コラム * tannet flash
「レプリカ」と「バーチャル」の世界観
古川 俊弘

展示会のリアルと虚構  東京モーターショー


 わが国で年間750回程度開催される展示会や見本市の世界は、ビジネス規模もさることながら独自にその世界を構築している。日本の展示会で、動員数・知名度などにおいて頂点に立つのが、ご存知「東京モーターショー」である。 
 展示会は準備期間が長く開催期間はごくわずかと、セミのごとくはかない一生が宿命である。あらかじめ決められた時間と空間の中で出現し終わると、きっぱりと消えてしまう潔い世界でもある。しかし実は、さまざまなモノやコトや突発事項が関係者として名を連ね、見た目のこんなものかという感想とは裏腹に、一筋縄では簡単にはいかない世界でもある。セミは子孫を残すが、展示会はさまざまな直接的効果や波及効果を期待される。そのために実に多くの関係者が、提供する側や造り手として存在し、現実的にリアルな側面をつくりあげていく。と同時に、展示会の意味や意義、意思やイメージに引きずられた虚構的側面がせめぎあっているのである。
 

 
 準備期間は実にリアルでハードである。膨大な知恵と労力と体力、出展者・造り手の思いやイメージの混ざった塊であり、しかも時々刻々と変貌を遂げていく。
 企画・構想段階は不眠不休もいざ知らず、さまざまな演出手法や展示手法をオンパレードで扱い、いかに要望をクリアするか、いかに空間デザインとしてコンセプトを具現化できるか、技術、物理、法規、品質、安全などの各種制約をいかに乗り切るかなどを考えつつ、照明の光源や位置、演出的な照明の考え方、映像との連動、メカ・装置的な動きの部分、グラフィックの配置と表現手法などと重ね合わせながら検討していく。
 
 
 並行してイメージガールやコンパニオン、ナレーター、キャストなどの確保を図るため、かなり早い段階からオーディションなどの選択作業がはじまる。素材選びとは違い人を選ぶ作業であるため、自ずと視点が異なってきて、わりと出展者側の好みが反映される。
 最終的には前記のような各種事項をすり合わせ、全体の一体化を図り、調和し、オープンさせることが至上命題となるため、加速度的に作業量はふえていく。すべてが常に時間と予算の一本勝負の極限状況に置かれながら、現実的かつ具体的な実施段階へと突入していく。時には極秘の出展物は開催直前まで正確な姿・形がわからない場面もあり、ハードな神経の持久戦の面も合わせもつ。
 現場期間は早送りの建築現場である。工程表では時間刻み、時には分刻みの質と量をコントロールしていかなければならない。そうこうして製品が搬入されたり、リハーサルがはじまったりするのであるが、現場初日と現場最終日の空間的落差には、いつもながら驚かされる。
 
 
 「映画のワンシーンのような」光景以来、出展中止や展示会自体の中止や延期も日常茶飯事となっている厳しい経済状況下ではあるが、動員力やインパクトのある大型展示会は企業間の競争も熾烈である。東京モーターショークラスになると威信をかけたブースがそびえ立ち、“展示会”の底力を見せつける。
 しかしながら膨大な人的・物理的エネルギーを費やす展示会は、なぜか簡単に別のものを貼り付けることが可能と錯覚できる世界であり、あれもこれもとあらゆることに検証作業を行ないながら、あれかこれかと判断する完成形に至る道は長くギリギリとなる局面が多い。個人の意見や思いが発言や意思の力となり、いかようにも形をある程度変化させることができるのも展示会という世界であり、手作り感覚も合わせもつことのできる不思議な空間の場である。
 昔は木工、経師、電気、時には書き屋さんなど限られた職種で構成されていたのが、昨今の大型展示会ではさまざまな専門業種が入り込み、新しい技術・職種のプロが必要不可欠となり一層複雑な形態となっているため、予断を許さない。
 
 
 キラめくワードや啓示を受けたような空間デザイン、製品の特徴をあますところなく伝え、それ以上に見せる演出や造型。今まで見たことのない卓越した演出手法。想定ターゲットの真摯な眼差し、リーズナブルな価格など求めることを突き止めると単純であるが、これがむずかしい。今回の東京モーターショーはやはり奥が深かった。限定された時間と場の中での圧倒的な存在感。美しさ、はかなさ、じきに消えてしまう虚無感。虚構の世界。
 来場者にメッセージを伝えるために展示会は存在する。長くて2週間の開催期間としての展示会は、現実的な空間であり、実際にオープンした会場は全体の相乗効果もあって毎日変動している。リアルにモノがありコトが動いている。所詮、仮設と誰もがわかっていても、その展示会が放つ瞬間の永遠、日常的でありながら非日常的な奇妙な違和感を感じたいがために人は向かっていくのであろうか。厳密に言えば2度と同じものを再現することが不可能な展示会は、人をおびき寄せる吸引力が存在する。消えてはしまうが存在していた証として個々の頭の中に残る。そして、多くの虚構の思いを伴いながら、何食わぬ顔をして次の展示会がはじまる。
 
(ふるかわ としひろ/(株)丹青社 プロモーション事業部制作部購買課 課長)
 

このページに掲載の内容、写真などの転用をお断りします。
Copyright 2001 TANSEISHA.co.,ltd.
All right reserved.