■コラム * tannet flash
「レプリカ」と「バーチャル」の世界観
古川 俊弘
再現モノが本物になる時。昭和30〜40年代の再現モノに思う
時間を取り戻すことはできない。ましてや買うこともできない。それでも失われた時代を造ることは展示屋の好物のひとつである。
近年,自分が子供の頃知っていた世界を再現する施設が増えてきた。高度成長期の波に乗った昭和30〜40年代の世界だ。思い出や記憶がいっぱい詰まった限定された時間や空間の再現、追体験装置としての擬似体験空間。あのころの甘酸っぱさが見事よみがえるとき、うれし、はずかし、ナツカシいと心が漂流するのである。
封印された過去の記憶がふと出てくるとき、それが匂いであったり音や映像であったり食感であったり、手触りであったり風景やものであったりと場面によってあふれでてくるきっかけは個人的に数々あるのだが、展示や内装を生業にしているものにとって、なかなかに手強くすんなりと一筋縄ではいかないのがこの手の再現モノである。気持ちに力がはいるのである。自分や関係者にイメージのこだわりが出てくるのである。
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大量に生産されながらも大量に捨てられ消費されていった時代。政治、文化の激動の時代。国家的イベントがあったり、各世代のヒーローがいたり、流行りの歌を誰もが口ずさめたり、時には気恥ずかしい言葉が通用した時代。などと各人の思い入れは留まることを知らない良き時代。滅亡した過去ではなく自分の中で生きている過去。だからこそ皆が納得・満足する施設を造るのは大変なのだ。
たとえば忠実に再現・保存・展示するという観点からは些細な難問が続出する。おぼろげにみんな覚えてはいるが、そのものズバリという資料はありそうで無い物が多いという現実(家電製品、当時のマッチ、ポスター、カンバン、何気ない日用品の数々、もうとっくに生産されていない工業製品の数々。他)純然たる骨董品ではないために、きっとどこかにあるよと思わされる品々。その他著作権の所在の有無、各地方特有の独特な風習や生活資料などとの関連性。それにもまして何より、語る人間の多さ、それぞれが実体験していることから各人一家言持っており、簡単には収拾がつかない。
商業施設やテーマ性を持った施設でもイメージの観点からはシビアな要求が乱発され、否が応でもかなり高いテンションとパワーが必要とされる。汚れやしみ・かすれ・こすれ・焼け焦げ・サビなど通常では否定される技法や材料を用い、よりイメージの本物に近づける作業。言うなれば、新しいものを造りながら過去のものを造りだすパラドックスの格闘作業なのだ。
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とはいえ、時代を再現・表現することは、その時代や設定イメージのリズムや匂いを的確に表わすことともいえるが、重要なのは懐古趣味のみに走ると、置き去りにされた、死んだ施設や自己満足の形になってしまうことだ。ひとは決して他人の思い込みの残骸や後ろばかり振り返っている姿など見たくはないのである。
良くできた再現モノのいいところは施設自体が様々な「思い」の増幅装置として、さらなる「思い」を取り込みながら増殖し続けていくという機能を持っているのかもしれない。
『本物の再現モノ――心躍る不思議な空間』
時代はまさに昭和30年代。怪しげな路地とともに展開される異空間。雪深い大地にしっかと根をおろすギャグの不滅の金字塔。その名も『観光名所・小樽よしもと―笑いと劇場のある町』。一見この名称は控えめで抑えめなのであるが実のところ裏にひそむパワーは驚異的である。
これがスゴい。実にスゴい。心底スゴい。ひたすら、かつ生真面目、かつストレートにアホなのである。英知の限りをつくしてバカバカしいのである。これがまた30年代の世界と見事にマッチしていてシュールなのだ。
たとえば普通この手の施設はターゲットの客層を設定するのが普通だが私が訪れた時には老若男女に関わらずウケていた。ターゲット設定を圧倒的に破壊してしまったのだ。まわりに合わせてウケたふりも若干いたけれど本質的にウケている。それも年齢に応じたそれなりの受け取り方で刺激にあふれている。たとえば館内を歩いているとギャクやしゃれが満載されている。これでもかこれでもかである。慣れてくると,ギャグを探すのも楽しみになり、ここにはない、と半分期待しながら見ていると、あるのである。それも期待以上にバカげてアホらしく。感動しながら思うのである。なんとバカなんだ!なんとアホなんだ!!!心躍る不思議な空間なのである。ここまで思いつめたほどにギャグやしゃれを満載した施設を私は知らない。
昨今のラスベガス神話のテーマホテルに通ずる、そこまでやるか。という気概と決断にあふれた施設がこの手の再現モノに共通した成功の秘訣であろうか。
(ふるかわ としひろ/(株)丹青社 積算購買室購買管理部 課長)
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