーロショップである。物理的にも経済的にも拡大していたのは当たり前であるが、見るところ歴史的な流れもあり見本市によって都市自体が心情的に増幅していた。メッセと都市が渾然一体となり3年に1回というスパンの中でいそいそと準備をしてきたその見本市は、日本から見ると驚くほど日常的である。派手なオープンセレモニーなどもなく泰然と時間が流れていくその姿にはビジネスのみの視点だけではない。都市自体が長年培ってきた文化を踏襲しつつメッセを媒介とした経済交流の場であり、国内外から訪れる人々の久しぶりの交流の場でもあり、さらに全体が絡みあいながら新しい文化を創造しようという場であったように感じた。歴史や文化、風土を取り込みつつ肩肘はらない雰囲気がユーロショップとデュッセルドルフの風景を形成していた。都市の心情増幅装置としての例である。
 
 
 2分の1成人式というイベントが上の子のクラスであり、20歳の半分の記念の年としてタイムカプセルを埋め20歳の成人式の日に封印を解くという趣向である。
 これから今まで生きた年と同じだけの時を経て未来を夢見るというのは心躍る内容である。どのような結末が存在するかは誰にも計り知れないが、現在を封じ込め未来に記憶や思い出を期待しながら倍の経験を得た同じ人間が感じるであろう興奮や感動は独自の遺伝子情報として刷り込まれ増幅されうる。それを周年イベントとしてとらえると個人はもとより企業にも国家にも宗教にも区切りや節目として多く存在する。
 
 イベント自体が動くもの、流れるものの集合体でその一過性の中に瞬間の感動や偶発性を盛り込み増幅させようという思いはイベント製作側で誰しもが意図するものである。
 
 人の思いや感情、意識や時間の流れ、意思の力などの動的なものを雰囲気だけではないメカニカルなものに置き換えていく作業やシステムを構築すること。本質や原型、核心を弾けさせながら的確に封じ込め、ある種永遠に連なる道筋を見極めていくことなどが展示やイベントにおける増幅装置へと発展していく。
 
 準備段階も含め実際の現場での感動、感激、記憶や体験をより一層高める増幅装置を造りたいと思った。
 
(ふるかわ としひろ/(株)丹青社 IMC事業部購買部購買課 課長)
 

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